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見出したる、解決の糸口。



 ――― 探索行の必要条件とはなんだろうか。



 何を念頭に置けばよいのか。 現在も使い続けている索敵方法で受動索敵(パッシブサーチ)と云う概念が脳裏に浮かぶ。 自らは何も発振せず、敵対する者が発信する ” 何か(・・) ” を、受動的に受信しその位置を割り出す。



 前世の読んだ『戦記物』で、大海原を征く艦隊の参謀職が艦隊司令に報告する場面が描かれていた。 前世の記憶に残る、『戦記物』の一節。


 “ 敵レーダーを盛大に発信しております。真方位二百七十。発信点、大型、八、小型十二。こちらを探しているようです。 ……精測波は感知しておりません。 見つけられては居ない模様。 今ならば、回り込めば奇襲できます ”


 などと…… 頁の行を追い、綴ってある言葉に、多少の興奮を持ちつつ読み進めて行った覚えがあるのだ。 この概念を現状に落とし込む事が出来れば、それは大層役に立つ。



 既に『受動索敵』は実働している。 (メティア)に仕込んである、魔物魔獣の体内魔力器官を検知する方法なのだ。 が…… 中層域では、浅層域ほど有用とはいえない。 濃密な空間魔力に紛れてしまう事が有るのだ。 別の…… 別の何かを漉し執る様に出来ないと、目が塞がれた状態になる事は、ほぼ間違いない。 探索隊が発振せず、魔物魔獣のみが発振している何かが有り、それを観測できれば、安全性は格段に上がる。


 その『何か』を今は探しているのだが、此れと云ったモノを見つける事が出来てはいない。 


 一応の対応策なのだが、中層域の魔物魔獣は浅層域の魔獣よりも大きな魔力器官を持っている。すなわち魔物魔獣達が体内に保有している魔力も必然的に大きい。 つまり、より鮮明に、より明るく輝点は見えるのだ。 視界全体が紅く染まる様な濃密な空間魔力環境下に於いても、それは判断できる程に。 少々受動感度を落とし、視界が真っ赤に成らぬ様に調整はした。 がしかし、基本となる空間魔力量が多い為、視界が紅く染る事は避けられない。 避けられない以上、ある程度以上の魔力器官の大きさを持つ魔物魔獣で無いと特定は難しくなる。


 中型大型、強大な魔物魔獣を避けるならば、それもまた一つの方策なのだ。 反対に、中型以下の魔物魔獣の姿が濃密な空間魔力に紛れしまうのだ。中層域に生息する魔物魔獣はたとえ小型の魔物魔獣であっても、侮る事は出来ない。


 鋭い牙や鋭利な爪を持ち、速く的確に此方の急所を狙ってくるのだ。


 中層域浅層であってもそれは変わりない。 事実、拠点を拡大する時に、その問題に直面しているとも云える。 幾ら鳴子残響器(エコー)を配備しても、実際に現場に行き確認しても、周囲の濃密な空間魔力に紛れ、阻まれ、検出された魔物魔獣の姿を見る事が出来なかった『事象』が報告されている。 これは、死活問題に直結してしまう。 定点観測地が有る拠点近くの場所ならば、まだ警報が出せるので、注意喚起は可能だが、探索行に於いてはそれすらも望めない。 



「……何とかせねばな」



 常の状態に戻っている我が佳き人が、傍らに立つ。 食堂で用意したのか、朝餉を盆の上に乗せ、佇んでいる。 眼下に領都の街を見下ろすバルコニーでの朝餉を、私が気に入っている事を、彼女は熟知しているのだろう。 準備万端で、盆をガーテンテーブルの上に置き、朝餉の準備をしていた。 そんな彼女は、私の何気ない言葉を拾っていた。



「何をお悩みですか?」


「……いや、どうやって…… あの中層域の濃密な空間魔力の中で魔物を察知できるかを模索しているのだが、善き考えが浮かばないのだよ」


「そうですか……」


「君の持つ…… 『狩人の知恵』に何か無いだろうか?」



 暫し思いを巡らす我が佳き人。 皆を無事に還す為には、常に念頭に置かねばならない。 勿論、皆の中には『我が佳き人』も…… 私自身も含まれるのだが。 大きなバルコニーの片隅。 ガーデンテーブルと椅子か置かれている一角。 その場所が、私達夫婦の定位置に成りつつある。 我が佳き人が淹れてくれた黒茶を含みつつ、言わずもがなの思案を思わず口にしてしまった。 その問い掛けに真摯に考えを巡らせるのだ。愛しさが募る。



「……そうですね、まずは音。 足音、息使い、魔物や魔獣、野獣が動く際、触れる樹々の枝葉がこすれる音。 気配となって、居る方向が分かる狩人も居りますね。 でも、その音が聞こえるのは、かなり近くに成った場合です。 『銃』の最低有効射程距離も離れてしまえば、聴こえなくなりますね。 ……あぁ、お父ちゃんの知り合いに面白い事を云う狩人が居りました。 なんでも特別な技巧を神から頂いたと、そう云っておりましたが、あまりにも荒唐無稽で……」


「ほう、私の話に首肯した君が、『荒唐無稽』と感じるのか」


「ええ、その方は遠くからでも獲物が紅く見えるそうなのです。 お父ちゃんの所に来て、酒を酌み交わしつつ、そんな話をしてました。 なんでも、魔物魔獣も身体から発する『何か』が有るのだとか」


「なにか? とは、なんだろうか。」


「狩人は狩人装備を身に付けますし、身体内は温かくとも、外側は森に紛れる為に土を塗り付け、枝葉を纏う事すらあります。さらに【隠遁】【隠形】も纏える物は纏います。 しかし、魔物魔獣はいわば裸身。 その身から発する『何か』は、遮られる事無く周囲に放出され、それを『見る』事が出来るのだとか。 私には見えませんでした。 余程、目凝らしても…… 分かりません。 ですが、一度だけお父ちゃんと、その方に付いて狩りに出た事が有ります。 今思えば、『銃』の最大有効射くらい離れたの獲物をその方は見つけておられました。 でも…… あれは、きっと、今使っている(メティア)に取りつけられている魔道具と同様の『技巧』なんだと思います」


「そうか…… 魔物魔獣の臓器に集中する魔力を見ていたと…… 紅く見えるのも、その為だと……」


「良く判りませんが、多分…… そうでは無いかと思っております。 中層域に於いて、私達の(メティア)の魔道具越しの視界は紅く染まります。あの隧道内に於いても変わりは有りません。 更に言えば、一旦外に出ると如実に視界が悪くなります。こちら側の突端部で、飛翔型の魔物を狩った時も、視界は紅く染まっておりました。アレが貴方の言う濃密な空間魔力が原因となれば、少々困る事には成るかも知れません」


「狩人の知恵を以てしても、あの現象は避け得ないのか」


「私達が暮らす場所とは、状況が違いすぎますので。 でも……」


「でも?」


「あの隧道を造った古代の方々ならば、何らかの方策を持っておられたのではないでしょうか? 隧道内には、魔物魔獣の類は存在しておりませんでした。 輜重長殿は、古代魔導術式の防衛機構が、排除していると、そう申されておりました。 つまりは、何らかの方法で、隧道内に侵入した魔物魔獣を検知していたとそう言えるのでは無いのでしょうか」


「あぁ、その通りだ。 あの濃密な空間魔力が、彼等の文明を亡ぼす前に、何らかの手を打っていた…… “……かも知れない” と、考えたか」


「困難に立ち向かうのは、なにも私達だけでは無いと思うのです。 あれだけの隧道を遺された方々なのですから、何らかの…… 方策は講じられて居たのではないでしょうか」



 我が佳き人は、呟く様にそう言葉を綴る。 そうか、ならば持ち帰った古代魔導術式を更に精査する事を視野に入れねばならない。 第三十六席が今もその仕事に付いている筈だ。 輜重長に対し、知恵の提供を強く求め、朋も北部国軍総司令官閣下に願い出たくらいだ。 輜重長は三十六席に捕まって『砦』に詰めていると云う。 そうか、ならば、私もその研鑽考察に参加しよう。現場指揮官が言もまた、試行錯誤には必要だと思う。いや、その使命が有るのだ。



「『砦』の私の研究室に出向く事にする。 基本作戦計画は起草し提出済みだし、此方に廻って来た決裁が必要な文書も、一通りは終えた。時間は有る。 ……よかったら、同道してくれないか?」


「指揮官殿が征く場所が、私が赴く場所であります! ただ、お望みを……」


「わかった。 一緒に来てくれ。 君が居ないと私の心の平穏が遠ざかる。何も見えず闇の中を征く、私の『唯一の灯火』が君なのだ」


「有難くあります!」



 微かに見えた、道筋。 その道筋を見出してくれた、月の光の様な我が佳き人の言葉。 征く道は昏く、進むべき方向すらも分からない手探り状態。 だが、私は灯火(月の光)を手にしている。 森を良く知り、森の息吹を感じる事が出来る『我が佳き人(月の女神)』なのだ。 彼女の言葉が私の行く道に光を投掛けてくれたと思う。




 ―――― こうして、私達は『砦』へ向かう事となった。




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― 新着の感想 ―
空間魔力と生体内魔力って完全に同質なもんなんかな? 違うなら固有振動数とか周波数探してその域帯は除去ってやりたいが
熱源かなぁ。 機械ならシルエットor魔力と熱源のハイブリッドとかかなぁ
猟師さんは魔力が見えていたのか、あるいは、赤外線を見る事ができたのか?
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