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俺が世界を救うまでの物語  作者: 椎尾光弥
第一拠点 始まる物語
21/56

α-021 味無しの苦痛

アンチコメ→作者のレベルが上がります

プロコメ→作者の創作意欲が上がります

評価、ブクマ→作者が一番喜びます


ストーリーのアドバイス→無視です

文章のアドバイス→ありがたいです

 ギイィという音と共に、背後の扉が開く。むせかえるような濃密な血の匂いと、生暖かい風が漏れ出す。血塗れのリタイアが、少年らしきものを引きずって出てくる。目には生気を感じられ無い。それとは対照的に、リタイアは楽しげで、改めて見ると肌艶も良いように思える。


「やー、助かったッスよルナさん! 犬族はこの時期溜まるッスからね! 約束通り、武具の点検等は無料でやらせていただくッス!」


 ストレスが溜まるのかな? でも、リタリアって犬っぽい特徴が無いような……強いて言うなら八重歯か? というか、アレはソルだったのか。あまりに容貌が変わってて分からなかったなぁ。


「いえ、良いんです。こちらにとっても良い取引でしたから。……ソル! いつまで寝てんの! さっさと起きなさいよ!」


 勢いのままルナの出した鎌で首を刈られるソル。わぁ可哀想。


「……やっと、終わった、のか?」


「もう一回サービスしてきたら?」


「いや、もう、無理」


 生き返ったソルは、それだけ言うとそのまま眠りに着く。

 やすらかに眠れ。いや、その前に……


「なんでここに居るんだ?」


「あの後、クロさんに捕まって、シロさんと合流して一緒に脱出したのよ」


 それで、今に至ると。


「何か、強いモンスターとか居たか?」


 ルナはクロの方をチラリと見てから"特には"と応える。

 ……シロもあれだけ強いんだから、クロも強いんだろうなー。

 そんな事を考えていると、リタイア工務店の入り口の扉が勢いよく開け放たれ、ゼノビアが入ってくる。

 ……こっちも肌艶がいいな。ナンデダロウナーワカンナイナー。

 

「おおクラビス! 起きたのか! 差し入れは食ったか?」


 ん? 差し入れ? そんな物あったか? ……いや、あったとしても味が感じられ無いケド。


「差し入れ? 何のことだ?」


「む? 燻製肉の塊をシロに渡したはずだが?」


 燻製肉……あっ、アレか! パテラスかと思った肉か!


「あー、確かにあったが、食って無いな。それに、シロに味覚を奪われてるから、食っても味が分からないし……」


「うむ! その為にシロに持ってきてほしいと頼まれたのでな! 酒場で1番良い物を、お前達が稼いだ金で買って来た!」


 ……は? ちょっと何言ってるか分からない。稼いだ金って、あったっけな?


「ふぁ……すみません、パテラス様には出したのに……うっかりしていました」


 音もなく俺の背後に立っていたシロがゼノビアに謝罪する。

 寝てたんじゃないのか。というか、パテラスがげっそりしていたのはそのせいか。燻製肉が大好物だって迷宮内で聞いたし。


「あっじゃあ、今持って来るッス!」


 リタイアが階段を駆け上がり、すぐに燻製肉の塊を持って戻って来る。


「さてと、私はシルコムドルセしか作れんからな。調理は任せる」


「ふぁ……では私はパテラス様に三角帽子をお返しして来ますね」


「私は通りに溜まってる魂を回収してくるわ。そのうち怨念で魔物でも出て来そう」


「……武器……手入れ……クラビス…… ホヤウカムイの水晶……組み込んであげる……」


 女性陣は各々調理と全く関係ない事を始める。クロの申し出が1番ありがたかった。


「あっ……じゃあ頼むよ」


 俺はホヤウカムイの水晶と、腰に佩いた短剣……時空神の短剣を鞘ごと渡す。

 どうなるか知らんケド。空間ごと切り裂くなら毒とか要らなくね?


 ◇  ◇  ◇


「……苦痛だ」


 うん、全面的に同意する。

 俺達は、昼飯に焼き上がった燻製肉とパンを齧っていた。ちゃっかりソルとルナも一緒にいただいてる。

 燻製肉はとんでもなく良い匂いがするのに、味は感じられず、ただひたすらに硬い、言うなればゴムを噛むような、そんな食事だ。しかも、パテラスはこれを朝食にも味わっている。

 ごめんよパテラス、こんなに苦痛な事とは思いもしなかった。……まぁ、俺はこれが今日を含めてあと3日続くのだが。


「やー、美味いッスねぇ。ね、そう思いません? パテラスさん」


「……苦痛だ」


 さっきからパテラスは、リタイアにいじられている。俺は隣でニコニコ微笑むシロに見られながら、目の前にある、大盛りの燻製肉に立ち向かう。


「クラビス、謝ったら罰を1日に減らして差し上げますよ?」


 訂正。俺は、ニヤニヤ笑うシロに強制的に燻製肉を食わされている。もちろん、無理矢理食わされているので、言葉を発する事も出来ない。

 この日、俺とパテラスには共通の認識が生まれた。リタイアとシロは怒らせてはいけない。


 ◇  ◇  ◇


 皆が寝静まり、部屋には蝋燭の灯りが1つと、3つの人影があった。


「クラビス……武器……出来た……」


 クロが、俺の武器にホヤウカムイの水晶を組み込んだものを渡してくれる。


「ああ、ありがとう。……凄いな、クロは鍛治もできるんだな」


「昔……仲間の……武器を作ってた……ルナの武器も……」


 昔って部分が気になるが、なんだか聞いてはいけ無い気がして、その言葉を呑み込む。変わりに、出来た武器をアナライズする。クロも、隣にいるシロも神族だから、色々気にする必要が無いのだ。


《時空神の毒短剣・封: クロノロスの魂とホヤウカムイの魔力が封じられた短剣。万物を空間ごと切り裂き、消失させる。"無"も例外では無い。※現在"斬る","溶かす"以外の能力が制限されています》


 ……うん、元が強いから変化があんまわかんねーや。大体、滅茶苦茶でかい敵以外には"溶かす"とかほぼ効果ねーだろ。


「また、必要な時になったら頼むかもしれない。……それで、お礼は何をすれば?」


 これだけの物だ。何かお礼は必要だ。

 クロは、ちょいちょいと手招きして、耳を貸すよう促す。


「お礼は、お姉ちゃんの楽しげな顔が見れたので要らないです。……それと、お姉ちゃんの好物はシルコムドルセです」


 ……めっちや流暢に話すじゃん。え? 何? 演技なの?

 姿勢を元に戻すと、クロはさっきまでと同じ、何を考えているかわからない顔でこちらを見つめている。……いや、少し口角が上がっていただろうか。

 俺はシロを視界の端に留めながら、ゼノビアにシルコムドルセの作り方を、明日教えてもらおうと考える。しかし、急速に重くなって来た瞼に逆らえず、意識は闇に溶けていった。


 消えゆく意識の中で、微かな声が聞こえる。朝起きたら覚えて無いような、そんな気がする夢の中のような会話。


「……寝ちゃった」


「そうですね。……スカーハ、いつになったら私に普通に接してくれるの?」


「……無理だよ……それだけの……事……私は……したから」


「口調も、前とは全く違う。前に言ったでしょう? 私は……いえ、私達は貴女を許すと」


「私が……許せない。その短剣も……散って行った……魂が……篭ってる……」


「あの娘の選択よ。気にすることは無いでしょう?」


「今更……」


「今更?」


「今更……どうして……勇者が必要……なの? エキスティンクションは……もう起こらない……そうでしょ?」


「アポカリプス」


「! ……そう。だから(クラビス)が……」


「明日、何度目か分から無いけど、全ての歯車が動き出す」


「……上手く……いくの?」


「私はもう諦めてる」


「じゃあ……今回も……」


「終着点は同じ。最初が変わらないと、解放されないのよ。また、やり直しね」


「今……何回目?」


「数える事はもう何回も前に止めたわ」


「……それでいいの? プラトナ」


「いいのよ、スカーハ。……欲を言えば、ツワカキで指輪を見つけて欲しいけど」


「……そう」


「そうよ。……あら? クラビス、ちょっと起きてる?」


「……本当だね……でも……意識……ほぼ無い」


「なら、まあ、大丈夫でしょう。私は明日に備えて休みます。おやすみなさい」


「……おやすみ」


 頭を優しく撫でられる、懐かしい感覚。その心地良さに俺の意識は完全に途絶えた。

 やあ諸君!ノーティアだ!

 ……エキスティンクションか。良い思い出は無いな。

 まぁ、あの出来事があったから私は今ここにいるのだが。懐かしい……


 っと、暗い話では無いんだ。次回、次回の話をしよう。


 次回は……第一章の後半に入るな。


 じゃ、次回でな!

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