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【書籍化】騎士爵家 三男の本懐 【二巻発売決定!】  作者: 龍槍 椀
第三幕 騎士爵家 三男の本懐
53/216

――― 父上の無茶振り ―――

 


 遂に新たな御領主様が、領都にお入りに成ったとそう報せが届いた。


 我が家を含め、周辺の騎士爵家全てに届いたのだ。 間を置かず、上級女伯様が騎士爵家の面々と面談したいとの思召しであると、『召喚状』が我が家に届く。 父上の執務室に家の者達が呼ばれた。 父上も兄上も真剣な面持ちで、その『召喚状』を見詰めている。 おもむろに口を開かれる父上。



「来る時が来たな。 上級女伯様の御心が奈辺に有るのかは存じ上げぬが、呼び出されては行かねば成らない。 上級女伯様の御評判は、お前の朋からの手紙で伝えられている。 何か付け加える事は有るか?」


「御座いません。 朋の言う通りの御方であると。 ただ、周囲の者達をどの程度抑えられているかだけが懸念材料に御座いましょう。 モノ言えぬ『傀儡』と成ってしまわれたならば、朋の手紙も役には立たぬでしょうし、家臣団を掌握されておられるのならば、有用なる情報と成り得るでしょう。 父上の目でお確かめください」


「判った。 此度の領都への参集は、周辺騎士爵家の面々が全て揃う。 当主夫妻と継嗣夫妻が呼ばれている。 事前に申し出が有れば、その他の家人も同道が叶うと、そう記載されている。 お前達はどうする?」



 次兄と私に父上は問う。 次兄は暫し考えた後、ご自身のお考えを述べられる。



「わたくしは残ります。 いつ何時、緊急事態が勃発するか判りません。 近頃、『浅層の森』が何かと騒がしく、出動頻度は上昇傾向にあります故、主力部隊を預かるわたくしがココを離れる訳には行きません」


「ふむ、道理だな。 では お前は?」


「遊撃部隊は、いまだ精鋭とは言いかねます。 (かて)て加えて、次兄様(ちい兄様)が出動前の威力偵察が遊撃部隊の主任務です。 私とて辺境の武人にございますれば、その任を投げ出す訳には行きますまい」


「成程、そうか。 地域(故郷)の安寧を第一と考えるか。 ならば、それを認めよう。 それこそが我らが騎士爵家の真骨頂であるのだからな。 あちらには、私達と継嗣夫婦で出向く。 その間の事、頼んだ」


「「御意に」」



 こうして、父上と母上、兄上と義姉上は領都に向かわれた。 新たな叙爵にせよ、支配地域の状況報告にしろ、父と兄が居ればまず 変な事には成らないだろう。 それに相手はアノ上級伯令嬢…… いや、上級女伯だ。 公女様の隣で、様々なモノを見てこられ 『大公家』で教育を受けられたのだ。 その知見は、並みの貴族を遥かに凌駕するのだ。


 だから…… 


 あまり心配はしていない。 これからも、辺境の地の安寧に尽くす事は、変わりないのだと そう心の中で呟いていた。



           ―――――



 次兄様(ちい兄様)と、留守居役を務める。 父上と兄上の代理として次兄様が立たれ、諸般万事を司られる。 私はその補佐。 驚くほどの量の雑務に、ちい兄様と一緒に小さく溜息を吐く。 父上も、母上も、兄上も、義姉上も…… よくぞこんな量の雑務を片付けておられるモノだと舌を巻いた。


 おおむね片付けられてはいても、日々の出来事に対しての請願やら苦情やらは無く成らない。 小は喧嘩の仲裁から、大はギルド同士のいざこざ迄。 騎士爵家に持ち込まれる『雑事』には辟易した。 ちい兄様は途中から……



「貴様に任せた。 王都が教育で『口舌の徒』と成った貴様の方が、良く捌けるからな。 カッとして殴り飛ばしそうになった。 父上、兄上の顔に泥を塗る前に撤退する」


「それは、あまりに酷いです。 私に何をせよと」


「時間を引き延ばせ。 父上、兄上に任せよ。 それしか出来ぬよ。 ハハハッ! 俺は継嗣には成れぬよ。 兄上の補佐で一杯一杯だ。 森で暴れる方が、性に合っている。 貴様も俺とあまり変わらないようだな」


「ちい兄様…… 父上と長兄様が如何に苦労されているのか、身を以て理解している最中ですよ」


「家令にもよく相談しろ。 おまえの副官も使え。 少しはましになるだろうからな」


「そう致します。 ” 足りぬのならば、その能力を持つ者を使う。” でしたでしょうか?」


「ないない尽くしの我らが騎士爵家の家伝だな。 まぁ、そういう事だ」



 そう言いつつも、ちい兄様は色々と動いて下さった。 表に私を立てて、裏から動かれる。 気質的に前に出る方では無いのだが…… 少々気恥ずかしくも有るが、これも騎士爵家に生まれた漢の責務と、気を張って頑張っていた。


 父上たちが支配領域たる『この地』へ帰られる前に二度ほど、緊急報が入った。 雑事を投げ捨て、遊撃部隊として『浅層の森』に進出。 威力偵察を実施。 その際、兵からの進言を作戦内に組み込み検証した。


 結果は捗々しくなかった。 やはり、二種類の武器を持っての行軍は無理が有った。 切り替えに時間が掛かり過ぎる上、観測手の方にも混乱があった。 有効射程が違い過ぎるのだ。 ボルトに符呪したのは弾丸と同じモノ。 


 命中精度が段違いに低い為、有効打と成らず魔獣を聖水塗れにしたに過ぎなかった。 これもまた反省点だ。 射撃練習場では的中を連発できても、いざ実戦となれば、やはり狂いが出る。 それは『技巧(スキル)』を駆使しても同じことだ。 ここでも『経験の壁』と云うモノが厳然と存在するのだ。


 爺はその様子を微笑みを以て見詰めている。 何も言わない。 ” 兵は、やって見なければ納得などしない ” と、長い軍務生活の中で得た知見からなのだろうか。 それだけの余裕が、今の遊撃部隊には有ったと云う事なのだろうか? 爺の微笑みに凄みを感じるのは私だけなのだろうか?


 二度 有った、威力偵察は、歩兵部隊の独擅場となった事だけは確かな事だった。



        ――――



「この地の騎士爵家十八家は全て再度叙爵を許された。 上級女伯様は話の分かる人であり、良く上級伯爵家を纏められていたぞ」



 帰ってこられた父上が、執務室で上機嫌でそう仰った。 成程、あの方ならばそうだろうな。 魔法学院きっての才媛と噂されておられた方だ。 しかし、その評価について回るのが ” 惜しむらくは…… ” の言葉。


 美しい(かんばせ)と、淑女の立ち居振る舞い。 高貴な方だと自然と思わせる気品。 何をとっても一流では有るのだが、御身におおきな傷跡が有るのだ。 幼少の頃、魔獣に御親族と共に乗っていた馬車を襲われ、ご両親は他界。 御自身も深い傷を負われて生死の境を彷徨われたとか。


 その傷が元で、叔父に家督を奪われるように継爵され、自身の立ち位置も奪われる結果になったとか。公女様の幼少期からの交流と云う(えにし)で、大公家に御移りになりそこで御暮らしに成られたと。身体の傷のため、若干足を引きずられるのを知る者は少ない。良く見ればわかる程度なのだが、あの歩き方は相当に体幹を傷めておられると見受けられるのだ。


 奇しくも、魔導卿家の朋が手紙に綴った通り、” あの方も数奇な人生を歩まれておられる。 ” のだ。 しかし、その逆境にも折れず、今も凛と佇んでおられる。 その覚悟たるや、頭の下がる思いが胸を駆けあがるのだ。 素晴らしき寄り親を持てたことに『神』に感謝を捧げよう。



「時に我が家に対し、再度騎士爵を叙爵して頂けた事に感謝を示したく思うのだが…… なにせ相手は上級伯爵家の上級女伯(御当主)様。 言葉を重ねるならば、王太子妃殿下の側近として嘱望された御方。 生半可な贈物では、あちらの方々が許されないだろう。 おまえ達、何か考えはあるか?」



 父上の視線の先に居たのは、騎士爵家たる家族である『私達(・・)』だった。




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― 新着の感想 ―
緊急発動用の魔道防具がいいかね?
アシストスーツのような補助具を開発するのはどうだろうか?
そこにいる末弟を差し出せば、多分喜んでくださいますよ?(笑)
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