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――― 未知への挑戦 ―――

 

 輜重長の姿を目で追いながら、その様な事を考えていた。 明らかに何かを見つけた輜重長が駆け足で戻って来た。



「指揮官殿。 周辺の探索の結果、何かの封印のようなモノが見つかりました。 こちらです」


「今、行く」



 輜重長に促されて足を運んだのは、通路の途切れる少し手前。 そそり立つ滑らかな岩壁の一部に、明らかな人工物と思しき掌ほどの金属板が一枚有った。 金属板は人が通れるくらいの長方形の溝で取り囲まれていた。 ふむ…… 前世の記憶が名付けるのならば、セキュリティゲートと言えるだろう。 職責を担う者が、その任に応じて解除鍵を持ち、部外者を中に立ち入れない様に保全する。 これだけの施設ならば、その様なモノがあっても然るべきだ。


 手をその金属板に乗せる。 軽く練った魔力を送るが、明らかに拒絶された。 重防御結界とも取れる魔法術式が金属板に浮かび上がる。 これを…… 解析するのは骨が折れるな。 朋がいれば、嬉々として取り掛かっていただろうが、私には目的がある。 扉の鍵としての役割ならば、その鍵を排除してしまえば良いのだ。 開閉機構は判らない。 私の『技巧』を使って、調べている。 敢えて金属板には触れず、溝で囲われた部分に手を伸ばす。 そして、技巧を発動させる。


 手が滑らかな岩壁にズブズブと沈む。 輜重長は目を見開いて驚いているが、これが私の技巧なのだ。 金属であろうが非金属であろうが、生命体以外のモノならば、こうやって粘土の様に扱えるのだ。 魔法学院の錬金塔で鍛え上げた私の技巧(スキル)『工人』の恩恵なのだよ。 内部構造は手を通じて『工人』の技巧により判明。 絡繰りさえわかれば、何処をどう動かせば、扉が開くかは理解の範疇。 鍵は掛かっているけれども、その部分の繋がりを無くしてしまえば、いとも簡単に封印術式を迂回する事は出来るのだ。


 厳重に施錠されていた鍵部分はそのままに、(じょう)になっている(かんぬき)部分を少々取り除く。 そして、開閉機構の本来流れるべき『力』が込められる部分に、私の練った魔力を注ぎ込むと……


     ギギギギギ……


 重々しい音と共に巨大排水構造物への扉が開く。 一度、奥に引っ込み、そして開かれるのだ。 成程、厚い扉を開閉するのならば、そう云った機構も必要なのだなと、一人納得していた。 輜重長は驚きで固まり、目を見開いたまま私を見ていた。



「輜重長。 私は王都の魔法学院 錬金塔で学んだ。 多くの教諭陣の指導の元、自身の力の在り方を、そして『その力』が生存するだけでも厳しい辺境に於いてどのような役割を得られるのかを模索した。 技巧を磨き、魔力操作を極め、何が成せるかを真摯に自問し続けた。 誇りはしない。 だが、持てる力の在り様を、方向性を見出した事は、魔法学院にて学べたと思う」


「……指揮官殿は、熟達の錬金術師殿…… そうでは無いかとは思っておりましたが、それ程の御力をお持ちならば、王都でも……」


「王都には朋を筆頭に才豊かな高位貴族の子弟が夜空に輝く綺羅星の様に数多(あまた)を数えるのだよ、輜重長。 一介の辺境騎士爵家のたかが三男を受け入れる訳は無かろう? 私もその気は全く無かった。 私の『力』は、辺境にこそ必要なモノであり、倖薄き国民への献身へと使われるべきモノなのだ。 私自身がそう規定した」


「指揮官殿…… 貴方は……」


「なにか不満か? 聴くぞ?」


「知識と知恵を持ち、経験に裏打ちされ、前を見据えて動かれる辺境の騎士爵家の方々に、改めて尊崇の念を胸に抱きます」


「誉めても何も出ないぞ、輜重長。 忠誠を誓ったと私に知られれば、君の才覚を使い潰すかも知れぬぞ。 良いのか?」


「……わたくしが披露した『 見識 』から、指揮官も当たりを付けておられるでしょうが……」


「王都に在していたモノ。 官吏の者達の動きを良く知り、さらに構造物への理解度も高い。 きっと名の有る家のモノなのだろうなとは…… 思った」


「思っただけで、口には出されなかった。 それが何よりも私には嬉しく思う所以です。 辺境に骨を埋める覚悟はしておりましたが、仕えるべき人に巡り合える事は正に幸運。 それが故の忠誠と御受け取りいただければ。 遣い潰す? それが、貴方の意思ならば、我が本懐となるでしょう」


「……そうか。 判った。 以後も辺境の安寧に、君の『見識』『経験』『発想』の限りを以て尽力する事を期待する」


「御意に」



 未知の道は開いた。 そう、未来へと続く深く昏い穴が開いたのだ。 考えている事はある。 この危険な『中層域の森』を、安全かつ迅速に移動し『目的の場所へと至る道』をだ。 考察を元にした『安全な道』の入口が開いたと、そう云っても良い。 指揮官先頭を旨とした騎士爵家が行動規範は、私をして排水設備の構造物への歩みを止める事は無かった。 手に『魔法灯』を掲げ、歩みを開いた扉の中へと進める。 気負ってはいた。 どの様な危険な事が待ち受けているか判ったモノでは無いのだから。


 外界の音が遮断されたかのように、一切の『音』が無くなったその場所。 巨大なアーチが頭上に掛かっている。 が、その表面は何処までも滑らかで有り、既知の構造物とは一線を画している。 床面は均一で、漆黒の闇で閉ざされた大空間を支えて居る。 輜重長の言う、下水隧道とは思えない程に清潔で臭いもしない。 長い、長い、通路とも思しき構造物であった。



「輜重長、どうか」


「未知の材質や施工状態を抜きにして…… 巨大排水設備と云えましょう。 この場所は大きな管の上部に仕切られた整備通路。 崖の向こう側に突き出した遺跡にも同様な構造が見て取れました。 ここが排水設備と仮定しましたら、その様な構造に成るのでしょう。 排水に於いて、滞留は何よりも避けるべき事柄。 よって、その阻害要因を取り除くために、『人の手』が介入する為の『道』は付けて然るべきです」


「道理だな。 このまま進む。 灯りは『魔法灯』を、間隔をあけて設置。 ……輜重長、準備は?」


「常設灯として使用できるモノは携帯しております。 全体を照らし出すのでは無く、道標として利用するならば…… と、条件付きですが、15から20クーロンヤルドは進めます」


「重畳。 では、大休止を解く。 行軍の再開時だな」


「御意に」



 私と輜重長、そして猟兵長の三人が先頭を歩く。 観測長はその後ろ、射手長は更に後ろを征く。 猟兵長の長い耳と目。 輜重長の騎士爵家重装歩兵並みの防御力。 そして、私の前世からの知識が征く道の安全を保障してくれた。 昏く長い隧道は、いつ果てるかも知れぬ。 しかし、一歩一歩と進める行軍に迷いは無い。 観測兵の一人が念話を通じて声を上げる。


 “ 1クーロンヤルド通過。 横に逸れる隧道無し。 魔物、魔獣の影…… 無し  前方に壁状の構造物有り ”


 粛々と進む私達。 観測兵は周辺のマッピングも並行して行っている。 『索敵魔道具』により、隧道の物陰や側道も離れた場所から観測可能となっているのだ。 何故なら、中層の森入り口の拠点に於いて、『索敵魔道具』に新たな機能を付与した為だ。 朋の知見と開発した【呼子残響機(エコー)】が、私の中で組み合わさり、『索敵魔道具』の改良を思い付かせたのだ。


 なに、難しくは無い。 念話を使う観測兵の『索敵魔道具』に【呼子残響機(エコー)】と同じ様な一定の間隔で発信する極低い音を追加したのだ。 後は、その反応を拾うだけ。 生体である樹々は擦り抜けるが、硬い岩盤等は音が反射する。 その反射波を拾えるように改良したのだ。


 要は『念話』の反応だけでは無く、物理的に音で周囲の状況を知る事が出来るようにしたのだ。






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― 新着の感想 ―
アイコ インカーネイションの舞台を彷彿とさせる描写ですね。 タービン建屋とかの描写に期待しています。
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