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英雄誕生!

 それは3日前の出来事だった。

 天にも届きそうな世界樹の下、聖霊の泉の横で緑髪の貴婦人・大聖霊が口を開く。


「おりいって2人に話があるのである。ここから南にある地にダンジョンが発生したのだが、できるだけその中の怪物を間引いて欲しいのだ」


 その声は真剣そのもので本気であることはすぐにわかった。

 が、それでもウォルヒルはギョッとする。第三のダンジョンがとてつもない魔力を放っていることを知っているからである。


「そのダンジョン、恐らくはわたし達の居住区に突如出現したものだと思います! 中には入っていませんが、他のダンジョンとは比較にならない魔力が漂っておりました」


 ウォルヒルの言葉を聞いて大聖霊の表情が硬くなる。


「そうか、やはりか。そこには恐らく400年ぶりに復活する魔王がいる可能性が高い!」


「ま、魔王ですか!」


 そういったジョミラーがハッとする。


「そういえばあの黒い竜が魔王がどうとか言っていました」


 大聖霊は深くうなずく。


「さよう――ヴォルフガングが魔王とその配下を復活させるために、広範囲で地中にある魔力溜まりやダンジョンを400年かけて引き寄せていたようなのだ。長い時間をかけて魔力を恐ろしい広さからかき集め、溜めていったのだ」


「そうか。3つのダンジョンはあの邪竜が引き寄せて来たものだったのか……」


 ウォルヒルはなぜこんな辺境の地にいくつもダンジョンができたのかわかり始めていた。

 もちろん魔力を集め蓄積させる術など見当もつかないが、パラマウン地方エルビスがなんでダンジョンが複数あるのか理解できる気がした。

 大聖霊が悔しそうに顔をゆがめる。無念といった表情で云う。


「我らが彼奴の秘策に気づかなかったために、魔王は復活し、魔族の勢力は膨大なものになってしまった」


 白銀の大型聖霊獣スピバーグが悲しげに鳴いた後にウォルヒルに告げる。

 

「ヴォルフガングと魔族は実は世界樹が貯め込んだ魔力を奪っていたのだ。地中深くから忍び寄り、巧妙に魔力を盗み、吸い出したのだ。お陰で我らは衰弱し、魔王が復活しやすい環境が生まれてしまったのだ……」


「な、なんとそんなことが……」


 第三のダンジョンは魔王と敵対する精霊の魔力を奪って生まれたことにウォルヒルは驚愕する。人間には到底及ばぬ者たちの戦いはまさに想像を超えていた。

 同時にこのままでは不味いということもわかってくる。

 魔王が本当に生まれれば人類はどうなるのか?


「魔王が復活すれば僕ら人間もただではすみませんよね?」


 スピバーグが顔を縦に振る。


「その通りだ。人間界も魔族の侵攻を必ず受ける。だが我らは人間には何も手助けできぬ。今の我らでは世界樹を守るのが精いっぱい。だからお主らにできるだけ魔王のいるダンジョンを攻めて消耗させて欲しいのだ!」


 大精霊はウォルヒルに近づき、その肩に手を掛ける。


「奇跡の〈神佑(スキル)〉を持つウォルヒルよ。どうかダンジョンをできる限り攻略してはくれまいか。それは人の世のためにも必要なことだ。どうか良き者の御旗となり立ち上がって欲しいのだ!」


 ウォルヒルは思わず後ろに下がる。偉大なる者の願いはただの人間には重すぎた。凡庸な者が魔王と向き合うなど不可能に思う。

 が、背中を覆う温かさに勇気をもらう。


「やりましょう、ウォルヒル様! ウォルヒル様なら魔王なんかチョチョイのチョイですよ!!」


 満面の笑みでジョミラーがウォルヒルを背中から抱きしめていたのだ。


 この娘と家族を守るためなら何だってやってやる!


 ウォルヒルは片膝をつくと、大精霊に深く頭を下げる。


「短命の弱き者ですが大精霊様の願いをしかと聞き入れました! やれることはすべてやると約束いたします!」


 その言葉に誰もが笑顔になった。

 それはまさしく善なる者達の希望そのものであったのだ。

 数奇なる運命の果てに無敵の〈神佑(スキル)〉を授かった中年男性が、若い体を駆使して魔王を討たんと動き出そうとしていた。

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