α-021 味無しの苦痛
アンチコメ→作者のレベルが上がります
プロコメ→作者の創作意欲が上がります
評価、ブクマ→作者が一番喜びます
ストーリーのアドバイス→無視です
文章のアドバイス→ありがたいです
ギイィという音と共に、背後の扉が開く。むせかえるような濃密な血の匂いと、生暖かい風が漏れ出す。血塗れのリタイアが、少年らしきものを引きずって出てくる。目には生気を感じられ無い。それとは対照的に、リタイアは楽しげで、改めて見ると肌艶も良いように思える。
「やー、助かったッスよルナさん! 犬族はこの時期溜まるッスからね! 約束通り、武具の点検等は無料でやらせていただくッス!」
ストレスが溜まるのかな? でも、リタリアって犬っぽい特徴が無いような……強いて言うなら八重歯か? というか、アレはソルだったのか。あまりに容貌が変わってて分からなかったなぁ。
「いえ、良いんです。こちらにとっても良い取引でしたから。……ソル! いつまで寝てんの! さっさと起きなさいよ!」
勢いのままルナの出した鎌で首を刈られるソル。わぁ可哀想。
「……やっと、終わった、のか?」
「もう一回サービスしてきたら?」
「いや、もう、無理」
生き返ったソルは、それだけ言うとそのまま眠りに着く。
やすらかに眠れ。いや、その前に……
「なんでここに居るんだ?」
「あの後、クロさんに捕まって、シロさんと合流して一緒に脱出したのよ」
それで、今に至ると。
「何か、強いモンスターとか居たか?」
ルナはクロの方をチラリと見てから"特には"と応える。
……シロもあれだけ強いんだから、クロも強いんだろうなー。
そんな事を考えていると、リタイア工務店の入り口の扉が勢いよく開け放たれ、ゼノビアが入ってくる。
……こっちも肌艶がいいな。ナンデダロウナーワカンナイナー。
「おおクラビス! 起きたのか! 差し入れは食ったか?」
ん? 差し入れ? そんな物あったか? ……いや、あったとしても味が感じられ無いケド。
「差し入れ? 何のことだ?」
「む? 燻製肉の塊をシロに渡したはずだが?」
燻製肉……あっ、アレか! パテラスかと思った肉か!
「あー、確かにあったが、食って無いな。それに、シロに味覚を奪われてるから、食っても味が分からないし……」
「うむ! その為にシロに持ってきてほしいと頼まれたのでな! 酒場で1番良い物を、お前達が稼いだ金で買って来た!」
……は? ちょっと何言ってるか分からない。稼いだ金って、あったっけな?
「ふぁ……すみません、パテラス様には出したのに……うっかりしていました」
音もなく俺の背後に立っていたシロがゼノビアに謝罪する。
寝てたんじゃないのか。というか、パテラスがげっそりしていたのはそのせいか。燻製肉が大好物だって迷宮内で聞いたし。
「あっじゃあ、今持って来るッス!」
リタイアが階段を駆け上がり、すぐに燻製肉の塊を持って戻って来る。
「さてと、私はシルコムドルセしか作れんからな。調理は任せる」
「ふぁ……では私はパテラス様に三角帽子をお返しして来ますね」
「私は通りに溜まってる魂を回収してくるわ。そのうち怨念で魔物でも出て来そう」
「……武器……手入れ……クラビス…… ホヤウカムイの水晶……組み込んであげる……」
女性陣は各々調理と全く関係ない事を始める。クロの申し出が1番ありがたかった。
「あっ……じゃあ頼むよ」
俺はホヤウカムイの水晶と、腰に佩いた短剣……時空神の短剣を鞘ごと渡す。
どうなるか知らんケド。空間ごと切り裂くなら毒とか要らなくね?
◇ ◇ ◇
「……苦痛だ」
うん、全面的に同意する。
俺達は、昼飯に焼き上がった燻製肉とパンを齧っていた。ちゃっかりソルとルナも一緒にいただいてる。
燻製肉はとんでもなく良い匂いがするのに、味は感じられず、ただひたすらに硬い、言うなればゴムを噛むような、そんな食事だ。しかも、パテラスはこれを朝食にも味わっている。
ごめんよパテラス、こんなに苦痛な事とは思いもしなかった。……まぁ、俺はこれが今日を含めてあと3日続くのだが。
「やー、美味いッスねぇ。ね、そう思いません? パテラスさん」
「……苦痛だ」
さっきからパテラスは、リタイアにいじられている。俺は隣でニコニコ微笑むシロに見られながら、目の前にある、大盛りの燻製肉に立ち向かう。
「クラビス、謝ったら罰を1日に減らして差し上げますよ?」
訂正。俺は、ニヤニヤ笑うシロに強制的に燻製肉を食わされている。もちろん、無理矢理食わされているので、言葉を発する事も出来ない。
この日、俺とパテラスには共通の認識が生まれた。リタイアとシロは怒らせてはいけない。
◇ ◇ ◇
皆が寝静まり、部屋には蝋燭の灯りが1つと、3つの人影があった。
「クラビス……武器……出来た……」
クロが、俺の武器にホヤウカムイの水晶を組み込んだものを渡してくれる。
「ああ、ありがとう。……凄いな、クロは鍛治もできるんだな」
「昔……仲間の……武器を作ってた……ルナの武器も……」
昔って部分が気になるが、なんだか聞いてはいけ無い気がして、その言葉を呑み込む。変わりに、出来た武器をアナライズする。クロも、隣にいるシロも神族だから、色々気にする必要が無いのだ。
《時空神の毒短剣・封: クロノロスの魂とホヤウカムイの魔力が封じられた短剣。万物を空間ごと切り裂き、消失させる。"無"も例外では無い。※現在"斬る","溶かす"以外の能力が制限されています》
……うん、元が強いから変化があんまわかんねーや。大体、滅茶苦茶でかい敵以外には"溶かす"とかほぼ効果ねーだろ。
「また、必要な時になったら頼むかもしれない。……それで、お礼は何をすれば?」
これだけの物だ。何かお礼は必要だ。
クロは、ちょいちょいと手招きして、耳を貸すよう促す。
「お礼は、お姉ちゃんの楽しげな顔が見れたので要らないです。……それと、お姉ちゃんの好物はシルコムドルセです」
……めっちや流暢に話すじゃん。え? 何? 演技なの?
姿勢を元に戻すと、クロはさっきまでと同じ、何を考えているかわからない顔でこちらを見つめている。……いや、少し口角が上がっていただろうか。
俺はシロを視界の端に留めながら、ゼノビアにシルコムドルセの作り方を、明日教えてもらおうと考える。しかし、急速に重くなって来た瞼に逆らえず、意識は闇に溶けていった。
消えゆく意識の中で、微かな声が聞こえる。朝起きたら覚えて無いような、そんな気がする夢の中のような会話。
「……寝ちゃった」
「そうですね。……スカーハ、いつになったら私に普通に接してくれるの?」
「……無理だよ……それだけの……事……私は……したから」
「口調も、前とは全く違う。前に言ったでしょう? 私は……いえ、私達は貴女を許すと」
「私が……許せない。その短剣も……散って行った……魂が……篭ってる……」
「あの娘の選択よ。気にすることは無いでしょう?」
「今更……」
「今更?」
「今更……どうして……勇者が必要……なの? エキスティンクションは……もう起こらない……そうでしょ?」
「アポカリプス」
「! ……そう。だから鍵が……」
「明日、何度目か分から無いけど、全ての歯車が動き出す」
「……上手く……いくの?」
「私はもう諦めてる」
「じゃあ……今回も……」
「終着点は同じ。最初が変わらないと、解放されないのよ。また、やり直しね」
「今……何回目?」
「数える事はもう何回も前に止めたわ」
「……それでいいの? プラトナ」
「いいのよ、スカーハ。……欲を言えば、ツワカキで指輪を見つけて欲しいけど」
「……そう」
「そうよ。……あら? クラビス、ちょっと起きてる?」
「……本当だね……でも……意識……ほぼ無い」
「なら、まあ、大丈夫でしょう。私は明日に備えて休みます。おやすみなさい」
「……おやすみ」
頭を優しく撫でられる、懐かしい感覚。その心地良さに俺の意識は完全に途絶えた。
やあ諸君!ノーティアだ!
……エキスティンクションか。良い思い出は無いな。
まぁ、あの出来事があったから私は今ここにいるのだが。懐かしい……
っと、暗い話では無いんだ。次回、次回の話をしよう。
次回は……第一章の後半に入るな。
じゃ、次回でな!




