表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/197

――― 生残性の向上の為に ① ―――



 その日の午後、私は(副官)に命じ、兵の皆を鍛練場の広場に集めた。



 遊撃部隊全員を呼び出したのだ。 壮観だな。 集められた事に、不安気にする新兵たち。 いよいよ出撃かと期待を膨らませる次兄から借り受けている五年兵達。 表情は優れないが、わたしが何を始めるのかと興味深げに見ている爺。


 そんな、少々緊迫した訓練場の一段高い場所で、皆に通達した。



「若輩のわたしが、指揮官である事に不安を覚える者も多かろう。 しかし、騎士爵家の漢としては、脅威に立ち向かうのは自然な事。 私自身の戦闘力は、魔法学院騎士科に於いて研鑽を重ねた。 君達の期待を裏切らぬ様には動けると思う。 が、わたしは君達の損失を望まない。 先輩諸氏が丹精を込めて鍛え上げた君達が、易々と命を落とす事や、重大な傷を負う事を私は望まない。 よって、損耗率の回避の為の方策を授ける」



 何を言っているのだ? と、不可解とも云える視線を投げかける五年兵達。 懐疑的な視線を向ける爺。 今までの常識であるならば、わたしの言葉は柔弱の謗りを受けるような言葉である事は理解している。 しかし、悪戯に命を粗末にするのは勇気では無いと確信している。


 特に、遊撃部隊に関しては、得た情報を持ち帰る事が何よりも重要なのだ。 威力偵察というのは、帰還してこそ真価が発揮できる作戦なのだから。



「諸君は、広域偵察に使用する【索敵魔法】と云う魔法を知っているか? 王都の王国軍でも採用されている、索敵部隊が運用する魔法である。 どうか」


「噂には…… ただし、上級伯級の内包魔力が無いと、正しく運用できないと聞きます。 その様な人物は、辺境には存在しない。 よって、有れば良いとは思いますが、無い袖は振れないので、噂自体を無視しております」



 『五年兵の取り纏め(次兄から与えらえた兵)』をしている者が、そう応える。 指揮官にも物怖じせずに答える姿は好ましい。 わたしの為す事が、何かしらの間違いが含まれていたならば、きっと遠慮会釈なしに『箴言』を口にするだろう。 次兄様が鍛えた兵は、そう云った意味でも精強なのだ。 彼の言葉は、確かに認識は間違いない。 だから、説明を続ける。



「王国軍の主なる敵は人である。 他国の軍勢に対し常に監視の目を必要としている。 翻って、我等が故郷はどうか。 魔の森が近く、敵たる国と成り得るのは、遥か魔の森の向こう側。 わたし達が対処すべきは、魔物と魔獣。 目的が違うのだ。 王都 魔法学院錬金塔に於いて、級友たちと研鑽を重ねた結果、わたしは一つの光明を視た。 探す相手が魔物魔獣ならば、彼等が持つ特異性を見つけ出せれば、それで事足りるのではないかと。 君、魔物魔獣と人とが大きく違う点は何か」


「違う点…… ですか。 その体躯や身体の構成も違いますが…… 魔物、魔獣を一括りとして語るならば、体内に魔力を貯める臓器の有る無しかと。 人は天から授けられし資質によって内包魔力の過多が、有りますが、魔物や魔獣は臓器によって貯める事が出来、生命活動が停止した後固化して魔石に成ると…… そう聞き及んでおります」


「よく勉強しているな。 まさしくその通りだ。 魔物、魔獣が溜め込む魔力は、かなり集中していると云っても良い。 それを拾えれば、何処にどの程度の魔物や魔獣が潜伏しているのが判明する」


「そうは言っても…… その様な複雑な魔法を使えるようなモノは、此処には居ません」


「確かに個人の資質から云えば、その通りだ。 君、街の者達が、食事の用意をする所を見たことが有るか?」


「は? それが、今の話と、どういった関係が有るのですか?」


「見たことが有るかどうかを問うている。 どうか」


「…………はい。御座います」


「ならば、湯を沸かすのに何を使っている? 着火魔法か? 火炎魔法か?」


「そんな事出来る訳は在りません。 薪を準備し、火種を作り…… 余裕が有る家庭ならば、魔導コンロを…… えっ? そういう事なのですか?? そ、そんな魔道具を??」


「王都での研鑽は、私に錬金術と符呪を与えてくれた。 それに、わたしの『技巧スキル』の一つは、『工人』でも有った。 加えて内包魔力は伯爵級。 これを合わせると、新たな魔道具の開発には苦労はしない。 此処に、一つの試作品を持って来た。 まだ、量産はしていないが、ひとまず五個作り上げた。 試しに作ったモノであるから、見てくれは悪い。 が、機能はする。 それと、屑魔石を幾つか。 さて、君、試してみるか?」


「もし、そんな夢の様なモノが有るのならば、この目で見る事が出来るのならば、数々の痛恨事を今後避けられるのでは無いかと…… 遣ります。 試させてください」


「宜しい。 ならば、こちらに」



 そう云って、纏め役の五年兵に、試作品の索敵魔道具を手渡す。 頭にすっぽり被るタイプの兜の様にも見えるが、その外観は魔獣の頭部に酷似している。 手渡されたそれを、結構な衝撃を以て、五年兵は見詰めていた。


 意を決して被る。 当然、トンデモナイ見た目には成る。 左側の視界は確保できている筈。 そして、その瞳に困惑の色が浮かんでいる。



「マスクの左側に、(ボタン)が有るだろう。 それを押し込んでみろ」


「はぁ…… 此れですね」



 手探りで、ボタンを探り当てた五年兵は、私が言った通りボタンを押し込む。 機能は熟知している。 その機能は私以外の物が使用しても、十全に効果を発揮しているかを確かめる為、幾つかの屑魔石をわたしは手の内に握り込んでいた。


 この屑魔石の反応は、『五年兵取り纏め』が被る魔道具の右側のディスプレーに赤点が幾つか浮かび上がる筈だ。 魔法術式は問題無く起動し、所定の効果を見出せた。 それと知れたのは、『五年兵取り纏め役』の言葉。 彼の口から、単純だが明快な言葉が紡がれたからだ。 見えていなければ決して口にする事無い言葉だったからだ。



「この、赤点(・・)が…… ですか?」


「そういう風にした。 今度は右側の(ボタン)を押し込め」


「はい……」



 今度も私の言うがままに、ボタンを押し込む。 ディスプレーから赤い輝点が消えた筈。 顔半分に浮かぶ表情は、困惑に満ちて『目』を白黒させているな。 まだ、この魔道具の意味が解っていない様な表情を、魔道具に半分隠れた顔に浮かばせていた。



「此処に、屑魔石をいくつか持って来ている。 この広い訓練場に今から撒く。 何なら兵に持たせても良い。 そして、その辺を徘徊させても良いが?」


「是非、兵に。 あの赤点が動くのですね…… 実に不思議だ」



 兵達の前から進み出て、整列する彼等の中に入り、何名かの新兵と五年兵達に、魔道具を付けている五年兵に見られぬ様に『屑魔石』を持たせる。 人選はランダム。 配り終わってから、兵の皆に訓練場の中での『散開命令』を下す。 状況は撤退戦。 逃げて逃げて逃げまくれと、そう指示をする。 持っていない者も一緒にな。 これで、普通ならば『()』が『屑魔石』持っているか、判らなくなったはず。 さて、本格的な運用試験といこうか。



「もう一度左側の(ボタン)を押し込め。 視界の上が前方。 下が後方。 左右はそのまま、左右だ。 同心円が見えると思うが十字線が切ってある中央が君のいる場所。 同心円間の距離は、およそ、200ヤルド(200メートル)。 全部で五つの同心円が見えると思うが、最長半径1000ヤルド(1000メートル)の円内を索敵できる。 説明はそれだけだ。 さて、何が見える?」


「散開した赤点が 5、6、7…… 8個。 ええ、8個ですね。 これが、あの屑魔石を持つ兵の位置なのですか?」


「あぁ、そうだ。 尚、散開した者達には、退却時の行動をとらせる。 屑魔石を持っている者が、兵達を付け狙う魔獣達だ。 どうだ、『魔獣達』を 捕縛できるか?」


「場所が判れば、容易い。 いや、本当に、この赤点が?」


「自身の目で確かめれば良かろう」


「そういう事であれば」



 俄然やる気を出した五年兵取りまとめ役が走り出す。 その行動は、積極的であり果敢でもある。 兵達は、其々認識が違う。 『五年兵取り纏め』以外は魔物や魔獣から逃げる撤退戦を想定している。 『五年兵取り纏め()』は逃げる者達が、魔の森を彷徨う魔物や魔獣に追われる兵と感じられよう。


 さらに、屑魔石を持つ者を、追い回される兵を付け狙う『魔物魔獣』と感じられもする。




―――― なかなかに面白い訓練となろうな。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おおお、訓練と紹介に落とし込むのすげえ設計だな アガるー
新兵を追い回す改造人間の絵面よ
“でっち上げ“の意味を勘違いしてらっしゃる この場合適切なのは“試作機“や“検証用“や“実験機“、“たたき台“などでしょう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ