二 変身魔法
ぼくの代わりに魔法の盾になった姫様。
姫様は直後、尻もちをつく。
「エリー、大丈夫!?」慌てて声を掛ける。
師匠も慌てた様子で「王女様……だ、大丈夫でしょうか……?」と姫様に近寄る。
すると姫様は起き上がり、不思議な様子だ。
「う、うん、大丈夫……というか何もないけど……」
「魔法、失敗したのかな……それより、師匠……!」
ぼくは師匠に呼び掛ける。
「はい……」師匠は沈んだ表情で答えた。
「魔法を試す時は戸締まりをするか安全な所でって……いつも言ってますよね?」
「ごめんなさい、ノアちゃん……どうしても試したい変身魔法があってね……それで……」
「言い訳は聞きませんよ……姫様に何かあったらどうするつもりですか?」
ぼくと師匠が話してると、後ろで眩い光が……何だろう……
見てみると……姫様の身体が光っていた……
「えっ……姫様?」
「ノア、私……なんか輝いて……」
さらに輝きは増していき姫様が見えなくなる程になって。ぼくは声を上げる。
「エリー!」
──光が収まると姫様の姿は無かった。
代わりに居たのは、一匹の白い猫……
ちょっと待って……もしかして姫様が猫に……? いや、師匠は試したい変身魔法があるって……。
「師匠……」
「はい……!」
師匠は何故か部屋の扉の近くにいた。
「もしかして逃げる気でした……?」
ぼくの質問に師匠は即座に答える。
「いや、違うからね?」
「早く姫様を元に戻してください!」
ぼくが声を荒げると、元姫様の白猫はニャァ……と鳴く。
その様子を見て、「可愛い……」と声に出すぼく。
そうじゃない。早く師匠に魔法を解いて貰わないと……。
「師匠……早くしてください」
「はい……分かったから……ノアちゃん、怒らないで……」
それから……。
師匠は呪文を唱えて解こうとする。
「……ノアちゃん……無理かも?」
不意に師匠は軽く言うが……怒りが湧いた。
「師匠……本気で言ってますか?」
ぼくは変身魔法で右手を、虎のものに変える。
「ノアちゃん……右手……どうするつもり……?」
「こうするんです!」
ぼくは師匠に向けて右ストレートを放つ。
その拳は受け止められてしまうが……。
「ノアちゃん、お、落ち着いて。姫様に掛かった変身魔法は何故かこんがらがってるんだよ……要は呪いみたいになっててね……」師匠はそう言うが、姫様は元に戻さないと。
それに姫様の両親の陛下達になんて説明すれば……。
「はあ……」
思わずため息をついてしまう。
「ノアちゃん……。本当にごめん、ごめんね」
師匠は深刻な面持ちで、そう言い終えると窓を開けた。何故か手には杖。
「師匠……」
「ということだから、またね〜さよなら〜」師匠は杖に乗って飛行していく。
あっという間にあんなに遠くに……
やられた、まさか逃げるなんて……
「師匠の卑怯者ー!」
「ニャアアア!」
ぼくと白猫になった姫様の鳴き声が響いたのだった。