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【書籍化】騎士爵家 三男の本懐 【二巻発売決定!】  作者: 龍槍 椀
第一幕 『魔の森』との共存への模索
107/216

――― 探索行で見えたモノ  ―――

 

 そう云えば…… 


 興味を覚えた一つの事柄を思い出した。 『中層の森』の中、何かしらの人工物…… というよりも『遺跡』が有るらしいのだ。 長く時を経て、森に覆われて、高く梢を伸ばす樹々の間からも覗く高い建物らしきモノ。 長長距離の【遠視】で確認できたと、そう彼女は報告していたな。


( ………それは、建物のように見えましたであります! 切り立って面は滑らかでとても岩塊とは思えませんであります! それに…… その辺りの空間魔力濃度は高濃度で、配備して頂きました長距離『索敵魔道具』は真っ赤に染まっておりましたであります!! )


 私の前世の記憶がチラついていたな、その時は。 今の『魔法文明』が勃興する前に『有った』世界に思いを馳せる。 もしかしたら…… 行き過ぎた『何らかの技術』が、何かの切っ掛けでバランスを崩し、対処不能の『魔力』と言う未知の『力』を無限増殖させる結果に至ったのかも知れない。 そして、その崩壊したバランスを戻す為に『魔の森』が生まれたとしたら……


 これが、「魔の森」の神秘と云う名の『過去の現実』の一つかもしれない。 


 帝国軍が侵攻路を遡るよりも、コレは遥かに調べてみる価値はある。 そう思ったのだ。 射手の彼女に告げる。



「この地図は、今日の探索で調べたモノだ。 良く見てくれ。 それで、以前『君』が報告してくれた、例の『森に覆われて、高く梢を伸ばす樹々の間からも覗く高い建物らしきモノ』は、どの辺りから観測できたのか」


「はい…… そうですね…… この辺りから…… こちらの方を見てだと思います」



 記憶と方向感覚が優れ、森の中でも方角を見失う事が無い彼女がそう云いつつ、地図を指し示す。 筆記具でその地点に印を付け、見た方向に矢印を付けた。 ふむ…… 一日の踏破で行けない場所でも無い。 用心しながらの探索行でも、行って帰るくらいは出来そうだ。 俄然、興味が湧いた。



「今回の探索行の予定期間は一週間。 『橋頭堡(ポンティス)』への備蓄品の輸送も兼ねていたので、中層域深部への探索行では無い。 予定としては、最大五日の探索を考えていた。 少なくとも、価値ある探索をする為には、相応の指針を作っておきたかったのだ。 成程、ざっくりとした方針だが、その建築物らしい物はまさしく『魔の森』の神秘が一つと云えような。 それが見えた場所までの案内は出来るか?」


「可能かと」


「ならば、明日、明後日の探索は、其方の方面を目指そう。 問題になりそうな『事柄』も纏めねば成らないしな。 遣ってくれるか?」


「御意に」



 ふむ。 方角的にエスタリアンの禁足地の方角にも合致する。 ならば、コレは古エスタルからの試練とも言えようか? 試練を乗り越えねば、エスタリアンの長老とも会えないからな。 森の神秘を解き、世界の真理を知らねば、会っても相手にされないと、そういう意味なのだろうと私は思うのだ。


 考え方を改めよう。 歴史的に同じ知識を共有できるよう、同じ土俵に上がらねば、彼等は納得はしないのだろうと予測できた。 それが故の『試練の本質』なのだと、そう当たりを付けた。



「今日はもう遅い。 君も休んできたまえ。 私も休む。 善き茶だった。 ありがとう。 よく眠れそうだ」


「勿体なく」



 私の言葉に嬉しそうにはにかんだ笑みを頬に乗せる射手。 一礼をして、簡易執務室を退出して行った。 明日からの探索行に何を見出すか。 今日の様に『悲惨な現実』では無く、新発見が見られると良いのだがな。 さて、私も眠りに就くか。 体力の回復と、魔力の回復には、安寧な眠りが必須なのだからな。



     ―――――



 翌日、完全装備の遊撃部隊特任隊の面々と朝食を共にした時、探索方面の変更を告げた。 皆も『陰惨な現実』に心を痛めていたのは間違いない。 小さく喜ぶ姿を見て、ホッと胸を撫でおろす。 探索方面は『中層の森』の中心部方面。 空間魔力の濃い場所でも有る。


 何の準備も無しに向かうべき場所では無い。 『橋頭堡(ポンティス)』に持ち込んだ木箱を一つ皆の前に持ち出した。 帝国軍の進撃路を逆走するのが困難となった場合に備え、持ち込んでいたのだ。 こんなに早く使うとは思ってはいなかったがな。


 朋から貰った新しい『魔道具』でもある、面体(マスク)だ。 それを皆に配る。 猟兵と射手、それに私の合計21名。 朋がくれた面体(マスク)は25。 つまり、予備も持ってこれたと云う事だ。



「濃密な空間魔力に体力が削られる事を避ける為、この魔道具を配布する。 面体(マスク)だ。 (メティア)の下に着用せよ。 不都合が有ればすぐに申し出よ。 完成はしているが、調整はまだだ。 使用感を含め、後で使い心地と問題点を書面にして提出して欲しい」


「「「「 御意 」」」」



 装備を整え、『橋頭堡(ポンティス)』を出立する。 原生林の中をひたすら歩く。 脅威に成らない獣の姿もよく見かける場所だった。 (メティア)の面体も下げっぱなしにしている。 ひたすら周囲を索敵と測地をしつつ、前へ前へと突き進む。


 先導は射手第一班 班長。 道なき道を、街の街路を進むが如く、迷うそぶりも見せず歩みを進めている。 小柄な彼女の後ろを屈強な猟兵が歩く姿は、幾許かの諧謔味を覚える。


 小休止を二回。 大休止を一回。 強大な魔獣の反応を避ける事六回。 


 そして、陽光が天中に掛かる頃、私達は目的としていた場所に到達した。 しかしその場所からは、うっそうと茂る木々の枝が邪魔をして良く見えない。 戦役の時には、目的が違っていたからな。 特任部隊の目的は帝国軍。 よって、この場所から見る方向も違っていた筈。 よく彼女がアレに気が付いたモノだ…… 目の良さに定評があるのは間違いは無い。


 幸いにして、もう少し先に、開けた高台とも云える場所がある。 皆はきつそうにしていたが、このままでは埒が明かない。 少々無理をして皆でその高台に向かう。 磐座が迫り出した、崖の上。 眼下に濃い森の姿を望める場所だった。 川から離れている為に、空間魔力が流されもせず滞留している。 「索敵魔道具」の視界が、常に赤っぽく見えるのは、それだけ空間魔力量が多いからだ。


 ――― 射手の彼女の言葉は確かだった。


 眼下に見える森の先…… 目算で十クーロンヤルド(10キロメートル)程の距離に、突如として立ち上がる細長い物体が見て取れた。 距離が有ると云うのに、親指を立てたかの様に見える。 近寄れば、相当巨大な構造物なのは理解出来た。 それにだ……


 其方の方向は、更に空間魔力量が多いのか、視界が赤く染まっている。 既に輝点すらも見えぬ程に、視界全体が紅いのだ。 つまり…… 魔物の内包魔力量程の空間魔力がその地点に渦巻いているという事に他ならない。 特異な場所である事は確かだった。 しかし、このまま探索を続行する事は、諦めねばならない。 装備が不十分なのだ。 余りの空間魔力の濃さに、多くの兵達が『魔力酔い』の症状を見せている。



「このままでは進めぬな」


「無理でしょう。 今でさえ、かなりの空間魔力量。 この先の彼方(あちら)の方に進むと、魔力曝露量が大きくなり過ぎ、昏倒する者が出始めましょう」


「道理では在る。 何らかの対策を施さねば、これ以上の探索行は難しい」


「指揮官殿は、息苦しさや頭痛などは感じられませんか?」


「私の内包魔力は伯爵級だ。 まだ、外部の空間魔力量と比べても多い。 魔力酔いの症状は出ていない。 だが、お前達は違うのだろう?」


「仰る通り、有体に云えば「魔力酔い」が酷いですな。 男爵級の内包魔力を私は保持しておりますが、私でさえ、この有様。 ただ、呼吸が楽なのは有難いのですがね」


「そうか…… 理解した。 装備が不十分なのだ。 この先の探索に必要なのは、この濃密な空間魔力量に耐えられ、兵を濃密な空間魔力から守る装備が必要だと言う事だ。 問題を理解した」



 射撃班次席を務めている年嵩の観測兵と、暫し言葉を交わす。 射手の彼女は、『魔力酔い』の症状が出始めたのか、足取りは重く口数すら少ない。 相当に疲弊している事が見て取れる。 これはダメだ。 彼女の消耗は即ち、我等の目が塞がり耳が聞こえなくなるのと同義なのだ。


 彼女が『この景色』を見る事すら覚束ないならば、『引き返す』決断を下す以外無い。 探索を先に進める事はおろか、この場に留まる事すら、今の私達には『致命』と成りかねないのだ。 だが…… 今後の事を考えると、ただ引き返す事は出来ない。 少々、ルート取りを変えてでも、この場所と『橋頭堡(ポンティス)』間の地図の空白を埋めておきたい。


 ――― 私は帰還を決断した。 



「今回の探索行は此処までとする。 装備が足りない。 新型の面体に付いての報告を考えておいて欲しい」



 射撃班次席を務めている年嵩の観測兵は頷く。 周囲を見回し、消耗している兵の体力を考え、帰投距離を思い浮かべ、そして、私の決断に同意してくれた。 実際、彼もキツイのだろう。 私を見る目に、安堵の光が灯っていたのだ。 『中層の森』の入口でさえも、このありさまなのだ、先が思い遣られる。 彼がふと『感想』を漏らす。



「雄大な風景だと思いますが、少々キツイですな。 御決断、有難く。 進言を考えていたところなのです、実際の所」


「無理は禁物だ。 それは、私自身一番理解している。 もう少し、もう少しと先に進まば、気が付けば引き返せぬ場所まで行ってしまう。 君達の献身を無駄にしてしまうのは、指揮官として許されざる行いだからな。 ……皆の消耗が激しい事に鑑み、『橋頭堡(ポンティス)』で一日休養を取る。 『砦』に帰還するに必要な休息だろう。 今回の探索行に関しての皆の意見は『砦』では無く『橋頭堡(ポンティス)』で聞こう。 帰りの道は少し東側…… そう、川縁りを行く事にする。 侵攻路と今日の道程の間を調べておきたい」


「承知しました。 先導は……」


「疲れていて『魔力酔い』の症状は出始めているとは思うが、射手第一班 班長に頼む。 彼女ほど方向感覚に優れたモノはいない。 小休止は十分に、間隔を狭めても良い。 昏倒させてはならない」


「御意に」



 大まかにでも地図が出来るまでは、彼女の能力が一番当てにできるのだ。 済まないと思うが、特任部隊全体の安全を考えると外す事が出来ない。 苦しいながらも、彼女は良く私の期待に応えてくれる。 



   ” 無理させて済まぬ ” と、心内で謝罪を告げていた……




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― 新着の感想 ―
部隊で一番耐性が高いのが隊長なせいでキツさを共有出来ないのはある意味大変だ( ・ω・)
まだ行ける≒もう危ない 引き際見極められんかったら野垂死ぬよなあ 永久機関みたいなモン作ろうとして失敗・大暴走て感じか? 変なエネルギー見つけて利用出来そうだから試してみたら・・・て方向?
>「索敵魔道具」の視界が、常に赤っぽく見える つまりこの領域では生命線である索敵魔道具が機能しない可能性が有る、と。 感度を調整した程度で対応できればよいのだが。
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