表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】騎士爵家 三男の本懐 【重々版決定!感謝!】  作者: 龍槍 椀
第一幕 『魔の森』との共存への模索
81/202

――― 近衛参謀への手紙   ―――

 

 壁の大地図に視線を向けて物思いにふけっている所に、コンコンと扉をノックする音がする。 すぐさまに入室の許可を与える。 最年少の女性兵である射手が入室してきた。 射手班第一班の班長に最年少で抜擢された彼女だった。 緊張の面持ちで彼女は、こめかみに拳を当てて敬礼をしてから口を開く。



「第一班、『索敵任務』より帰還いたしました」


「お疲れ様。 『報告』を聴こう」


「報告いたします。 邑よりの魔獣の発見と、その脅威度に関して現地にて調査を敢行。 索敵の結果、脅威度2の魔獣と判明。 群れを作る小型魔物サーベルウルフの集団でしたので、排除相当と判断しましたであります! 歩兵支援の下、狩場に追い込みスリングにて狙撃、コレを排除致しました。 邑長への説明も終わっておりますであります!」


「宜しい。 何頭居た?」


「全部で八頭。 内、子狼が六頭。 巣別れの時期でしたので、若狼とも言えます。 危険な時期と判断いたしました。 縄張りからすると、もう少し森の奥の群体だろうとは思われます。 が、放置しますと邑への危険度が跳ね上がりますであります。 狩人の基本的な事柄でありましたので、判断は容易かったであります!」


「うむ、善き判断だ。 ご苦労。 ……そうだ、君一つ尋ねて良いか?」


「はいッ! 何なりと! 私でお答えできる事ならば!」


「うん、そう気を張ってくれなくても良い。 狩人の視点から、人が隠れる場所を想定してみてくれ」


「ハッ! えっ? 『人』…… で、ありますか?」



 私の唐突な質問に、彼女は戸惑いを隠せない。 クルクルと廻る表情でそれが読み取れる。 余程、困惑したのかも知れない。 遊撃部隊にとっての『探し人』とは、森の中で遭難した者か、救難信号を上げた狩人くらいしかいないのだからな。 自分から隠れると云う者を探し出すのは、衛兵の仕事なのだ。 よって、彼女にとっては想定外の質問だったのだろう。



「そうだ、人だ。 犯罪者を追い詰める為に山狩りに狩人も参加するだろう? その時に『狩り出すのに困難を感じる者』を発見するのには、どうすべきなのだろうか?」


「……そうですねぇ。 やはり、一番困るのは『人に紛れ込まれる事』でしょうか。 山狩りと云っても、特定の人物を狩り出すのは、荒野や森では困難は感じません。 足跡を追えば良いのですから。 しかし、集落や街まで逃げられ、隠れられては相当に困難を感じますです。 山や森、荒野では足跡が必ず残りますので、それを丹念に追えば宜しいのですが、街に入られるとその痕跡は消えます。 目標の特徴が顕著ならば、それを目標に虱潰しが現実的です…… で、あります」


「人海戦術という事か。 人ならば街に隠せと。 特徴を知る者達に、その特徴を知らしめる道具を持たせれば更に有効か」


「はい。 特定の人物ならば、その人物しか持ち合わせていないモノが宜しいかと思います。 あの…… 誰かを狩り出すのですか?」


「まぁな。 いや、君の意見を参考にしよう。 有意義な見識を示してもらった。 報告ご苦労、これより三日の休息を与える。 英気を養い次回の出撃に備えよ」


「ハッ! 有難く有ります!! 御前、失礼いたします!!」



 元気の良い声が執務室に響く。 素直で性格の良い、射手兼索敵手に成ったな。 第一班を預けて然るべき人物だ。 傍に熟練兵の観測手も付けている。 善き副官として、色々と指導してくれているのだろう。 判断も一部委譲しているのはその為だ。 自分で考え、自分の行動を他人任せにしない事を目的とした、権限移譲であり、それも兵達に意思疎通してから実行に移すように教練している。 よくその教練に付いて来れた者達が、現在の班長と言う訳だ。 部隊の精強さを維持するにあたり、独自性を重要視する事とした。 王国軍式の軍事教練教書との大きな違いとなっている。


 遊撃部隊と言う特殊任務に於いて、指示待ちでは任務は熟せない。 先制できる場合は、しなくては部隊全体に…… ひいては騎士爵家支配地域全体に『危険』が忍び寄るのだ。 王都の士官学校においては忌避されている事柄では有るが、『魔の森』と言う特殊な場所なれば、それも許される。 というよりも、そうせねば生存できない。


 私達の戦場は、そこまで危うい場所なのだ。


 射手が退出した後、手紙を綴る。 一通は宰相閣下への『魔の森』の近況報告。 もう一通は近衛参謀への質問への答え。 ついでに、遊撃部隊の兵に配備していた旧型の革兜に装備した『索敵魔道具』五個 一緒に送った。 まぁ、使えるだろう事は予想する。 朋も魔導を志すモノ。 そして、兵器では無く民生品を作りたがっている男でも有る。


 身近なモノならば、きっと『蓄魔池(バッテリー)』から作るだろうから、索敵魔道具も反応する筈だ。 後は、だれが猟犬に成るかだが、それはアイツ次第。 数人の男達の面影が思い浮かぶ。 朋の侍従達の面影。 あの者達は、今も『朋』が上級伯家に帰る事を願っている筈。 すでにアイツも繋ぎを取っている事だろうと思う。 きっと、そうなるだろう予測の下、言伝も手紙で頼んだ。



 “ 己の信念を優先した(馬鹿者)への伝言を頼む。 我が朋の『馬車三台分』の私物(・・)は何時でも引き取り可能だ。 それと詫びを一つ。 貴様に『貴族の柵と首輪』を付けたのは、私だ ”





          ――― § ―――





 騎士爵家支配領域の『魔の森』西方領域。 『浅層の森』にも主要路の敷設は進んでいる。 『森の端』の邑々には既に『魔導通信機』の設置は完了している。 何か異常が有れば、即時『砦』の通信室に連絡が入る様に整えた。 今の所、西方領域からは、それ程には緊急連絡は入っていない。 遊撃部隊としても、巡察部隊のみの投入を行っていた。


 現在、遊撃部隊には基本的に、歩兵十八小隊体制で運用している。 その他に射撃部隊も全九班を抱えている。 歩兵は、『砦』に二隊、東部『浅層の森』に三隊、西部『浅層の森』に三隊の配置で、順番に回している。 射撃部隊は、その装備装具の特性から、緊急対応と巡察に力を発揮している。 任務に就いていない十隊は、休養と訓練が半々だ。


 その他に主力部隊、遊撃部隊の新兵錬成も、こちらで担当しているのは、次兄様(ちい兄様)が騎士爵家の籍から抜けてしまった為だ。 訓練している小隊に新兵の練兵も任せている。 いずれ、肩をならべ『戦う仲間』となるので、手は抜かない。 そう指導している。


 主力部隊に関しては、次兄様(ちい兄様)が部隊の次席指揮官として任命していた騎士爵家分家の嫡男が臨時指揮官として重き任務を担っている。 しかし、全てを担う訳にもいかず、幾つかの任務は御継嗣様(おお兄様)の御命令により、遊撃部隊に振り分けられた。


 軍務に関しては、色々と編成を考えなくては成らない。 我等三兄弟で担っていた『魔の森』への対処は、現状私の双肩にかかっていると云っても過言ではない。 それが故に、『魔導通信網』の整備は『焦眉の急』とも言える。


 兄上は『魔の森』に関する事を私に一任された。 騎士爵家伝統の指揮官先頭は実行できないが、制度上、兄上が緊急時に率いる事になっている『騎士爵家主力部隊』は、私の要請に従ってどのような場所にでも展開して下さると、そう確約して下さった。 


 有難い事だと思う。 私は、これからの騎士爵家支配領域の安寧の為に、さらに『浅層の森』の監視体制を拡充して行く事を胸に誓っていた。 


 我らが騎士爵家の支配領域は、その様な経緯を経て『魔の森』への対応を重ねていく。 晩餐の時に父上が仰られていたのだが、近隣の騎士爵家もようやく重い腰を上げて、各家の支配領域内の『浅層の森』への監視体制を強化し始めた様だった。 各家では『索敵魔道具』は配備されていない。 かなり困難を伴う様で、父上に合力を求められていたらしい。




 ある日の晩餐で、この話題が食卓に上った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
とてもよくできている作品だと思う。 ただ、登場人物全てを代名詞にする手法はさすがに読み手の負荷が高いと思う。 主要人物だけ代名詞を使って、登場の機会が少ない人は固有名詞を使ってもいいのかなと思った。
>こめかみに拳を当てて敬礼をしてから口を開く。  ◇ ◇ ◇  招き猫?
一個小隊5人としても、十八個小隊+9班の遊撃部隊は100人超? 主力が300人、防衛輜重衛生他部隊が200人として総勢600人規模の常備兵。 馬場と練兵場付きの邸は高校ぐらいの広さはありそう。 商家…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ