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騎士爵家 三男の本懐  作者: 龍槍 椀
第二幕 心の赴く場所
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幕間 15 翻弄される魔導卿家、追い詰められる宰相補



「宰相閣下、お呼びでしょうか?」


「あぁ、まずは座れ。 頼みてぇことがあるんだよ」


「はぁ…… 宰相閣下の頼み事とは、畏れ多くも恐ろし事に御座いますな。 何事です? 息子…… というか、娘と云うか…… も、おりますが?」


「その事だ。 おめぇの上級伯家に保持している従爵位があるだろ? 法衣伯爵の爵位だ」


「御座いますが、なにか?」


「王宮魔導院 研究局第三席、つまりはコイツの兄は、おめぇの継嗣だが、それに変更は無いか?」


「御座いません。 良くできた自慢の息子であります」


「嫁の当ても付いたか?」


「はい。 色々と御座いましたが、ようやく」


「なら、魔導卿家は盤石と云う事だな。 なら、コイツに法衣伯爵位を渡せ」


「は? あれは、継嗣が嫡子を設けた時に綬爵すると、そう規定に有りますが?」


「一時だ。 直ぐに正爵をコイツに渡して、法衣伯爵位はおめぇの家に還すからな」


「意味が解りません」


「一家を新たに建てる。 王宮魔導院、民生局第五席が無位なのはちっとばかり外聞が悪い。 今の法典、継承典範じゃぁ、こいつに爵位は廻ってこねぇし、直接爵位を叙爵すると準男爵か男爵、良くて子爵に成っちまう。 それじゃマズいんだよ」


「いや、しかし……」




「…………アレ(・・)、表に出しても良いのかい、魔導卿殿?」




「あ、アレ…… で御座いますか?」


「おうよ、外聞も面目も丸潰れに成るな。 せっかく決まった継嗣の婚約もパーに成りかねんぞ?」


「そ、それは!!」


「ちっと、目をつぶれ。 なにも、悪い事など起きねぇよ。 制度的に制約が多いから、裏道を通るだけだ。 余人にして、後ろ指をさされるような真似じゃねぇ。もっとも、コイツは釈然としとらんがな」


「……そ、そうですか。 ぶ、分家を立ち上げると、そう考えても宜しかろうか?」


「いや、新たな一家として、王国の直参家とする。 喜ばしい事じゃねぇか、魔導卿家としては」


「ツッ………………」


「考える事ぁ…… あるめぇ?」


「……判りました。御指示に従いましょう」


「じゃ、宰相補、その様に。 日付なんかどうだっていいから、最速でな」


「御意に」


「もういいぜ、魔導卿。 別室で宰相補が持ってくる書類にサインしてくれ」


「はい、では、御前失礼を……」


「おう。 魔導卿、貴様の王国への献身、有難く思うぞ」




 ―――― § ――――




「宰相閣下…… あの……」


「なんだ小僧」


「いや、我が家の秘事…… とは、何で御座いましょうか? “アレ(・・)”とは?」


「おまえ、そんな事を気にしているのか。 貴族家なら後ろ暗い所の一つや二つ持ってるんじゃねぇのか? 別に、今、知って居る訳じゃねぇよ。 調べりゃいいだけだし、よしんば真っ白だとしても、作りゃ良いんだ」


「そ、そんな……」


「宰相ってのはな、目的の為に手段を問わねぇ古狐の事を指すんだ、判ったか?」


「それは…… また…… では宰相補も?」


「顔色を変えねぇのは、合格の証だ。 色々と仕込み中だが、見どころは有るぜアイツは。 鍛え甲斐が有るってもんよ。さて、第五席。式典が終ったら即刻、北部辺境に還れ。 王宮各所から何人か役人を付ける。 辺境に於いて、与える爵位を使い『魔の森』を領地とする一家を立ち上げろ。 王国直轄領とするから、国庫から運営費の補助は出る様に仕向けている。 最悪宰相府の予備費を全額宛てる。 国境警備は北方騎士爵家群に任せて構わない。 さっきも言ったろ?『寄り子』として使えって」


「『寄り親』変更ですか…… 北辺の上級女伯家や、その他貴族家から捥ぎ取れと? それを私にやれと?」


「可笑しなことはあるめぇ? 正爵となったら即日昇爵を認めさせる。 色々と民生魔道具を開発した『功績』に、国王陛下もお慶びだしな。 その上、王国直轄領だ。『魔の森』っつう厄介な場所を差配するんだ、相応の地位と人員は必要だぜ。 とやかく言わず、周囲には有無を言わせず、やれ。 この式典のどさくさに紛れて、陛下にお目通りを願ってやる。 で、そこで、オメェは一端の直参貴族家の当主に成るんだ。」


「その様な強権を発揮し得る…… 爵位とは…… 何を叙爵に成る御積りか、宰相閣下」


「『北部辺境女伯(・・・・・・)』。 貴様にゃ、気張って貰わんとな。 辺境にゃその証紙を携えて帰って貰うぞ、カッカッカッカ!!」


「へ、辺境、辺境女伯? な、なんでぇぇぇ~~~~!!!」


「まっ、受け入れろや。 道理も外聞も全て調和して、アレを任務に専念させられる手立てだ。 じきに全てが整う。 それまでは…… 無茶苦茶に機嫌の悪くなるだろう魔導卿の御機嫌でも取りつつ宰相府からの連絡を待て。 なに、悪いようにはせんよ、小僧っ子」


「まだ、理解しがたいですが…… 朋の安寧を護れるのならば。 宰相閣下、そろそろ退出を…… と思うのですが? 邸で父上の機嫌を取らねばならぬ様ですので。 ……少々気が重いですが、それも引き受けました。 なに、亡き母のドレスを着用し、仕儀を深く話し合い、理解を求めれば機嫌も直るかと……」


「……おめぇ、そりゃ、悪手だぜ? 余計に悪化するぜ、まったく。 宰相補と云いお前と云い…… 『世代の感覚』の違いかぁ? まぁいい、家族内の事だから、俺は嘴を突っ込まねぇ。 よし、第五席、退席を許す。 連絡を待て」


「有難く。御前失礼いたします」




   ――――― § ―――――




「おう、帰って来たか。 間に合ったか?」


「ギリギリですが本日付けにて。 宰相閣下、横紙破りも過ぎましょう、国王陛下への目通り迄準備されておられたとは……  しかし、これにて、公女様…… いえ、王太子妃殿下が何を画策しようとも、先手を打てますよ」


「だろうな。 アレがアイツに席を用意するってんなら、侯爵家当たりの総領娘の配と成す。 問題は、その侯爵家が何処かってこった。 まだまだ、貴族の均衡やら『闇』に関する事柄にまで考えが及んでいねぇ妃殿下ならば、使う侯爵家は一つだけだ。 大公家にも近しいし、なによりあの侯爵家は『総領娘』の配に苦慮している。

 しかしな、あの侯爵家は将来、『禍根』となる家柄だ。 切り捨てる準備は怠らねぇ様にせねばならん家柄よ。 そんな所に明晰な頭脳の持ち主を与える事たぁ、阻止せにゃならん。上辺は綺麗だが、裏にまわりゃ真っ黒なんだぜ? 王国の『影』の棟梁だ、あの侯爵家は。 やめて呉れよ、道具は道具らしく使わねぇと、こっちの身が危うい。 陛下も気を揉んでるぜ」


「でしょうね。 ……これで、北部領域は北部辺境女伯家によって、人臣の一新が行われますね」


「王国直轄領だからな。 陛下に直接つながる。 面倒事は第五席が引き受ける。 アイツは森の探索に専念できるんだ。 まぁ次代も考えにゃならんがな。 それは、それとして、一応の筋道は付いたな。 どう転んでも、アイツを辺境から引き抜けなくなったわけだ。 『善き事』なんだぜ」


「確かに。 他家の目を韜晦する為に、魔導卿家には負担を強いましたな」


「相応に遇せんとな。 まぁ、魔術馬鹿だから、魔導院の差配で満足しているのが救いよ。 今後も、王国の藩屏たるを体現してもらいてぇもんだ」


「手中の珠を捥ぎ取って置いて、それは如何なものかと。 しかし、そうであって欲しいと望みも致しますな。 すべては宰相閣下の御意の元に」


「王国の未来に光を置くだけじゃぁ、足りねえんだよ。 人族の安寧に関わるんだ。 気合も入ろうってもんだよ。 それを継ぐのはてめぇ(・・・)だ。 宰相補」


「…………精進いたします」












『会話』100% の幕間でした。

物語の表現方法は無限だと思うので、これも又成立するかな?

如何でしたでしょうか?


楽しんで頂ければ、幸いです。

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― 新着の感想 ―
宰相補も辺境女伯も、三男との交流があった故の大抜擢と見るか、災難と見るか・・・
事情知らない騎士爵家がどんだけ協力してくれる事やら・・・ま不安がヒシヒシと 事情知らない貴族達の肘鉄無しに国として関与出来る様にするためにしゃーないとは言え 公女対策なら事情説明するだけで終わるよなあ…
ここで次は王太子妃がウルトラCの裏ワザを発動すると見ました
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