黄金の偉大なる帰省
3日後――ウォルヒルとジョミラーは粗末な家が並ぶ処にいた。
霞の村。ストリィト家の屋敷があるところだ。
朝焼けに照らされるストリィト家の屋敷の中で家族が勢ぞろいしていた。
居間でウォルヒルが瓶に詰まった聖霊の水を差しだす。
「さあライクー、聖霊の水を飲むんだ」
弟ライク―が瓶を神妙に受け取る。ライク―の肌は蝋のように白い。目の周りは窪み、顔の肉が薄くなっていた。死病に犯されているとはっきりわかる状態である。
「うん、わかったよ兄さん」
震える痩せた指で瓶を傾け、聖霊の水をあおる。
その様子をトニスコ、カールライ、ジョミラーがじっと見つめていく。
ゴクゴクゴク――病人とは思えない飲みっぷりで、聖霊水をライクーが一気に飲み干す。
「ぷはっ!」
呼吸をしないで飲み干した後に大きく息をつく。そしてたちまち笑顔となる。
「本当だ! 胸の痛みが完全に消えたよ!!」
ライク―の顔も肌も生気に満ちていた。ウォルヒルも数年ぶりに見る快活な弟の微笑だった。
涙を浮かべた父母兄がライクーに一斉に抱きつき涙する。
「よかった! 本当に良かった! ああ、奇跡が今まさに起きたんだ!」
「ええ、聖霊様に感謝しかないわ! まさかあんなひどい病気が一瞬で治るなんて!!」
そんな熱い一家の抱擁を見てジョミラーが滂沱の涙を流す。
「よがった!! 治ってほんどうによがった! わ~ぁっ!!」
ライク―はそんなジョミラーに力強く歩み寄ると激しく抱きしめ、感謝した。
「ジョミラー、君が兄さんを助けてくれたから、僕は健康になれたんだ。一生僕は君を感謝し続けるよ!」
ウォルヒルは涙が止まらない両親に向き合う。
「次は父さんと母さんだけど――20歳ほど若返るのでいいかな?」
父トニスコは瞬時に顔を青ざめさせる。とてつもない奇跡の技を前にしり込みしてしまう。
「う~ん、聖霊の水の凄さはわかったが何だか怖いな……」
「母さんは嬉しいわ~! 若返りは女の夢だもの!」
母カールライは笑顔でそういった。
ウォルヒルは帰宅してすぐに自分が若返ったことを告げていた。そして聖霊水の凄さと恐ろしさもきっちりと丁寧に伝えたのだ。
大聖霊からも両親を若返らせる許可は得ている。
「それじゃあ聖霊の水に浸かってもらうよ!」
ウォルヒルは素早く【万能収納】を出現させて2人を飲み込んだ。
トニスコは、思わずジタバタともがく。カールライは奇跡の水の力に癒されウットリとする。
時間はおおよそ45秒――ウォルヒルが使った時間よりも若干短い時間だった。
ジョミラーの話ではウォルヒルが泉に漬かったのがたったの一分と聞いて驚いたが、非常に参考にはなった。
正確にカウントしてから2人を【万能収納】から出す。排出された2人は20歳ほど、30歳に見えるほどの外見となる。
トニスコは自分の傷だらけだった手が綺麗になっていたことで若さをすぐに実感した。
「ふぅ、これはいいな! 慢性的な肩こりと胃腸の痛みがすっかり消えているぞ!」
「あら~もっと入っていたかったのに~! でも皺だらけの肌が潤いを取り戻して幸せ!」
カールライは盛んに自分の肌を撫でまわした。
浮かれる両親にウォルヒルは真剣な顔で語りかける。
「それで父さんも母さんも記憶は大丈夫? 近年のこと、昔のことは思い出せる?」
聖霊水は強力だがそれ故の副作用も十分に警戒すべきだとウォルヒルは思う
しばし自分を確認した2人はしっかりと頷く。
「大丈夫みたいだ。記憶が欠落した感じはしないぞ。嫌なことも良いことも頭から消えてないみたいだ」
「お母さんも! あと〈神佑〉もしっかりあるよ。消えていない」
「よかった。じゃあこれからみんなに大聖霊様の言葉を伝えるから。さっきも言ったけど決して理不尽な要求じゃないからね」
これに父母弟がしっかり頷く。
ウォルヒルは大聖霊が聖霊水を自由に使う条件として言ったことをしっかり告げていた。
3人は承諾の上で聖霊水を使ったのである。
ジョミラーはウォルヒルの目配せを受けて話す。
「大聖霊様の希望・条件は私たちも損にならない――いいえ、それしか選択肢がないとも言えます」
ライク―が手を上げて尋ねる。
「つまりは要請がなくてもぼくらがしなくてはならないことってこと?」
「そうですね。では、世界樹の下で大精霊様と交わしたやり取りをきっちりと伝えたいと思います」
そういってからジョミラーは3日前のことを細かく思い出して、正確に伝えることに専念した。