表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/216

――― 魔の森の真理 ―――

 

 我が騎士爵家 支配領域の者達は、他の貴族家 領地、支配領域の者達よりも『識字率』は高い。 我が騎士爵家では『市井の者達』にも、読み、書き、計算の習得を奨励している為でもあった。 軍の中では重要視されている。 命令を確実に実行する為。 そして、命令の目的を間違えず理解する事を、我が騎士爵家では求めているのだ。 文字を読み、そして書けるという事は、情報の伝達面に於いて重要な役割を占めているのだ。


 射手長も、孤児と言う立場では有ったが、騎士爵軍の座学により魔法学院で学んでいる者達と同等以上に読み書きは出来るようになった。 辺境域の特殊性と言うならば、これこそが肝に成っていると思う。 よって、我等が騎士爵家の兵達は皆、精強なのだ。

 自身で状況を読み、理解し、文字に起こし、報告できる。 報告を受けた者は、集まった報告を集約し、考察し、更に広義の意味での状況を理解し、上奏する。

 軍組織である為に、そして、「魔の森」と言う脅威が其処に在る為に、上位の者達が突然失われる事すら、稀では無い。 その穴埋めをすべき者達も潤沢では無いのだ。 よって、誰もがその抜けた穴を埋める事が出来るように、そう教育されているのだ。


 北部辺境の特殊性。 その一言に尽きると思う。



     ――――



 目的地周辺に到着する。 そこは、別に特異な場所では無い。 川があり、帝国軍が侵攻してきた道があり、周辺は鬱蒼とした森が有った。 目標が無ければ、見落としてしまう。 測地と周辺の索敵を十全に行って来た探索隊ですら、痕跡を見出すには少々の時間が必要だった。 しかし、それは確かにそこに有った。



「指揮官殿、アレです。 王都の下水の出口とは違い、しっかりと固められているようです。 樹々が覆っておりますが、アレに間違いは無いでしょう」


「王都の施設にも知見のある輜重長が言うのだ間違いは無いだろう。 確認に行く」



 指摘されたその場所。 川筋から少し西側に入った所。 磐座がその場に有り、巨木が 二、三 と立っていた。 樹冠からの木漏れ日に照らし出され、鬱蒼とした灌木に覆われていたとしても、私にもそれが人工物である事は理解出来た。 水流は見られない池。 その池には川に続く放水路(・・・)。 反対側に、池に水を注ぎ込んでいたであろう、磐座に穿たれた空洞が一つ。 


 池の周囲は滑らかな岩で固められ、底も同様だった。 コレは、混凝土(ベトン)だ。 前世の言葉で言えば、コンクリート。 所々が長い年月の結果、浸食されたのか崩れている箇所も有るが、其処から骨組みと言うか…… 骨組みの骨材が見て取れる。 前世で云う所の『鉄筋コンクリート製の放水路』か。 ふむ…… と言う事は、この構造物が『あの巨大な管』の終端部と言う事なのか。


 池の周りを慎重に調べつつ、磐座に穿たれた空洞に向かう。 淀んだ水面は、水藻の為か深い緑色をしている。 空洞の入口は雑草と灌木に覆い尽くされていた。



「これは、如何にかせねば先に進めないな」


「焼きますか?」


「それが手早く処理する方法だろうな。 判った。 皆、下がってくれ」



 腰のポーチから、焼結させた魔晶粉の札を一枚出す。 それには、【増幅】の魔法術式が刻み込んである。 それに、自分の練った魔力を通す。 非効率的だった、魔法の増幅を簡単に、そして効率的に編む方法を見つけ出していたのだ。 絡まる植物の蔦や蔓の間に、札を差し込む。 それに向かって初級の火炎魔法を解き放つ。 魔法の業火が渦巻き、絡んでいた植物が、見る間に焼け落ち炭も残さず、燃え切った。 よし。 



「凄まじいモノですね」


「あぁ、あまり表には出したくないモノだ。 この術式は、人と人の間の争い事にも有効なのだ。 よって、時と場所を選んで使う。 中層域の様な人が居ない場所ならば、極めて使い勝手が良い魔道具ではあるのだがな。 さて、行動を再開しようか猟兵長」



 言葉を少々交わし、先へと進む。 まだ、暖かい混凝土(ベトン)で出来た通路を進むと、アーチ状の構造物が見えて来る。 差し渡し15ヤルド。 そう、あの突き出した管と同じ大きさだ。 通路の尽きる場所は、放水路の上。 そこで通路は終わっている。 下方には淀んだ水たまり。 アーチ状の構造物に見えたが、それは紛れも無く管。 半分ほどの場所まで水位が上がっている為にアーチに見えたのだ。


 下方には管から吐き出されるであろう、水の出口。 開口部は水没していて詳細は判らないが、其処から進むのは無理な様だ。 ならば、どうするか。 アーチ状の構造物は、滑らかな混凝土(ベトン)で固められ、巨大な岩の壁面の様に見える。 予測してみる。 此処が未知の文明の排水溝の出口であるとする。 排水溝を逆走する、魔物魔獣に対策を施すのは当然の事。 岩壁の様にそそり立つこの壁の向こう側には、あの崩落した構造物に続く隧道が有ると思われる。


 管は三層に成っていたな。 上層部の空間は水没していない筈……


 ならば、打通するか?


 しかし、これだけの質量を打通する様な【土魔法】を私は使えない。 率いる兵達にも無理だ。 どんなに【増幅】したとしても、人工物と思しき強固な混凝土(ベトン)は打通できない。 この施設を造った未知の文明の者達は強固な壁を作り上げ、外界と遮断したのか? 否。 それは、無い。 なぜならば、私達が辿った通路らしきものがある。 アレは、この場所に外から通じる為の道。 前世で云う、保守点検(メンテナンス)の為の通過回廊(アクセス)と言う事だろう。


 どんなに進んだ文明であろうと一旦完成した施設は、それで済む訳は無い。 保全は必須だ。


 そうでなくては、いずれ老朽化し、使えなくなる。 この巨大な管が『排水路』ならば、それは非常に重要な社会基盤施設となる。 重要な保全対象だ。 王都の下水路においても、下級の官吏が冒険者ギルドに対し、常設依頼として、下水道の清掃と其処に沸く小型の魔獣である魔鼠の討伐を出している。 常に見張らなければならない場所で有るのだ。


 ならば、管の中に通ずる場所はある筈。 そしてそれは、この通路に面した岩壁と見紛う壁面の何処かにある筈なのだ。 



「輜重長。 どうだ。 貴様ならば、この場所の構造は予想できるだろうか?」


「対象が巨大な施設では有りますが、考え方は同じかと。 であるならば、この壁面の何処かに中に通じる扉がある筈です。 更に言えば、この通路はこの場所で途切れておりますので、予測としてはこの周囲となります。 詳細に調べてみます」


「頼んだ。 他のモノは周囲の警戒。 皆が揃っている今ならば交代で大休止としたい。 輜重長には済まないが……」


「いえいえ、なんの。 これだけの未知の施設です。 心が湧きたちますよ、指揮官殿」


「そうか。 『知的好奇心』と言うやつだな。 思う存分、見聞してくれ」


「了解!」



 輜重長には悪いが、彼には周辺の探索を願う。 皆には大休止を命じ、軽い食事と休息を取らせた。 水辺と言う事も有り、空間魔力濃度はそこまで高くない。 つまり、魔力が水に溶け込んでいるという事か。 周辺部に比べて低い魔力濃度は、中型以上の魔物魔獣が忌避すると考えられる。 ならば、この場所は比較的安全だと結論付けても良いだろう。


 輜重長は通路の終端とその周辺を探っている。 何か、其処に在る事を知って居るかのような動きなのだ。 何故だろうか? それは、どのような知見なのだろうか。 水道関連の知識は私には無い。 前世も現世に於いても、其処に水が有るのは当たり前だったからな。 豊富な水源は、この世界でも当たり前と云える。 それは、世界が『魔の森』に覆われているから、なのかもしれない。 大量の水をその内懐に抱え込んだ森があるのだ。 水源としては、これ程のモノは無い。 が、それでも綺麗な水は入手し難い。


 森から流れ出る川の水を飲めるのは、北方辺境の者達だけなのだ。 王都周辺の者達は、辺境の水を飲むと途端に不調に陥る。 その理由は、単に汚れているからと言われているが、これは少々考え直さねばならないかもしれない。


 北方辺境の水源はほぼ森の中から流れ出る川から取水している。


    森から出る川……

    水……

    水に容易に溶け込むのは『魔力』……


 つまり、北辺の者達が普段飲んでいる水はその中に空間放射魔力が多大に含まれていると、そう云っても良い。 そして、北辺の民はその水に慣れ親しんでいる。



   北辺の者達の身体のつくりがそうなっている ……のか?







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 幼少の頃から濃い濃度の魔力に曝され続けた結果辺境の人間の「強さ」となる、ということなのか?  一種の順応、適応か。
空洞へ向かって進んでいたはずなのに通路の先が池の反対側に有るはずの放水路で困惑した。
索敵の魔道具が遠距離の微弱なな魔力を検知するのならそれを視覚出来るレベルに増幅する「アンプが必要」でしたね、その術式を「魔力ブースター」として使ったという事なのかね。 魔力が「水に溶けている」のならそ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ