必殺の【出力調整】
初めての〈昇霊〉に感動・感激に震える。ウォルヒルはずっと〈昇霊〉が起こることを待ち望んでいたのだ。
【収納】持ちが〈昇霊〉を果たしたという話を聞いたことがなかったが努力はずっと続けていた。
「ゴブリン47匹、ブラックウルフを24匹倒しても上がらなかったのにとうとう……」
感慨にふけっていたが〈昇霊〉のことで思い出す。
「そうだ、〈昇霊〉が起きると〈ステータス画面〉というのが出せるとか……? え~と『〈ステータス画面〉開け!』だっけ」
ウォルヒルの眼前に唐突に〈ステータス画面〉が出る。
「うおっ!?」
〈ステータス画面〉は板状の光に文字が記載されているものである。これだけで一つの立派な魔法のようであった。
〈ステータス画面〉には以下のようなことが記されている。
名前:ウォルヒル・ストリィト
年齢:35 レベル:1
HP:24/32 MP:13/13
攻撃力:12 生命力:16 防御力:14 魔法力:13 素早さ:9 運:7
《取得魔法》なし
《スキル》【収納】
《サブスキル》【出力調整】【収納×2】
〈ステータス画面〉で異変に気づく。
「うっ、サブスキルに【収納×2】が追加?」
その記述が意味することがウォルヒルにはすぐにわかった。
意識すると二つの【収納】空間が出現した。
「本当だ……二つ出せる。〈昇霊〉で〈神佑〉が増強されると噂で聞いたが本当だったんだな」
また〈昇霊〉で起きた別の変化にも気づく。自身の腕の傷を見る。
かろうじてだが傷口はふさがっていた。だが動かすと激痛が走る。
「いつつ………〈昇霊〉で傷口はふさがったけどダメか。斬られた腕と足は切断された筋をつながないとダメそうだな」
〈昇霊〉でHPの上限が上がり致命傷が緩和されたが、斬られた筋肉がつながるにまで至っていなかった。奇跡の現象だがそこまで都合のいいことは起きないのだと理解する。
〈ステータス画面〉を見つめていたウォルヒルだったがゾクリと背筋に怖気を覚える。
振り返ると巨大なゴブリンのホブゴブリン、オーク、巨大ナメクジ、巨大芋虫がこちらに迫って来ていた。連中はいずれも〈死の森〉を住処にするモンスターである
「徒党を組んで現れるとは珍しい。恐らくは《魔獣大発生》に刺激されて〈死の森〉の怪物たちも奥から出てきたか……」
通常モンスターは同じ種族としか集団を形成しない。つまりそれだけ異常な状態が起きているということであった。
絶体絶命の大ピンチである。が、ウォルヒルは瞳に怒りの炎を燃やした。
「上等だよ! 人間様に襲い掛かってくるっていうのならば全部引き裂いてやるよ!!」
17匹のモンスター達が一気にウォルヒルに殺到する。
ビシュウゥゥッーーー!!!
途端に水が宙を裂く音が響く。
直後、ホブゴブリンの首が跳ぶ。
オークの顔が円状にくり抜かれる。
巨大ナメクジが唐竹割に真っ二つに両断。
瞬時の間にモンスターを破滅的な暴力が襲ったのだ。
10秒も掛からず17匹を全滅させてしまった。
ウォルヒルは自分の〈神佑〉ながら超圧縮放水の威力に感動する。
「す、すごい……この殺傷力は並の魔法では出せないだろう。くっ! もっとこの使い方に早く気づいていれば」
そんなウォルヒルには後悔の時間も与えられない。。
ダンジョン入り口から先程同様に巨大狼などのモンスターたちが現れる。
森からはゴブリンやオークが次々と――その数は50匹以上に達していた。
ウォルヒルは不敵にニヤリと微笑む。そしてモンスターの死体に近づくとあふれ出す血を【収納】に吸収していった。
「血で補充すれば超圧縮放水は尽きることはない! つまりおまえ達はただの血を運ぶ肉袋に過ぎないってことさ!」
〈第三のダンジョン〉と〈死の森〉からのモンスターがウォルヒルを挟み撃ちするよう襲い掛かる。
すると刹那、紅い超圧縮放水が二本伸びる。
グギャァァ~!!
グヒィイィ~ッ!?
ウォルヒルを挟むようにモンスターの断末魔が次々と鳴り響く。
ウォルヒルの周囲にはモンスターの死体の山ができていく。そして死体から流れる血は回収されていった。
「どこまでやれるか……限界まで突き進んでやるぜ!!」
【収納】を操るウォルヒルの身のこなしには死角はなかった。
そして時間が経つほどに超圧縮放水はより正確により素早く、モンスターの生命活動を止めていく。
ついには1秒で1体のモンスターを仕留めるに至った。




