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【書籍化】騎士爵家 三男の本懐 【二巻発売決定!】  作者: 龍槍 椀
第三幕 騎士爵家 三男の本懐
56/217

――― 季節の移り変わり ―――

 

 ――― 今回の作戦は恙なく終了した。


 邑からの報告があった、小型魔物の討伐は成功した。 この所、「浅層の森」が騒がしくなりつつある。 魔物の目撃情報が増えつつあるのだ。 しかし、強行偵察にしろ、威力偵察にしろ、十分な成果を上げつつある。 備えは十全と成りつつある。 そう 思いたい。


 兵達の練度も日増しに上昇し、さらには射手の射撃も正確さを増している。 歩兵に至っては『爺』と曹長の薫陶の賜物か、対魔物戦に関して無類の強靭さを発揮している。 全ての歯車が噛み合ったように感じていた。


『魔の森』の浅層域から出て街道を進み邑へと到着する。


 邑の代表者に『邑の者』が見た魔物は討伐したと伝え、暫くは静かに成りそうだと『感触』を伝えた。 民草の生活は、ここ『森の端』では、『魔の森』に依存している事が多々ある。 比較的安全に森で『狩猟』をする事が、彼等の生活の糧と成っているのだから。


    ――――


 冒険者達は自身の命を天秤の片方に乗せて『仕事』をする。 小型とは言え魔物が跋扈する森には入りたがらない。 彼等が落とす金は『森の端』の邑に於いて魅力的なモノでもあるのだ。 宿屋は栄え、食堂酒場は冒険者達で満員。 比較的安全ならば、この邑でも十分に生活は出来るのだ。


 しかし、冒険者が居なくなれば、細々としか生活できない。 よって、脅威と成る魔物が出たとなれば、即座に報告を騎士爵家に上げ、対処を請わねば成らないのだ。 人の安寧とはいとも簡単に崩壊する。 


 ――― 私は民草の笑顔が好きなのだ。


 それを護る為に、日々努力を怠らないのだ。 たとえ、それが危険な事だとしても、真っ向から立ち向かわねば成らないのだ。 この地を愛し、人の生活圏を護るのは騎士爵家の漢の『誇り』なのだから。



        ―――



 街道を下り、街へと戻る。 本邸で私の報告を待つ父上の元へと戻る。 次兄様(ちい兄様)は、私が手に負えないと判断し、援軍を求めた場合に備え出撃準備をなされて居た。 帰還したわたしを認め、とても武骨ながらも素敵な笑顔で迎えて下さった。


 邸内に入ると、母上、長兄、義姉上も私の顔を認め、安堵の表情を浮かべて下さった。



「ただいま帰還いたしました。 作戦は完遂。 目撃情報が有った小型の魔物を討伐いたしました」


「お勤めご苦労様でした。 旦那様も執務室にて御待ちかねです。 ご報告を」


「はい、母上」


「戦果を重ねるお前を誇らしく思うよ。 主力の出番も減るのではないか?」


「まだまだに御座いますよ 長兄様。 ちい兄様の御力に成れているのならば嬉しいのですが……」


「アレも頼りにしているぞ。 さぁ、父上にご報告を」


「はい」



 暖かく迎えてくれた家族に、心の底から感謝を捧げる。 厳しい辺境の地では、家族からの親愛こそが、心を温めてくれるのだ。 「愛されている実感」は強く私の心を掴み、敬愛を捧げ大切にしているのだ。


 重厚な執務室の扉を開け、私を待つ父上に帰還報告と戦果報告をするのだ。 親愛と敬愛を言葉にして。



「父上。 只今帰還いたしました。 作戦完遂。 通報された小型の魔物一体、討伐いたしました」




       ―――――




 父上に作戦完遂を報告した後、『砦』に帰着する。 兵達は騎士爵家の兵舎で身体を休めさせた。 『砦』に於いて、森で小休止した時に考えていた事を皆に伝える。 中距離での戦闘に有用な手段であると、皆は一様に頷いてくれた。 射手達へは後日通達を出す事とした。


 例の『魔弾』の量産も進める事にした。 


 また、黒鉄が必要になったな。 母上に直談判して、融通してもらわねば成らない。 皆との会議を終え『砦』の執務室に向かう。 既に此処『砦』が、私の家の様な様相を呈している事に母上から苦言を頂いている。


 ” 侍女も、侍従も、メイドも下級職員も誰も居ない『砦』に一人籠る様な事、みっともないからお止めなさい ” と。


 私としては『物騒な研究』やら、『検証』やらをしているので、あまり人に入って欲しくない。 帰れるときは、きちんと騎士爵家の邸に帰っているのだ。 此処はあくまで臨時(・・)の『(居場所)』なのだ。 とは言いつつも、かなりの時間をここで過ごしている。 ……と云うよりも棲んでいると云えるか。 


 王都の魔法学院でも自分の事は自分でしていたので、従僕等の必要性を感じなかったのだ。 騎士爵家の家人とは言え三男。 ほぼ民草とも云える身なのだから、別に構わないと思うのだが…… 母上には気に入らないらしい。


     ―――――


 執務室のテーブルの上には、幾通かの手紙が有った。 「爺」が副官的役割として、書類仕事もしてくれているのだ。 有難い。 その中に王都の朋からの手紙が有った。 いつもより薄い封書は、魔導卿である上級伯家の封蝋で閉じられている。


 大層な事だと思いつつ開封し手紙を取り出す。 何時に無く白紙が多い。 以前受け取った手紙に記載されていたモノが完成したのか。 その時の手紙に記載してあった手順通り、手を翳し内包魔力を紡ぎ出す。 あぶり出されるように文字が浮かび上がる。 朋が開発した秘匿通信方法の一つだ。 なかなかに面白い事を考え付くものだなと思う。


 文字を書くインクに工夫が有るらしい。 その『特許権(パテント)』は朋が手放さない。 かなり大儲けしているような事を、前の手紙で綴っていたな。 


 秘匿技術を駆使して書かれた手紙には、少々眉を顰める様な事柄が綴られていた。


 朋の近況はまぁいい。 彼も日々の研鑽に明け暮れ、私ともこうやって情報の交換と意見の交換をしているのだ。 錬金塔で議論した時の事を思い出す様な、そんな内容は私の楽しみでもある。 だが、事、王都での噂話、裏話、実情の話などは、なかなかと生臭いモノを感じてしまう。


 その一つに、王城からの公示前に噂話として『民の暮らしの話』や『国政の話』が綴られているのだ。


 なんでも、市中の小麦価格が上昇しているらしい。 旨いパン屋の値段が上がっていて、困っていると。 鉄貨の流通量が減り、釣銭切れが其処此処の商店で起こっているらしい。


 王宮から流れ出る噂によれば、立太子の儀が延期されたらしいのだ。 それに伴い第一王子殿下の婚姻の儀もまた延期されているらしい。 何が問題なのかは、分厚い王城のベールの向こう側だが、なにか差し迫った状況が有るらしい。


 軍務卿がせわしなく王城に出入りし、国軍の練兵に力が入っているとの事。 さらに魔導卿に対して、(いくさ)に有用な魔道具の開発を命じられたと、そう苦々し気に綴っている。 朋は云う。 ” 魔道具とは人を幸せにする物で、けっして人を傷つける物では無いのだ ” と。


  私が開発した数々の兵器は、彼にとっては人を護る為の魔道具だから多少は大目に見ると。 ただ、その力の矛先が『人』に向かうならば、友誼を結び続ける事は出来ないと、そう云われてもいる。


 私もそのつもりだ。 いや、彼の考えに賛同すらしている。 『人』を、護る為 倖せにする為の『魔導技術』。 それが魔道具に関わる全ての者の願いなのだと、そう思うのだ。


 王都での軍事的増強。 鉄と小麦の流通量の減少。 外務卿の失墜。 国外からの王族留学の噂話。 王国北方の貿易が細くなっていると云う現実。 『魔の森』を越えた北側の国々の動向。 そして、北方王国が伸ばす『魔の手』により、陥落した国の噂話。


 幾つもの「キナ臭く」「生臭い噂話」を書き綴られているのだ。 何かしらの思惑を感じられる。 我が国が置かれている状況を正確に予測するのは、王都に居る者には難しいのかもしれない。 そこで、噂話のみを羅列し、其処から導き出せる事柄に対処させようと云うのか?


 自分の知る事柄を羅列し、そこに何らかの関連性を見出させるつもりか? そう云うのが得意なのは、私では無く軍務卿の継嗣たるアイツだろうが。 魔法学園の騎士科にて机を並べていた私達だが、あちらの方がそう云う思考に特化していると思うのだ。


 しかし、そうは言っても朋の厚意でも有る。 告げられた幾多の事実と現象から引き出せる『絵』を脳裏に浮かべる。


 幾多の戦史にも綴られていた。 国書にも、持ち出し禁止の制限閲覧図書にも……


 王都に於いて穀物の価格が上昇するのは何故か。 軍兵の練兵が活発なのは何故か。 外務に携わる者達が忙しくしているのは何故か。  北方王国の動向が掴めないのは何故か。 王国の北東領域に於いて経済活動が低迷しているのは?



 王家の慶事を延期するのは、それを良しとしない理由が有るのではないか。



 組み立て、崩し、また組み上げ…… 希望的観測は一切を捨て考察を進める。 魔法学院の学び舎で、騎士科の教室で様々な『戦史』を学んだ私は、一つの仮定を導き出す。 考察を傍証たる『戦史』『歴史』を詳細に考察を重ね、現実の状況と比較検討する。 そして、仮定は予測と成り、確信に変わる。


そう……





 ―― 王国は人と人の争い(戦争)季節(準備)に入ったのだと。





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― 新着の感想 ―
この局面で戦争かー 付け込み易しと侮られたかな? 逆に立太子急ぐべきなんだけどな うーむ
『つつある』過ぎてつらい……。
森の反対側から魔物が追いやられてるからこっちの浅い側に影響がでてるんだろうな
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