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ライク―の青春

 完全に田舎育ちでただただ純朴なライクーを、都会のお嬢様冒険者がなぜ気に入ったか、同性のジョミラーにもわからない。

 だが気が合うのは確かだった。


「バーヴァ、ありがとう。まだ僕にはやるべきことがあるから色々落ち着いたら返事をさせてもらうよ!」


 とライクーがバーヴァの手を握り返して屈託なく言った。するとバーヴァは顔を真っ赤にしながら頷く。


「いつでも本当に待ってるよ! 冒険者は楽しいから! 色んな国や色んなダンジョン! 色んな食べ物にお菓子! 一緒に行こうよ!」


 またテンションの高くなるバーヴァの肩をアルジェントが掴む。


「こらこらバーヴァ、今日はここまでだぞ? この後、アーシアとルチオフと合流して雇い主に報告だと知っているはずだぞ?」


「本当にうるさい、デカ猿! それじゃあライクー、またね! また絶対に会おうね!!」


「うん。またね。僕から会いに行くから!」


 そこでバーヴァはアルジェントに引きずられながら去っていく。

 見えなくなるまで互いで手を振り続けた。

 完全に見えなくなると、ジョミラーがライクーの胸を指で突く。


「この色男! あの子はもう完全にライクー様にお熱じゃない! 将来の約束までしたの?」


 ライクーは顔を赤くしてはにかむ。


「からかうなよ、ジョミラー。でも確かに彼女と波長が合うのは感じたかな。こんな何も知らない、何もできない田舎の少年を一流の冒険者パーティに誘ってくれて嬉しかったよ」


 ウォルヒルはジョミラーが恋愛話を暴走させないように話題を変えようと試みる。ジョミラーは恋愛話にのめり込むことがあった。村の小さな恋愛事情や、恋人同士の冒険者を見ては母ジョミラーと長々と話しているのをよく目にしていたのだ。


「家を色々見て、何かわかったことがあった?」


「う~ん、ずっと言っているように僕にはいい家とかそういうのはわからないよ。でもまあどれもいい物件だとは思うよ」


「そんなもんだろうさ。ストリィト家で建築に詳しいものはいないんだから。でも大金を出すんだから一応誰かが下見をしないと」


「まあ、それはわかるんだけどね……。金額も合計すると凄いことになるし。あとベッドをたくさん売っているお店にも行ったよ。すぐに90つは用意できるってさ」


「そうか、それは助かるな」


「それと前金が払われた時点で、家にはすぐにでもトイレ用のスライムを入れてくれるって。でもトイレ用スライムもあんまり安くはないみたいだよ?あと、家の窓と扉に黒い布を張る作業も請け負ってくれるって。でもやっぱり特別料金が発生するんだって」

 

 ハッとした顔をした後にライクーは兄に云う。


「頼まれていた本屋も見てきた! 二軒の本を全部購入すると金貨105枚だって!」


「そんなものか。十分に役に立つから安いもんさ」


「兄さんは昔から本が好きだもんね。家にある50冊の本を何度も読み返して――」


「僕のサブスキルの発生には本で得た知識が何となく関連しているように思うんだ。みんなも本をできるだけ読んで欲しい」


「わかったよ。でも合計するとやっぱり色々金額が凄いことになりそう」


「お金は大丈夫だよ。魔石が想像以上の値がついたからね。帰るまでに収納している200個全部売る予定さ」


 兄弟のやり取りを聞いたジョミラーが苦笑いする。


「首都の魔石の値崩れがとんでもないことになりそうです……。それこそ破産する家が出る規模で」


 ウォルヒル達が首都に来た理由の一つが、今後の活動を兼ねて複数「家」が必要になるので何とか購入できないかというものであった。

 バーヴァのコネで前日に何とか家の建売商店とつながりをもつことができた。そこで購入予定となる家のチェックと事前交渉をライクーに受け持ってもらったのだ。兄なりに弟に社会勉強をしてもらおうという意図もある。

 兄は表情を明るくして弟に首都の感想を改めて尋ねる。


「ライクーが想像していた首都と違った?」


「そうでもなかったよ。父さん、母さん、兄さん、ジョミラーが云っていたことが本当だって確認できたし、村では見たこともない立派な建物と馬車やお店の数々。それから驚くほどの人の人生が交差していることも――」


 そう熱っぽく語っていたライクーであったが急に厳しい顔になる。


「欲望も悲劇も暴力も溢れているけど、それでも兄さんとジョミラーがこの街さえも救いたいっていうのもわかった。僕も続くよ。誇りを持ってね!」


 その毅然とした態度にウォルヒルとジョミラーが胸を打たれた。短い人生の中の大半を病との戦いで染められたライクーは、魔王との戦いに人生を捧げると以前から言っていた。

 街に来て視野が広がればライクーの考えが変わるかとウォルヒルは思っていたがそうではないようである。

 【竜使役】という特別な〈神佑(スキル)〉を持ったことの自覚がライクーの中に芽生えているようでもあった。

 ジョミラーはからかう様な、生暖かい目でウォルヒルとライクーを見る。その視線の意味することは分かっている。

 以前からジョミラーは、兄弟が気質がそっくりだと言っていたのだ。糞真面目で少し思い込みが激しいところが似すぎていると指摘していた。

 生真面目な弟を見てウォルヒルは「自分もこんな感じなのか」と思うと、もう少し砕けた感じになってもらおうと思う。ライクーにはいい加減さというか、若者らしい無軌道さがもっとあっていいだろう。

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