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氷の精霊

 そして間もなくA級昇進試験が始まる。

 ギルドの裏手にある円形の建物は二つの出入り口以外は4メートルの壁で覆われていた。その壁の上に観覧用の座席が合計200ほど設置されている。

 ここは冒険者ギルドがモンスターの強さを測定したり、魔術の試運転をしたり、ランク昇進試験に使われている施設であった。冒険者たちには闘技場と呼ばれている。

 そして今まさにA級昇進試験が行われようとしていた。

 ジョミラーとエルウッドが6メートルの距離を開け、対峙する。


「それではこれからA級昇進試験を開始する。受験者はジョー、試験官はS級のエルウッド・ランディスが務める。――では初め!」


 そういったのは試験を仕切るジョリエットである。ジョリエットは闘技場内に唯一せり出した観覧座席から審判を行っていた。



 ジョミラーは開始早々に黒い粒子を招き寄せ、周囲に展開させ漂わせる。黒い粒子は砂鉄で闘技場の外からも引き寄せていた。


「それでは行きます!」


 砂鉄を竜巻の様に動かすジョミラーが手を突き出す。するとエルウッドに向け、瞬間に形成された鉄片がいくつも向かっていく。

 〈神佑(スキル)〉【鉄火】で生み出された鉄棒、鉄板が少年に襲い掛かったのだ。

 だがエルウッドは動揺しない。


「へえ、鉄の欠片をぶつけてくるとは面白い攻撃なのだ。だが当然のようにわたしには効かないのだよ!」


 エルウッドの周りにはキラキラ光るモノが渦を巻くようにあふれ出て来て、鉄片の飛来を阻止した。

 半透明のものに包まれた鉄棒、鉄板がゴロゴロと闘技場の地面に転がる。


「……凍っている?」


 ジョミラーが意外な展開に首をひねって分析した。

 エルウッドが頷いて返す。


「その通りなのだ。わたしの〈神佑(スキル)〉は【氷霧】だ。水だけではなく凍結の属性も兼ね備えた特別で希少な〈神佑(スキル)〉! 凍結の嵐を纏ったわたしに近づけばすべてが凍り付く!!」


 エルウッドが手の平をジョミラーに向ける。


「当然のように反撃をする――お返しなのだ!」


 途端、エルウッドの周りで渦巻く濃厚な冷気から人のこぶし大のものが数十も飛び出していく。

 それはジョミラーに向かって伸びる。


「〈アイアンウォール〉!」


 瞬時にジョミラーの周りに厚さ3センチ、大きさが4平方メートルの鉄の板が出現する。

 ガンガンガン――そこに飛翔したモノが激突して、ジョミラーの足元に転がる。

 それは氷塊であった。

 勢いもすさまじく鉄の板にへこみをたちまち作っていく。


「うっ!?」


ジョミラーが思わず後ずさると、エルウッドはニヤリと笑う。


「もう防戦一方なのだな? それでは当然、わたしが本気を出すまでではないな!」


 それを聞いたジョミラーは歯を見せて怒る。


「ふざけないで、〈アイアンドール〉!」


 するとジョミラーの2メートル前に、砂鉄の渦が移動して3メートルの鉄の巨人を形成していく。

 巨人は目も鼻もない、案山子のような形状をしていた。

 それが膝が曲がらない脚でよたよたとエルウッドに近づく。

 がエルウッドの余裕は変わらない。口の端を吊り上げ、不敵に言う。


「みすぼらしい人形なのだ! だが必死さに免じてこちらの大技を見せてやるのだ」


 エルウッドが両腕を開くように動かす。須臾の間に左右の指先の延長上の空間に青白く輝く、百合の花弁のようなモノを出現させていく。

 ジョミラーが口元を歪める。


「それは?」


「氷の精霊だ。わたしの望むよう、従順に働いてくれる存在なのだ!」


 エルウッドはジョミラーを見つめ、指をさすように向けると氷の精霊2匹が動き出す。


「さあ氷の精霊、彼女を氷漬けにするのだ!!」


 間もなく氷の精霊は距離を詰めながら、エルウッド同様に氷の礫を仮面の少女に放射し始める。

 

「〈アイアンウォール〉!」


 ジョミラーはさらに鉄の壁を2枚増やして、氷攻撃を防ぐ。

 鉄の巨人は先ほどから動きを止めていた。足元が凍結し、移動ができなくなっていたに映る。


 ウオォォォォッ~!!


 ウォルヒルは背後の大声に驚く。

 冒険者達がこの闘技場に集まり始めていたのは把握しているが、熱狂的に反応していることにビックリする。

 様子や会話に注目しているとS級エルウッドの腕前に感動・驚嘆・興奮していることがわかった。


「あれがエルウッドの氷の精霊か!? マジでヤベーな……」


「さすがS級。あの嬢ちゃんも善戦しているがもう終わりだな! 氷の精霊なんか普通出せんぞ」


「こ、ここまで冷気が来ている!? 俺なら10秒持たねえで凍死しそうだわ」


 冒険者たちの熱気が更に高まっていく。

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