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〈獰猛な牙〉へのキツいお仕置き

 ウォルヒルは同郷の者達の気持ちに感じ入った。

 が、元村人の家をこれから解体する可能性があり、みんなの現状を見るとおすそ分けをしたいと思う気持ちを止めることができない。


「さあみんな手を出して! 魔石はビックリするほどの高値で売れたから遠慮しないで」


 ウォルヒルは袋から取り出した金貨を、一家につき4枚渡していく。

 元住人達は手にした金貨をしげしげと見つめる。


「……いいのかい? あんなボロ家を金貨4枚なんて」


「金貨4枚――これだけあれば家も借りられるし、3カ月は一家で普通に過ごせるぞ! その間に仕事も探せる!」


「ああ、まずは腹いっぱい食って野宿から脱出だぜ!」


 ジョダンテの手には金貨を6枚落とす。


「残った商品を買い取るということでジョダンテさんには2枚余計に――」


「す、すまねえな。ここんところ不運続きだったからウォルヒルの施しに甘えさせてもらうぜ」


 21名のすすけた顔の者達の顔は先ほどまで暗かったが、今は活気を取り戻していた。


「それなら俺達は一人金貨10枚をもらおうか!」


 そう言って現れたのは薄汚れた若者4人であった。

 霞の村の住人を突き飛ばして冒険者パーティ〈獰猛な牙〉が姿を現したのだ。4人もここロサンゼスに逃げ延びていた。

 4人の中で一番体格が良い青年が、狼のような足取りでウォルヒルに近づく。〈獰猛な牙〉リーダーのアランである。 

 アランは真っすぐにウォルヒルに詰め寄る。


「おい、おっさん、なんで金を持っているのか説明してもらうぜ! ゲヘヘ」


 アランに続いて、頭に十文字の傷のある僧侶ローチとそばかすの目立つ魔術師サーシャがウォルヒルの背後に回り込む。


「ずいぶん羽振りが良いみてえじゃねえかおっさん!」


「昔お世話した分を合わせて金貨をよこしなよ!」


 またアランは住人たちを大声で恫喝する。


「てめえらもこいつから受け取った金をいったん俺によこせ! 俺が公平に再分配してやるからな!」


 ウォルヒルは〈獰猛な牙〉が元村人たちに今も暴力をふるいながら寄生しているのを察した。1年前から〈獰猛な牙〉は村で不遜で無礼な態度をとっていたから、簡単に想像がつく。

 小太りの盗賊ボイルが眼を見開いて、ジョミラーに近づいていく。


「おまえ、奴隷のジョミラーだろう? おまえも街に来たのか! じゃあ俺がおめえの面倒を見てやるよ!」


 ボイルは以前からジョミラーに執着を見せていたのだ。

 ウォルヒルはそんな4人を目の前にして深いため息をつく。そして振り返り弟に声をかける。


「な、ライクー? 除外すべきアホがいることが理解できたか?」


「そ、そうだね。ごめんね、兄さん」


 前から村人が窮地にいるならば魔石を売った金を分配するといっていたウォルヒルに、ライクーは意見していた。ウォルヒルが〈獰猛な牙〉は除外すると言ったがライクーは「かわいそうだ」と反論していたのだ。

 がアランらの横暴さはライクーにも伝わり、兄の正当性を把握するに至った。

 アランは拳でウォルヒルの胸をドンとつく。


「おい〈ノロイ〉のおっさん、すかしてやがると飯が食えないほど顎を砕いてやってもいいんだぜ!」


 直後、ボイルが宙を舞う。


「ぶぼぃっ!?」


 ジョミラーから派手に頬をたたかれたボイルが吹き飛ばされたのだ。ジョミラーは憎悪をこめた目でボイルを見る。


「触らないで! 私に触っていいのはウォルヒル様だけだよ!」


 〈獰猛な牙〉がジョミラーを見つめたタイミングで、ウォルヒルは冷笑を浮かべる。


「おまえ達は相変わらずゴミのようだな。おまえ達には一銅貨たりとも渡しはしないよ。むしろ慰謝料をもらいたいのはこっちだぜ!」


 この言葉にアランは一瞬で激高、ウォルヒルに殴りかかる。


「出来損ないのおっさんが粋がってんじゃねえよ!!」


 ウォルヒルにその拳が届く前に〈獰猛な牙〉4人の心臓に、【万能収納+α・β】から発射された髪の毛ほどの太さの水がほとばしった。

 心臓をくりぬくように超圧縮水流を放ったのだ。


「ぐっ!!!! いだいっ!?」


「痛たたたたっ!?」


「ぐぎゃっ!!」


「し・し・し・心臓が超痛いよ!?」


 心臓の周囲を切断された激痛で〈獰猛な牙〉が転倒する。

 心臓が外れ落ち、4人は間もなく絶命する。

 刹那、ウォルヒルはそれぞれの心臓に少量の聖霊水を注ぐ。これによって間もなく心臓の破損は修復されることになる。

 だが再生・修復されるまでは超絶な激痛に襲われるのは間違いがなかった。そうなるように調整していたのだ。

 顔を真っ青にし、大量の脂汗を浮かべたアランらは痙攣しながら思う。


 なんだ? 心臓が破られたような激痛が!! まともに息さえできない~!


 のたうちまわる〈獰猛な牙〉を霞の村の住人が不思議そうに見た。


「どうした、突然? 何で苦しんでいる?」


「罰が当たったんじゃねえか? いつも態度が悪いからよぉ」


 ウォルヒルはジョダンテら村人たちにいう。


「もうこいつらには会わない方がいいですよ? だから早くこの場を去った方が得策だと思います」


「そ、そうだな! こんなクズにこの金貨を渡せるわけがねえ!」


「くたばれ〈獰猛な牙〉! あばよ!」


 ジョダンテや霞の村の住人達が一目散に駆けだす。


「ウォルヒルよ、またどこかで会おう!」


 そういってジョダンテは姿を消した。

 アランは震えながらも立ち上がろうとするが上手くいかない。経験したことがない特濃な痛みにただただ身悶えるしかなかった。

 ウォルヒルはすでに〈獰猛な牙〉に仲間意識など微塵もない。殺すまでではないにしろ、出会うたびにS級パーティ〈黄金街〉同様に絶望を与えることは決まっていた。

 そうそれはかつての婚約者のマクティアナであってもだ。


「く、くっそう、待ちやがれ……」


 間もなくウォルヒル、ジョミラー、ライクーは4人の視界から消えていったのであった。

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