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――― 成人の儀 ―――



◆ 王族兄弟の間に見る “ 不協和音 ”




「国王陛下が、王太子殿下が時の親征か。 もう既に二十幾年の歳月が流れたな」


「色褪せぬ歴史の一頁だ。 今も変わらず、国王陛下が御宸襟には、鮮やかに当時の情景が浮かぶ事だろうな」


「常在戦場を旨とされ、他のどの貴顕よりも戦を嫌う理由は、陛下が眼を通し記憶に刻み付けられた、幾多の『誉れ』と『矜持』故…… だったな」


「誠、その通り。 しかし、陛下は、その必要が有れば、断固とした『力』を御振るいになられる。 安易に『力』に頼られぬのは、その『力』の行使により、幾多の命が消えゆく事を記憶に刻まれるが故」


「血反吐を吐き、地に倒れ伏した者達を想わずにはいられない。 陛下は慈愛溢れる方なのだ。 王国にとっての、有用な者、能力高き者、民生に於いて力を発揮する者。 そして、なにより貴族が籍を持たぬが故に、一兵卒として戦場に散りし、数多の民草。 ……その責を一身におわれる国王陛下。 常人には耐えられる物では無い。 誠、王たる資格を持たれる御方だ。  “ 王国の礎となり、倒れし者達を気にしない王など、王の器に能わず…… ” だったかな」


「それは、前大司教様の御言葉。 軍務卿の御継嗣(・・・)の言葉なれど、少々不敬に値するのでは?」


「ん? 貴様、知らんのか? 継嗣と定められし者は、第二王子殿下の足下に侍っているぞ。 俺は、軍に於いて、役割を与えられる未来が有るに過ぎない。 それも自力で勝ち取らねば成らぬのよ」


「貴殿の認識(・・)ではな。 しかし、時が来れば、状況も変化しようとは、思わぬのか?」


「俺には重いよ、その『役目(・・)』。 誰を担ぐにしろ、軍務卿は『力』の象徴。 軍閥貴族共の動向を探りつつ、如何に戦いを勝利に導けるか。 如何に、犠牲を最小限に抑えられるか……  外務卿や内務卿との連携を取りつつ、如何に陛下の御宸襟を安んじ奉るか。 考慮する事は、限りなく軍務卿と云う『栄誉』と引き換えに、人生そのものを捧げねばならぬ場所。 次代の王に『平和』の気概を持ってもらう事は、常に付きまとう行動原則。 力を有し、その力を抑制する。 なんとも、親父殿は難しい舵取りを成されているのか……」


「貴方は、『見えて(・・・)』おられるな。軍事力を掌握する者の苦悩を。故に、拙は貴殿が軍務卿と成りえるのだと思っていた」


「買い被りだ。 しかし…… 良く似合っているでは無いか、その礼装は。 本職の参謀と見間違えるぞ」


「ご厚意、有難く受け取った。 ……辺境に帰りし折は、家族に大いに自慢する」


「ハハッ! 良い。 良いな貴様は。 また、後程、謝恩会にて会おう」


「御意に」




 砕けた会話に、奴の御婚約者の御令嬢は、少々眉を寄せる。 二度とは会わぬから許せ。 故郷に帰還すれば、相まみえる事も無かろうし、まして御夫人となった御令嬢とお会いする事など、無いのだから。


 嵐のようにやって来て、嵐のように去っていくアイツは、気ままに動く高貴なる者。


 それ故、かなり軽く見られているが、なかなかどうして、良く見、良く聞き、情報の収集は怠りない。 その上、よく考える。 断片的な情報を組上げ、目に見えぬ状況を推察する能力に於いて、同年代の男達とは一線を画すると考える。 いやまぁ、王都を後にする私には、あまり関係は無く成るであろうがな。 


 それでも、彼の栄達は、この国にとって善き事と成るのは、間違いの無い事柄だろう。 善き藩屏たる漢に成って欲しい物だ。




 ――― 刻限と成り、盛大な成人の儀は始まる。



 国王陛下の名代として立たれたのは、第一王子殿下。 側妃肚の第一王子ではあるが、頭抜けて優秀。 噂に上るのは、何時も肯定的な事柄が多い。 如何せん、まだ王子妃が決まっていないのは残念な事。


 なんでも、魔法学院の入学前に調えられた婚約は、事情があり白紙撤回されたと聞く。 それが、第一王子側の問題なのか、それとも、御婚約者側の問題なのか、様々に取り沙汰されてはいたが、事実は王家の分厚い霧の中。 第一王子殿下は、いまだ、廃嫡や幽閉の処分をされておらず、さらに御婚約者は他国の貴種へ嫁したと聞く。 


 ならば…… そう云う事か。 第一王子も、女性には苦労されておられるな。


 いずれ、第一王子妃を決めねば成らないが、それもまた、重要な政略と成るであろう事は火を見るよりも明らかなのだし、其処に「情」が生まれれば、この国の国民としては万々歳なのだがな。 翻って、兄王子より『成人の証』たるクラバットを受け取られている第二王子殿下。 御婚約者は筆頭大公家の御嬢様。 そして何より、王妃肚たる第二王子。


 国の上層部に於いても、次代の王たる王太子に冊立されるのは、順当にいけば第二王子殿下であろう事は、間違いの無い所。 血統と貴族間の均衡を鑑みれば、そうなるのも頷ける。 その準備も、周囲への周知も、その方向で進んでいると、噂にはある。


 しかし、果たしてそうだろうか? 大公家の御令嬢に、言外の言葉により、第二王子殿下は試練の真っ最中だと、そうあの日、あの場所で教えて頂いた。


 試金石となるのは、『戦』では無く、わたしの()婚約者達、『慮外者』。 周囲の側近候補も含め、『魔法学院内での見極め』と、そう仰っていた。 よって、わたしはその邪魔に成らぬ様にと、婚約者との接触を控えた。 と云うよりも、関係性の構築を『放棄』する事を命じられた。


『善き結果』と成って欲しいと思う。


 式典の壇上に第一王子殿下。 壇下に第二王子殿下の御姿を遠目に見るに、なにやら、不穏な気配も感じられる。 第一王子の視線の意味、それを受ける第二王子の視線の意味。 深く考えれば、考える程、不穏に感じてしまう。


 何故ならば、彼の貴顕たる者達の視線が、『不憫なモノを見る眼』を持つ者の視線と、『嘲る者の視線』に他ならないからだ。


 いずれ、近い内に王太子殿下の冊立の報は発せられるだろうが、それは、わたしが辺境に帰った後の事と成るだろう。 下々の者達は、後になってその事を知るばかりだ。 願わくば、王国の未来にとって『善き選択』が、成される事を祈るばかりだ。


 式典は恙なく進行し、今年成人を迎える者達全てに純白のクラバットが支給される。 これで、晴れて貴族の仲間入りと成る。 兄上たちは、この式典を騎士爵家が差配する土地に建つ聖堂で行われた。 わたしのみが王城での式典に参加できたのは、少々面はゆいモノが有るが、これも内包魔力故だと思う事とした。



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― 新着の感想 ―
↓同じく新パートナー登場かと思ったの
涼やかな声と前話であったから、これは主人公が誰ぞご令嬢に話しかけられたフラグでは、と期待したら違いました……。
最初おじさん2人が喋ってるのかと思ってだいぶ読んでた。 友人の婚約者の女性は自分の婚約者が身分の低い友人(主人公)とお話してるのが面白くないのかな。 優秀な友人も婚約者には恵まれてないのですね。
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