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新品の下着とベッド

 奴隷が入った牢の間をティムバーの案内でウォルヒル達が進む。


「それで掘り出し物の奴隷とはどれかな?」


 ティムバーが老人達の檻で立ち止まって説明を開始する。


「この二人は特別な経歴を持っています。こちらの老翁はかつてとある国で刀王と呼ばれたほどの達人です。またこっちの老婆の方は魔術の真髄を極めたほどの人物なのです!」


 自信満々にティムバーは語ったがウォルヒルにはおおよその腹積もりが伝わった。


 だがどっちも高齢でいつ死んでもおかしくない。生きているうちに何とか売らないと!


 ティムバーが内心では掘り出し物ではないと思っているのが伝わった。

 最近ウォルヒルは秘かに【万能収納+α・β】で包んだ人間の内面を精密に知ることができるようになっていた。【万能収納+α・β】は繊細に操ると、人に気づかれることなく包みこんで調査が行えた。飽くまで感触なく、音も影もなく人や動物を取り込み、【解析×2】でステイタスや内面までわかるようになっていたのだ。

 【万能収納+α・β】によって、47人の奴隷と従業員24名のチェックは終了していた。

 ウォルヒルは基本もうティムバーの思惑などどうでもいい。やることはすでに決めて来てあるのだ。

 ウォルヒルはティムバーの説明を一通り聞いた後にいう。


「あそこの緑の檻の大柄の男性と、西側の一番左の檻にいる少年以外をすべて買い取ろう! 馬車を6台用意しているので持ち帰りできるように手配してくれ」


「さ、左様でございますか! わかりました。用意いたします。少々お待ちを――」


 そういったティムバーの顔は少し引きつっていた。それはウォルヒルが外した人物2人は手の付けられない乱暴者で、従属の首輪で何とか管理している者達であったからだ。犯罪歴もある。

 それでも老人や〈ノロイ〉、体に欠損を負った者を買い取ってくれるというのでホクホクではあったが――。

 去るティムバーにウォルヒルが大声を投げる。


「人数分の上着と下着を四組も買うから用意してくれ。あと靴と歯ブラシなどの生活用品一式も――それから食器一式も買おう」


 それにティムバーは手を振って応えた。




 間もなく奴隷たちにも買い取り一報が報せられる。

 それはガーウィグとカンピオン、マーシャルにも届く。

 すぐに水浴びするように言われ、それを済ますと服や日用品とそれを入れる鞄が支給された。

 ガーウィグはそれを目の前にしてとても嬉しくなった。


「綺麗でボロボロじゃない! よかったー!」


 喜びがこみ上げたがカンピオンが泣いているのに気づいた。


「ど、どうしたの、カンピ姉ちゃん? どこか痛いの?」


「ち、違うの……。この服、新品の匂いがするの……もう生きている間に嗅げることはないと、絶対にダメだとボクは思っていたから」


 それはずっと待ち望んでいた匂いであった。誰かが使い古したものではない新品だけが発する匂いとの出会いは傷ついた少女の心を動かした。


 新しいご主人様の名前は何というのだろう?


 少女はこの新品の服だけで、主人となる人物に忠誠を誓う気になっていた。




 その夜カンピオンはぐっすり眠っていた。

 久々のベッドでぐっすり寝たのだ。清潔な服と寝具は虐げられていたカンピオンにとって初めての体験であった。

 奴隷たちはある屋敷でベッドで寝るように飼い主にうながされたのだ。

 また決して屋敷から出てはならないということと、窓やドアをふさぐカーテンに触れてはならないとも言われた。

 それぞれに食事と水などが用意され、トイレもあったので奴隷の誰もが不安を感じなかった。トイレも清掃スライムの入った清潔な代物だ。

 さらに本物のベッドが一人ずつに用意され、食事もハムのサンドウィッチが中心の豪華なもので、ケーキや焼き菓子もあったのだ。

 大人にはお酒も出たという話であった。

 三人はベッドもシーツも毛布も枕も新品であることに喜ぶ。

 ガーウィグ・カンピオン・マーシャルの三人はそれこそお腹がはち切れるレベルで食事を堪能した。私語も許されたのでおしゃべりをし、そのまま寝たのだ。




 そんなカンピオンをガーウィグがけたたましい声で起こす。


「カンピ姉ちゃん大変! お外がいきなり田舎になっちゃったの!」


「えっ……何?」


「家に入った時は周りは街だったけど、今は田舎なの! それも凄い田舎!」


 ガーウィグは夢想家なところがあるのでまた夢の話をしていると思ったが、カンピオンは信じられない匂いを感じる。

 ロサンゼスでは嗅いだことのない濃厚で新鮮な空気が鼻孔に流れた。


「これはいったい……?」


「おっ、ようやっと起きよったな。これから飼い主はんが大切な話をするそうやから、外に行こ!」


 そういってカンピオンの腕を引いたのはマーシャルであった。

 混乱するカンピオンはマーシャルに尋ねる。


「マーシャル、何が起きたの?」


「うちもようわからんけど、飼い主のごっつい〈神佑(スキル)〉で家ごと、この田舎までぇ運んで来よったみたいやで? 正確かは知らんけど」


「〈神佑(スキル)〉で? ボクには信じられない……」


 カンピオンは家ごと運ぶ〈神佑(スキル)〉など聞いたことがなかった。様々な奇跡を起こすという〈神佑(スキル)〉であるが、ここまでの存在は耳にしたことさえない。

 ともかくカンピオンはマーシャルに連れられて、家の外に出る。

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