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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第0章 冒険が始まるちょっと前の話
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第8話 〜小さき体、その背中は大きく〜

 大蛇との戦闘が終わり、約半日がたった。ハルナは休みながら、シースとティルを見守る。


 しばらくすると、ティルが目覚めた。


「ふぁ?あれぇ?寝てた?僕……」


「お、起きた。本日2回目のおはよーね!」


 横を見ると、シースもぶっ倒れていた。ティルははっとし、右頬を抑える。


「あっははははー。何よ。あたしを何だと思ってるのよ!」


 ハルナはもう一度ビンタしてやろうかと、目の奥をきらめつかせながら話す。


「い、いいや、ハルナはそんな人じゃないって知ってるよ!!」


「ふ〜ん。なら、よろしい!」


 ふぅ……と、ほっとし息を吐くと、隣からゴソッと音がする。どうやらシースも起きたようだ。


「だいぶ寝ちゃってたみたいだね」


「あれからもう半日よ」


「「半日!?」」


「どうしよう!ソフィア!!」


「まあまあ、落ち着きなさいって」


「なんで起こしてくれなかったのさ!」


 すると、ハルナはティルにデコピンをする。


「アイテッ」


「あんたねぇ…………。もし先でソフィアちゃんがあんなやつと戦ってるとしたらどうするつもりよ。ソフィアちゃんの目の前で死ぬつもり?何?変なトラウマでも植え付けたいわけ?」


「いや、そんなことは…………」


「そうだね。はるなの言う通りだね。どう?落ち着いた?」


「…………うん」


「まあ、なんにせよ、これ以上ここにいてもあれだし、先に行くか」


「でも、どうやって進む?出口なんかないよ?」


 すると、ハルナは目を2回、ぱちくりとさせた後、ティルとシースの後ろを指さし、言う。


「ほら、後ろ」


 後ろをみると、入ってきた時と同じような見た目の扉があった。


(迷ってる暇はないよな!!)


「じゃ、いこう!!」


「うん!」

「おう!」


 と、扉に手を掛けると、頭の中に声が響く。


[勇敢なるものたちよ。貴様らは今何を望む。力か、権力か、金か……それとも、貴様らの目指す、その中心とやらか。]


「今の、聞こえた?」


「うん。なんか変な感じよね……」


「背中ゾワッてして気持ち悪かった」


「で、どうする?なんか話し方的に何かくれるっぽいけど…………」


「ふんっ。そんなの決まってるじゃない!」


 シースの方を見る。


「え?俺に聞くの?この状況で欲しいのなんて、ひとつしかないじゃん……」


 3人は顔を合わせ、頷き、ティルは扉に手を掛ける。


「今、俺たちが望むのは、ソフィアとの合流だ!!」


[なるほど、己のため出なく、友のために願うか。]


 すると、扉は開く。


(よし、待っててよ!ソフィア!)


 3人は扉をくぐる。


[待て、そこの少年よ。]


 ティルは後ろを振り向く。


「どうしたのよ?ティル」


「何か忘れ物でもした?」


「いや、さっきの人の声が……」


「何よ?また幻聴?」


「まだ疲れ残ってるなら、もうちょい休む?」


(あぁ……またこの展開かよ。もう良いよ。辞めて。ホントにやめて?)


[すまぬな。だが聞け。これはそなたへの警告だ。これより先、そなたに待つのは、決して明るい未来では無い……。引き返すなら今のうちだ。それでも進むか?]


 ティルはひとつの迷いもせず、心な中で即答する。


(もちろん!)


[迷いはなしか…………。よろしい。そなたがそう言うなら私に止める理由は無い。だが、決して己を見失うなよ。]


(…………見失う?)


[まあ、今のそなたにはわかるまい……だが、その時になれば分かる。]


(ふんっ。ご助言どうも!!)


 ティルは2人を追い、扉をくぐる。



 -----------------------------


 一方、ソフィアサイド…………


「姐さん……もういいですって……」


「うるさい!喋らないで!!」


 3人組の男のうち、アニキと呼ばれていた男がソフィアの治療を受けていた。ソフィアの両手から出現する光により、男の傷はみるみる回復していく。


(この光、不思議な温かさだ。それに、治癒力も異常過ぎる……。)


 リーダーと言われていたこの男、名はガルドというらしい。そして、前線で戦う手下2人のうち、細めで素早いのがギル。ガタイが大きく、耐久力があるのが、グルと言う。

 ガルドは周囲を見渡していると、退却出来そうな道を見つける。と同時にソフィアの治療も完了する。


「ありがとうございます。姐さん」


「は、はい…………」


 ソフィアは少し顔を赤らめ、俯く。


「どうしたんです?姐さん?」


「そ、その…………【あねさん】と言うのはやめてください……恥ずかしいです……。というかその態度の代わり用、気持ち悪いです」


 男はふっと笑う。


「そりゃあ無理な話です。あんたは俺の、いや俺達の命の恩人だ。姐さん以外に呼ぶ気はないですぜ」


 ソフィアはあからさまに嫌な顔をし、そっぽを向く。


「まあ、それははておき姐さん。あそこの壁見えますか?」


 と、指を指す。ソフィアは穴に気付き、首を縦に振る。


「俺が時間を稼ぎます。姐さんはどうか、ギルとグル連れて、あそこへ………」


「ダメ」


 ガルドが提案をすると、一瞬の間を置くことなく拒否をする。


「なぜです……」


「私の周りで………私のせいで他の人が死ぬのは嫌……」


「でも、それじゃあ、全滅しちま…」


「嫌なものは嫌!逃げるのなら全員。それか、あいつを倒すかのどっちか!!」


 すると、前方から細めの男性、ギルが吹き飛んでくる。


「そうだぜアニキ!俺らが、アニキを置いて逃げれるとでも?そんなのできるなら、既にやってます」


 グルもゴーレムの攻撃を受止め、こちら側に足を滑らせながらやってくる。


「それ以上、俺たちのために自分が死ぬって言うなら、俺はもうあんたを兄貴と呼ばない」


(お前ら…………。ふん。分かったよ。)


 男は目を瞑り、少し間を置き言う。


「お前ら!!気ぃ張れよ!!!姐さんの前で死んだら承知しねえぞ!!」


「「応っ!!!」」


 ソフィアはクスッと笑い、ゴーレムに目をやる。


(うん。ダメージは入ってる。それにあそこの胸の亀裂にある宝石みたいな物………。)


 4人の激しい攻撃により、ゴーレムは既にボロボロの状態。体のいたる所に亀裂が入りつつある。


「あ〜れま〜。コアがむき出しになってら!お前ら、分かってんな!」


「「応ッ!!」」


 と言うと、ギルとグルが飛び出す。グルが、攻撃を受止め、ギルが足止めをする。


「姐さん!最後、任せましたよ!」


 ガルドも2人に続き、ゴーレムの元へと行く。


(大丈夫。私なら決めれる、外さない!)


 ソフィアは胸に手を当て集中し、魔法を唱える。すると、杖の先端に光が集まり、槍状の光の塊が形成されていく。


 一方、ゴーレムと3人の攻防は続いている。ガルドとギルは果敢に胸を狙い、ソフィアの的を広げる。だが、3人ともギリギリなのか、徐々にゴーレムの攻撃に押されていく。


 ここで、ソフィアの魔法が完成する。目を開き、ゴーレムのコアへと狙いを定める。


「行けます!!!」


 すると……


「ギル!グル!」


 3人は目を合わせ、頷く。ガルドの声を聞くと、グルは両足を両手で抑える。ガルドとギルは、鎖のようなものを取り出し、それをゴーレムの腕へと巻き付け、片手づつ抑える。


「「「ウォーーラァーーーっ!」」」


「姐さん!!今です!!!」


 ガルドはこちらを見つめている。ソフィアを信じている、そんな真っ直ぐで純粋な目だった。


 ソフィアは杖を構え、魔法を放つ。光の槍と呼ばれる、魔法だ。



<光の槍[タクト]>

 光を集め、槍状に形を作り放つ魔法。1点集中型の魔法で威力、貫通力に優れる。


 光の槍は、真っ直ぐゴーレムの胸へと突き刺さる。3人はコアに魔法が刺さるのを確認し、距離を取る。だが、グルは動かない。いや、動けなかった。


「アニキ、すんません……。もう体動かないッス」


「ったく…………。おいギル!」


「了解!」


 ガルドとギルは、グルを背負いながら退避する。その後、ガルドはゴーレムを確認する。


「おいおい、こりゃまずいんじゃないの?」


 ゴーレムは倒れてはいなかった。ソフィアの攻撃はコアに突き刺さるが、破壊するまでには至らず、ヒビを入れただけであった。


 ゴーレムは最後の足掻きと言わんばかりに、3人の目の前で正面で停止し、拳を振り上げる。


(姐さん。すんません……。)


 ガルドは覚悟を決める。


(やっぱ俺は、こいつらが死ぬのが、一番無理なんすわ!!)


 ギルとグルを思いっきりぶん投げる。


(グル、お前重すぎだっつの!)


「アニキーーーッッ!!」


(お前ら、姐さん任せたぞ!)


 と、己の死を受け入れ、目を瞑る。


 ドゴーーーーーン!!


 部屋には激しい衝突音が鳴り響く。ガルドは音がなりやむと、自分が生きていることを認識し、目を開ける。


「…………姐さん」


 目の前にあった光景は、ソフィアが光の壁のようなものを作り出し、ゴーレムの攻撃と競り合っいる姿であった。


「私は言った。絶対死なせないって!!」


 だが、ゴーレムの攻撃は止まらない。光の壁にパキパキと徐々にヒビが入り始める。


「早く逃げて!!今のうち!!」


「ダメッす!」


「なんで!!」


「ここで逃げたら、俺は胸を張って外歩けねぇ!2度も助けてくれた人、見捨てて逃げるなんてよ!」


「でも!!」


「ここで逃げるなら、死んだ方がマシだぁッ!!!」


 ガルドはソフィアの作る壁に手を掲げ、己の持つ魔力を全て注ぎ込む。すると、壁は強度を取り戻し、ゴーレムを後方へと押し始める。


(なんだ、一か八かだけど、やって見りゃできるもんだな……しかしな………)


 そう。ゴーレムを受け止めるのは出来たものの、倒すためのあと一手が足りない。


(どうスっか、姐さんを掴んで逃げる?無理だな、壁消しちゃ、潰されるだけだ……。ん?なんだありゃ?)


 すると、ゴーレムの後ろに、謎の扉が現れるのが見えた。どうやらソフィアもそれに気付いたようだ。


 直感だが、それは自分たちの助けであると感じた。特に理由は無いが、そう感じたのである。


「ガルド!最後!!いくよ!!」


(やっと名前で読んでくれましたか……)


「応ッ!!!」


 扉をくぐる何かがゴーレムに向かう。最後まで気を抜かず、壁を支える。


「姐さんっ!ここ出たら!一生ついて行きます!!」


「……ごめん。それは無理」


「へいへい!!」



 -----------------------------


 ティル達は扉をくぐると、ゴーレムの攻撃を受け止めるソフィアと、謎の男の姿を見つける。


「ソフィア!」

 

 と、ティルは脇目を振らずに突っ込む。


「あいつっ!ハルナ!援護するよ!」


「了解!」


 シースは、ゴーレムの核がむき出しになっているのが目に入る。更に、ヒビが入っているのにも気づく。


(なるほど、あと少しなわけだっ!)


 そして、コアに向け魔法を放つ。


「ティルーー!打つぞーー!!」


 ティルは背中を向けたまま、片手でOKのサインを送る。


 そのまま、シースとコアの射線を避けるようにゴーレムの横へと走り込む。


「ハルナ!念の為、ティルのサポート!」


「もう準備してるわよ!」


 ハルナはティルが助走をつけ、飛びかかるのを確認する。


(ここ!)


 ティルの速度、ゴーレムとの距離を把握し、最適解の場所、タイミングを図り光の魔法を放つ。


(すごっ!!これはカンペキすぎる!ナイスハルナ!!)


 シースの魔法がゴーレムを直撃する。コアにさらにヒビが入るが、それでもゴーレムは止まらない。最後の力をふりしぼり、ソフィア達をさらに攻撃する。


 ティルはハルナの放った魔法をキャッチしようとし、剣で魔法に触れる。がしかし、そのままハルナの放つ魔法は、過ぎ去ってしまう。


(あら?取れなかった。やっぱり炎の魔法じゃなきゃダメなのかな?なら、いいや。あっち使う!)


 ティルはそのままゴーレムの足元に着地し、コアに直撃したシースの炎魔法の散らばった火を剣に集めさせながら、垂直に飛び跳ねる。


 そして、ゴーレムの頭を踏み台に、体をひねりながら更に上昇すると、回転しながら落下する。


 大蛇の時と同様、シースの炎×ティルの自重×回転力で、ゴーレムに最大火力を叩き込み、コアごとゴーレムを真っ二つにぶった斬る。


「はい!!おしまい!!」


 すると、先程までゴーレムだった物は地面へ転がり、岩や壁の残骸へと戻る。


「遅くなってごめん!迎えに来たよ!!」


 こうして、遂にティル達とソフィアは、合流することが出来た。


(すっげぇや。あのゴーレムを真っ二つかい。)


 どうやら、ソフィアの他に後3人ほど、兄貴分と呼べる存在が増えたようだ。


(俺もな、こんくらい強かったら…………)


 意識が飛びそうな中、目の前のゴーレムを倒した男から、声をかけられる。


「君がソフィアを守ってくれたんだね!ありがとう!」


(おいおい、ふざけんなよ、こいつ……。俺よりも小さい癖に、でかいじゃんよ。)


 と意識が薄れる中、その小さい体に今まで出会った誰よりも大きな背中を感じ、ゆっくりと気を失う。


 気絶している3人を広がっているスペースに集め、ソフィアとハルナが治療を施す。その後、ソフィアはティル達にこの部屋で起きたことを説明した。


「ふーん。ガルドにギル、グルねー」


「え?じゃ何こいつら。あたしのソフィアちゃんを襲うつもりで近づいたってこと?」


「ま、まあ、でも、最後は助けてくれましたし……私はもう……」


「ダメよ!!そんなの!!ソフィアちゃんが許しても、あたしは許さないから」


「まあ、いんじゃない?体張って守ってくれたわけだし」


「そうだよ。許してあげようよ」


「ま、そうね。減刑までなら考えるわ」


 ハルナは、ソフィアを襲おうとしたこの3人に、何をしてやろうかと頭をぐるぐるさせる。


「まあ、とりあえず、この人達起きるまで待ちますか」


「はいっ!」


 ティルが提案をすると、ソフィアはやや笑顔で返答する。どうやら、一緒に死線を超えたせいか、ソフィアはこの3人組を気に入ったようだ。


 こうして、ティル、シース、ハルナ、ソフィアは、ガルド達3人が起きるのを待ち、7人でこの遺跡を攻略することにした。



 -----------------------------


 そして、話は遺跡の入口へと変わる。


 ティル達が順調に進んでいる中、遺跡の入口に2人の影があった。黒いローブを被った男と、スーツのような洋風の服を身に纏う男。


 そして、その周囲にはギルドの職員だろうか、今回の試験に配属された、冒険者の死体の山が築かれていた。


「ふーん。手応えがありませんね〜」


「…………」


「あなた、何か喋ってくださいよ。いくら私でも寂しさは感じるのですよ」


「やだよ。君たちとは、利害が一致したから共に行動してるだけ。別に君と仲良くするつもりは無い」


「そうですか、残念です」


 すると、ギリキリ息のある冒険者が声を上げた。


「お前ら……、その紋様、【創星会】だな……」


「俺は違う。良かったね。喋る相手ができて」


「残念ながら、私はこの星を侵す、ゴミ共と話す懐の深さはありませんので、」


「ふーん」


 と、ローブを羽織る男は、遺跡の入口へと向かう。


「グァッ……」


 もう一人の男も、冒険者にトドメを指し男の後を追う。


「置いていかないでくださいよ、【運び屋】さん……」


 2人は、遺跡へと足を踏み入れ、試験が始まった謎の広間へと向かう……。嫌々ながらメイアの話を聞く、フリアエがいる広場へと…………。


 第8話 「小さき体、だけどその背中は大きく」 〜完〜

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