表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】騎士爵家 三男の本懐 【二巻発売決定!】  作者: 龍槍 椀
第三幕 騎士爵家 三男の本懐
48/216

――― 血の通過儀礼 ―――

 

 『ジンパジー』の致命部分である、頭部、胸部中央には命中しなかったが、弾丸に施された符呪により、『ジンパジー』の右肩から右胸に掛けて爆発四散した。 これではもう敵は『魔法』を打てない。 わたしは素早く近寄り、佩刀で幾度も切りつけ、討伐を完了する。 肩で息を吐きつつ、周囲の状況を確認する。 そこに爺が足音もさせず近寄って来た。



「やれやれですな。 今までは『脚』を止めてからが長いのですがな」


「爺、右翼の損害は?」


「…………重軽傷二人 死者一名」


「クソッ!!」



 怒りとも、嘆きともつかない感情が湧きあがる。 『死者一名(・・・・)』 爺の言葉に『指揮官』として自身が背負った命の重さを強く意識したのだ。 そうなのだ。 此処は戦場で在り、一瞬の油断が命を絶つ場所なのだ。 故に…… 故に……



「全員に通達。 本作戦は中止。 傷を負った者、そして、『命』を辺境の安寧の為に礎にした者の遺骸を収容し、邑へと帰還する。 なお、討伐した魔物は全てを保全し持ち帰る。 工兵はコレを移送する準備を成せ。 かかれ!」



 皆が『()』の哀しみと憤りを感じてくれた。 五年兵は実際に人の死を見て…… 見続けていた故か、口を酸っぱくして油断を戒めてきた。 だから、彼等も又訓練場では厳しく指導していた。


 それでも尚、今一つ実感が湧かなかった新兵達。 ついさっきまで、隣を歩き一緒に飯を食い馬鹿話に花を咲かせていた戦友同輩が、今は何も言葉を口にする事無く『永久の眠り』についた事に衝撃を受けていたのだ。


 自嘲気味に想う。 馬鹿な話だ。 いくら『索敵魔法具』を使おうと、幾ら『銃』を用いようと、それを使うのは『人』だ。 



 ――― 『人』なのだ ―――



 くどくどと説諭する必要も無い。 自分達の心の緩みが何を齎したか。 その事を心に刻み付けた事だろう。 そして、それは『私』も同様なのだ。 (副官殿)は そんな私を哀しい視線で見詰めている。 かつての遊撃部隊の損耗率はこんなモノでは無かったと、そう爺は云う。 私はそれが『嫌』だった。


 だからこその『索敵魔法具』であり『銃』でも有ったのだ。 しかし、その有効性が故、道具の便利さに過信した結果なのだと…… そう思う。



若様(ぼん)。 帰りましょう。 礎となった者の魂の抜け殻は保全しましたぞ。 彼が帰るべき場所へ、少なくとも身体は帰る事が出来るのです。 且つてでは考えられぬ事。 それが若様(ぼん)の在り方と皆にしかと届いた事でしょうな。 ですがな、若様(ぼん)……」


「なんだろうか?」


「失ったモノは大きいかも知れませぬ。 が、残したものは辺境の安寧。 誇ってやりましょう。 さもなくば、浮かばれぬ。 宜しいか、指揮官殿。 貴方の言動一つで兵は簡単に死ぬ。 そして、『死』を命じなくては成らない事も有る。 御覚悟召され」


「…………あぁ、私は指揮官だ。 この遊撃部隊の指揮官なのだ。 故に再度『覚悟』を決める。 命を預かる覚悟を決める。 爺、礎となった兵を丁重に弔いたい。 私の誓いとして」


「宜しいかと」



『血の通過儀礼(イニシエーション)』とも云うべき、命の重さを自覚したのだ。 厳しい表情の爺。 それにもまして、厳しい表情を浮かべる私。 引き絞った弓の様な緊張感が部隊を覆う。 もはや、誰も ” 慣れた ” 表情を浮かべる者は居ない。


 そう、兵は兵で覚悟を決めたのだ。 五年兵達もその様子に更に気を引き締めた様だった。 粛々と『浅層の森』を行軍する。 邑までの道すがら、誰も軽口を叩く者は居なかった。



     ―――― § ――――



 騎士爵家の邸に戻り、父上と長兄様に作戦を中止した事を告げる。 小型魔物『ジンパジー』は討伐した。 しかし、その他に居るかもしれない。 数個体が群れを作る傾向にある『ジンパジー』だ、油断は出来ない。 だが、早々に撤収を決めた。



「取り敢えずの ” 危機 ” は取り除けたが、まだ脅威は潜んでいると云う事か」


「はい父上。 兵に損害が出た事の責は、全て私に在ります。 永遠に無くしてしまった事に忸怩たる思いに御座います」


「遭遇戦…… だったのだろ? 今回の戦闘は。 主力でも対処に苦慮する。 お前は良くやったよ。 私が指揮していても、損害は免れなかっただろう。 むしろ、『ジンパジー』に対し五名の損耗で済んだ事に驚きを隠せんよ。 心優しき弟が、勇猛果敢な指揮官で有った事を嬉しく思う。 そうでしょう、父上」


「……兵の損耗は致し方なかった。 しかも、お前がそれを重く受け止めている。 お前に対しての『罰』は無い。 よくやった。 『ジンパジー』…… か。 中層域に生息する小型魔物が何故 浅層域に出没したかの方が気に掛かる。 警戒を厳とせねば成らないな。 護衛隊にもその旨を通達し、森に近い村々に『些細な森の変化』にも注視する事を伝えよ」


「御意に、父上」



 対処は間違っていなかったようだ。 兄上も中層域に生息する魔物とは対峙した事が有るのだろう。 対処の困難さは、共通認識として持っていると云う事だ。 父上は私に罰を与えなかった。 期待される事は、もっと兵を精強と成し、森の中では油断ない行いに徹するよう指導する事…… だな。


 ――― 理解した。


 民の安寧の為の礎と成った兵の葬送は、出来る限り心を砕いた。 父上がそうであるように、私も『葬送の儀』に出席し、彼の献身を『献辞』として贈る。 街の大聖堂の神官に願い、魂の平穏を祈って貰った。 荼毘に付し、残された家族(父母)の希望もあり、兵の共同墓地に葬った。 真新しい墓石の前に、彼の戦友たちが花や酒瓶を供える。 口々に云うのは、


 ” 遠き時の輪の接する処で待っていろ、様々な『武勲話』をこれから作っていくから、楽しみに場を作っていろ ”


 だった。 私も『その言葉』には賛成だ。 そちらで、宴会の準備をして置いてくれ。 お前は、そう云った事が得意だったのだから。



 ――――



 忸怩たる思いを抱えつつ『砦』に戻る。  鍛冶部屋に入り、持って来たモノをテーブルの上にそっと置く。 もう使う者が旅立ってしまった、彼の装具だった。 辺境騎士爵家 標準剣 及び、遊撃部隊に配備されている軽鎧だった。


 標準剣は中程から折れ、完品の半分ほどの長さしかない上、刃毀れも酷い。 剣を振るい善戦したのだと云う証明でもある。 軽鎧の胸当ては大きく切り裂かれ、赤黒く汚れている。 背当てには深い傷は無い。 最後の最後まで、前を向いて敵に背を向けなかったと云う証左。 ” 優秀で『勇者の心(ブレイブハート)』を持つ者だったのだ ” と、心に留める。


 逝ってしまった者の為人は十分に理解した。 その上で考える。 『もし』 と云う、不確定な未来について。


 もし、標準剣の硬度がもっと高く、もっと鋭く、魔物の表皮を切り裂けるモノだったら……

 もし、軽鎧の胸当てが、魔物の爪を防げるほど強固なモノで有ったなら……


 もし、もし、もし…… 幾つもの仮定を重ねてしまう。 遊撃部隊の主任務を考えると、今のままでは脆弱過ぎるのだ。 なにか……



――― なにか、方策は無いのかと。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
一個下の人へ それが嫌なら見なきゃ良いだけじゃないか。
大まかなストーリーは良いのに、『』が無意味に多い、読者が興味のないのとばかり掘り下げて無駄に長い、硬すぎる表現ばかりで相変わらず読みづらい。 考えてみたら 現代日本からの転生なのになんでこんな言葉遣い…
むしろ、『ジンパジー』に対し五名の損耗 重軽傷二人 死者一名⋯三名では
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ