【竜同化】の真価
ライクーが突然慌てて、ポケットをまさぐり、一枚の紙を取り出す。
「そうだ忘れていた! ジョダンテさんが棲んでいる処を見つけたよ! アルジェントさんの人脈で!」
「そうか! それはよかった」
ライクーは家の下見だけではなく、村唯一の商人だったジョダンテや村の者達の行方を調べる役目を負っていた。
この街に明るく情報屋を飼っているというアルジェントの案内で、霞の村の住人がこのロサンゼスに来ていないかを調べてもらったのだ。
それが何とか目途が立ったというのは朗報だ。
「よかった。ジョダンテさんならば村の人たちの居場所もいろいろ知っているだろうし」
「それが良くないかも知れないんだ。村の人たちは食にも寝る場所にも困っているようで大変そうなんだよ!」
ライクーが心配そうにそう言った。
が、ウォルヒルは笑顔になる。
「そうか……大変ではあるだろうけど、こっちには都合がいい展開だな。家を解体することを簡単に了承してくれそうな状況なのはありがたい」
「あっ――そういう考え方もできるか。でもそれはなんだか弱みに付け込むようで悪い気がしてくるな」
ウォルヒルらは霞の村を今後の第三のダンジョン攻略のために改造する予定であった。そこでほとんど全ての家を解体することになりそうなので、元住人達の了承を得て、家と土地の代金を支払う予定であったのだ。
まだ魔石を売った金はたっぷりある。
ライクーが兄のドライな言葉に複雑な顔をしていると、三人の男が息を切らせて現れる。
一人は戦士風の筋骨たくましい垂れ目の者、また一人は長身で痩せた爬虫類的風貌の者、最後は小柄で黒づくめの長髪の者であった。
武器や装備は整った冒険者であったがその目つきは暗く、粗暴な雰囲気を纏った3人だ。
垂れ目の男が怒気を放つ。
「て、てめーら、探したぞい!」
この3人にライクーは見覚えがない。そこで兄に尋ねる。
「この方々は?」
「冒険者ギルドから僕らを追ってきて者達だよ。ペキンパーに殺してこいとか命じられたんじゃないかな?」
とウォルヒルがいうと3人組は顔をギョッとさせる。
「て、てめーなんでわかったんだぞい! おまえは〈神佑〉の【収納】だろうが!」
「馬鹿野郎、こっちは暗殺でもプロなんだぞ!! 勘づくことはできないはずだ!」
3人組は動揺するがウォルヒルはため息をついた後に弟に言う。
「ライクー、この3人をおまえ一人で相手にするんだ」
「えっ!? 嘘でしょう?」
「嘘じゃない。できなかったらおまえには〈紅の剣光〉に預かってもらって旅に出てもらうぞ?」
「な、なんでさ! なんでそんなことをいうのさ!?」
ライクーは震えるほどに冷静さを失う。
ジョミラーが口を出そうとすると、ウォルヒルがそれを手ぶりで制する。
3人組はへへへと笑う。
「何が『一人で』だぞい? こっちはおまえ達3人を殺って所持品も全部貰っていいことになっているんだぞい!!」
「A級の俺達をガキで何とか出来るわけねえだろう、馬鹿野郎! おいガキ、おまえの〈神佑〉は何だ?」
「えっ、【竜使役】のレベル14です」
痩せた爬虫類似の男の問いにライクーは素直に答えた。
これにはウォルヒルもジョミラーもあきれる。
「ライクー様、普通は敵対する相手には教えないものなんですよ?」
「えっ、そうなの? そういういえばそうか!」
これには襲撃者3人は爆笑しながら武器を取り出す。
「【竜使役】なんか聞いたことないぞい! どうせ〈ノロイ〉の糞〈神佑〉に決まっているぞい?」
ウォルヒルは【万能収納+α・β】からいつも使っている木剣を取り出して弟に投げる。
「戦うなら【竜同化】を使うんだぞ!」
「わ、わかったよ。兄さん。こうなったらヤケクソだ」
直後、3人がそれぞれ個別に襲い掛かる。
まずは爬虫類似の男が超絶スピードで短剣を片手にジョミラーに殺到する。
が、ライクーが激しく男の肩を右手で突いて、転倒させる――とそのまま男は地面を8メートル滑って花壇の囲いに頭から激しく激突した。
「ぎょぉん!?」
悲鳴をこぼして爬虫類似の男は失神する。
次にはライクーは左手だけで振った木剣で、黒づくめの男を叩き、宙に巻き上げる。
黒づくめの男はいつの間にかライクーの左側面に沈むように移動していたのだ。
木剣を下から上に振り抜くと、打たれた黒衣の男は無様に飛ばされていく。
飛んだ黒づくめの男は垂れ目の巨漢の脇腹に衝突する。
「うぐっ!?」
巨漢は瞬時に黒づくめの男を手で叩き落しながら、後ろに下がる。巨漢の眼前には突き出されたライクーの木剣の切っ先があった。
ライクーは一呼吸で3人に攻撃を見舞ったのだ。




