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――― 集う強兵達との語らい ―――

 


 一つ思い出すのが、辺境では禁忌とされる事。


 魔道具を扱うにあたって、今では『蓄魔池(バッテリー)』を使う事が、騎士爵家支配領域では普通の事となっているが、アレが開発される前までは、どうだったのか? 屑魔石を使っていなかったか? そして、それを何処から手に入れていた? 浅層のとば口付近での魔獣の狩猟によってだったな。 しかし、今ほど魔道具が広く使われていなかった頃は? 危険な森の中で対峙した魔獣達を屠った後で、魔石を回収していたか? 使い道がないから、そのまま放置…… ならばいいが、偶に高密度の魔石が有るから、取り敢えず邑に持って帰る猟師達も多かった筈。


 そこで、何が起こった?


 使い道が無いからこそ、邑では屑魔石を捨てていたのだよな。 そして、その量が一定以上を超えてしまうと魔物や魔獣を呼び込む…… そうか、アイツ等魔石が狙いだったんだな。 強力な魔物や魔獣が浅層の森で生まれる事は無い。

 中層の森から流れてくるのだ。 そして、気が狂ったように徘徊(ワンダリング)して、捕食に走る。 それに追われた中型小型の魔獣が恐慌をきたし、暴走するのが魔嘯(スタンピード)。 中層域を何らかの理由で追われた魔物や魔獣が、生き辛い浅層域で生きる為に手当たり次第に捕食行動に出るのだ。


 だが、何故? 何故、生き辛いのだ?



 『索敵魔道具』の視界は紅く染まっている。 見えている景色よりも思考の渦の中に私は囚われてしまった。 この断崖近くの場所は、空間魔力量も森の中と比しても薄く 更に、周辺に強力な魔物魔獣の姿も無い。 比較的安全だと云える安心感からか、側から見て呆然と突っ立っている様にしか見えないのかもしれない。 いや、そう見えたのだろう。 もう少しで何かを掴むところで、射手長が声をかけて来た。



「隊長殿、どうされました? なにか、特異なモノでも?」


「いや…… 少々、考え事をしていた。 済まない、思考の渦に飲み込まれていた。 あぁ、そうだ、アレは何だろうか?」



 視界の中に、特異な情景が映り込んでいる事を自覚した。 はて? アレは、なんだ? 断崖対岸の縁から、およそ50ヤルド下に、付き出した円柱形の何か。 こちら側までは届いていないが、明らかに人工構造物に見えるソレ。

 中には二段、乃至、三段に区切られている様に視える。 崩壊しかけている管の端からは滔々と水が断崖に向かって流れ落ちているのだ。 腰に手を遣り、遠眼鏡を取り出す。 ポーチから遠眼鏡に取りつける魔道具も一挙動で掴み取り、接眼透鏡(アイピース)に取りつけ、索敵魔道具を跳ね上げ覗き込む。


 空間魔力量が薄い為か、受動術式では魔道具は発動せず、自身の練った魔力を少量流した。 遠眼鏡の接眼透鏡(アイピース)に映り込んだ物体は、裸眼で見るよりもよりはっきりとその全貌を晒してくれた。


 上下三段に分かれた構造物。 直径が15ヤルド。 上から5ヤルド、9ヤルド、1ヤルド程に分割されているらしい。 開口部は些かどころか、かなり壊れている。 崩壊していると形容しても良いが、その構造は強固なのか、全体構造に崩落する様子は無い。 崖から突き出した距離も約15ヤルド程。 雨や風に晒されたであろう筈だが、その表面は極めて滑らかなまま保たれている。


 既視感に、違和感が刺激される。



「確認しました。 ……何でしょうか、アレは。 自然に出来たモノのようには見えません」


「確かにな。 調べたい所ではある。 が、今の装備装具では、それも無理だな。 こちら側に続いていたのかも知れぬな」


「あの形状から、その可能性は大きいと思われます。 そうですね、少々距離は有りますが、あの物体が直線的に伸びた場所ならば、あの辺りの直下でしょうか?」



 射手長が指し示す場所は、なるほどこの場所から少々距離がある。 が、確認するだけならば、出来そうだ。 周囲の地形を見ながら、その場所を確認できる地点を探る。 曲がりくねった断崖の縁には、崖に向かって突き出した部分もある。 その場所を確認できそうな場所は…… 有った。



「あの突き出た磐座に向かう。 こちら側の崖を観測したい」


「了解。 周辺哨戒はお任せあれ」


「頼んだ。 皆、移動する」


「「「 応 」」」



 隠密を纏い、周辺を索敵しながら目的の断崖に付き出した磐座へと進む。 空間魔力が薄い…… と、感じられるのは、中層域の空間魔力量に慣れてしまったからか。 視界は良好で、赤く染まる事も無かった。 崖下で轟轟と流れる川から吹き上がる水の飛沫が、魔力を洗い流しているかのようだ。 断崖の磐座に到着し、射手長の予測した場所を遠眼鏡で確認する。


 ――― 有った。


 こちら側の断崖にも、向こう側の断崖に似たモノが有った。 こちらも端は崩落しているが、突き出した部分はおおむねあちら側と同じくらい。 そして断崖から ”生えて(・・・)” いる部分は、あちら側と同様、強固な造りで崩落の様子も無い。 ただし、こちら側からは水は落ちていない。 管の向こう側に滝は観測できたが、それが管に何らかの影響を及ぼしているようには見えなかった。 三角測量をして、崖の両側から突き出した直系15ヤルドの円筒の管を地図上に落とし込んでみる。 


 書き込んだ直線は、真っ直ぐに多層構造物に向かっていた。 なんだろう、この既視感。 なんの施設だろう…… グルグルと考えが脳裏を駆け巡る。 い、いかん。 此処は森の中。 気を散らす場所では無い。 フルフルと頭を振り、皆に伝える。



「今回の探索行は、此処までとする。 拠点に帰還する。 周囲の状況を確認しつつ、別ルートで帰還を試みる。 探索領域を増やし、今後の安全に寄与する情報を集めよ」


「「「  了解  」」」



 念話で、皆に伝わる。 少人数の探索行は、意思の決定から行動迄の時間が短い。 輜重兵の担ぐ荷の中にある、里程標(マーカー)をその場に設置し帰路に就く。 里程標(マーカー)とは、朋の発明品である、【呼子残響機(エコー)】の簡易改良魔道具。

 単一の魔力の波を出すのは一緒だ。 ただ、その到達範囲は狭い。 約100ヤルド程しかない。 が、近くに行けば、設置した里程標(マーカー)の存在が判る。 波に少々意味を持たせてあるのだ。 蓄魔池(バッテリー)式では有るが、積んでいるのは “侯爵級” のモノ。 そして、使う魔力は大きくは無い。 つまり、かなりの時間『波』を流し続けるのだ。 今後は、里程標(マーカー)が道先案内としての機能を果たしてくれるだろう。 


 拠点である橋頭堡には無事帰還できた。 皆の努力のたまものである。 精強中の精強たる探索隊の面々の面目躍如とも云える。 成果物も多い。 たった一日の探索で、これ程までに色々と発見できるとは思ってもみなかった。

 皆の記憶が新鮮なうちに、報告を纏めたい。 拠点に帰り飯を喰いながら、皆の報告や感想を聞き出す。 マナーは悪いが、食卓には重ねた紙と筆記用具を持ってきた。 雑談の中にも、興味深い意見が散見されるのだ。



「中層の森に関しては、とても空間魔力濃度が濃い所です。 その為の装備を配布して頂いた事はまさに幸運と云えましょうな」


「幸運…… では無く、指揮官殿と魔導士殿の努力の結果かと? それにしても、あの濃密な空間魔力の中で、魔力過多に陥らず動き回れるのは凄い。 それに、変化する空間魔力にも拘わらず、身体には一定の魔力量に感じられるところなど…… 有体に云えば奇跡と云えましょう。 本当に、よかった」


「行動に関してもですが、装備の軽さも重要ですよ。 我等輜重隊としては、持てる重量には制限があります故、いくら優秀でも、重ければ仕事に成らないですからな」



 猟兵長、観測手長、輜重長が口々に、朋が作り上げた魔道具を高く評価している。 そうだな、言われてみればそうだ。 ただ、着用感に不満があるだけだ。



「それ…… ちょっとわかります」



 射手長が、私の小さな呟きに同意する。 探索隊を編成する上で、過酷な現場に投入する人員を厳選した結果、女性兵は彼女を含め数名となってしまった経緯が有るのだ。 彼女は射手の中でもずば抜けて腕が良い。 衛生兵の一人も、治癒祈祷すら行える程の、医療従事者。 輜重兵の一人に至っては、男の輜重兵と同等の荷物を背負う事が出来る上、炊飯兵と混じり糧食準備の際には、温食の手際と味は、それはもういう事が無いのだ。 ……副官も彼女達を外すという選択は出来なかったのだ。


 女性と言う事も有り、朋は特に色々と考えてくれた様で、女性用の魔道具は『特別誂え』となっているのだ。


 やはり、身体が身体変容(メタモルフォーゼ)した為に、その辺りまで気が回る様になったのか?


 何にしても有難い事だ。



 しかし、なぜ射手長やその他の女性兵の身体に合わせて作り上げたのか。 最初から、彼女等が探索隊に組み込まれるのを知って居たのか? その辺りだけは……



  『 謎 』 だ。





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― 新着の感想 ―
3話前の探索出発回の地の文(敬礼した辺り)で「この男達、女達は〜」て女性隊員が複数人いる書き方してましたよ。 矛盾してます。
謎って素晴らしい
謎ですなぁ
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