第3話 〜歌姫〜
お久です。
ちょっとした日常パートですが、
どそ、お楽しみをッ!!
出立の日まであと2日。旅の準備と体の調整を言い渡された3人。一先ずはと、旅の支度をするため、街中を巡ることにした。
約束の時間は10時30分。場所は協会前の噴水。目的地が見えてくると、そこには何やら楽しそうに話すレオーネとソフィアが居た。
(うわ、2人共もういるし、早ぁ……)
「お、やっと来た。遅かったじゃねぇの」
「そうだね……え!?遅い?」
「ああ、遅いさ。……その顔、お前わかってねぇだろ?ま、覚えとけ?」
「と言うと?」
「女またせた時点で男の落ち度、だ」
「そう言ってまた……僕のことおちょくりたいんじゃないの?」
(ま、頭の片隅には置いとこうかな……)
「はぁん、お前知らねぇかんな?後で後悔してもごねんなよ?」
そんな、いつものふたりの光景を見たのか、後ろの方でくすくすと笑う声が聞こえてくる。
「ん?どうかした?」
「こういうの、久しぶりだから。なんだか仲の良い兄弟見てるみたいで。ちょっとだけね?」
ソフィアの一言に、ティルとレオーネは一瞬目を合わせる。
「あ?そうか?」
(兄弟ねえ……)
兄弟と言えば、そういえば……
「っ痛ッ……」
ティルは急に来た頭痛に頭を抑え、ほんの少しだけよろける。
「どした?」
「ごめん、ちょっとだけ頭が」
「あぁん……大丈夫?歩けるか?」
「うん。でも、ちょっと休みたいかも」
「なら、まだ時間はあるし、あそこでゆっくりしよっか」
その後、ちょっとした休憩の後、3人は冒険者の街・東区へと駆り出す。
・・・
「お前、本当に大丈夫か?」
「うん……まぁ、この間は大分無理しちゃったし、その影響かなぁ……」
「そうかもねぇ」
「だろうな。ま、ハイドのやつも言ってた通り、明日までには何とかしねぇと。何が起こるかわかんねぇぜ?なんせ、あのお姫様なんだからな」
「ハハハ……ソウダネ……」
ソフィアは『あのお姫様』という言葉を聞いた瞬間、何かを思い出したように目から光が消える。
「ほら見ろ、ソフィのこの目。ほんと、何があるか分かんねぇと思うぜ」
(なるほどねぇ……)
「ま、そうだね。今日はあんま遅くまで居ないで、早めに帰ろっかな」
「だな」
とまぁ、こんな感じでゆる〜くだべりながら、東区を歩き回り、必要なものを揃えていく。
しばらく歩くと、辺りはすっかり夕暮れ時。町は、赤と藍色の混じり合う綺麗な色に包まれ、カラスも子供の帰る時間を告げ始める。
「ま、後はアタシとソフィで処理しとくからよ、お前はもう帰んな」
「うん、ありがとう。今日はその言葉に甘るかな」
「じゃぁ、明日から♪」
ティルはそう言うと、帰りの挨拶を背中で受止め、ゆっくりと宿へと向かい始める。
・・・
(一体、何だったんだろうな……)
正直なところ、体の疲れは一切無い。あの頭痛も、休んだ後は特に気にならず、本当にあの一瞬だけの事だった。
今までになかった事だし、特に病気でもない気がする。やっぱ、ハイドとの戦いで全力出しすぎた影響なんだろうな……そう思い始めた頃、何やら背中越しに変な気配を感じる。
「見ぃつけ……」
(ん、みいつけ……?)
「たッ!!」
そんな、背後からの大きな美声とともに、両肩へと重たい衝撃が伝わる。
「え!?だ……で、ディー?」
「はいはいこんばんは〜♪みんなのディー様ですよ〜っと」
あまりの驚きに振り返ると、そこにはディヴィアの姿があった。だがそれはおかしい、今日は1日中イヴと一緒のはずで、夜まで予定がある。そう聞いていた気がするが?
「今日って確か……」
「大丈夫大丈夫♪身代わりも置いてきたし。あたしの魔法でちょいちょいっ♪とね〜」
「は、はぁ……」
うぅむ、だがしかし。どうしよう、本当にこのまま放置して良いのだろうか?また、イヴに怒られるのでは?そう頭によぎるティル。
だからと言ってここで放って置くと、それもまた面倒臭いことになる気もしなくは無い。
だとすれば、とる手段はただ一つ。いち早くイヴ、または魔研へと連絡を取らなければ……。
「とりあえず、歩きましょっか」
そう、さりげなくギルドへと誘導するも……
「ダメ、そんな手には乗らないよ?」
(ダメか)
上手いこと行かずに、速攻でバレる。なら仕方がない。とりあえず、これ以上ややこしい事にならぬよう、監視することへと考えをシフトする。
「そういえば、見つけたって?」
「あぁ、そうそう。多分、君と2人っきりになれるタイミング、今がラストチャンスだぁって思ってね」
「2人って……僕?」
「そそ。とりあえずさ、静かなところにでも行こうよ。他の人に聞かれたくないことだったりするし。勿論、君にとってもね。特に……」
ディーはそう言うと、街の影にいる怪しい姿の人をちらっと見る。
(あれは確か……月ノ神教の……)
「ま、いいや。はい、とりあえずこれ」
ディヴィアはそう言うと、ティルに認識阻害のリボンを渡し、装着するよう促す。
まぁ、なんだ?ここでこの人を1人っきりにする訳にも行かないし。最悪、これが終わったあとに魔研に届ければ大丈夫だろう。
そう、嫌々ながらも納得し、黙ってディーの背中を追っていくことに決めた。
・・・
「よし、着いた♪」
案内された場所は、魔国のほとんどが見渡せる高台。途中、合法か非合法かも分からない場所を通ったりもしたが、まぁうん。多分大丈夫なのだろう。
「やっぱここだよねぇ。人目を気にする必要も無いし」
「……ってことは、前もここに?」
「うん。あれはいつだったかな……。あ〜、多分私がこの国から出ていった最後の日かな?」
「国から出たって……」
(一体何があったんだよ……)
「ま、色々あったんだよ。色々とね」
「な、なるほど……」
「あん時はそうだったな。確か君のお母さんと一緒だったかな?」
(お母さんねぇ……)
「え!?お母って!?」
「え、いや、そんな驚くこと?」
「え、いやだって」
「君のお母さん、『ゼシリア』。そう名乗ってるんでしょ?なら間違いないよ。私も、君のお母さんも、元々魔研の人間だしね」
(え、何て?魔研?ってあの?というかこの?だって、えぇ……)
自分の母は、この国の有名な人、かつ最高戦力とも呼べるあの【魔術研究所_元団長】を殺した相手だ。そんな相手が、この国の人間。それどころか、元は魔研の人間だって?
……まぁ確かに。言われてみれば、だ。今思えば、あの時のネロ顔、反応、迫力。その全てが頷ける。
「ま、私達のことなんてどうだっていいんだよ。私が聞きたいのは君達の事」
「僕たち?」
「そ。今日ずっと見てたよ?随分と楽しそうだったじゃん♪」
(ずっとって……ん?)
確か……うん。確か今日は……あぁ、これはもう考えちゃ行けないやつだ。……相手はこの人。恐らくこれ以上は全てが無駄だ。
そう判断したティルは、そこで考えるのを辞めた。
「まぁ、なんて言うのかな……。君は、あの子のこと、どう思ってんのかな?」
「あの子って……ソフィアのこと?」
「そ♪」
(ソフィアかぁ……ソフィアねぇ……)
ティルはソフィアに対し、どう思っているのか。自分でも少し分からずにいた。まぁ、顔は整っているし、優しいし、なんだかんだずっと一緒にいるし。
一緒に居て苦ではない上、もはや合わない日の方が少ないまである。なんなら一緒に戦うことに関しては、ココ最近で1番楽しかったりもするし。
「うぅん……どうだろうな……」
かと言って恋心を抱いていると言えば……そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれない……。
「わっなんないや……。まぁ、気の合う冒険仲間ってとこかなぁ……」
「ふぅん……じゃあさ?好き〜とか、嫌い〜とか。そういうのは?」
「好きか嫌いかって言われれば、どっちかって言うと好き側になるんだと思う。でも、なんだろうな……そう言う、女の子として好きかって言われたら?なんとなぁく違う気がする」
「なるほどねぇ…………ま、そうだよねぇ」
そんな、ため息混じりに言葉を吐くディヴィアは、ほんの少しだけ、悲しい顔を浮かべていた。
「……ディー?」
「…………あ、いや。なんでもないよ。ごめんね?別に、そんな気持ちにさせる為に、ここまで来てもらった訳じゃないんだけどね?」
一瞬、上の空だったディヴィアも、ティルの掛け声でふと我に戻る。
「まぁ、これはちょっとした昔話なんだけども…………聞く?」
ティルはディヴィアの急な提案に、まぁ聞くだけならと、首を縦に振る。
「ふふふ……、ありがと。もうこんな時間だし、手短に話すよ」
ディヴィアはそう言うと、落下防止用の柵に手を着いていた状態から半回転。背中を掛け、逆手で手すりを握り、空を見上げながら話し始める。
(うわぁ流石は歌姫……。絵になるなぁ)
そんな、景色とその美貌も相まり、思わず一瞬我を忘れる程であった。
「ま、なんて言うのかな……。私にも、君とソフィアちゃんに似たような関係の人がいたんだ」
(ふぅん、それはそれで意外な……)
「私って、ちょっと特別な体質でさ?昔、住んでたところで、閉じ込められてたんだよね。所謂監禁みたいなやつ」
「監禁!?」
「あ、誤解はないように言っとくけど、どちらかっていうと、自分の意思でそこに閉じこもってた。ま、村全体の意向でもあったんだけどね〜」
「な、なるほど……」
(お、重いよ……)
「その時、私を助けてくれた……というか、私の生き方、考え方を変えてくれた人がその人。村を出てからは、2人で世界を旅しながら、色んなことを見て、体験して、う〜ん……まぁ、成長して行った。って言うのかな?自分で言うのは違う気がするけども」
ディヴィアは、軽く笑いを混じえつつ、話を続ける。
「あの時は楽しかったなぁ……。今でも忘れられない、今まで生きてきた中で最高の時間。そう思える程の旅だった」
「ってことは……」
「そう。そんな都合のいい事なんて続かないみたいでさぁ……。悲しくなっちゃうよね?ほんと」
「まぁ、そうだねぇ……」
「んで、色々やりきった後のある日。その人は新しい目標を立てたんだ」
「目標?」
「うん。まぁ、一言で言うと、『私を助ける』そんな感じかなぁ……。言ったでしょ?私、ちょっと特別な体質って」
(たしかに、最初にそんなことも言ってたような……)
「そしたらさ、知っちゃったんだ。知りたく無かったこととか」
「…………」
「そうだねぇ……。それまでは、彼の事が好きで、好きで好きでたまらなかった。離れ離れになることなんて、絶対したくない。彼の為なら全てを捧げられる。ってくらいには。……多分だけど、彼もそうだったんじゃないかな?そうだったと思うよ?うん」
(おぉ、なんてあっちっちな……)
「でもね、その日。色々なことが分かっちゃった。でも、……その代わりに、大切な物が見えなくなった。私のこの気持ちが、本当に私の気持ちなのか。それとも私と彼であればこその、この気持ちなのか……」
(…………)
「それ以来かなぁ……彼と会わなくなったのは。まぁ、どっちかって言うと、彼が私の元から居なくなっちゃったのは」
「その人はまだ?」
ティルの質問に、ディヴィアは静かに、1度だけ頷く。
「きっと、まだ追ってるんじゃないかな?可能性を」
「ってことは、まだディーのことを気にしてるってことだ」
「そうだねぇ。そう願って、こういう考えをしてるだけかも。……だけどこうして、いつでも待ってる。私はここに居るよーって。その人に伝える為に始めたのが、この稼業なんだよね」
「なんか……ディーって意外と凄いんだね……」
「まねぇ〜♪」
(……あれ?)
「でも、なんか最後って言ってなかった?確かそんな名前のライブじゃ」
「……そうだね。まぁ、いっか。君になら伝えても……」
「……と言うと?」
ディヴィアはティルへと体を真っ直ぐ向けると、今までにない真剣な表情で一言だけ告げる。
「私、もう歌えなくなるみたいなの」
それって――――
「ま、理由は色々あるさ」
何故だろうか。ティルはどこか、これからいずれ来るであろう未来に、何となく、どことなく虚しさを感じでしまう。
「いずれ君も。この問いにたどり着くんだろうね。だけど、まだその時じゃない。これに関しては、君達がもっと成長して、その上で君達自信が見つけ出して、君達自身が導き出して行くべきものなんだと思う」
(…………)
「ま、かく言う私も、まだまだ迷走中なんだけどね?……っと。ちょ〜っと、喋りすぎちゃったかな?じゃ、そろそろ帰りますか」
ディヴィアはそう言うと、ティルの手をガシッと掴み飛び降りる。その後、夜の冷たい風に当てられながら、ゆっくりと下へと降り、人の居ない広場へとたどり着く。
「ま、色々話し込んじゃったけどさ?明日から護衛頼んだぞ!冒険者さん♪」
そんな、The・アイドルのような、全力の笑顔とポーズ。こんな暗闇の中でも一際輝く存在の、そんな別れのワンフレーズ。
しかし、振り向き歩いていくディヴィアの背中には、どこか切なさ、寂しさを感じてしまうのであった。
第3話 「歌姫」 〜完〜
今回も楽しんでいただけたでしょうか?
まぁ、物語もだいぶ進みましたし、
物語の根幹の部分も入れ始めて行こうかなと思ってとります。
では、次の話出逢いましょう!




