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【書籍化】騎士爵家 三男の本懐 【二巻発売決定!】  作者: 龍槍 椀
第一幕 『魔の森』との共存への模索
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――― 『中層の森』  ―――

 

 探索行の道程の中に『試練』が混ぜ込まれていると、そう宣言されたも同じなのだ。 これもまた、エスタリアンの古老達が、人との関りを持つかどうかを判断する材料と言う訳だ。 例え、彼等の元へ到達できたとしても、古エスタル人と同じような思考を持つ者達ならば、交流する意味は無いと云う事なのだろう。 贖罪に生きたエスタリアン達なのだ。 そう云う結論に至ったとしても不思議ではない。



「成程。 長老たちが危惧し、君達が危険視している場所の探索と言う事か。 厳しい場所と言う事に他ならないのだな」


「ええ。 此処から中層域に足を踏み入れた後は、あまり会えなくなるでしょうね。 この場所で会う事は出来るだろうけど……」


「そうか…… 中層の森を踏破するまでは、君達の助力も期待できないという事だな。 『試練』と言う訳だ。 少しずつだが前に進もうと思う」


「その前向きな姿勢…… 嫌いじゃ無いわ。 頑張ってね」


「様々な思惑も有るが、今は『魔の森』の神秘についての知見を得る事が最大の目的となっている。 踏破できるように祈っていて欲しい」


「ええ、いいわよ。 そのつもり」




 夕日が森に沈む。 天空には星がかかり、やがて大きな月が浮かび上がってくる。 気温は徐々に温かみを失い、肌寒くなっていく。 まるでここからの道行を暗示するかの様だった。 無明の中を手探りで歩み、道を探す。 真理に近づく唯一の方法だと云うのが、残念でならない。 月明かりの中エスタリアンの彼女は天空に舞い上がり、彼女の故郷へと空を飛ぶ。 その姿を目で追いながら、いずれ追い付くのだと、心に決めるのだった。


 拡幅が成った『番小屋(ヒュッテ)』に新たな名を付ける。 『前進基地』とか、色々と案は有ったが、探索の足掛かりと言う事も有り、『橋頭堡(ポンティス)』の名を付けた。 そう、中層の森への足掛かりなのだ。 それに相応しい名を用意したと自負している。


 十分な装備と装具を準備し、輜重隊による備蓄の輸送を終えた後、ようやく本格的な『魔の森』探索の準備が整う。 安全を確保しながらの探索だ。 遊撃部隊全力での行軍と言う訳にはいかない。 人の暮らしを支える『浅層の森』の哨戒任務も、遊撃部隊の任務の一部なのだ。


 更には、『駆けつけ警備』も遊撃部隊の職掌に含まれる。 この所、隣接した騎士爵家支配領域の『魔の森』からの救援依頼も増えているのだ。 それが何を意味するのかは理解している。


 我が騎士爵家の支配領域の『魔の森』浅層域に小道が張り巡らされた結果、おいそれと中型魔獣達が闊歩できなくなったらしく、周辺の『魔の森』に塒を変えたのだ。 そして、現地を縄張りとする魔獣達との諍いが、幾度となく発生しているとも伝えられている。


 周辺騎士爵家に於いては由々しき問題となる。 知らぬ存ぜぬで放置する事も出来ず、大兄様から遊撃部隊へ対処の命令も下されるのだ。 勿論、大掛かりなモノは主力本隊が出張る事も有る。 同じ国に属する、北部辺境域に接する騎士爵家どうしの合力は推奨される事であり、結束を保つ為にも必要な事なのだ。


 雑事と片付けて良いモノでは無い。 よって、これもまた、遊撃部隊の指揮官としては並行して対処せねば成らない任務でも有った。 依って、『魔の森』探索については少人数で行わねば成らない。 更に言えば、私が直接指揮せねば成らぬ事柄でも有るので、多くの時間を割く事もまた出来ないのだ。


 効率的な探索を目指さねば成らない。 ならば、どうするのか。 一つの回答として、既に踏み荒らされ、巨木がなぎ倒された場所を行く事により、未開の森を行く事を避けつつ、中層域の森を理解して行く事となった。


 そう、帝国軍の侵攻路を逆に辿るのだ。


 今の所、それが一番早く中層域の探索を可能とする道だとも言える。 様々な条件を勘案しつつも、より深い場所でより安全な道をと成ると、その方策しかない。 実働時間の短縮にもなる上、魔導通信線の敷設も難しくはない。




    ―――― § ―――― § ――――




 遂に、中層の森の探索を開始する日がやって来た。 人員は全部で30名。 輜重部隊を除くと20名の猟兵と射手の混成部隊となった。 水先案内を買って出たのは、且つてこの地に来て帝国軍の侵攻を監視していた者達。 今は、ほぼ射手第一班の人員と云える者達だった。



「一度、中層の森には入っております。 帝国軍侵攻路以外の側道も、大まかでは有りますが頭に入っております」


「わかった。 今回の探索行に君達を指名する。 頼んだ」


「了解であります!」



 緊張と高揚感からか、第一班の班長たる射手の女性兵は殊更にしゃちこばって敬礼を差し出してくれた。 そんなに気負わなくともよいのになと、不思議な感覚が私を包む。 『物見遊山』と言う訳にはいかないが、我が国の者が初めて足を踏み入れる『中層の森』なのだ。 様々な初見のモノがあるだろう。 知見を広げ、森の神秘に通じる何かを一つでも発見できれば良いのだ。


 『砦』を出発し、『橋頭保(ポンティス)』へは荷馬車を使用する。 必要物資と共に、私達人員も荷馬車に揺られ『橋頭堡(ポンティス)』へと向かう。 輜重隊の者達は、既に【呼子残響機(エコー)】からの情報を上手く使いこなし、脅威度の一番低い小道を征く。 輜重隊の護衛猟兵だけで、十分に対応が可能という事で私達は移動の間、十分な休養を取る事が出来た。


 『橋頭堡(ポンティス)』の簡易執務室に於いて、探索行の概要を皆に知らせる。 長くとも五日程の探索で済ませる。 初回の探索は『中層の森』の現状を知る事と、探索路の策定の為だ。 地図すら、まともに出来ていないのだからな。 先ずは測量を始め、川筋に沿った探索となる。


 概要と、必要事項を皆に通知し、其々が成す役割を振る。 翌日より探索を始めると宣言し、十分英気を養う様に伝えた後、『橋頭堡(ポンティス)』内での自由行動を許可した。 まぁ、飯と風呂と寝るだけだがな。


 翌早朝。 全ての準備は整った。 鮮烈な朝の空気を胸一杯に吸い込み、命令を下す。



「 本日より、『魔の森』中層域の探索を開始する。 何が起こるか判らん。 十分に注意しつつ行動する事を期待する。 進発!」


 

 気を引き締めつつ、中層の森への道へ入る。 滝を遡り上段にある流れの速い川沿いが、今回の探索行の行程となる。 大型種の魔物が通った後。 先の戦役から幾許も時間は経っていない。 つまり、あちこちが打通された跡が存在する場所。 注意深く遡って行った。




 其処は…… 最悪を予想した私の、想定していた以上の凄惨な情景が、


         …………帝国領域に続く侵攻路跡の其処此処に、惨状を露呈していた。





 



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― 新着の感想 ―
帝国どうやって通ったんや、そんなとこ 逃げた帝国兵で死屍累々程度では済まなそう?
返す返すも帝国がどうしてそんなとこ抜けてこられたのか、不思議でならない
魔力が濃くて呼吸もままならない所を帝国軍は通ってこれたのは何か理由あったのかな?
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