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【万物収納】の開花

 ウォルヒルがダメージを与えられないと戦慄する中、ヴォルフガングは開いた顎から火の玉を連射し放つ。


「小賢しい。早くくたばれ!」


 舞う2人は左に旋回し何とか火の玉を回避する。ジョミラーが身をよじって気流と戦う。


「ク~ッ!? 飛ぶのって難しい~!」


 飛行に不慣れなジョミラーの動きに規則性はなく、滅茶苦茶ででたらめだった。

 当たらないことにムッとしたヴォルフガングは次には狙いすまして火の玉を放つ。


「そこだ!!」


 ジョミラーとウォルヒル目掛けて火の玉が伸びる。直撃コースだった。

 が、火の玉は当たる手前でスッと消失する。まるで無かったかのように掻き消えたのであった。

 これにヴォルフガングは顔をしかめる。


「なんだ? 何が起きたんだ?」


 戸惑うヴォルフガングの前に6つの【収納】空間が現れる。

 ウォルヒルが〈神佑(スキル)〉を活用し反撃を行う。


「1つじゃダメならこれでどうだ?」


 ビュッ!!!!!!――6つの【収納】空間が超圧縮放水を出し、ヴォルフガングの額の中心を狙う。

 すると超圧縮放水の一点集中によりヴォルフガングの額の鱗がはじけ飛ぶ。大盾のような大きく黒い鱗が宙を舞う。


「グ八ッ!!」


 思わぬ痛みにヴォルフガングがのけぞる。


「今だ、全力で逃げよう!」


「はい!」


 舞うジョミラーとウォルヒルがヴォルフガングから遠ざかる様に逃げていく。

 黒竜が怒りに震える。


「お・の・れ! 人間風情が……我に痛みを与えるなど万死に値する。決して許さん!!」


 大きく息を吸い、大規模な炎の波を口から放射した。


「全力で焼き尽くしてくれる!」


 圧倒的な火力が全てを蹂躙する。炎の波は500メートルの範囲を灼熱に染めていく。岩をも溶解させる圧倒的な死の波動であった。

 たちまち周囲から濃厚な黒煙が漂い始めていく。

 ヴォルフガングは燃える森を見て満足する。


「ふん、他愛もない!」


 だが直ぐに小さな飛行体を目にする。飛ぶ2人は健在で、尚も遠ざかっていく。


「危ない処だった~! さらに撤退だ」


「はい~!」


 ヴォルフガングは仕留めきれないことに憤怒する。ここまでおちょくられたことは記憶にないほどであった。完全に怒りで我を失う。


「ふざけおって!! こ、これならばどうだ!!」


 先程より大きな炎の波を口から噴出する。120度の範囲で広く長く灼熱が伸びていく。

 更に森に焦土が広がり、全てが赤く染まった。

 が、それでも飛行する人間2人は引き続き逃げていく。


「いったい何故? どうして生きている?」


 訝しい顔のヴォルフガングが巨大な翼を広げて、飛び上がる。

 そして一気に加速し、身をひるがえすと2人の進行上に着地した。

 ズドン!! 大地どころか空気をも震わせる行動である。


「うぉっ!?」


 戦慄するウォルヒルとジョミラーの前で大きな口が開かれる。

 再び炎の波を放つ。たった2人を殺すにはあまりにも過剰な火力である。

 ここでヴォルフガングは気づく。

 炎の波がウォルヒルの前に展開した空間に飲み込まれていたことに!

 ウォルヒルの6つの【収納】空間に炎が吸収されていたのだ。膨大な熱気が圧縮されるかのように捻じれ集まり、空間の揺らぎに消えていく。

 ウォルヒルがニヤリと微笑む。それはしてやったりという笑みだった。


「ようやくわかったか?」


 ウォルヒルが開いた〈ステータス画面〉の《サブスキル》に【出力調整×3】【収納×6】【鑑定】【範囲拡大】【索敵】【万物収納】が並んでいた。


「二日前に〈昇霊(レベルアップ)〉で獲得した【万物収納】であんたの炎をすべて吸収していたんだよ!」


 レベル40で修得した【万物収納】は破格の能力であった。生きたモノも入れられるし、火の玉などの魔法も収納・保存できるのだ。恐ろしいことに光さえも保存できることもわかってきていた。

 ステイタスボードに記された【万物収納】はどのようなものなのか当初ウォルヒルも見当がつかなかったのだ。だが検証すると本当に【万物収納】はあらゆる物を保存できるのがわかる。逆を言うと今のところ入れられないものがない。


「な、何!? ということは……」


 事の成り行きを理解したヴォルフガングがおののく。恐ろしい想像をしてしまったのだ。

 経験があり、魔法に造詣の深い魔竜はある可能性を思いついてしまう。

 その想像はすぐに現実となる。6つの【万物収納】空間から超圧縮された炎がヴォルフガングの胸元に伸びる。

 赤く激しく輝く6つの光線が走っていく。


「超圧縮したあんたの炎、自分の体で味わうんだな!!」


 ヴォルフガングもこれには震え上がる。


「ま、まずい。そこは炎を作る火嚢が……」


 火嚢とは竜が持つ臓器で、圧縮した高密度の魔素がため込まれているのだ。その魔素に魔法の火が触れれば引火してしまう。

 【万物収納】から出た超圧縮した炎が集中するとヴォルフガングの胸元の鱗を一瞬で焼き切る。


「や・や、やめろ~!!」


 火嚢に6つの炎が達し、引火し大爆発する。


「ぎゃ~っ!!」


 ヴォルフガングは四散しはじけ飛ぶ。先程炎攻撃の比にならないほどの破壊力と広範囲であった。

 爆発はやがて巨大な炎のキノコ雲へ発展していく。

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