第三のダンジョン突入!
翌日――第三のダンジョン入り口から不穏な雰囲気が漂う。
できたばかりだというのに周囲に禍々しい陰湿な魔素を垂れ流していた。
そこにストリィト一家5人が立ち、中を見下ろす。
母と弟だけは冒険者らしい装備がなかったので鍋と鉄板で体を守り、スコップや鍬を武器にしている。
トニスコ、カールライ、ライクーが緊張した面持ちで入り口を睨む。魔王が生まれるかもしれないダンジョンがやはり恐ろしかったのだ。
ダンジョンの経験があるのはトニスコとウォルヒルだけである。しかも一番難易度が低い第一ダンジョンの一階層までだ。
それでもそこに現れるレッサーミノタウロスを倒し、魔石が手に入れば4人が一カ月遊べる金が手に入る。
冒険者パーティ〈獰猛な牙〉の時は、14回挑んで魔石を手に入れられたのは3回だけであった。
ダンジョンの怖さを知る父母弟の前でウォルヒルはステータス画面でを展開し、トニスコたちのパーティ登録を行う。
事前に聞いていた三人は「yes」を押して手続きを終える。
「これでよし! では行こうよ」
「それでは行きましょう! すぐ行きましょう!」
3人より先にウォルヒルとジョミラーが中に入っていく。
ジョミラーに至っては楽しそうに先ほどからワクワクしている様子を隠してない。ジョミラーは冒険が好きなのだろうとウォルヒルは思っている。
第三のダンジョンの一階層は黒い岩で覆われた洞窟のような空間がずっと続いていた。
ダンジョンの空気は生暖かく、しっとりした湿気で満ちていた。
5人は静かに慎重に進んでいく。モンスターにいきなり襲われることはなかった。
すると7分ほど進んだ処で突然大きな音が響いき、聞こえてくる。複数の振動を伴う音が一階層の奥から聞こえてきたのだ。
「い、一体何の音だ?」
トニスコは戦慄して、剣を抜きながら暗闇の先に目を凝らす。
ウォルヒルは皆を先導しながらしっかりとした足取りで進む。
「どうも先客がいるようだね。おっと、ジョミラーは後ろを警戒して!」
「わかりました」
ウォルヒルの視界にやがて音の発生源が目に入る。入り口から900メートル奥で爆発や閃光が発生、瞬いていたのだ。
ダーン!!
直後、トニスコの真横の壁に激しく衝突するものがあった。
高速で飛んできて壁に背から激突したのは少女だ。子熊の縫いぐるみのような装備を着て、先端に蒼いクリスタルがついた杖を持った17歳ほどに映る女性魔術師である。
少女の服からは多量の血が流れ出し、すでに死んでいるように映る。
突然の出来事にライクーは驚愕し震え出す。
「な、なんだ? どこからこの子は? なんで壁にぶつかったの?」
事態はさらに進展していく。前方で大柄の男性が、炎を鏃に宿した矢を同時に3本放とうとしているのが目に入る。
「くらえ!!」
巨漢の繰り出した三本の矢は凄まじい勢いで飛翔した。が、何もない空間でいきなり弾かれて、跳ねて闇に消えていく。
矢を弾いた暗闇の近くには巨漢の男性よりも二回り大きい者がいた。
「ぐへへへっ、人間の内臓食うなんて何百年ぶりだろう?」
そういって姿を見せた者は突き出たデカい鼻をし、不揃いの歯が並ぶ広い口をしていた。
全身武装の豚顔の戦士である。両手持ちの大型ハンマーを手にし、口角を吊り上げ、どすどすと足音を鳴らして接近してくる。
身の丈は優に3メートルを超えていた。
ウォルヒルは歩みを止めずに進みながら、好奇心をむき出しにした顔をする。
「あれはオークの上位種、ハイオークか? いやもっと上位かも知れないな!」
ウォルヒルが巨漢の弓師にコンタクトする前に戦闘は継続される。
先端に髑髏が付いた杖を持ち、漆黒のローブを着た2メートルほどのオークが青い火の玉を放ったのだ。
ウォルヒルは火の玉を収納しようとしたが、火の玉は舞い踊るかのように軌道を滅茶苦茶に変えて飛翔する。
火の玉は飛んで跳ねて逃げる巨漢弓師を追尾して宙を駆けていたのだ。
「うぎゃ~~っ!!!」
火の玉に追いつかれた巨漢弓師は野太い悲鳴を口にし、火達磨となる。
戦いはまだ止まらない。
大型ハンマーを持つ上位オークの真上から、両手持ち剣を持つ甲冑を着た者が襲い掛かっていたのだ。
「よくも仲間をー!!」
美しい顔を憤怒に染めた女性戦士であった。両手持ち剣が上位オークの脳天に突き込まれる刹那、疾風で駆け寄る者がいた。
長い槍に斧がついた武器――鉾槍を手にした別の上位オークが尋常ではない速度で近づくと女性戦士に一撃を見舞う。
ブッチンっ!!
女性戦士は左肩を切断されながら7メートル飛んで地に落ち、ジョミラーの足元まで転がった。
上位オーク達は今度はウォルヒル達を目に止める。
「おっ! また侵入者かよ。これは全員が食う分ありそうだな」
ゲラゲラ笑いながら上位オークが続々と姿を見せる。重武装に巨大武器を持った巨躯の豚顔モンスターは8匹いた。
圧倒的な質量と凶悪さを目の当たりにしたライクーは呼吸ができなくなっていく。喉が痙攣し肺に息をうまく送れない。
「こ、こんな簡単に人が――人の命が……」
死病と長く戦ってきていたがここまでの恐怖を覚えたことがなかった。絶望に飲まれそうになったが兄の顔を見て不安が消えていく。
ウォルヒルは指で上位オークの数をカウントしながら舌打ちをしていた。
「これっぽちじゃ3人を一気に〈昇霊〉させられるか怪しいな。もうちょっと凄いモンスターがいることを願うしかないな。よし先を急ごう!」
そういったウォルヒルの周りに10つの空間の揺らめきが発生する。
上位オーク達はウォルヒルの言葉を聞いており、激怒しすぐに武器を振り上げて鬨の声を叫ぶ。
ぶひぃ~~~!!!
惨めにミンチにしてやる! そう意気込んだが3秒と続かなかった。
猛スピードで飛んでくる岩の塊を見て、震え上がったのだ。人間一人分ほどの質量の岩が信じられない速度で100個向かってきたのだから――。
魔法で発生させた障壁は岩を防ぐ。が半数の突破を許し、たちまち上位オーク達にもれなく死をもたらす。
ぎゃがぁああぁぁ~!!!
無情な悲鳴が同時多発に響く中、顔面・胸・腰・脚・股間が容赦なく陥没させられた死体が積み重なっていく。
直後トニスコ、カールライ、ライクーの体はそれぞれ一回ずつ輝いた。
〈昇霊〉の輝きだ。
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