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――― 特異点 ―――



◆ 神より授けられし物



 教会に於いて自身の内包魔力と技巧(スキル)の確認。


 年齢が十歳になると、神から授けられたモノが我が身に定着する。 故に、十歳の誕生日に神殿にて確認を受ける事と成る。 コレは、王国法にも記載されている国民の義務でもあり、この国に産まれた者ならば、必ず受ける必要のある『確認』でもあった。


 街中の『学び舎』で、そう教えられていた。 年老いた教師は、昔王都でも教鞭を取っていたと、そう誇っている老人だった。 まぁ、なんらかの事情が有ったのかもしれない。 老人は博識で、街の有力者の息子や娘達、そして、騎士爵家に連なる者達に対して、熱心に教鞭を取ってくれた。


 なんでも、専門は王国法だったとか。 だからか、分厚い王国法典を片手に、どんな法律が有るのかを、よく授業してくれていた。 その一つが、この教会に於いての『内包魔力と技巧(スキル)の確認』だった。


『王国の人材発掘の飽くなき欲求の証だ』 と、老師は笑っていたな。



 ―――――



 神殿に於いて厳正なる儀式に於いて、『確認』の儀式が始まる。


 一人きりで来たことに、神官は驚いてはいたが、手続きは順次行われ、同じように十歳になった者達の列に並ばされた。 騎士爵家の者だとしても、三男だから庶民と同じ扱いになったのかもしれない。 『期待』などされる筈も無かったし、自身も同じ考えだった。 算術か、頑強の技巧(スキル)が生えていれば『御の字』だと、考えていた。 何の能力も持たぬ事も考えられたのだからな。


 優秀な兄達と同じなら…… 『嬉しいな』と。


 辺境にしては巨大な聖堂の中。 長い祝詞の後、十歳児たる集まった子供は順次『儀式』を受ける。 大きな水晶玉とその向こうに、厳めしい神官が『儀式』を受け持っていた。 私達、子供等は列を成して、水晶玉に手を置き、自身の授けられたモノを確認する手続きに入る。 わたしの順番は列の最後。 儀式も終わりに近づき、神官と共に大きな水晶玉を覗き込んだ。



 ――― 驚いた。 心底驚いた。



 わたしが、この世界の『神』より授けられたのは、伯爵級ほどもある『内包魔力』と、『工人』と『武人』の『技巧(スキル)』。 水晶玉を覗き込んだ厳めしい神官が首を傾げる。 かなり特殊な組み合わせと云えた。 『内包魔力の多さから家族に後程、正式に結果が知らされる事と成る』と、そう告げられる。 親と同道していない、十歳の私にとっては、それも当然の事。


 邸に帰り、一家が揃う晩餐の時に、その旨を家族に伝える。 父上は微妙な顔をされた。 常識では有り得ない事でもあり、母と顔を見合わせた父は、暫く沈黙を保つ。 兄達は何故か多少興奮気味に、祝福の言葉を述べてくれた。


 魔力の多い人は、その内包魔力に準じた魔法を学ぶ必要が有った為であった。 両親も兄達も、騎士爵並みの内包魔力しか持たない為、その事実に父は困惑した。 数代遡っても、それ程の内包魔力を有している者は居なかったが、家系として何度も爵位を持つ貴族からの『蒼き血』を受けているので、血に眠る御加護であると云う結論に達した。 やがて、父上が重く言葉を紡ぐ。



「騎士爵家としては異例だが、御国と民の為にその力を制御できるよう研鑽を求める」


「はい、精進いたします」



 三男と云う事も有り、優秀な兄二人が居ることもあり、王都で魔法を学ぶ余裕は、我が家には有った。 魔法学院と云う名の場所は、中位貴族家子弟…… つまり伯爵家の令息令嬢から、王族にいたる内包魔力が極めて豊富な者達が、その魔力を制御し、以て魔法を発現する為に設立された場所でもある。 特例として、内包魔力が基準に達した、下位貴族も入学できるが稀である。


 貴族的階位はその学院の中でも厳然として存在する為、十分なマナー教育が必須とされる。


 まぁ、学ぶのは好きだ。 時間の許す限り、学べるものは学ぶだけ。 兄達は、私の王都行きを喜んでくれた。 『自慢の弟だ』と、そう云ってくれた。 『俺達には無いものを持つ者だ』と、嫉妬もせず純粋に喜んでくれた。 これは、私の中で心に刻むべき事柄で、なによりも……


 嬉しかった。 立派で有能な兄達が認めてくれたのだ。


 兄達を、そして、家の誇りになる様なモノに成りたいと、切実に思う。 前世では得られなかった、自己証明と存在意義だった。 よって、学ぶことに邁進する。 何が出来るかは判らないが、この人達への家族愛には報いなくてはならないと、心に誓った。



 ―――――



 王都にある魔法学院に入学するのは十二歳。 第一成人の後。 そして、入学に際し一つの決め事が有る。 高位貴族の人々もその場所に居る為に、出来た決め事だと云う。 入学に際し、人生のパートナーを決めて置かねば成らないと云う事。


 魔力の操作や魔法の発現には、精神的な安定を強く求められる。 それは男性女性に関わらずだ。 よって、入学前に人生を共にするに値する人物との契約を結ばねば成らなかった。 理由は理解した。 思春期の入口に居る様な者達は、精神的に幼いとも云える。


 互いにその幼さに対する補完を目的とした契約。 立場的に同等なモノから選び抜かれ、その後の人生に於いて、公私ともに生活を共にする相手。 いわゆる婚約者。


 情緒の安定を目的とした、この制度は良くこの王国の安定にも寄与する。 政略的なモノから、権力維持的な思惑やら、家の存続やらを優先するならば有用な策だと思える。 かくいう私にも、家格に応じた婚約者の選定が行われた。


 私の内包魔力が『伯爵級』と云う事も有り、その選定は難航を極める。 騎士爵の家の出。 保持する爵位も無く、将来の展望も今のところは無い。 学ぶだけ学んだあと、何者に成るかは未知数。 そんな男に、寄り親でもある『領の主人』である伯爵様も困惑し、更に上位の筆頭寄り親である侯爵家に御相談をされたらしい。 それでも中々『善き人』は決まらず、関係者一同、相当に頭を悩ませたと聞く。



 様々な思惑の果てに、『 訳アリの女性 』との婚約が取り交わされる事となった。



 御相手の生家の爵位は子爵。 その四女。 身分的には魔法学院に入学は叶わない。 しかし、彼女も又、伯爵級の内包魔力を持つ人だった。 しかし、その身上は少々問題があった。 ” 訳アリの女性 ” と云うのは、彼女の父親である子爵の下半身事情と愛憎渦巻く子爵家の家庭環境の事。 


 私の婚約者と成る『その女性』は子爵の庶子であった。 つまり妾との間の子。 そして、その御妾と云うのが、子爵家を寄り親とする男爵家の娘。 子爵家の本筋から逸脱した女性でも有る。 一応貴族籍はあるらしい。 が、子爵家では四女と云う立場程の扱いは受けていないらしい。


 その子爵の御妾である男爵家の御令嬢は、とりわけ醜聞に(まみ)れた方だったと聞く。 この辺境付近の下位貴族の間では有名な『夜の蝶』だったらしい。 奔放な愛に、身持ちの悪さ。 男爵家としては、義絶したいと云う思いも有ったらしい。 男爵が、” 眉目秀麗な子爵様 ” に、思いを寄せた娘を、子爵に妾として差し出したのも、頷けると辺境の下位貴族の間には有名な話。


 実際、実家の兄達も怖気を震いながら、その噂話を私に聞かせてくれた。


 そんな子爵と妾である男爵令嬢の間に産まれたのが、私の婚約者となった彼女。 『天の配剤』か、『悪魔の悪戯』か、その彼女には『伯爵級』の内包魔力が備わった。 国法は絶対だ。 高い内包魔力が故に、魔法学院に入学を求められた。 『内包魔力』の制御や『固有魔力』の発現を覚えなくては、彼女の存在自体が『災厄』となりかねない。 魔法学院への入学の為に、彼女もまた将来を誓う相手を探さねば成らなかった。 唐突に前世の言葉が蘇る。



 ――― 割れ鍋に綴じ蓋。



 派閥の長、筆頭寄り親たる侯爵閣下は、問題にしかならない二人を『婚約者』として、処理する事を思い付かれた。 名ばかりとは云え、入学前に婚約を結ぶ相手。 その背景情報に、兄達は困惑を隠せず、親も頭を悩ませた。 しかし、最下層の騎士爵家にとって、筆頭(・・)の『寄り親の意思』は絶対でも有る。 嫌々ながらも、受け入れた。



 さて、王都に行く前に、子爵家の四女との見合いの席が設えられた。



 その席に於いて、彼女はあからさまに落胆の様子を見せる。 平々凡々の私を見て、落胆したのは明らかで、それを隠そうともしていない。 家人は目を吊り上げて怒りの表情を浮かべるも、相手は子爵家。 その上、寄り親の『 肝煎り(・・・) 』なのだから、拒否は出来ない。 私は苦笑と共に現状を受け入れ、特殊な状況に置かれる私達は魔法学院に入学する事となった。




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― 新着の感想 ―
伯爵程度の魔力持ちは沢山いるから雑に扱っても問題ない感じなのかこれは。
なろうに珍しい堅めの文章に突如現れるなろうあるある女子。 ここからどう展開するのかな。
急によくあるなろうになってきちゃった
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