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【剣璽】の実力

 【収納】ウォルヒルが真っ向から剣での闘いを仕掛ける。

 勢いよく長剣を振り上げ、跳躍し斬りかかっていく。

 これには会場から失笑が漏れる。ウォルヒルの挑戦があまりにも滑稽であったからだ。

 SS級冒険者ペキンパーの〈神佑(スキル)〉は【剣璽】である。

 【剣璽】はまさに剣術のスキルで、剣にまつわるあらゆる技量が増加するのだ。

 【収納】のウォルヒルが剣で攻撃するのは無謀を通り越して悲劇でしかないのである。

 ペキンパーは涼しくウォルヒルの剣をかわしていく。


「スゲー基本に忠実な剣技だな。俺にとってはお粗末極まりないが、いつモノを飛ばしてくるかと思うと油断はできないな」


 ウォルヒルは別にやけくそになっているわけではない。

 確かにペキンパーがS級昇格試験の話をすることは予想していなかったが、受けて損はしないと考えたのだ。いくつか有意義なことがある。

 一つは単純にSS級の実力がわかること。

 次は、【収納】がカンストし、【分析】のレベル上げをしているウォルヒルの身体能力がどこまで高まっているのか検証したかったのだ。戦闘系スキルではないとはいえ、莫大な経験値により、ウォルヒルは常人を凌駕する肉体・精神を有している。

 つまり〈神佑(スキル)〉とカンストアビリティがどこまで戦えるのかという検証になる。

 レベルによって向上した身体能力はすぐに結果を出す。

 ペキンパーがさばききれずにウォルヒルの攻撃で防戦一方になっていったのだ。


「く、くっそう、おまえ、結構やるな?」


 ペキンパーはすでに〈神佑(スキル)〉を発揮して常人を超えた動き・足さばきを繰り出していた。それでもウォルヒルの剣撃に翻弄させていく。

 レベル60+レベル24の身体能力は、奇跡を起こす〈神佑(スキル)〉を問題にしてないのだ。

 更に一分戦ったところで、ウォルヒルは察する。


 こいつ! 〈神佑(スキル)〉に甘えて全然鍛練してきていないな?


 10歳から15歳まで2人は同じ剣術を学んでいた。ペキンパーは体格に恵まれ、身体能力でウォルヒルを圧倒していたが、勝敗は五分に近い。

 ペキンパーは昔からさぼり癖があり、才能にあぐらをかいて鍛練を嫌って生きて来ていた。そのためにウォルヒルに不覚を取ることが多かったのだ。

 それが今も続いていることに心底あきれかえってしまう。

 ウォルヒルは20年前から〈神佑(スキル)〉の差が埋まった状態で純粋に剣で撃ち合いたいと思い続けていた。もちろんそれは空しい思いとわかっていて――。

 だが実現するとただただガッカリだった。〈神佑(スキル)〉のせいで努力を止めたアホとの再会は思いっきり残念でしかない。

 ペキンパーはいきなり大きく後ろに下がり、距離を開ける。

 肩で息をしながら引きつりながら笑う。


「お、おまえ、同じ流派だろう? 手首の返しと、下段から中段に変化してのすり上げは他で見ることはねえ! スゲー見覚えがある!!」


「よくわかりません。幼い時に父に習ったものなので」


「そういえば、おまえ俺のガキの頃の知り合いにスゲーそっくりな気が――誰だっけ……思い出せない。まあいい、こうなったら【剣璽】の技をその身に刻んでやるぜ!」


 ウォルヒルは幼馴染が完全に激高し、感情に流されていることを把握していた。


「よろしくお願いいたします!」


「こいつ、【剣璽】をなめていやがるな!? んじゃあ、スゲー本気で行くぜ!!」


 そういってペキンパーは眼帯を投げ捨て、耳栓を外す。そして大きく息を吸って鼻孔を膨らませる。

 ウォルヒルはようやくペキンパーが本気になったのを察した。ペキンパーは別に目が悪くない。それどころか【剣璽】の影響で周囲の情報が精密に感じ取れるのだ。

 その感じ取れる情報量を減らすために15歳から眼帯をし、耳栓をしているのである。

 ウォルヒルも集中力を最大に高める。〈紅の剣光〉のアーシアから凄まじい剣技・連撃をペキンパーが繰り出すことを聞かされている。

 それでも勝機がないとは思っていない。またペキンパーがこの試験中に自分を殺しに来ていることもわかっていた。無駄にプライドが高いので、所属する冒険者ギルドが新参者に侮られることを許すはずがない。たった一日でA級冒険者を出してしまうなど恥でしかないと考える性質なのだ。

 ペキンパーが悪だくみをする際に鼻孔を膨らませるのは昔からである。


 ペキンパーは脱力したように両手を下げる。


「いくぜ〈風雷激発〉!!」


 前進しながら剣をウォルヒルに見舞っていく。よどみのない猛烈な速さで長剣を高速で繰り出したのだ。


 ガン! ガン!! ガン!!! ガン!!!! ガン!!!!!


 剣と剣の激突音が場内に大きく響く。

 一撃一撃が重く、通常ならば全身甲冑を砕くほどの威力がこもっていた。

 それは観客席にも伝わる。通常では聞くことがない音が、ペキンパーが動くたびにド派手に響きわたるのだから――。

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