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――― 最悪への対処 ―――

 

 本作戦は、あくまで予測でしかない為、本来の任務とは別の人員を宛てる必要があった。


 思い出したのが最年少の女性兵士。 良く目が利く上に、森の中の行動には曹達も太鼓判を押す。 曹達の賛同を得て『索敵兵』としても、十全たる力を持つ『射手』たる彼女に出現予想地点周辺索敵を命じる事となった。 帯同する観測手も兵達も曹長がコレはと見込んだ曹。 さらに、罠を張るべく工兵隊も付ける。 『特任遊撃索敵班』として臨時編成を成し『行動開始』を命じた。


 さらに、『索敵魔道具』についても改造を施し、『特任遊撃索敵班』に支給する。 索敵距離を延長し、実に半径5000ヤルドにまで延伸せしめた。 ただし感度は低く、強大な魔物魔獣にしか反応しない上、魔力を大きく消費する為、兜に新設した(ボタン)での『術式』切り替え式とした。


 通常は今までと同じ。 そして、遠距離索敵の場合に使用する事を基本に運用するように命じた。 少しでも危険を感じた場合はすぐさま撤退する事も言い含めて。 真剣な表情の私に、その女性兵は同じく表情を固め、本作戦の重要性を十分に認識したようだった。



「頼むぞ。 万が一に備えての行動だが、部隊の命綱と成りかねない」


「了解いたしましたでありますッ! 本官のあらん限りを用いまして任務を遂行いたしますでありますッ!」


「『結果』は期待するが、無理だけはするな。 良いな」


「判りましたでありますッ!!!」



 まだあどけなさが残る女性兵。 紅潮した頬とキラキラと輝く瞳。 少なくとも不安を感じる姿では無いが、任務に集中するあまり『のめり込む』のも良くは無い。 しかも本作戦は、あくまでも予備作戦…… 『最悪を想定』した念の為の行動なのだが、なぜか我が故郷の『生命線』の様な気がしていた。 


 ……小さく、呟く様に彼女に対し言葉を紡ぐ。


「死ぬなよ、必ず帰ってこい」


 と。 聞こえては居ないのか、彼女等は颯爽と『砦』を進発して行った。



      ―――― § ――――



 遊撃部隊は平時と同じく本来の任務に就く。 報告を受け、駆けつけ、確認し処理する。 報告は御当主様では無く、長兄様(おお兄様)へ。 父上は近隣の騎士爵家との連絡を重点的に行われている。 戦力が乏しくなった現在、互いに手を携え無くては とても辺境の地の安寧など保つ事は出来ない。


 その証左に、隣の騎士爵家支配領域の『魔の森』への哨戒任務にも駆り出されている。 これもまた、必要な事だと一人納得している。 隣家の支配領域にみだりに侵入する事は好ましくないが、今は非常の時。 要請が有れば(・・・・・・)コレを拒む事は安寧の崩壊に繋がりかねない。


 大軍を擁しての戦争が勃発している現在、領地領土が平穏でなくては戦場に居る者達は、任務に専念も出来なくなる。 足元を固めるのは我らが役目でも有るのだ。


 そんな日々を続け乍ら、幾日か過ぎた。 『特任遊撃索敵班』は、『魔の森』のかなり深い場所まで索敵範囲を広げている。 予定よりも広大な地域を、虱潰しに走破している様なのだ。 それは、定時連絡で確認している。 少々心配でも有るが、『特任遊撃索敵班』は自分達の任務の重要性をよく理解しており曹達も彼女も決して手を抜くような事をしようとはしない。 索敵に関しては、問題無く継続している。 且つてなく深く迄『魔の森』へと踏み入った彼等は、様々な新発見(・・・)も見出したが、それは別の機会に再度調査する事にする。 今は本当に想定したようなモノが居るかどうかを確認すべき時なのだ。



   ―――――― 



 突然、” 密書 ” が『砦』に届いた。


 少々驚いた。 かなりの秘匿書簡である事は間違いない。 返信用の特殊機密保持用の呪符までされた封筒が同封されていた。 また、その手紙を持って来たのが近衛直轄の軍勅使と云う念の入れようだ。 通信士の一人に呈茶(ていちゃ)を願い、軍勅使への茶菓供応を副官に命じる。 


 執務室に入り人払いをしてから、その密書を開封する。


 封蝋は軍務卿家のモノ。 当然、軍務卿からの密書であるはずも無いのは明白だ。 それでは誰からか。 当然、アイツだろう。 軍組織内でも異例の出世をしていると朋の手紙にも綴ってあったが、今は何をしている事やら。


 『封書』を見れば、白紙が十数枚。 成程、朋の発明品を使用しているのか。 ならばと、練った体内魔力を白紙に照射する。 途端に浮かび出す細かい文字で綴られた、とても貴族からとは思えぬような体裁の手紙だった。


 其処には、ちい兄様が成した『調略』の詳細が綴られており、寄り親たる上級女伯からの進言にて、捕まえた捕虜を解き放ったともあった。 つまり次兄様(ちい兄様)は、あの日長兄様(おお兄様の)の執務室で語り合った『策』を実行されたと云う事だな。


 結果は目覚ましいとの事。


 大挙して国境の向こう側に布陣していた帝国軍の動きが緩慢に成ったと云う。 至る所で敵軍勢の軍事行動が停滞していると、そう綴られていた。 調略を受けた敵兵が、別の国の将兵に此方の状況を伝え、まだ国の象徴たる貴顕が生き残っている事を知ったと云う事は大変大きい。 最高司令官とその参謀、及び督戦隊くらいしか帯同しているに過ぎない帝国軍は、事実上連合軍の組織自体が崩壊しかかっているのを押し留めるだけで精一杯だと、アイツは綴ってきている。


 帝国の督戦隊が動かない同盟国軍のケツを叩いてまわり、それが故に同盟国軍に厭戦気分が蔓延しているともあった。 次兄様(ちい兄様)の目論見は…… 一部完遂していた。 もし私の想像が正解ならば、(ブラフ)を任されている指揮官は、作戦全体像は知らされていない。 本国の主力精鋭が動かない内に、なんとか手柄を立てようと必死に成っているらしいのだ。


 敵も一枚岩では無いと云う事だ。


 宮廷内に於ける虚々実々の駆け引きが今回の戦役の引き金と成っているのは…… まぁ、予測の内。 膨大な金穀を消費する一大決戦は、それに見合うモノが無ければ、良識を持つ者達が止めに掛かるだろう。 しかし、実際に戦役は起こり、宣戦布告は成された。


 ――― 敵は勝算を得た。


 そう云う事なのであろう。 前線に身を置くアイツは、その点を指摘してきた。 そして、私に帝国軍がどの様な軍事作戦を起草したかを問うてきた。 可能性を示せと。 騎士科に於いては首席を争っていたが今は違う、家の爵位などは雲泥の差なのだが、なぜか妙に高く評価されているのに驚いた。 アイツが今、どのような立場で動いているのかすら綴られて居ないので、何とも言えないが……


 まだまだ、年齢的に参謀本部などと云う場所には配置されていないだろうから、ここは私的な質問だとして答えを綴ろう。 長兄様(おお兄様)との会話を思い出しつつ、帝国が起草しそうな作戦案を綴った。 俯瞰的に見た戦場の図を交えながら、壮大な側背を突く【繞回運動戦】を想定しているのではないかと。 その為の『魔の森』深層を突破できる『何らかの策(・・・・・)』を手に入れたのではないかと書き記した。


 まぁ、本気で受け取る訳では無かろうから、色々と書き綴ったのは間違いない。 ふふふ、座学では善き評価を受けていたのだよ。 考える事は嫌いでは無いし『戦史』を読むのも楽しかった。 幾枚も幾枚も綴り、帝国の考えそうな事や、数十年単位での帝国の思惑を予測し、現在がどの辺りに当たるのかを示した。


 妄想狂の戯言(たわごと)の様な内容に成ったが、そこはお互い様である。 密書の体裁など習った覚えはない。 よって、これで良しとする。 後世に残る様な軍事文書でもなし、単なる私信なのだからな。 しかし、これを近衛直轄の軍勅使が運ぶのか…… 軍務卿家の威光は凄まじいな。


 軍勅使に返信を手渡し、互いに敬礼を交わした後に彼は去って行った。 とても良い軍馬に騎乗していた事を見るに、きっと王族直近の近衛兵か何かだと思う。


 着衣は王国標準のモノでは有ったが、そこはかとない気品の様なモノを纏われていたからな。 高々騎士爵家の遊撃部隊指揮官の元に来られるような方では無かったと思う。 アイツは自分の家の爵位を普通だと思っているのか? その辺りを少々問い詰めたくなった。





 ――― その夜、女性索敵兵からの定時では無い緊急報が『砦』に届いた。





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― 新着の感想 ―
軍務卿たちは青ざめて、朋は自慢げだろうなあ。
後世に残る軍事文書になりそうですね笑
主人公はもうモーリー三兄弟のコバヤカワーだな
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