α-011 虫殺し
まず、こちらの戦力を把握しよう。快速艦は走り続けるから、シロとココノエは戦力外だ。操舵手と観測手も論外。作業員が魔導砲座に1人、兵士が2人、ゼノビアと俺、救助した人を含めても6人か。
それで、敵は太さが5mで長さが30mはありそうなアイスワームと。……アナライズしとくか。
《30m級アイスワーム:氷原の上を行く船や旅人を襲い、食らう。体液は強酸性であり、超硬質の外殻に覆われ、内皮は弾力性に富むため、打撃及び魔法が効きづらい》
はい。魔導砲座に戦力外通告です。まぁ、ヘイトを集める事はできるか。さて、あのスキルが上手く使えるかどうか……。
「用意はいいな? 切り込め!」
アイスワームと艦が並走を始めると、ゼノビアの合図で戦闘が始まる。
まず最初に仕掛けたのは、ゼノビアだ。手に持ったランスのような武器の先端が20に分かれ、アイスワームの横っ腹を抉り取った。
飛び散った体液は、兵士2人が放った赫魔法で蒸発し、ついでに抉られた断面をウェルダンに焼き上げる。そこを、救助した男の武器から放たれた光が貫く。アイスワームは絶叫し、身を大きくうねらせると、氷に潜っていった。
「やったか!?」
兵士が綺麗なフラグを建設。もちろんそんな事はなく、右舷から飛び出して来たアイスワームが、甲板に横たわるように乗り上げる。それによって、艦が急ブレーキをかけられた状態になり、停止する。
好機だ。ゼノビアらが頭を潰さんとし、俺も負けじと魔素操作によって剣にした短剣で斬り掛かる。思った以上に切れ味が良く、縦切りをしたら、胴体が真っ二つに切断された。
あ、溢れ出る体液は、暇になったシロがなんらかの魔法で消し去ってくれました。
斯くして、短い戦闘が終わった。
「ふぁ……やっと眠れそうです」
シロがポツリと呟いた。さすがシロさん! 余裕っすね!
◇ ◇ ◇
「さて、私はフブキ隊隊長のゼノビアという。……サバイバーか?」
「……パテラスだ。その通りだが、まさか、本当にリジェネのあんたらが助けてくれるとはな。ありがとう」
母艦に帰投したら、救助した男が外套とマスクを脱ぎ、顔を見せたオッサンとゼノビアが挨拶を交わしていた。なんか、知らない単語が出て来てたぞ? 気になったので、シロに念話で聞いてみると、シロ曰く、
・リジェネレーター。リジェネとも。世界復興と異常生物の駆逐が目的の者達。
・サバイバー。"今日を生きる"が基本理念の者達。また、リジェネとトレーダー以外の者達の総称。
・トレーダー。中立の交易者達。
という、大きく分けて3つの派閥があるらしい。パテラスのオッサンはサバイバーだから、10数年前は助けてもらえなかったらしい。理由は、サバイバーの騙し討ちが横行したからだと。
ただ、善良なサバイバーが助けて貰えない事が多数あり、問題視したリジェネレーターが"騙し討ちをしない"という条件の下で、サバイバーと条約を結んだと言う。
「条約に感謝するんだな。……にしても、服装からして仙人族の地から来たな? スノーバードで氷原の横断は、自殺願望があるとしか思えんが」
ゼノビアが応える。後で分かった事だが、ココノエが仙人族だと言う。寿命が長く、若い姿の時期が100年ほどあるそうだ。
「探してる人がいてな。第一にいるって情報があって、向かうとこだったんだ。連れがいたんだが、あの虫から逃げる時に逸れちまった」
どうやら、オッサンは第一って所に行く途中だったらしい。
「それは災難だったな。仲間の無事を祈ろう。我々も第一拠点に帰投するのだが……探し人というのは?」
あ、第一って、俺達が向かってる第一拠点の略称か。そこで情報とか集めて、仲間も探さないとな。
「あぁ、もう20年になる。……万年氷と風化で開かなくなっちまってるがな、この中身だ」
そう言って首元から、霞んだ金色のロケットを取り出す。文字が彫ってあったようだが、潰れて読めなくなっていた。
「……そうか。見つかる事を祈るよ」
そんな会話を終えた次の日、第一拠点に到着した。
◇ ◇ ◇
俺はマップ機能を使って、第一拠点を見渡す。中央の黒い塔を中心に大通りが十字に伸びていた。道は整備され、家々は中心に向かうほど高く頑丈になり、逆に外壁近くは雑多な素材で作られていた。
北側は工場なのだろうか? 煙突から噴き出す煙が見られる。西の船着場近くには、鉄製品のようなものが山積している。南と東のエリアは住宅や商店が多いようだ。
「おお! すげえ、スチームパンクだ!」
もちろん、蒸気なんか噴き出してたら、一瞬で凍って街中霜だらけだから! 雰囲気だから! だからそんな目で見ないでよシロさん。
「おい、クラビスと……シロはどこだ?」
ゼノビアが声を掛けてくる。
……何言ってんだ? シロなら隣にいるのに……。
「ふぁ……すみません、認識阻害の魔法を使っているので。白色魔導士だからか、依頼の声が多くて疲れるんですよ」
シロが応えると、ゼノビアは一瞬驚いた。たぶん、いきなりシロが現れたように見えたんだろう。
「あ、ああ、そうか。とりあえず、ついてこい」
「どこに?」
あれか? 入隊の手続き申請みたいな面倒くさい書き物か?
「いやなに、お前達に、妹を紹介しておこうと思ってな。妹は技術者で、色々作ってくれるからな。今付けてる物理結界の腕輪は軍用だから、街用の耐寒の腕輪が必要だろう? 私から妹に頼むから、作ってもらえ」
妹がいたのか。とりあえず、書き物ではないなら万々歳だ。
「俺も連れてってくれねえか? コイツの調子を見てもらいてえんだ」
背中の黒い武器を見せながら、パテラスが声を掛けてきた。
「ああ、もちろんだ。妹は、そういう武器が大好きだからな。……シロは、もう認識阻害を再開したのか」
そんなこんなで、俺達はゼノビアについて行くことにした。なんで俺だけシロの認識阻害が効かないのか謎だが……あれか? シロが俺のナビゲーターだからか?
◇ ◇ ◇
「あぁ、そこの白色魔導士さん、ちょっとお願いがあるんだが」
クソ暑い街中を歩く事数分。歩き始めて数分黒い外套に身を包み、この世界で未だに見たことのない、懐中時計のような物を腰に2つ吊った男が声を掛けて来た。
しかも、認識阻害してるはずのシロに。シロはかなり驚いたようで、目に見えて動揺していた。
「……な、んの御用で、すか?」
言葉が途切れ途切れで、眠気も吹き飛んだのか欠伸もしていない。
「そんなに驚かないでくれよ。昔に頼んだだろう? この石と指輪にそれぞれ"願い"と"無限"の魔法を頼むよ」
その男の言葉に、シロは目を丸くし、納得したように微笑む。
「ああ、懐かしい話ですね。もちろん、喜んで魔法を込めさせていただきますね!」
そう言って、仄かに金色に光る石と、ヒビの入った真っ黒な指輪を受け取る。そして杖を出して放り投げると、杖が例の回転を始める。10数秒後、シロは透明になった石と、ヒビから緑の光が漏れる指輪を、男に返した。
「……たしかに。お代はこれだったか。あー、それと坊主」
男は黒い金属片のようなものをシロに渡してから、俺の方に向き直る。そして、ガシガシと頭を撫でられ、踵を返して去っていた。妙に懐かしいような、親近感を覚えるような雰囲気だった。
……なんだアイツ。
「シロ、知り合いだったのか?」
「ええ。古くて新しい知り合いです」
シロは、にこやかにそう応えた。
なんだそりゃ。
えと、こんにちは、作者です。
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ゼノビアですが、勝手に休暇を取り、仕事を押し付けた行きました。
今回は……ちょっとした戦闘回でしたね。
あ、どうしよう。すごく手直ししたい。なんか、戦闘シーンが単調なんですよねー
まぁ、どうにかしときます(次の戦闘までに)
次回は……あぁ、流血回ですね。ゼノビアがまた休むかも
ではでは〜




