首都の冒険者ギルド
不滅の金都――ホリウド王国のの首都ロサンゼスはそう形容されていた。
石造りの3階建ての建造物が2千を超えて並んでおり、街の中心にある王宮も大きく荘厳であった。
水源が豊かで街の至る処に、天空神オーギュルイ像を中心に配置した噴水がいくつもあり、街の格式を高めている。
長さが5キロに及ぶ城塞壁は圧巻で、初めて見る者を畏怖させる力があった。
首都の冒険者ギルドの施設は城の真横、街の最も中央にあり、5階建ての館舎は石造りで立派であった。真横には訓練用の競技場もあり、街のシンボル的な存在になっていると云えるであろう。
その冒険者ギルドに現在、ウォルヒルとジョミラーが来ていた。お昼を少し過ぎた時分である。
「だからうちら〈紅の剣光〉が確実に保証人になるって言ってるでしょうが!」
受け付けカウンターで赤髪の女性が大声を上げた。
その光景はギルドの受付にいる冒険者60名の注意を引く。
それもそのはずでAランクパーティ〈紅の剣光〉はロサンゼスでも上位3位に入る実力者集団であるのだ。
中でも〈剣王〉の赤髪のアーシアはその美貌もあいまって名前が知られていた。
そのアーシアと魔法剣士ルチオフがカウンターで受付を相手に交渉していたのだ。
受け付けの女性は冒険者規定書を見ながら対応する。
「え~と、Aランクの方の推薦だと、金貨7枚を使えばいきなりDランクから開始することができます。でも本当にそれでよろしいのですか?」
アーシアは頷きを返すと、カウンターに金貨14枚を並べて置く。金貨1枚あれば街で一カ月遊んで暮らせる価値がある。
「ああ、問題ないよ。ウォルとジョーは私たちより確実に格上――Sランク以上は確定だからね!」
そういってウォルヒルとジョミラーにほほ笑みを投げた。
ウォルヒルらはアーシアら〈紅の剣光〉と共に首都にやってきて、そこで偽名で冒険者登録をしていたのだ。そしてアーシアたちの推薦で本来はFランクからのスタートをDランクからにしてもらったのである。
ウォルヒルらは偽名である上に、口以外を覆う仮面をしていた。
ウォルことウォルヒルとジョーことジョミラーがDランクの冒険者カードを受け取り、登録を完了する。登録には魔水晶を通じて、ざっとスキルのチェックを受けるが「収納」と「鉄魔法」と簡単に記載される程度である。
ウォルヒルがアーシアに握手をする。
「お金まで使わせてしまって申し訳ない。ありがとう〈紅の剣光〉!」
「これぐらい当然だよ! あの死のダンジョンから救い出してくれた上に超高級のポーションを使ってくれたんだろう? 確実に金貨百枚では足りないよ」
「瀕死の我らを救ってくれて重ねて感謝するのであ~る!」
「アーシアさんもルチオフさんも本当にありがとうございました!」
ウォルヒルは第三のダンジョンで全滅した〈紅の剣光〉を救い出し、聖霊水で蘇生させたのだ。が〈紅の剣光〉の面々は肉体が修復されてもなかなか目を覚まさなかった。
そこで首都とウォルヒルらが棲むエルビスの間にある町まで移動し、神官を訪ねて助言を求めた。
月の神ジョルメリエスの神官は、蘇生するには神と魂を一瞬でも近づける必要があるといい、その儀式をしてもらったのだ。
そこで見事に〈紅の剣光〉の4人は意識を回復させたのである。4人は蘇生に喜んだが自分が生き返ったことを不思議がった。何しろ体が滅茶苦茶になったルチオフが生き返る可能性が微塵もないことを覚えていたのだ。
ウォルヒルはさすがに聖霊水のことは言えなかったので、その辺は適当にはぐらかして対応した。
それでも〈紅の剣光〉はウォルヒルらに感謝し、今回色々骨を折ってくれたのだ。
冒険者ギルドの口利きも当然感謝したが、建売の家の販売専門業者につないでくれたことがウォルヒルにはありがたかった。
「特に建売業商会への橋渡しは助かりました! まるで専門知識がなかったものですから」
「あれはうちのメンバーのバーヴァのコネだよ。彼女の家系はほとんど商人だからね。ああみえて彼女は確実にお嬢様なんだから!」
「そうなんですね、あははは……」
〈紅の剣光〉の魔術師バーヴァは着ぐるみ型の服しか着ない人物で、ウォルヒルも言葉に困った。正直に言動も振る舞いもお嬢様には思えない。
アーシアとルチオフは出口に向かう。
「それではこれで。申し訳ないが生存報告などを兼ねて、確実に行かなくてはいけないところがあるんだ!」
「お時間を取らせてすみません。本当にこの度はありがとうございました」
〈紅の剣光〉の2人がこれから顧客に報告があると言ってギルドから去ると、ウォルヒルは再びカウンターに向かった。




