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絶望のグラタナススライム

 ウォルヒルはスライムをじっと見据えて思案する。


「しかもこのスライム、ただのスライムではない。異常な速さで生き物を消化するグラタナススライムだ」


 ウォルヒルがそういうと蒼い空洞に不思議な声が響き渡る。


「へえ~、しぶといと思ったら、僕の正体まで気づくとはやるじゃないよ!」


 その声にウォルヒルが反応する。


「もしやグラタナススライムが俺たちに話しかけているのか?」


「そうだよ。魔王軍の№5。凶飲凶食のリフェンシュタル様だよ!」


「魔王軍の№5! 黒竜ヴォルフガングの3つ下のモンスターか!」


 トニスコ達が戦慄する。国を一匹で殲滅できるヴォルフガングより劣るとはいえ、普通に人間が勝てる存在ではないのは確かであった。

 グラタナススライムのリフェンシュタルはどこかのんびりとした口調で言う。


「まあ№5は自称だよ。みんなは僕ちんを『ウスノロ』とかいうけどみんなわかってないだけなんだよ! そのわけを教えてあげてもいいよ?」


「ほう、後学のために教えてもらおうか?」


「それは僕ちんが魔王軍で5番目に人間を殺したからだよ? 先の人間との戦いでは、僕ちんは村を11つ、町を5つ丸のみにして、人間を食い殺したからね! おっと牛も馬も犬も食べたよ」


 無邪気にも聞こえるリフェンシュタルの言いざまであったがジョミラーらは戦慄する。

 恐らくは1万以上の人間が殺されたかと思うと怯えないわけにはいかなかった。

 がウォルヒルだけは感心しているようなそぶりを見せる。


「へえ~、すごいね君は。取り込んで食べた人間の〈神佑(スキル)〉も吸収しているんだね。まだ使えるようにはなっていないようだけど!」


「そうだけど……なんでそんなことがおまえにわかるんだ? おかしいだろう!」


 リフェンシュタルは懐疑的にそういった。

 それにウォルヒルは答える。


「ああ、収納した君の体を【解析×2】で調べたんだよ。あれ? でも君は複数の〈神佑(スキル)〉を持っているんだね」


「な、なんかおまえ生意気だよ! 僕ちんの体を取り込んでいるみたいだけど、すぐに吸い込んでやるんだよ!」


 というと、スライムは大量にウォルヒルらに迫った。渦を巻くように取り囲み、一行の周辺で踊り舞う。

 【万能収納+α】の膜に守られているが、食い殺さんと息巻くスライムの猛攻にトニスコらは震え上がる。

 恐怖のあまりライクーは兄を見た。するとウォルヒルはまったく焦っていないのが伝わる。外見は若返ったがずっと見ていた兄の表情を見間違うことはない。

 ウォルヒルは感心したような顔をする。


「凄い量だな。そろそろ吸収しきれなくなってきた」


「あはははは! 驚くのは当然だよ? だって僕は〈神佑(スキル)〉【増殖】で体積を4倍に増やしているんだよ! いくら凄い収納スキルでも僕ちんを吸収できないでしょう?」


 勝ち誇るリフェンシュタルに向け、ウォルヒルはため息をつく。


「どうか今回だけは見逃してくれ! ………といってももう遅いよ?」


「はあ?」


「君が懇願しても許さないと宣言しておく!」


「この糞ゴミ人間が!? おまえは苦しめるためにゆっくり消化してやるからな~!!」


「さてと――全部収納してから徹底的に解析をしたかったけど仕方がない。今収納した分は【分解】させてもらい、【消去】させてもらったよ!」


「!!??」


 直後、トニスコらの体が輝きだす。〈昇霊(レベルアップ)〉を示す現象であった。

 リフェンシュタルもうろたえた声を出す。


「な、何をしたんだよ? 体がなんかすごく減ったような……ち、力も出せない」


「ああ、収納した君の体を消させてもらったんだ。面白い素材だから研究したかったんだけど。まあまだまだ君の体はたっぷりあるから問題ないけどね!」


 そういってウォルヒルは微笑んだ。

 すると【万能収納+α】はスライムをより激しく収納・吸収していく。

 ついには周囲のスライムを全て収めると、湖に向かい【万能収納+α】が伸びていった。


「ふ、ふざけるな人間風情が!? 僕ちんを取り込んで分解するなんて許されないんだよ!?」


「まあ沢山の人間を分解してきたんでしょう? 今度は分解される番ってことだよ」


 ウォルヒルの口調は穏やかだったが、断固としたものであった。

 【万能収納+α】はグラタナススライムのたまりに迫ると触れたところから収納し、分解していった。

 ジョミラーらもグラタナススライムを削り倒していくたびに自分たちが〈昇霊(レベルアップ)〉していくことを理解していく。

 グラタナススライムは集合体で、ウォルヒルに消されるたびに倒され、経験値となっていることを――。

 

「ひぃいぃぃ~!! やめてくれよ~!? 僕ちんを食べないで~!!!」


 急速に堆積を減らされるリフェンシュタルはそう悲鳴を上げたが【万能収納+α】は休まず、きっちりと働いた。

 やがてリフェンシュタルと邂逅して14分後、湖はただの大きな窪みとなっていたのである。

 窪みの中心には大きな魔石と、長剣が一本置いてあった。

 収納空間に収まったグラタナススライムは長い間【解析×2】で調べられることになったのである。

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