表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
守国遂行編 〜世界の歌姫と戦慄のラストパレード〜
67/68

第3話 〜歌姫〜

お久です。

ちょっとした日常パートですが、


どそ、お楽しみをッ!!

 出立の日まであと2日。旅の準備と体の調整を言い渡された3人。一先ずはと、旅の支度をするため、街中を巡ることにした。


 約束の時間は10時30分。場所は協会前の噴水。目的地が見えてくると、そこには何やら楽しそうに話すレオーネとソフィアが居た。


(うわ、2人共もういるし、早ぁ……)


「お、やっと来た。遅かったじゃねぇの」


「そうだね……え!?遅い?」


「ああ、遅いさ。……その顔、お前わかってねぇだろ?ま、覚えとけ?」


「と言うと?」


「女またせた時点で男の落ち度、だ」


「そう言ってまた……僕のことおちょくりたいんじゃないの?」


(ま、頭の片隅には置いとこうかな……)


「はぁん、お前知らねぇかんな?後で後悔してもごねんなよ?」


 そんな、いつものふたりの光景を見たのか、後ろの方でくすくすと笑う声が聞こえてくる。


「ん?どうかした?」


「こういうの、久しぶりだから。なんだか仲の良い兄弟見てるみたいで。ちょっとだけね?」


 ソフィアの一言に、ティルとレオーネは一瞬目を合わせる。


「あ?そうか?」


(兄弟ねえ……)


 兄弟と言えば、そういえば……


「っ()ッ……」


 ティルは急に来た頭痛に頭を抑え、ほんの少しだけよろける。


「どした?」


「ごめん、ちょっとだけ頭が」


「あぁん……大丈夫?歩けるか?」


「うん。でも、ちょっと休みたいかも」


「なら、まだ時間はあるし、あそこでゆっくりしよっか」


 その後、ちょっとした休憩の(のち)、3人は冒険者の街・東区へと駆り出す。


 ・・・


「お前、本当に大丈夫か?」


「うん……まぁ、この間は大分無理しちゃったし、その影響かなぁ……」


「そうかもねぇ」


「だろうな。ま、ハイドのやつも言ってた通り、明日までには何とかしねぇと。何が起こるかわかんねぇぜ?なんせ、()()お姫様なんだからな」


「ハハハ……ソウダネ……」


 ソフィアは『あのお姫様』という言葉を聞いた瞬間、何かを思い出したように目から光が消える。


「ほら見ろ、ソフィのこの目。ほんと、何があるか分かんねぇと思うぜ」


(なるほどねぇ……)


「ま、そうだね。今日はあんま遅くまで居ないで、早めに帰ろっかな」


「だな」


 とまぁ、こんな感じでゆる〜くだべりながら、東区を歩き回り、必要なものを揃えていく。


 しばらく歩くと、辺りはすっかり夕暮れ時。町は、赤と藍色の混じり合う綺麗な色に包まれ、カラスも子供の帰る時間を告げ始める。


「ま、後はアタシとソフィで処理しとくからよ、お前はもう帰んな」


「うん、ありがとう。今日はその言葉に甘るかな」


「じゃぁ、明日から♪」


 ティルはそう言うと、帰りの挨拶を背中で受止め、ゆっくりと宿へと向かい始める。


 ・・・


(一体、何だったんだろうな……)


 正直なところ、体の疲れは一切無い。あの頭痛も、休んだ後は特に気にならず、本当にあの一瞬だけの事だった。


 今までになかった事だし、特に病気でもない気がする。やっぱ、ハイドとの戦いで全力出しすぎた影響なんだろうな……そう思い始めた頃、何やら背中越しに変な気配を感じる。


「見ぃつけ……」


(ん、みいつけ……?)


「たッ!!」


 そんな、背後からの大きな美声とともに、両肩へと重たい衝撃が伝わる。


「え!?だ……で、ディー?」


「はいはいこんばんは〜♪みんなのディー様ですよ〜っと」


 あまりの驚きに振り返ると、そこにはディヴィアの姿があった。だがそれはおかしい、今日は1日中イヴと一緒のはずで、夜まで予定がある。そう聞いていた気がするが?


「今日って確か……」


「大丈夫大丈夫♪身代わりも置いてきたし。あたしの魔法でちょいちょいっ♪とね〜」


「は、はぁ……」


 うぅむ、だがしかし。どうしよう、本当にこのまま放置して良いのだろうか?また、イヴに怒られるのでは?そう頭によぎるティル。


だからと言ってここで放って置くと、それもまた面倒臭いことになる気もしなくは無い。


 だとすれば、とる手段はただ一つ。いち早くイヴ、または魔研へと連絡を取らなければ……。


「とりあえず、歩きましょっか」


 そう、さりげなくギルドへと誘導するも……


「ダメ、そんな手には乗らないよ?」


(ダメか)


 上手いこと行かずに、速攻でバレる。なら仕方がない。とりあえず、これ以上ややこしい事にならぬよう、監視することへと考えをシフトする。


「そういえば、見つけたって?」


「あぁ、そうそう。多分、君と2人っきりになれるタイミング、今がラストチャンスだぁって思ってね」


「2人って……僕?」


「そそ。とりあえずさ、静かなところにでも行こうよ。他の人に聞かれたくないことだったりするし。勿論、君にとってもね。特に……」


 ディーはそう言うと、街の影にいる怪しい姿の人をちらっと見る。


(あれは確か……月ノ神(ルナ)教の……)


「ま、いいや。はい、とりあえずこれ」


 ディヴィアはそう言うと、ティルに認識阻害のリボンを渡し、装着するよう促す。


 まぁ、なんだ?ここでこの人を1人っきりにする訳にも行かないし。最悪、これが終わったあとに魔研に届ければ大丈夫だろう。


 そう、嫌々ながらも納得し、黙ってディーの背中を追っていくことに決めた。


 ・・・


「よし、着いた♪」


 案内された場所は、魔国のほとんどが見渡せる高台。途中、合法か非合法かも分からない場所を通ったりもしたが、まぁうん。多分大丈夫なのだろう。


「やっぱここだよねぇ。人目を気にする必要も無いし」


「……ってことは、前もここに?」


「うん。あれはいつだったかな……。あ〜、多分私がこの国から出ていった最後の日かな?」


「国から出たって……」


(一体何があったんだよ……)


「ま、色々あったんだよ。色々とね」


「な、なるほど……」


「あん時はそうだったな。確か君のお母さんと一緒だったかな?」


(お母さんねぇ……)


「え!?お母って!?」


「え、いや、そんな驚くこと?」


「え、いやだって」


「君のお母さん、『ゼシリア』。そう名乗ってるんでしょ?なら間違いないよ。私も、君のお母さんも、元々魔研の人間だしね」


(え、何て?魔研?ってあの?というかこの?だって、えぇ……)


 自分の母は、この国の有名な人、かつ最高戦力とも呼べるあの【魔術研究所_元団長(アリス・スクレアーテ)】を殺した相手だ。そんな相手が、この国の人間。それどころか、元は魔研の人間だって?


 ……まぁ確かに。言われてみれば、だ。今思えば、あの時のネロ顔、反応、迫力。その全てが頷ける。


「ま、私達のことなんてどうだっていいんだよ。私が聞きたいのは君達の事」


「僕たち?」


「そ。今日ずっと見てたよ?随分と楽しそうだったじゃん♪」


(ずっとって……ん?)


 確か……うん。確か今日は……あぁ、これはもう考えちゃ行けないやつだ。……相手はこの人。恐らくこれ以上は全てが無駄だ。


 そう判断したティルは、そこで考えるのを辞めた。


「まぁ、なんて言うのかな……。君は、あの子のこと、()()思ってんのかな?」


「あの子って……ソフィアのこと?」


「そ♪」


(ソフィアかぁ……ソフィアねぇ……)


 ティルはソフィアに対し、どう思っているのか。自分でも少し分からずにいた。まぁ、顔は整っているし、優しいし、なんだかんだずっと一緒にいるし。


 一緒に居て苦ではない上、もはや合わない日の方が少ないまである。なんなら一緒に戦うことに関しては、ココ最近で1番楽しかったりもするし。


「うぅん……どうだろうな……」


 かと言って恋心を抱いていると言えば……そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれない……。


「わっなんないや……。まぁ、気の合う冒険仲間ってとこかなぁ……」


「ふぅん……じゃあさ?好き〜とか、嫌い〜とか。そういうのは?」


「好きか嫌いかって言われれば、どっちかって言うと好き側になるんだと思う。でも、なんだろうな……そう言う、女の子として好きかって言われたら?なんとなぁく違う気がする」


「なるほどねぇ…………ま、そうだよねぇ」


 そんな、ため息混じりに言葉を吐くディヴィアは、ほんの少しだけ、悲しい顔を浮かべていた。


「……ディー?」


「…………あ、いや。なんでもないよ。ごめんね?別に、そんな気持ちにさせる為に、ここまで来てもらった訳じゃないんだけどね?」


 一瞬、上の空だったディヴィアも、ティルの掛け声でふと我に戻る。


「まぁ、これはちょっとした昔話なんだけども…………聞く?」


 ティルはディヴィアの急な提案に、まぁ聞くだけならと、首を縦に振る。


「ふふふ……、ありがと。もうこんな時間だし、手短に話すよ」


 ディヴィアはそう言うと、落下防止用の柵に手を着いていた状態から半回転。背中を掛け、逆手で手すりを握り、空を見上げながら話し始める。


(うわぁ流石は歌姫……。絵になるなぁ)


 そんな、景色とその美貌も相まり、思わず一瞬我を忘れる程であった。


「ま、なんて言うのかな……。私にも、君とソフィアちゃんに似たような関係の人がいたんだ」


(ふぅん、それはそれで意外な……)


「私って、ちょっと()()()()()でさ?昔、住んでたところで、閉じ込められてたんだよね。所謂監禁みたいなやつ」


「監禁!?」


「あ、誤解はないように言っとくけど、どちらかっていうと、自分の意思でそこに閉じこもってた。ま、村全体の意向でもあったんだけどね〜」


「な、なるほど……」


(お、重いよ……)


「その時、私を助けてくれた……というか、私の生き方、考え方を変えてくれた人がその人。村を出てからは、2人で世界を旅しながら、色んなことを見て、体験して、う〜ん……まぁ、成長して行った。って言うのかな?自分で言うのは違う気がするけども」


 ディヴィアは、軽く笑いを混じえつつ、話を続ける。


「あの時は楽しかったなぁ……。今でも忘れられない、今まで生きてきた中で最高の時間。そう思える程の旅だった」


「ってことは……」


「そう。そんな都合のいい事なんて続かないみたいでさぁ……。悲しくなっちゃうよね?ほんと」


「まぁ、そうだねぇ……」


「んで、色々やりきった後のある日。その人は新しい目標を立てたんだ」


「目標?」


「うん。まぁ、一言で言うと、『私を助ける』そんな感じかなぁ……。言ったでしょ?私、ちょっと特別な体質って」


(たしかに、最初にそんなことも言ってたような……)


「そしたらさ、知っちゃったんだ。知りたく無かったこととか」


「…………」


「そうだねぇ……。それまでは、彼の事が好きで、好きで好きでたまらなかった。離れ離れになることなんて、絶対したくない。彼の為なら全てを捧げられる。ってくらいには。……多分だけど、彼もそうだったんじゃないかな?そうだったと思うよ?うん」


(おぉ、なんてあっちっちな……)


「でもね、その日。色々なことが分かっちゃった。でも、……その代わりに、大切な物が見えなくなった。私のこの気持ちが、本当に()()()()()なのか。それとも()()()()()()()()()の、この気持ちなのか……」


(…………)


「それ以来かなぁ……彼と会わなくなったのは。まぁ、どっちかって言うと、彼が私の元から居なくなっちゃったのは」


「その人はまだ?」


 ティルの質問に、ディヴィアは静かに、1度だけ頷く。


「きっと、まだ追ってるんじゃないかな?可能性を」


「ってことは、まだディーのことを気にしてるってことだ」


「そうだねぇ。そう願って、こういう考えをしてるだけかも。……だけどこうして、いつでも待ってる。私はここに居るよーって。その人に伝える為に始めたのが、この稼業なんだよね」


「なんか……ディーって意外と凄いんだね……」


「まねぇ〜♪」


(……あれ?)


「でも、なんか最後って言ってなかった?確かそんな名前のライブじゃ」


「……そうだね。まぁ、いっか。君になら伝えても……」


「……と言うと?」


 ディヴィアはティルへと体を真っ直ぐ向けると、今までにない真剣な表情で一言だけ告げる。


「私、もう歌えなくなるみたいなの」


 それって――――


「ま、理由は色々あるさ」


 何故だろうか。ティルはどこか、これからいずれ来るであろう未来に、何となく、どことなく虚しさを感じでしまう。


「いずれ君も。この問いにたどり着くんだろうね。だけど、まだその時じゃない。これに関しては、君達がもっと成長して、その上で君達自信が見つけ出して、君達自身が導き出して行くべきものなんだと思う」


(…………)


「ま、かく言う私も、まだまだ迷走中なんだけどね?……っと。ちょ〜っと、喋りすぎちゃったかな?じゃ、そろそろ帰りますか」


 ディヴィアはそう言うと、ティルの手をガシッと掴み飛び降りる。その後、夜の冷たい風に当てられながら、ゆっくりと下へと降り、人の居ない広場へとたどり着く。


「ま、色々話し込んじゃったけどさ?明日から護衛頼んだぞ!冒険者さん♪」


 そんな、The・アイドルのような、全力の笑顔とポーズ。こんな暗闇の中でも一際輝く存在の、そんな別れのワンフレーズ。


 しかし、振り向き歩いていくディヴィアの背中には、どこか切なさ、寂しさを感じてしまうのであった。


 第3話 「歌姫」 〜完〜

今回も楽しんでいただけたでしょうか?


まぁ、物語もだいぶ進みましたし、

物語の根幹の部分も入れ始めて行こうかなと思ってとります。


では、次の話出逢いましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ