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幕間 13 召し出される『生贄』




「お招きにより、参じました。 王宮魔導院 民政局 第五席に御座います」


「来たか。 まぁ、座れ。 非公式だ」


「御意に」

「単刀直入に問う。 アレの野心の在処だ。 何を見据えている。 その手に世界の趨勢を握って、何を成そうとしている。 私見を述べよ」


「畏れながら宰相閣下。 朋の為人は、閣下もご存知の筈では? 朋は子供がそのまま大人になった様なモノ。 貴族社会では、到底やっていけぬ心根の持ち主。 いや…… 近衛騎士としては、これ以上の資質は持たぬでしょうが、事、泳ぐ事を強いられる貴族としては無理かと。 その事は本人も自覚しておりますが故、王都での猟官は視野に入って居なかったと思われます。 文官にしろ、武官にしろ、その身分の軽さ故に結局は使い潰され、雑事に追われ続ける未来しか見えなかったと、そう言い換えても宜しいかと」


「身分を与えれば、権能も拡大するが?」


「権能には責任が伴います。 その責務を果たす為には、貴族的思考が必須となりましょう。 厭うたのです、朋は。 自身の能力は自分自身が誰よりも理解していた。 稀にも見ない、極上の資質を持っては居りましたが、それを誰かの為に使うのであれば、『辺境の倖薄き人々』に使うのだと、そう言い切っております。 天下国家を語る口は無いのだと。 民草の安寧を護り、倖薄き者がそれぞれの幸福を追求できる世界を望んでいると思われます。 例え、身分を与えたとして…… そして、権能を振るえる階位を手に入れたとして…… 振るう先は辺境に御座いましょう。 朋の故郷への想いは、私が口にするほど軽くは御座いません」


「成程…… 価値観の相違か。 陛下が面白がるわけだ。 そして、王太子妃が何としても自身の幕閣に引き入れたく思うのも無理はない。 宰相補、如何する?」


「野に飛ぶ龍を鳥籠に入れる事は出来ませんな。 鳥籠が壊れてしまいます。 そのつもりが無くとも、身動ぎ(みじろぎ)一つで鳥籠は粉々になってしまう。 囚われる事で、龍の心が黒く染まらば、すなわち王国の未来に闇を置くのも同じ」


「それ程…… 評価するか」


「片鱗は魔法学院で。 が、昨今の報告を拝読した結果の思いですな」


「判らんでもねぇな。 あぁ、理解出来る。 それでも王太子妃は諦めねぇな」


「宰相閣下、そこは問題となる処。 五席、君ならどうする」




「既に策謀は始まっておられるのでしょう、宰相補殿? わたくしに聞いてどうなります?」


「意見の一つとして、今後の算段の糧とする。 貴様には何が見えている」


「魔の森の拡大を未然に阻止し、人種の生存域拡大の可能性を見出すに至る『理』が見出しかけている事。 その『理』が、北部辺境域に限らぬ事。 他国の…… 森の脅威に晒されている国々とっての指針となるべき『推察』である事。 外交交渉に於いての優位性を保てる、大きなカードとなり得ますね。 つまり、宰相府は、今後も朋には探索を続行してもらい、世界の『理』を紐解いても貰わねば成らぬと考えられている。


 そこまでは良いのです。


 見えぬ部分は、北辺の『魔の森』の大半を朋が騎士爵家に割譲を許可したという事。 負担を強いても、その負担に見合う援助が未だ行われていないという事。 援助なしでも、北部魔の森浅層域の支配を確立しつつあるという事実。 中層部からの脅威を受け止める事が可能であると云う推測。 これを踏まえると、宰相府は北辺魔の森を一つの領として、封土と成し新たな辺境の貴族家として立てたいと考えておられると…… そして、その家は寄り親を求めぬ、王宮直下の貴族家…… すなわち、諸侯の中でも最高位であらされる、侯爵家、公爵家相当の権威を持つ王宮直参家と成し、いずれその当主に『朋を』と考えられておられると推察いたします」


「当たらずとも云えども、遠からず。 判ってんじゃねぇか。 しかしなぁ……」


「功績が無い…… 『秘匿された使命』故に、表だった評価が出来ぬのでしょう? よって、家名を与え高貴な階位を与える事は不可能であろうと推察できます。 いかな宰相府であろうと、貴族の均衡を崩す様な真似は軽々しくは出来ませんし、その当主にと望まれる者の心の在処が今一つ不明瞭な事も心配の種となるのでしょう。 断言致します。 朋はその辺の有象無象とは違います。 朋には、野心多き貴族共の枠内に収まる様な『辺境の漢』では御座いません。 朋の『野心』と呼べる物は、もっと崇高にして悠久の時を超える物に御座いましょう」


「はぁ…… 『世界の理』か…… だろうな。 しゃぁあるめい、宰相補。 なにか考えはあるか。 すでに動き出している王太子妃の『野望』の隙を突くやり方をだな……」


「野望? アレの立身出世を『野望』と言われるか?」


「自分の手元に置きてぇって言う個人的な思い付き…… いや、執着か。 もっと大きな役割がある事すら読めねぇんなら、野望だろ? それも、既に外堀を埋めに掛かっているんだ。 なら、粉砕するしかねぇだろ」


「はぁ…… 不敬、大逆、反逆…… ですか」


「陛下の御宸襟じゃねぇしな。 所詮は王太子だ。 その配に過ぎん。 ならば、斟酌してやる謂れもねぇな」


「……考えはありますよ」


「ほう…… 言ってみろ」


「アレが爵位を持ち権能を持ち、王宮直参の貴族に成るには、騎士爵家の三男では無理であるのは明白。ならば、その権威を持ち得る人が成ればよいのです。 王宮魔導院 長官である魔導卿家は上級伯爵家。 と言う事は、家内に保有する爵位もいくつかあるでしょう。なぁ、第五席」


「宰相補ッ! な、何を!!」


「王宮魔導院 民政局 第五席が無位では示しがつきませんよ。 ならば、第五席殿が爵位を綬爵すべきです」


「ほう…… 宰相補、それは良い考えだ。 魔導卿が家の保有爵位だと…… そうだな、確か法衣伯爵位を持っていたな」


「ま、待ってください。 たしかに、魔導卿家には法衣伯爵位を保有しております。 しかし、あれは制度上、魔導卿家『継嗣』のモノで御座いますれば」


「ふん、継嗣だと。 それがどうした。 どのみちオメェを『独立』させるんなら、どうだっていいだろ?」


「いや、しかし宰相閣下」


「家の面子、兄への斟酌は判ったよ。 宰相補、他には有ったか?」


「一応調べてはあります。 御身内様にと、従爵位が一つと…… 連枝用に準男爵位の授与権を複数かと」


「なら、その法衣伯爵位をこいつに取らせた上で、功績に鑑み直参として立爵させりゃいいんじゃねぇか? 直参爵位の昇爵前が従爵とか準男爵なのは、何かと問題が生じるし、貴族院も黙っちゃ居ねぇ。 直接綬爵だと子爵位が精々だ。 雌獅子の思惑に対抗するんなら、それじぁ貫目が足りねぇよなぁ。 法衣伯爵が新たに一家を成し『綬爵』するなら、直参伯爵かそれ以上も可能だ。 一旦コイツが綬爵して、新たな爵位を綬爵した後、法衣伯爵位は魔導卿家に返却すりゃ問題はねぇ…… 」


「周囲に『軋轢』なく進めるのであれば……」


「最速でどのくれぇ掛かれる?」


「魔導卿が首を縦に振れば、即日」


「くぅ…… 既に用意していたか。 まぁ、貴様ならやるだろうな。 見えていたか…… で、その先はどうするつもりだ?」





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>>王太子妃の『野望』 野望というより 魔法学院時代は王族とお付きのリトマス試験紙に婚約者を使うから黙って不名誉を受け入れよ と要請という実質的な命令をし、 今現在は 実家に対し、利益は上がらないのに…
 王太子妃は手元に囲いたい、宰相府は地位(侯爵以上?)を与えて責任と権限を拡充させたい。  主人公の「使命」を共有している宰相周辺の方が主人公への理解度が深いのは当然だが、王太子妃も腹心の配から主人公…
王太子妃はまだ「例の任務」には辿り着けていないし、 中央を貴、辺境を賤とする向きも多少見えますから「辺境で燻ぶらせるのは才の無駄」と考えている可能性は大いにありますからね 向こうは手駒に寄り親たる上級…
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