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騎士爵家 三男の本懐  作者: 龍槍 椀
第一幕 辺境武人の子
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――― 人物評価 ―――



◆ 研鑽の果てに得たモノ



 この世界では、十六歳になると、成人の儀が行われる。 魔法学院にて研鑽を積むも、故郷に帰り実家でその身を国の為に投げ出す事も、自身で決められる年齢と成る。 わたしは思う。 このまま魔法学園に後二年残れば、さらなる高みに到達し、国軍に奉職できる可能性はあると。


 教諭陣も、私の道楽と云うべき錬金塔での研究はさておき、常に真摯に受け続けている軍学の成績に鑑み、出来る事ならば、参謀職に就ける位置に、推薦したいと考えられて居たらしい。 だが、所詮は辺境の騎士爵の三男。 そして、婚約者さえ御せない愚か者。


 もう、関わらなくても良いとの、大公令嬢の御言葉に素直に従い、あの日から、婚約者との交流を辞めてしまったわたしは、貴族として不適当というレッテルを貼られていた。 女性一人きちんと管理できないモノに、重要な職務を与える様な貴族社会では無い。 たとえ、朝議に於いて決定された事であろうとも、朝議に出席できない大多数の貴族家にとっては、婚約者もわたしもどちらも同じように愚かであると、そう認識されていた。


 まして、わたしは道楽者と認識されても居る。 騎士科に所属しながら、級友たちとの交流は御座なりに錬金科の根城である錬金塔に入り浸る者に、軍の何が判ると云わんばかり。 そんな私が座学で善き成績を収めようと、認めてくれる軍閥貴族の子弟は居らず、ただただ孤立していた。


 まぁ、それでも良い。 なにも級友は騎士科に居る者達から選ばねば成らない事は無い。 錬金塔の者達や、市井の者達と幾許の知己を得ているし、なにより教諭陣とは自身の能力について、常に相談を持ち掛け、良くして貰っている。 同年代の貴族子弟、それも騎士科の者達に無視されようと、情報を掴む手段は幾らでも有る。


 しかし、騎士科に於いての評判が、ひたすら悪い状況を鑑みると、辺境の地に『利』を誘導する為に王都に残ると云う手段は取れない。 とっても意味がない。 所詮は田舎の貴族未満の家の三男だ。 むしろ、魔法学院の座学の成績の良さが足を引っ張る可能性すらある。 


 よって、中央にての猟官は百害あって一利なし。


 私の技術と軍学の知識は、中央では埋もれてしまうが、辺境に帰らば、有用な者と成り、民草の安寧と騎士爵家の者達の安堵へと変わる。 いや、変える。 よって、成人の儀の後、辺境に帰る事を伝える。 驚いた事に、教諭陣は口々に引き留めの言葉を紡いで下さった。




「貴様の実家の爵位的には、辛い場所ではあると思われる中央だが、貴様の英知は国軍に於いて実に有効であると思う。 貴様が課題の回答として提出した、軍訓練要綱の改定案は、軍務卿も眼を通され頷かれたのだ。 兵站関連の上位将官もまた、同様に貴様の知見には一目を置いている。 軍士官学校への進学が相当と思えるのだ。 考えて呉れぬか」


「とはおっしゃいましても、わたくしは騎士爵家が三男。 綺羅星の如き才豊かな方々が在籍なされます士官学校への入学は、家門の軽さ故考えられません。 仮令、内包魔力が伯爵級で在ろうとも、扱いは父が保持しております騎士爵家の息子であります。 我が家には、息子に分与する爵位も有りません。 民草と同じわたくしでは、軍士官学校には、つり合いが取れません」


「軍は、『実力主義』を(うた)っているぞ?」


「ではなおさら、わたくしには勤まりません。 わたくしの内包魔力は伯爵級とはいえ、発現魔法は特殊に過ぎます。 実戦では兵に混じって戦う程の武技しか修得出来て御座いませんし、攻撃魔法は初級の魔法が使えるのみ。 広範囲の殲滅魔法など、夢のまた夢と魔法科の教諭の方からも伝えられております。 これ以上の研鑽を続けても、御国の『醜の御楯(魔法騎士)』と成るには、実力が足りません。 士官学校卒業者は、すべからく魔法騎士への登用制度が御座います。 二年では…… わたくしには無理に御座います。 であるならば、辺境での研鑽にて得た知見と知識、磨き上げた技術を以て、魔物、魔獣に対峙し、以て『王国の盾』と成らん事を望みます」


「…………そうか。 貴様には、成さねば成らぬ(貴種の矜持)が有ると?」


「父母より受けた辺境の騎士爵家が矜持に御座います。 優秀で勇敢なる兄達も、あの地での日常には、疲れ果てておられるでしょう。 わたくしを慈しみ愛してくれた家族の一助と成れるならば、これ以上の幸福は御座いません」


「……覚悟の決まった目をして居るな。 辺境には、これ程の漢がいるのだ。 あぁ、辺境の民は貴様の様な本物の『貴族の矜持』を持つ者によって護られるのだな。 理解した。 もう、無理は云うまい。 貴様の歩む道に、光あらん事を」


「お世話になりました。 暗闇を歩く者に、常に指針と成る灯を掲げ教導して下さった皆様の、これからのご活躍を願ってやみません。 行く道に、光あらん事を」



 魔法学園を卒業してからの行く道をわたしは自身で決めた。 煌びやかな王都で猟官しても、碌な事には成らない事は明白。 たとえ、父の許可を得て自身の『寄り親』を ” 武官の家門 ” に変更したとしても、とてもとてもお役に立ちそうには無い。 『能』無き者として、雑用に遣い潰される未来しか見えない。


 ならば、本来、自身が居るべき場所に立ち戻る事こそ、家族にとっても、御国にとっても善き事なのだと、そう思ったからだ。 これは、何も自己評価が低く、自分を卑下している訳では無い。 それが普通(・・)なのだから。





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― 新着の感想 ―
>>士官学校卒業者は、すべからく魔法騎士への登用制度が御座います。 「すべからく(須く)」の使い方が間違っているかな。 「すべからく」の後には「~べし」がセットでつき、「当然(是非とも)~すべきだ。」…
 まさに、教諭の鑑。こんな先生がこの世にどれ程居るだろう。爪の垢がほしきもの。煎じて飲ませて遣りたい。
真面目に書いてるのか、あえて厨二感を出してるのか
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