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【炎帝】のジョリエット

 SS級冒険者ペキンパーは英雄然とした態度で、冒険者たちの声援にこたえた後に制するように手を振る。

 ペキンパーは声援が止まった後にゆっくりとウォルヒルを見つめる。


「さて、試験を開始するのだが少し不公平を取り除きたいとスゲー思っているんだがいかがかな?」


「構いません。なんでしょうか?」


 ウォルヒルはペキンパーと20年ぶりに言葉を交わす。

 ペキンパーは大仰にも映る態度で左手をジョリエットに向ける。


「君はジョリエットの〈神佑(スキル)〉は知っているかね? スゲー有名な話なのだが」


「もちろん。英雄ジョリエットの〈神佑(スキル)〉は【炎帝】ですよね? 体の周りにいつでも烈火の炎を生み出せるという」


「ああ、この町ではスゲー一般常識といっていい。そこで君の〈神佑(スキル)〉も事前にジョリエットに教えるというのはどうかね?」


「ペキンパーのおじ様、そこまでしていただかなくても!」


 とジョリエットが云ったがペキンパーはウォルヒルから視線を外さない。

 ウォルヒルは頷き、平然と言う。


「もちろん、教えるのは構いません。僕の〈神佑(スキル)〉は【収納】です!」


 この言葉に闘技場全体で大爆笑が起こる。そして冒険者たちが次々にあざけりの言葉を口にする。


「【収納】野郎がA級冒険者になりたいって? 正気じゃねえな」


「とんだ道化じゃねえか。2秒ももたずに倒されるぜ」


「賭けが成り立たねえよ。あのクズ野郎に賭ける奴がこの世にいるか?」


 ペキンパーも口を押さえて笑う。

 ウォルヒルの背後の観客席にいるジョミラーは激怒していたが、当の本人は気にしていない。

 ペキンパーは別にウォルヒルに恥をかかせようと提案したわけではないとわかっていたからだ。ペキンパーが無計画で無神経なのは昔からであったのだ。

 それよりもウォルヒルはできるだけ手の内を見せないで、ジョリエットを殺さないで決着をつけることに集中していた。


「スゲー面白くなったところで始めるか! よっし始め!!」


 ウォルヒルは一礼した後に、ジョリエットに言う。


「付け加えますと、わたしはサブスキルでモノを勢いよく出すことができます。そこを頭に止めておいてください!」


「真面目な話、これ以上の情報開示は必要ない! わたしは兄と違って一切油断などしない!!」


 そういうジョリエットをウォルヒルは一切疑っていない。

 公爵の娘であり英才教育を受け、危険なモンスター討伐をしている令嬢の視線は真剣そのものであった。ジョリエットの有能さは疑いようもない。

 決して油断しない態度は、遠い親戚であるウォルヒルには愛しいとさえ思う。


「では改めていきます!」


 【万能収納+α】を出現させるとウォルヒルは大ぶりの石塊をジョリエットに放った。速いが見えないほどではない。

 ジョリエットは動かず石を受ける。体で受けたのでなくその前に展開させた炎の障壁で、石塊を熔解させたのだ。

 石塊がどろりと溶けて闘技場の地面に落ちて広がる。手加減なしの猛烈な熱気を瞬時に発揮したのだ。

 ウォルヒルは薄く微笑んで続いて放つ。


「では数を増やしていきますよ。徐々に――」


 有言実行で次は2回続けて石塊が飛ぶ。つづけて3回、4回、5回、6回――。

 まったく態度を変えずに石を溶かすジョリエットの様子を見て、観客席の者達はウォルヒルをあざける様に見る。

 が、石塊が続けて15回連続発射するころには笑いを消す。

 こんなことをする【収納】持ちを見たことがなかったからだ。

 しかも石塊の射出する速度も上がっていた。

 15個の石塊は1秒間の間に次々と放たれたのだ。


「くっ!! この連射力――それに真面目な話、狙いも正確でえげつない!!」


 ジョリエットも余裕がなくなっていく。さすがにこれだけ連続で飛礫を溶かすとなると精神をかなり集中させなくてはならなかったからだ。

 石が飛来する角度も数を重ねるごとに、頭・腕・腰・足とランダムに狙いが変わり、防御範囲を小さくするわけにはいかなかった。

 火力を上げて、連続して飛来する石の侵入を阻止することはそう簡単ではない。

 が次に16回の石攻撃はこなかった。

 肩をすくめるウォルヒルが告げる。


「石が尽きました。次は水礫をお見舞いします」


 すると【万能収納+α】から牛二頭分ほどの体積の水の塊を出して見せた。

 これにジョリエットは仰天する。


「まずい!! 真面目な話、それだけはまずい!?」


 ジョリエットは高温を周囲に展開させたときに大量の水を浴びせられることの危険性を知っていた。

 【炎帝】をフル稼働させている時に大量の水を受けると強い爆発が起きてしまうのだ。

 己の〈神佑(スキル)〉を熟知するために練習中、兄エルウッドに大きな氷塊をぶつけてもらったところ、大爆発が起き、2人とも一週間動けなくなってしまったことがあったのだ。

 ジョリエットも知らなかったがそれは水蒸気爆発と呼ばれる現象である。水蒸気爆発とは、水が超高温の物質と急激に接触し、一気に水蒸気へと変わることで、その体積が最大1700倍に膨張し、爆発を巻き起こすという現象である。

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