幕間 12 王城の古狐 宰相の伏撃
幕間 12~15。 特殊な構成でお送りいたします。
読者様方の脳内劇場が開幕される事が出来るのかッ!
漫画かアニメーションか実写か、どのような情景が思い浮かぶかは、全て読者様次第なのです!
騎士爵家 三男の物語の裏側で進行している謀略戦、『表現の自由』を添えてお届けします。
お楽しみいただけたらいいなと思います。
では、幕間の開幕です!
「あぁ、宰相閣下。 此処に居られたのですか。 探しました。 宰相府の控えの間とは…… なにか、思い悩む事でも? この魔力的に遮断され、重結界が張られた場所に御一人で居られるとは。 ……それで、何が気に入らんのですか?」
「……考える事は山ほどあるんだぜ、宰相補。 処理しない内に、次々と新たな報告が来やがる」
「今回の報告の特記記載事項の二つの『補足推論』の事ですか。 まぁ、色々とヤラカシてくれた物ですな。 それだけの本気かと」
「アレが『世界の理』を解きほぐそうとしているのは理解の範疇だ。 だが、その深層に在るモノが見えねぇんだ」
「そりゃ、民草の安寧でしょう。 それも、辺境域に居る健気で頑固な者達の。 それは宰相閣下ご自身でもご確認されたはず」
「それだけか? 本気でそれだけなのかい? 貴族ッてぇ奴ぁ、己の欲望を韜晦する技術に長けているんだぜ? 栄達も栄誉もいらんって、顔を晒しても、その実『野心』満々な奴等は居る。 王太子殿下の側近共を視ろよ、それも、数すくねぇ幼少期からの朋柄たちをよぉ? 澄ました顔をして、権力欲にギラギラしてんじゃねぇか。
それによ、あのエスタリアンの娘。 アイツも肚に一物有るぜ。 けど、あっち側じゃぁ肚の読み合いなんて稀なんだろうな…… 少し会話を交わしただけでも、あの女の方が余程、判りやすいってもんだ。 なにが、『もう始まっている』だぁ? エスタリアンの野望って奴が透けて見えてやがるぜ。 それに比して…… アイツぁ『野心』ってもんがねぇとか…… 我等が王国の『貴族家』の男児だぜ、奴は」
「アレには直接訊いたでしょう、そう云う気質の『辺境の漢』ですよ。 目の前の惨劇を無視する事は出来ない、倖薄き辺境の救世主の様な、『英雄』とも呼べましょうな」
「よせよ、またぞろ胃が痛くなるぜ。 『野心』の在処が其処なんじゃ…… 辺境から絶対に抜く事は出来んじゃねぇか。 監視下に置く事と、暴走を止めるくらいしか、王国の…… いや、世界の未来の為にゃならんよなぁ…… アレの能力は宰相府でも輝けるってのによぉ。 ……なぁ、そう思うだろう宰相補」
「囲いたいのは何処も同じと。 『野心』の在処と云えば…… 王太子妃がしきりにアレの事を気にしているようですな」
「アッチは…… 有能な者を手元に置きたがるんだよ。 その有能さが発揮できる場所に当て嵌め、王国の発展に寄与させる事を慶びに感じる気質だ。 まぁ、手綱を取ってやらにゃ、暴走するぜ」
「でしょうな。 王太子殿下は妃殿下にぞっこんですから、その役目を果たせそうにも有りませんね」
「そこで、宰相府が重要になる。 おめぇがな…… おめぇには、奴等だって一目を置いている。 なら、オメェを使い潰すまでよ」
「そうですか。 潰されんよう、気を抜いて事に当たりましょうか」
「言ってくれるぜ、子狐が」
「古狐に絡まれて、難渋しておりますよ」
「そう云う所だぜ、まったく…… ところで、宰相府として『婚姻の儀』への手伝いはどうなって居る?」
「思召しのままに。 内宮、式典部が張り切っておりましたから、ソレに助力を…… と言う感じでしょうか。 財務に関しても、財務大臣の弱みを使って、協力を取り付けましたし…… 周辺警備は父に無理難題を押し付けました。 大きな祭りのようなもの。内務も外務も大勢が決まれば、協力を惜しみませんな。 自分の所だけ、なんの成果も有りませんじゃぁ、陛下に顔向けできぬのでしょう」
「祭り…… か。 政治的な成果を織り込むってこったら、その通りだぜ。 『立太子の儀』、『婚姻の儀』を続けさまにやろうってんだ、そりゃどの大臣職に付いてる奴等も躍起になる。 陛下の歓心を買うにゃ持って来いの舞台だ。 それを望む陛下の宸襟も判らんではない。 『機会を与えたのだ、成果を期待して何が悪い』って言い出すぜ、陛下は」
「名君の誉れ高き国王陛下の御考えらしい。 まさに宰相閣下の『盟友』に御座いましょうな。 王太子殿下も日々研鑽に明け暮れてはおられるが、まだまだ、その領域に達する事は出来ませんからな」
「子獅子には、もうちょっと頑張ってもらわにゃならん。 雌獅子の暴走を止められる程にはな」
「難しくは? 相当に心酔しておられますよ?」
「『邪悪な思想』を植え付けるのは得意分野じゃねぇのか?」
「次代を速やかに得るには、そう云った遣り方は好ましくないでしょう。 仲睦まじくして、悠久の時を繋いで頂かねば」
「そんなもんかねぇ? 俺は、至高の階を登り、玉座に座る者なんざ、被虐趣味の輩と思っているんだぜ? あの責務と重圧を撥ね退け、未来へ時を繋ぐのならば、別に誰が座ったって問題じゃねよ。当代も本当に腹が決まったのは、王太子殿下がお生まれになった時だしな」
「不敬…… 大逆…… 反逆者…… 色々と言いたい事はありますが、まぁ、一片の真理でも有りましょうね」
「そう云うこった。 『野心』の在処を知れば、その物がどれ程のモノかを見極める事も簡単だぜ? アレの本心を知りたい」
「……御意に。 ソレに最も近いモノを呼んであります。 閣下の命として」
「俺の名を使ったのか? まぁた、悪巧みをしているんじゃねぇの?」
「滅相も無い事で。 監視任務と引き換えに、恩赦と地位を得たのです。 その役割を思い出させた迄」
「本当に性格悪いな、貴様は」
「相身互いと……」




