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復活の奴隷たち

 野っぱらに大勢の人、150人以上の人々の息遣いと、一組の賑やかな人たちがいるのがわかった。一部を除いて恐らくは全員奴隷であろう。とんでもない数であるといえる。


「マーシャル、どうなっているの?」


「飼い主はん達が色々これから奴隷たちにどないな指示したらええか考えとるみたいやな。相談してはるわ」


 カンピオンは声に意識を集中すると「老人20人、体に支障がある者が27人、病人14人、健康体81人、子供17人」と確認をしているのがわかった。

 「父さん」「母さん」という言葉がはさまるので、新しい雇用主は家族なのではないかと思う。

 5人のやり取りを聞いていると、まるで奴隷を家畜のように扱う様子がないのにも気づく。

 凄い〈神佑(スキル)〉を持っている事と言い、何だか妙なことになっているのがわかってきた。

 奴隷たちが待つこと10分――雇い主達の段取りが整ったようだった。

 一人の男性――声のトーンだと少年に聞こえる声が響く。


「えー、皆さんは昨日のうちにわたしウォルヒル・ストリィトに買われて、わたしの〈神佑(スキル)〉によってこの地に運ばれました。なぜわたしが皆さんを買ったかといえば、とんでもなく強いモンスター達と戦ってもらうためです!」


 この説明にマーシャルが引きつった声を出す。


「な、なんやって? そないなえげつないことをうちらにさせるん?」


 カンピオンも戦慄するがウォルヒル少年は動揺した声を出す。


「おっと『無理やり戦わせる』とかじゃないです。でも今、人間の全てが危険にある状態だとお知らせします。実は近くにあるダンジョンで魔王が復活しようとしているのです。魔王とは人類に仇なす存在で、モンスターの頂点にいる存在です。復活し猛威を振るえば、とんでもなく多くの人が死ぬでしょう。それは王族であっても奴隷であってもです!」


 奴隷たちが息をのむのを覚える。それはあまりにも衝撃的な言葉であった。

 ウォルヒルは説明を続ける。


「『そんな事態に奴隷が何ができる?』と思うでしょうが、ことは複雑です。ざっくりいうと未来を知る〈神佑(スキル)〉によると、国軍も冒険者達も魔王復活阻止には何の役にも立たない確率が非常に高いことがわかってきているのです!」


 カンピオンは膝ががくがくと震え出すのがわかる。ウォルヒルが嘘を言っていないのが伝わってきたからだ。

 魔王が如何に危険な存在であるのか急速に感じられ始めたのだ。この世の終わりが迫ってきているのが実感できた。


「魔王復活を見過ごすわけにはいかないので、わたし達は奴隷の皆さんの力を借りることにしました。どうしても怖いという人はここから去ってもらって構いません。ただしそれは〈神佑(スキル)〉を育てた後になります。でなければどの道、どこに行っても死んでしまうことになるでしょうから!」


 そういうウォルヒルに老いた声が掛かる。


「荒唐無稽な話だとは思うが、わしら奴隷が魔王と戦うのはどうあっても無理であろう。老いぼれに、体の悪い者に子供――〈神佑(スキル)〉が平凡な者に、〈ノロイ〉の者などとてもとても……」


 片腕がない老人奴隷がそういうと奴隷のほとんどが息をのむ。先がないから奴隷になっている者が少なくない。

 がそれにウォルヒルはとんでもない返答をする。


「いいえ。高齢の方は20歳ほど若返っていただきます。病気も怪我も、失った部分も治しますのでそこはご安心ください!」


 誰もが「馬鹿な」と思った。

 そんなことができるわけがないと心の中で叫んだ。

 が、直後、体に弱さを抱える者全員の全身を液体が包んだ。

 まるで透明な水袋に突如押し込められたように、肺の中まで液体が満ちる。

 溺れるような恐怖がこみ上げると同時に五臓六腑にとてつもない清涼感が満ち、快感に飲まれていく。

 異変が起きなかった者がその光景に青ざめた。62人の者が次々と突然発生した水の塊に飲まれたのだから――。

 45秒きっかりで聖霊水に満たされた者は水から解放される。水袋が去ると服さえ濡れていない。

 直後、驚きの声が場に満ちる。

 

「リュウマチの痛みがない! あ、失った耳と指がある!」


「あら、肩こりが消えたよ。お肌もスベスベ!」


「嘘だろう? 壊死して切った足が復活している!」


「ずっと痛かった胸の痛みがない! 信じられない!?」


 それはカンピオンも同じだった。

 目を覆う布が地面にハラリと落ちる。

 カンピオンは衝動に動かされて薔薇色の髪の下の翠眼を見開く。


「目が……見える? ダメだとあきらめていたのに――くっきり、すっきりと!」


 自分の手、そして仲間の顔、青い空を目にし驚きと感動が肢体を震わせる。


「うわっ、ほんまに見えるようになったん? そらごっつうおめでとーさん!」


「カンピ姉ちゃん、よかったね!」


 カンピオンはガーウィグとマーシャルに強く抱きしめられるとこの奇跡が現実のモノだと実感できた。とんでもないことが自分に起きたことを理解する。

 マーシャルが泣きながらいう。


「なんや自分、ほんまはベッピンさんなんやな! 明るい表情をするとごっつう美人やん!!」


「凄いよ! 本当に見えるの! 絶対にダメで治らないっていわれていたのに!」

 

 カンピオンは2人を抱きしめ返しながら感涙していると、ウォルヒルの横に立っている女性が発する声に意識が向いた。


「今はまだわからないと思いますが、ここにいるウォルヒル様はこの世で最も素敵な方です。みんなは世界一最高の方に仕えると覚えておいてください! 世界一優しくて世界一勇敢なウォルヒル様についていけば万事大丈夫です! 魔王なんかチョチョイノチョイです!!」


 そう力強くいったジョミラーの横でウォルヒルは顔を赤くし、手の前で大きく腕を振る。

 だがジョミラーの言葉はカンピオンには深く刺さった。


「そうか、あの方がボクの新しい主――ウォルヒル様なんだ」


 やや照れたウォルヒルが改めて175名の者に断言する。


「僕に力を貸して欲しい! 今、みんなの〈神佑(スキル)〉が人類のために必要なんだ!」

 

 カンピオンがその言葉に思わず握りこぶしを作る。


「ボクのダメな〈神佑(スキル)〉……【波】が必要?」


 カンピオンは生まれて初めて体の奥から溢れ出る気力に思わず猛々しく微笑む。


「いいですよ、ボクを使ってください! あなたの為に【波】でこの世を変えてみせます!! ダメだなんて後悔させません!」


 カンピオンは生涯をウォルヒルに捧げてみせるとシンプルに硬く決意した。

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