グルになって僕を騙していないよね?
襲撃者である巨漢はバランスを崩しながらもでんぐり返しをすることで、すぐ様下がりながら立ち上がる。
「くっ、こんでこんな小僧に歴戦の俺達がっ!? 明らかにおかしいぞい!」
巨漢は仲間の2人が地面に倒れ、痙攣しているのを確認して唖然となる。
ライクーは迎撃を決めたのに冴えない顔をしていた。事態が呑み込めなかったのだ。
それに兄が言葉を掛ける。
「これでわかったろう、ライクー? 父さんが如何に馬鹿げた強さであるか」
「あ! ああ、そういうことか兄さん。ぼくの攻撃が決まるのはそれだけ鍛えられているからなんだね。父さんの指導は本物だったんだ!
「そういうことさ」
「父さんがあまりにも強いからぼくの剣技なんか役に立たないと思っていたけど違ったんだね。父さんなんか、〈神佑〉を使わなくても、ぼくの攻撃なんか全部あしらうのに――」
病気になる前と最近、ライクーは父トニスコから剣術の訓練を受けてきていた。一生懸命やっていたがライクーは立ち合いでトニスコどころかウォルヒルにも勝ったことがない。
自分は弱いことを疑う機会がなく17歳になっていたのだ。
「て、てめえ、俺達を騙したんだな? 戦闘の〈神佑〉を持っているのに決まっているんだぞい! そ、それに何で動ける? ジェウマの【影法師】を受けていたはずだぞい!」
巨漢の問いにウォルヒルが答える。
「ジェウマも【影法師】も何かは知らないが、相手に異変を与える系の〈神佑〉は格上には効かないものさ。知らなかったのか?」
「格上? ジェウマは18レベルで、そっちのガキは14レベルだぞい?」
「成長の遅い〈ノロイ〉持ちの〈神佑〉と、早い者の〈神佑〉が同等ではないと知らないわけではないだろう?」
「……〈ノロイ〉の14レベルなんて聞いたことないぞい? それだってマルケイの【雷脚】に対応できるわけがねえぞい! 奴の動きは普通の人間の眼では決して対応できるはずがないぞい」
「ああ、それは僕の【竜同化】で竜の能力を借りたんだよ。これは契約している竜の――」
ライクーの言葉を兄が遮る。
「ライクー、敵に手の内を晒してはダメっていわなかったか?」
「あ、そうだった!? ごめん、兄さん」
ライクーは身悶えするように震え、しゃがみこむ。
唖然としていた巨漢はおもむろに腰に下げていた水筒から一気に水を飲む。すると全身から白い煙を上げ出し、肌が赤くなっていく。
「なめやがって、許さんぞい! この俺の【蒸気】の力を見せてやるぞい! 本気になった俺が――」
巨漢の言葉を遮ったのはライクーであった。一気に近づくと同時に巨漢の鳩尾を殴りつけていた。
「あがっ!?」
悶絶した巨漢は白い煙を大量に上げながら、謎の【蒸気】を行使することなく顔から倒れる。
三人の刺客はこうして全員、地に伏せた。
ライクーはしばらく3人を見ていたが立ち上がらないことでようやく勝利したことを理解する。
複雑な顔をする弟に兄は言う。
「3日前にようやくライクーが一人で倒した一階層のオークと一緒にするなよ。彼らじゃ3人でも勝てないんだから」
「うん、そうだね。……そうなんだね。でもやっぱり自分が強いという実感がないよ。――確認するけど、みんなグルになって僕を騙していないよね?」
初陣を飾ったライクーは納得できないといった顔で兄たちを疑った。
ペキンパーからの刺客を退けた20分後、ロサンゼスの西南に位置するロデオドラ通りに来ていた。
「懐かしいな。変わらない」
そういってウォルヒルが見上げた先には大きな塀に囲まれた石造りの4階建ての建物があった。一番高い棟には三角屋根があり、ロデオドラ通りの名物となっている。それこそがマクレーン屋敷であった。
かつてウォルヒルは男爵の息子としてこの屋敷で暮らしていたのだ。
が、ウォルヒルは頭を振って郷愁を振りほどく。
今はこのロデオドラ通りには思い出をひたりにきたのではない。
村に馴染みのある商人ジョダンテがこの辺りにいると聞いて足を運んだのだ。
わかってはいるがウォルヒルはついキョロキョロしてしまう。15年前の記憶が勝手にフラッシュバックし、平静ではいられなくなる。
ふと、銀髪で切れ長でつり上がった目の少女の顔が思い浮かぶ。
4歳から知り合って15歳までほぼ毎日顔を合わせ、そして婚約にまで至った少女――。その少女が20年経った今、S級パーティに命じて自分を殺そうとした事実も思い出す。
ただの悪い夢であったと思いたかったが、あれは現実に起きたことであった。
悪い思い出ばかりではない少女が20年経った今、自分に強烈な刺客を送った理由を想像しようとすると頭がよじれそうになる。
「ウォルヒル様、大丈夫ですか? お顔の色がすぐれませんが?」
鋭いジョミラーにほほ笑んでウォルヒルは首を横に振る。
「大丈夫さ。ちょっと人酔いしただけだから――」
思わずウォルヒルは嘘をつく。辛い思い出を脳内から追い出し、それを断ち切りように現実に集中する。
今は感慨にふけっている場合じゃない。街にいる時間は限られているんだから!
今すぐに彼女にあって事実をはっきりさせたいという衝動に突き動かされるが、魔王問題が最優先だと思い直す。
ウォルヒルがしゃきっとするために顔をたたくと、ジョミラーがまたも反応する。
何でもないとごまかした後に、【万能収納+α・β】を取り出し、膨らませるように広げていく。
第三のダンジョンの経験を経て、ウォルヒルの第二の〈神佑〉の【分析】も多様に進化していた。
【万能収納+α・β】は触れたものを、相手に気づかれずに詳細に鑑定できるようになっていたのである。
今回は馴染みの商人ジョダンテがいるかを感知するつもりで【万能収納+α・β】を拡張していく。今のところ直径2キロの範囲まで広げられ、解析できることがわかっている。




