【良質化1%】の効果
ウォルヒルは今度は買い取りの部署に行く。
「魔石を買い取ってもらいたいんだが――」
「はい、このカウンターの上にお願いします!」
ウォルヒルは収納空間から、成人男性の頭部サイズの魔石を6つ出し置いた。
「えっ? こ、この魔石はどこで入手されたんですか?」
受付嬢の顔が驚きで曇る。
「パラマウン地方エルビスの〈死の森〉だよ。名前ぐらいは知っているだろう?」
「えええっ? あの世界樹の伝説があるところですか?」
「ああ――」
そのあとは冒険者ギルド中が騒然となった。冒険者達も大きな魔石を見ようと詰め寄ってくる。〈死の森〉というワードも刺激的であった。
そして数人の冒険者が不機嫌そうな声を出す。
「本当かよぉ? エルビスの2つのダンジョンでさえ難易度が高いのに〈死の森〉に挑む奴がいるのか?」
「〈死の森〉に挑んで生きている奴なんか知らねえぞ。絶対嘘に決まっている!」
「S級じゃないとまず無理だろう。15歳そこらのガキがそんなことできるわけがないじゃねえか」
ジョミラーはそんな冒険者達の物言いに激しく腹が立った。敵意をむき出しに睨んだが何も言わない。あらかじめウォルヒルから魔石を売る時に、他の冒険者に無礼な詮索を受けることを聞かされていたからだ。冒険者が他の冒険者の功績をやっかむ因習はずっと変わらないのだ。
魔石を確認・鑑定した職員がウォルヒルに告げる。
「ひ、品質の問題はありませんでしたので買い取らせていただきます!! というか見たことがないほど高品質でした。個別に値段をお教えいたしましょうか?」
「いいよ。合計でざっとくれ」
「そうですか。合計は1836金貨となりました。受け取りはいかがしましょう?」
この金額に冒険者たちは仰天し、大声を出した。
ウォルヒルは冒険者カードを出しながら冷静に言う。
「半分は現金でくれ。それ以外はギルド預かりで頼む」
すると、ウォルヒルの前に職員5人がかりで金貨900枚が運ばれた。
ウォルヒルは金貨を収納空間に収めながらも、10枚ほど懐に入れる。そして改めて3枚取り出してカウンターに置く。
「これは祝儀だ。冒険者ギルドの食堂で金貨3枚分誰でも飲み食いできるようにしてくれ。無論、職員が利用しても構わない」
そのウォルヒルの言葉に冒険者・職員がワッと盛り上がる。ギルド内には入り口付近に食堂兼酒場があり、飲食が利用できるようになっているのだ。
「さすが! 太っ腹、ご馳になります!」
「俺は最初からこの坊ちゃんが凄いとわかっていたぜ!」
冒険者達はウォルヒルらに感謝を述べると食堂に全員向かって移動した。
もちろん職員らもウォルヒルに感謝する。金貨3枚は恐らく1日で消費されるだろうが、職員の夕飯代ぐらいは何とかなると予想する
「ほ、本当に群がってきた冒険者が全員消えてしまいましたね。ウォルヒル――ウォル様の言っていた通りですね」
あきれ返ったジョミラーがそういうとウォルヒルがほほ笑む。
「冒険者が全然変わっていなくてほっとしたよ」
ウォルヒルは子供の時からよく冒険者ギルドの周りをうろちょろしていたので、冒険者の気質を理解しているつもりだった。
職員達の動きも活発化していた。20人近くが忙しく立ち回っている。ジョミラーは「供給のめど」「一年間の魔力」などのワードが耳に入る。
ウォルヒルが売った魔石が国が求めていた基準に達しており、冒険者ギルド全体が浮かれているのが伝わった。
「ピンと来ていなかったですけど〈死の森〉のモンスターの魔石はとても大きいんですね! 6つでこの都の主要設備を動かす役に立つなんて!」
「ここ首都ロサンゼスの水道、照明、空調に魔力が使われているんだ。魔石が大量に消費されるのだが、小さな魔石ではどうにもならない仕様のようだ。今も魔石が慢性的に不足しているという状況のようだし」
ウォルヒルの知識はほぼ20年近く前のものであったがロサンゼスの事情に変化はないようだと感じた。
「それに僕の未知数だったサブスキル【良質化1%】もいい仕事をしてくれたようだし」
「そのようですね! 魔石の質が向上したようですし、さすがウォル様です!!」
増えたサブスキル【良質化1%】は当初は活用の仕方が分からなかった。だが収納したモノの品質・性質をウォルヒルが望む方向に良くするという効果があったのだ。
つまり【収納】に収まったモノは毎日毎日重ねて改善されていくのである。




