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【書籍化】騎士爵家 三男の本懐 【二巻発売決定!】  作者: 龍槍 椀
第一幕 『魔の森』との共存への模索
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――― 友人からの手紙 ―――

 

 日々通常の遊撃部隊の任務をこなし、『浅層の森』西側の小道整備に目途がついたころ、王都から手紙が届いた。 待ちに待ったと云うか、戦々恐々としながらと云うか……


 近衛参謀殿からの返信だった。


 『砦』の執務室に於いて開封する。 さぁ、どうだ。 疑心暗鬼と不安で胸が締め付けられていた。 手紙は何時にも増して丁寧に時候の挨拶から始まり、貴族的な言い回しを多用した前文が綴られている。


 あいつ…… 遊んでやがる…… こっちの気も知らないで……


 直截的な言葉を使わなかった理由が、本文で明らかとなる。 それは、まぁ…… 当然と云えば、当然の結果なのだが、少々釈然としない。 辺境の騎士爵家の末子三男が、『道楽』として作った『魔道具』など中央の貴族からすれば玩具以下の扱いしか受けないと、そう綴られている。 言い回しは、持って回った貴族的な言葉だったが、言いたい事は判った。 そうか…… ホッと胸を撫で下ろす。 “ そりゃそうだよな…… “ と、独り言が口を突く。


 騎士爵家の三男などと言う『貴族未満』の者が作った物など、中央はおろか近傍の騎士爵家であろうと、見向きもしない。 『魔道具』とは、魔法が使えぬ庶民が為の『道具』だからだ。 よしんば、目を付けるとすれば、貴族達だけでは成り立たない国軍あたりか。


 しかし、それも大きく懸念する事は無い。 大多数の魔法騎士は少なくとも子爵家の子弟。 絶大なる内包魔力を以て、天候すら操る魔法を行使し『敵』を屠る存在として、魔法騎士団が居るのだ。 さらに言えば『索敵魔法』を駆使するのはその中でも一握りの者達。 前世で言うスーパーエリートの魔法兵。 特に重要視され重用されていると聞く。


 そんな者達の前で、対人戦には使いようもない ” 不完全 ” な『索敵魔道具』を持ち出したとしても、気を引く事すらできないと、そう綴ってあった。 良かった…… 本当に良かった。 これは、母上に言上すべき情報で在り、今後も私の作った『魔道具』に関して情報公開は母上に一任する事とする。


 自分では制御のしようも無く、また、近隣の騎士爵家の要望に私自身が応える訳にもいかぬからだ。 全ては御当主様と御継嗣様(兄上)のご判断に従うことにした。 外には出さず、我らが支配領域にて有用に使用する事としたのだ。


 近隣の騎士爵家に関しては、父上と母上のご判断の上、兄上の裁量でどの程度の『魔道具』を『貸与』するかは決められるだろう。 秘匿する処は秘匿し、公開する処は公開する。 私の成すべき事は、家族の皆の判断を『是』とし、これに従う事だ。


 私よりも長く生き、誰よりも『この地』を見詰めてこられた皆様方なのだから、より良い方向に持って行かれるのは『自明の理』。 独断などは差し控えるべきであり、考えを述べる事ぐらいしかない。 そう思う。


 手紙には続きがあった。 此処からはかなり砕けた文言が連なっている。


 “ 貴様の云う通り、アイツは貧民街に身を隠していた。 アイツの家の従者がおおよその場所を割り出し、貴様が送ってくれた『索敵魔道具』で探索した。 貴様が云った通り、アイツは市井での金策に『畜魔池(バッテリー)』の販売で糊口をしのいでいたらしい。 細かい『魔石粉』は衣類に潜り込み、洗っても取れないとは、本当だったのだな。 追跡がかなり楽になったと、そうアイツの従者が大層感謝している。 俺もアイツに『索敵魔道具』について聞きたかったのだ。 一応、魔導卿の邸に連れ込んで相応に対処してから、聞き取り調査に向かったよ。 色々と面白い『魔法術式』を組み込んでいたみたいだな。 アイツが呻っていたよ。 『索敵魔道具』についての説明は受けた、詳細に。 受けた説明を此処に記して置く…… ”


 近衛参謀殿は、詳細に朋の説明を綴ってくれた。 大筋では間違いは無い。 製法も予想していたが、その通りだ。 まさしく天才の所業と云える。 紹介して間違いなかったと思えるのだ。 しかし、それ以上に続きが気に成った。 近衛参謀が『索敵魔道具』をどの様に評価し、どの様に対処するかの方が遥かに重大だ。


 “ ……結論としては『対人戦闘には使えない』とした。 色々と使い道はあるのだが、それは云うまい。 陛下は、たいそう気に入られている。 宰相閣下も、何かに使えるのでは無いかと、色々と弄繰り回している。 主に城の警備に使うとかなんとか言っていた。 基本的に城に忍び込む輩は、何らかの魔道具を所持している。 その原動力となるのは『魔石』さ。 他国ではまだ『蓄魔池(バッテリー)』にまで手が回っていない。 故に判別は可能となる。 アイツは、宰相やら『影』の者達に協力を要請されていたな、そう云えば。 まぁ、そんなこんなで、アイツの知識の優位性と特殊性が王宮上層部に知れ渡った事だけは確かだ。 故に、国王陛下より勅任として『王宮魔道院 魔導研究部 民需局の第五席』を与えられた。 自由に研究しても良いとの『お墨付き』を戴いたわけだ。アイツにとっても、最良の結果だろうな。”


 ホッと胸を撫でおろす。 二つの意味でだ。 一つは、朋が罪に問われる事が無くなった事。 二つ目は、朋の有用性が貴顕の方々に知れ渡った事だ。 これで朋は王国の庇護対象となる。 王宮魔導院の一部局とはいえ、第五席の魔導士なのだ。 栄誉と名誉と権能が朋の後ろ盾となった。


 『善き事』なのだ。


 『索敵魔道具』についても、大々的には発表される事も無く、王宮内部での警備に使うとなれば詳細も広められることは無い。 秘匿技術の一つとして運用される筈なのだ。 つまりは一般に出回ることは無い。 それに私からの懇願も有る。 情報の拡散は行われず、あの魔法術式(ルーン)は秘匿術式とされる。 陛下がご興味を持たれたのは、少々驚きでは有るがな。 近衛参謀の手紙は続く……


 “ ……陛下は、アイツの研究部屋は何処に構えても良いとの思し召し。 謁見の間に居た者達は、アイツが王宮魔道院内に自身の研究部屋を賜ると思われた。 が、アイツは固辞してな。 皆が目を剥く様な事を言ってのけた。 『王都では落ち着いて研究に打ち込めませんので、王都の外に研究部屋を戴きたく思います。 研究成果は一月に一度、王都王城 王宮魔導院 民生部へ提出いたしますので、御許可頂きたく存じ上げます』 だとさ。 それで、何処に行きたいと云ったと思う? ハハハ! なんと、貴様の所だと云うのだ。”



 紙面を握る手に力が入る。 朋は…… 朋は何を考えているのだ。 せっかくの機会を棒に振るつもりなのか? 貴族の(しがらみ)があるとはいえ、王宮魔導院という魔法研究の最高峰に属せるのだぞ? 何故に辺境の何もない所に来たがるのか? その心理に疑問を覚える。 急ぎ続きを読む。



” ……色々と研究の産物を既に貴様の所に送っているので、続きをしたいと、そう言い切ったのだ。 宰相閣下は実に渋い顔をされておられた。 国王陛下は大笑し、御許可をお与えに成った。 あぁ、行くぞアイツは、貴様の所へ。 まぁ、会ってやれ。魔法学院の錬金塔で色々と協力していたのだろ、その続きとなるだろう。 貴様にも、また()()()()()が見えるやもしれぬ。 そうあって欲しいと思う。 長々と綴ったが、今回はこれまでとする。 また、何か面白きことが有れば、此方からも手紙を綴ろうと思う。 元気でやれ。 宰相閣下への報告は滞らせるな。 では、また ”



 ……来るのか、朋が。 この辺境に。 この地に。


 朋の訳の分からぬ決断に困惑した。 が、遠方より朋が来るのならば、歓待してやらねばならんな。 楽しみが一つできた。 あぁ、旧交を温め色々と相談にも乗って貰おう。 どうせ一時の事に成るだろうからな。 まだまだ、『魔の森』への探索行を実行するには準備不足だ。 一人の知恵では限界がある。 特に魔道具に関しては、朋の右に出る者を私は知らない。 朋は真の天才だ。 ならば、その知識と知恵を貸してもらおうと思う。 先々の探索に光明が見えた様な気がした。


 それが、大きな間違いであった事に、この時はまだ気が付いていなかった。 いや、大いなる助けには成った。 アノ近衛参謀殿が『また違った景色が見える』などという迂遠な言葉を使ったのか……



 本当に、予想外の出来事は常に起こるのだと肝に銘じた。







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― 新着の感想 ―
やはり皆さんTSかと期待しちゃうよなw
ここしばらく楽しんで読ませていただきましたが、初めて感想書きます。だっておそらく嫁候補がTSフレンドになりそうなので… そんなんびっくりするじゃん?! これからも宜しくお願いします
王宮としても 目がはなせない人物に高位貴族の子息がいくなら歓迎だもんな しかも戦争に魔道具使用を反対した硬骨の士だもん これ以上の最適ってそうそうない 勅命で宰相か王家の親族を嫁にだすぐらい? でも…
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