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中層領域への入口 

 第三部

  第一幕 開幕。


 


   

 

 第一幕 『魔の森』中層域、浅層より始まる。


 輜重隊は、各級指揮官の判断より増員された。 私が何かを言葉にする前に、副官…… いや、戦務参謀が全てを整えてくれた。 片腕となっていた人物……。『蒼き狼』を失った事に、相当責任を感じていたのだろう。 が、それは、彼の責では無く、彼の者の家が連綿と繋いできた『使命』でもあったのだ。 こればかりは、致し方ない。 その上で、戦務参謀に残した親書に、中央の王国諜報を役目とする侯爵家が遣り口を、家が持つ知識と彼の洞察を綴っていた。

 これにより、北部王国軍の防諜が飛躍的に充実した事だけは間違いない。 総司令官閣下も、その進言を受け、隠匿せねばならない情報の多いこの地の情報を護る算段に加えている。 コレは、一軍上げての仕事となる為、事情を知る者からすれば当然の事柄でもある。 朋もまた、この話には一枚噛み、物理的では無く魔導術式的に王領領都を閉じる事には賛成していた。


 私の探索行に関しても、守秘義務が付随する。


 森の中層域に到達した足跡には、周囲から得られる知見も多数含まれる。 朋に叱られた通り、あの場所からの知見は、そう易々とは表に出すべきでは無いのだ。 余りにも、我等の知識と知恵から懸け離れているのだ、そうする事は、至極当たり前とも云える。 王都中央でその事を知る者は、宰相府と王家。 それも、実物を手にするわけでは無く、単に目録と云う形でしか、扱えぬ様にしたと…… 朋は嗤う。 その横で、総司令官閣下も同じような嗤顔を浮かべている事に、少々奇妙なモノを感じてはいたが、私にはその判断に異を挟む事は無い。

 守秘義務は、それを秘さねばならないから存在するモノであり、公にすると大きな禍を引き寄せる結果にしかならないと判断できるからだ。 過ぎたるは及ばざるがごとし。 開示の判断基準となるのは、その基準を設定する事さえ現状難しい為、未来への課題となる。 いわゆる先送りだ。 それ程の事なのだと…… 納得せざるを得ない。


 輜重隊に関しては、「拠点(ポンティス)」へ物資を運ぶ為の増員だった。 次回の探索行に於いて、あの『大地の裂け目』を通り抜けなければならない事から、開発した例のモノを運ばねばならない。 重量も重く、嵩張るのだ。 輜重隊の『剛力』の『技巧』を持つ者でさえ、部品一点が運搬重量の上限に達する。 あの場所への運搬には時間が掛かる事が予見される。 さらに、『魔の森』中層域という場所柄、周囲への警戒は御座なりにする訳には行かない。


 まずは、「拠点(ポンティス)」に集積する事。


 更に言えば、其処からのあの管の先までの運搬経路の安全を図る事。 それが、今、私に課された命題とも云える。 浅層域の森の中では既に馬車道が「拠点(ポンティス)」まで、打通されている。 その道を辿り、「拠点(ポンティス)」に至る。 道中も、警戒は解かない。 当たり前では有るが、幾ら警戒装置とも云えるモノが有ろうとも、其処には厳然とした脅威が存在するのだ。

 至極真っ当な意見を基本に、重層的な輸送計画が立案実行されて行く。 輜重参謀がその任に当たってくれた。 流石、王都近衛総軍が輜重参謀と思う。 周到な計画は無理なく物資集積を果たす。 第一便に同乗した探索隊が、彼の方の計画立案能力、計画の実施能力、細部の細々とした調整能力に感嘆を漏らしている。



「いやはや、これ程の荷を、どうやって…… とは、思っておりましたが、凄まじき物ですね」


「そうだな、猟兵長。 綺羅星が如く輝く、王都の参謀職…… それも、元近衛総軍の参謀職ともなれば、このような計画も実現可能なのだろうな」


「恐ろしきところですな」


「指揮官殿、猟兵長殿…… 私には、その理由が分かります」


「ほう、輜重長。 その理由とはなんだろうか?」


「いえ、簡単な事ですよ。 突き上げを喰らうのです。 輜重が滞れば、軍勢の足を引っ張る。 必要な軍事作戦が飢えと渇きで、停止してしまう。 ありとあらゆる軍種の指揮官たちから、文句を言われるのですよ。 主計局とも揉めるでしょうね。 計画の見直しに伴う、物資滞留時間も無視できないでしょう。 その間に無駄に消費される糧食物資は軍勢が多くなればなるほど膨大な量となる。 全てが、輜重関連の部門に対し牙を剥くのです。 それが故に、日々努力を重ね、研鑽に努めているのですよ。 兵站参謀殿からお聞きした事も、あながち虚構では無いのだなと思いましたな。数年前に、一介の魔法学院が生徒の意見すら、その糧にしたのだと…… そう申されておられました」



 魔法学院の意見? なにやら私に対し、笑みを覗かせる輜重長。 “お忘れですか”と、その表情が私に聞く。 なんだろうか? 訳が分からん。 それに高々、魔法学院の学生の考えなど、取るに足らん事だろう? 素人考えが、綺羅星の如き参謀殿の目に留まるは、腑に落ちない。 まぁ、そう言ってどこかの高位貴族家の御子弟の評価を上げる為に、そう言った噂も肯定しているのだろうなと、そう考えることにした。 実際のところ、輜重、兵站部門の方々には、本当に頭が下がる思いでも有る。


 重量物でもある、幾つかの荷の運搬は、兵達による人海戦術では到底運びきれるものでは無い。 故に、森の中の小道を拡張した道に馬車が通れる事が、ここにきて大きな意味を持つに至るのだ。 流石に、大型荷馬車は通れはしないが、小型の荷馬車は十分に通ることが可能だ。 人の手で運搬するよりも、遥かに効率的な運搬が可能になっていた。



 ――― ☆ ―――



 森の中を征く輜重隊の馬車の車列。 その先頭付近の馬車に我等「探索隊」の面々は乗車していた。 周辺に対する索敵の目は緩める事は無いが、そこはかとない呑気さが其処にはあった。 浅層の森は、徐々に人の手が入り、強大で対処が難しい魔物魔獣への対抗策も確立されている現在、森の道行は荒野の難所を進む商隊の車列程の危険度にまで低下している。 監視網の充実は、それ程の恩恵を我ら人族に与えていたのだ。


鳴子残響機(エコー)が良い仕事をしております」


「アレは、朋が考案だ。 先ずは、常時監視できると云うのが、最大の恩恵となっている」


「小型化し、『(メティア)』に搭載されても居りますよ?」


「改造は私の得意分野でも有るのでな。 で、どうだ?」


「十分かと。 近距離の脅威に関しては、早期警戒用として運用しております。部隊の連携に関しても、いちいち所在位置を報告せずとも、全部隊が何処に展開しているのが判るのは、部隊運用上、非常に有難い」


「散兵戦術を基本とする遊撃隊の行動の幅を広げたと…… そう、思ってくれたらいい」


「革命的な事柄でも有るのですよ、まったく指揮官殿は」


「なに、在るものを使って、生残性を高める努力を成しただけだ。 形にしたのは、誰でも無い貴様等の努力の賜物なのだ。 大いに誇ると良い」


「ほら、また…… 射手長も苦労するな、『手柄』を他者に押し付け、シレッとされている旦那様にどうついて行くのか? 今後の生活に金穀は必要となるが、どう工面する御積りか。 奥方に財布からの金員の出し入れは一任される御積りか」



 苦笑いを浮かべる射手長。 いや、そんなことは無いぞ? 参謀職ともなれば、相応に対価は戴いているし、私達夫婦は相応共に正式な北部王国軍の将兵なのだから、支払いは王国の金庫から出ているからな。貴族家とは言え、末端の三男坊なんだぞ? 生活に掛かる金員など、微々たるものだ。 それに、二人とも軍に奉職しているのだ、細々とした『貴族的』な体面を保つ必要すら無いのだからな。



「そうか? 別段、金に困っている事実は無いんだが……」


「『魔の森』の中では、そうでしょうが、一旦、辺境伯領領都へ帰還されたら、そうもいかぬのでしょう。 なにしろ、指揮官殿は既に辺境伯家の随身格となっておられるのですから。 相応の見栄は張る必要が有るのですよ」


「そんなものか?」


「そんなものです。 なぁ、輜重長、観測長」


「まぁ、そうですな」「同意見に御座います」



 殊更に渋い顔を向けて、各部隊長の顔を見る。 困った顔を晒しているのは、私の妻である射手長と、巨漢の衛生兵長。 二人とも私の性分を知り尽くしているのだから、そうなるな。 まぁ、それは追々…… 改善させられるか、強要されるか…… そんな所だろう。 先ずは『任務』が優先されるのだ。 そうで無くてはいけない。 私の双肩には、北部辺境伯家が支配する王領と、その領民達。 更に言えば、それに地続きの北部辺境の地の安寧が掛かっているのだからな。


 ――― 表情を引き締め、皆に向き直り言葉を綴る。



「もう直ぐ、「拠点(ポンティス)」だ。 気を締めろ。 中層域は、気は抜けんぞ」


「「「 応 」」」



 声を合わせ、そう応える猟兵長、輜重長、観測長。 まぁ、こいつらの事だ、必要以上に言葉を重ねるのは愚策。 一言で良い。 それで、全てが変わる。 そう云う者達だ。 故に、私は彼等に全幅の信頼を置くのだ。 


 さて、探索すべき場所へ、我等は侵入を果たした。



 流れ落ちる、流量豊かな滝、周辺には鬱蒼と茂る森。

 木漏れ日すらも、地上には届かぬ程に、密に密に……


 その背後から、蠢く魔物魔獣の気配は色濃いのだ。


 ――― 既に我々は、危険地帯に足を踏み入れていると云っても過言では無かった。














 第三部 開幕です。

 第一部、第二部の様に連続投稿が出来ません。

 日に一度、11:00に、お会いしましょう!


楽しんで頂ければ、それだけで十分です。

中の人は、幸せ者です。 読者の方々に感謝を! 絶大な感謝を!!!



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― 新着の感想 ―
〉綺羅星が如く とは綺羅星ではなく綺羅、星のごとくです 本来の意味は沢山なので誤用では?
兵站部ってか主計局にナニ提言しやがった
 そういうとこやぞって皆思っていそうw
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