第2話 〜戦場を奏でる者〜②
ども、お久しぶりです。
なんだかんだ言ってひと月もたってしまいました……。
ま、本当に申し訳無いって事で、
どぞ、お楽しみを!!
「はぁはぁ……もう、大丈夫かな?」
「うん、多分ね」
あれから走ること数十分。何とかハイドとの戦闘を離脱した2人は、少しづつでも体力を回復できるよう、若干ペースを落として前の方へと進む。
「と言うかさ……さっきの戦い、何?ちょっと無謀だったんじゃない?」
ギロリ……
(目が、怖いよソフィア……)
「ははは……まぁ……熱くなっちゃったと言うか……」
「それで?」
流石、あのイヴさんの教え子だ。ティルはソフィアの放つ眼光に、どこか覚えがあった。
「行けるって思っちゃったっていうか……」
「ふぅん」
やめて欲しい、そんな言葉をそんな冷たい顔で発さないで欲しい……。ティルは不思議と、心のどこかにつき刺さる痛みを、グッと我慢する。
「……ごめん。周り、見えなくなってた!!」
「はぁ…………。だと思った」
ティルの元気で純粋な回答に、ソフィアの顔からは卑下の色が無くなった。……そんな気がした。
「でもなぁ、ホント。行けると思ったんだよなぁ〜」
(ま、ソフィアの援護ありきだったんだけどね)
そんな事を心の中で思うティルを横目に、ソフィアは更に溜息をつき一言。
「ねぇ、気づいてた?ハイドさん、魔法全く使ってなかったからね?それにあの2人だっていなかった訳だし」
(確かに、言われてみれば……)
「だぁよなぁ……」
「ま、結果的にこうして距離稼げた訳だけど……。どうしたの?そんな顔して。ほら、チャチャッと外まで行こ?」
ソフィアはそう言うと、鼻歌を鳴らしながら速度を上げ、ティルよりも前へと走り出る。
(今の……例えば普通の戦闘だとして……。ソフィアがいなかったら確実に死んでたよね)
ま、試験ありきの行動なんだけども。でも、そんなこと抜きにしても……
「フゥ……負けてらんないか!!」
とソフィアに聞こえぬように、とボソリ。
「ん?今なんか言った?」
「いや、なんにも?」
と、ティルも負けじと速度を上げ、ソフィアと肩を並べ走り始めるのであった。
・・・
「あれから大分走ったけど……」
現在の位置は、スタート地点から丁度森の外側の半分といった場所。この森の特性上、真ん中にある遺跡から、距離に比較して魔物も増えていく為、徐々に接敵回数も増える。そのはずなのだが…………
「なんかいつもよりも敵少なくない?」
「うん、確かにそうかも。ハイドさんが倒したとか……」
「いやぁ……多分、違うだろうね」
もしもハイドが倒したのなら、そこら中に魔物の死体の山があるはずだ。だが、周囲にそれらしき痕跡はなく、そもそも魔物がいた痕跡すら感じられない。まるで、何かから逃げたかのような。
「森の主……とか?」
「う〜ん、どうだろ。そうかもだけど……」
かつて為す術なくフルボッコにされたあの化け物。今の時期……と言うよりも普段、あの怪物は姿を見せず出会うことすら稀である。ただ、あの時もそう聞いていたが、結局戦闘になり奇跡的に逃げきれた?のである。
「まぁ、前が前だしね……。何があってもおかしくないし、警戒はしといた方いいかも」
「うん」
その後も、気を緩めることなく、森の外側へと足を進めていく。
・・・・・・
一方その頃レオーネはと言うと……
「ん、なんだ?」
特にやることが見つからず、適当に協会まで来ていたレオーネ。ボーッと眺めていた掲示板の中でふと、とある記事が目に留まる。
――――――――
初心者注意!!
現在、始まりの森にて見知らぬ魔物の報告あり。
更に、一部ギルドの調査により生態系が崩れかけているとの報告も多数。
上記のことから、期間限定で始まりの森の危険度はE→Cへと引き上げられます。
初心者の方、調査が完了するまで決して近づかぬように。
ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。
――――――――
「はぁん……森ねぇ。ま、あいつらなら大丈夫だろ」
一瞬心配はしたものの、レオーネによる2人の評価はそこそこ高め。心配なんて無粋だと頭の片隅に放り投げる。
「んな事より……どうすっか」
とりあえずやることも無いし、教会前の長ベンチにだらっしなく座り、無気力な眼で噴水を眺めるのであった。
・・・・・・
「ティル!そっち!!後ろの方から3体!!」
「はいよ!!」
先程まではあんなに静かだったのにも関わらず、とあるラインをきっかけに、急増する魔物の影。
(なぁんでこんな急に?明らかにいつもと違うなぁ。いつもならこう、もっと全体的にバランスよく……)
「危ない!!」
なんて考え事をしてると、前方から曲線を描くようにソフィアの魔法が一閃。ティルの背後を取ったゴブリンの急所を貫く。
(助かる〜♪)
こんな乱戦中なのに考え事はまずいよね。と、にへら返し……しようと思ったが、うん。あれだ、ソフィアの目がすごく怖い。ということで、緊張したような顔つきで、目の前の敵に集中する。
急に現れた魔物の大群により、外側へと向かうペースは大分落ち、いつハイドに追いつかれてもおかしくない状況。そんな中、この大群の中で明らかに異様な何かを漂わせる魔物を目の片隅で捉える。
(なんだろう……普通の狼っぽいけど、なんか違うような……この感じ、まるで遺跡のあの……)
思い出すのは遺跡地下。あそこの、他の魔物たちとは様子の違う魔物たちであった。
記憶の中のあいつらは、なかなかに厄介なもの。より一層の注意を払い、何があってもいいよう備える。
(動きが変わったな……なんかあったか?ってことはあれか……ついでにとは思ってたが。ま、ここは1つラッキーっつーことで……ん?)
ティル達に気付かれぬよう、高所から気配を消し観察していたハイド。あからさまな気配の消し方では直ぐにバレると判断し、消しすぎず出しすぎずのごく自然な風を装う。これなら並の魔物には見つかるまいと思っていたのだが……
(んだ?こいつ、他の奴らと何かが……)
目の前に現れたのは、この森ではよく見る狼型の魔物。見た目には特に普通と変わらないのだが、気になるのはどことなく癇に障る違和感。そして、こちらへと向けられるタダならぬ殺意。捕食、生存等、何らかの理由の為に殺すのではなく、殺すために殺す。そんな物騒ものを向けられているような気がした。
(あいつらには張っとけとは言っといたし、まぁ多少目を離しても問題無いか。しゃあねえ……やるしかないか)
徐々に距離を詰めてくる狼に向け剣を抜き、木につける左手に魔力を集中させ、これから始まるであろう戦闘の準備を進める。
ある一定の距離感を皮切りに、狼は急に速度を上げる。そんな狼に眉の一つも動かさず待機するハイド。
相手は正常な判断が出来なくなっていると踏み、自分の構想上、最適であろうその時までじっと待つ。
そして、狼がヨダレを宙へと舞わせ、口をおおっぴろげながら地面を蹴り出した瞬間、
シュンッ――――
切り裂くような音とともに、現れたのは風の刃。大木の表面から現れた刃は、狼の腹へと一直線に向かうも、
バウッ!?
狼にその刃は届くことは無かった。目の端で見えたのか、それとも感覚で感じたのか……。兎にも角にも、魔法が届く前に右方向へのステップで逃げられる。
だが……ハイドとの戦闘中、1番やっては行けないことがある。それは、この男から視線を外すこと。何故ならばその後、生きている間に再び視界に入れることなど、ごく稀にしか起きないことだから――――。
狼は視線を前へと戻すも、そこにあるのは開けた視界。魔力の痕跡が残る場所には誰もおらず、代わりに見えたのは首元に差しかかる鉄の塊。
そのまま、為す術なく狼の首は掻っ切られ、文字通り、力の抜けた状態で大木の枝へとひれ伏す。
「ふぅ……」
(多分、バレたな)
できるだけ見つからぬように、と目標を掲げてはいたものの、あの二人の事だ。バレないにしろ、何となくの察知はするだろう。手に着いた汚れをパッパッと払い、再びティル達の方へと目を向ける。
「ふむ……あっちもあっちで大変みたいだし……」
ハイドが見た光景は、複数の狼に囲われる2人の姿。2人の危険度とこの狼の調査の重要性。その他諸々を加味し天秤へとかけた結果、ハイドは先程倒した狼の元へと歩き出す。
「ハイド!?大丈……夫、みたいだね」
「ん?どした?そんな慌てて」
「だってハイド、潜伏専念って言ったのに魔法使ってるもんだから。どうしたんだろって思って」
「まぁな。んで?2人の監視は?」
「大丈夫。フギンに任せてきたよ。それよりも、その狼、何……?」
「あぁ。何か色々気になってな。なんかおかしい感じするだろ?俺じゃ違和感あるくらいにしか分からんが、お前分かるか?」
「う〜ん、ちょっと見てみる」
「頼む」
主人の周りで発生した魔法に反応し、急遽やってきたムニン。ハイドとの会話の後、狼の死体の周りをぐるっと回りながら、観察を行う。
「多分だけど、魔臓……に変な感じがする、かな?」
「魔臓?」
「うん。一通り見てみたけど、1番気になったのはそこかな……」
「ふむ……そうか。なら……」
ハイドはそう言うと、腰の後ろに携えた小さいナイフを抜き、狼の腹をかっ開く。
「うぅうえぇぇ……」
ムニンは、冒険者の中では当たり前の見慣れない行為に、あからさまなドン引きを体全体で表現する。
そんなムニンを気にも停めず、生暖かさの残る腹に両手を突っ込む。
「確か……こいつの魔臓はここのはず……お?」
「………………」
そのままナイフで必要な箇所のみを切り分け、内蔵を持ったまま、体の外へと両腕を引き抜く。
「ハイド……言っとくけど、くっそグロいよ」
「……」
「ハイド?ねぇ、ハイド?」
先程まで黙っていたフギンとは反対に、今度はハイドがその場で黙り込む。
「ねぇどしたの?」
「いやぁ、な」
すると、やや長めの長考から我に戻ったのか、再び動き始める。
ハイドのとった行動。それは、手の中の臓器から何かを引っ張るという、普通では考えつかないような行動であった。
「何それ、石?」
「……みたいだな」
石にへばりついた狼の魔臓は、まるで離したくないとは言わんばかりにギリギリまで伸びる。その後、ある程度のところまで行くと、プチッとちぎれ、伸びた神経がへたへたになる。
「あららら?」
石が離れた魔臓は、小さなチリとなり消え、風と共に運ばれて行く。
「石は、消えないみたいだな」
ここら辺、と言うよりは、今まで見た事のない石に興味を持ち、しばらくの間ジッと眺める。
(これは……一体なんだ?普通の石ころっちゃ石ころだが……なんせさっきの狼の様子とい)
ドックン――――
「うぅッ、グァァァ……」
「ハイド!?」
一体、何が起きた?ただ石を見ていただけのはずなのに……。どうしてこんなにも鼓動が早く、胸が苦しいのだろうか。そして何よりも、己の魔臓に走るこの激痛は何なのか。さすがのハイドですら、思わず座り込んでしまう。
ポタ……ポタ……ポタ……
頬に何かがサラリと滴り落ちるのを感じ、手で拭い確かめる。
「唾液……か?」
(……こりゃ、まじぃ……な……)
と、あまりの出来事に危険を感じたのか、急いで持っている石を手放す。
「アぁ……はぁ……はぁ……あぁ…………」
「大丈夫!?」
「まぁ……な。あぁ、大丈夫、少し落ち着いてきた」
先程の石を手放してから数秒後、痛みは徐々に和らぎ、先程までの重低音のこもった鼓動も落ち着く。
(にしても、今のは……)
あれはなんだったのか。今までの人生の中で初めての体験に、思わず恐怖すら覚える。と同時に、調査の必要性も片隅に浮かび上がる。
「フギン。こっからの戦闘はもういい。さっきの石、ネロに届けといてくれ。早急に、最優先でだ」
ハイドはそう言うと、ポーチの中をまさぐり、小さい布袋を渡す。
「えぇ……あれ、触りたくないよぉ……」
「いいから、頼む」
「……わかったよ」
いつななく真剣な表情に根負けし、ムニンは仕方がなく、その場を飛び去る。
ひと先ず、一難は去ったはずだ。石もあいつが何とかしてくれるだろうし。と、再び視線を2人の方へと戻す。
(さて、どうしたものかな)
恐らく、今ので完全にこちらの位置まで把握されただろう。感覚の話であるが、石による激痛の際、自分の魔力が外へと放たれた感じがあった。
その証拠に、こちらへと視線は向けていないものの、こちらへの警戒からか、戦闘に対するぎこちなさが目立つ。
(ま、どうせバレたんなら、そろそろ行くか)
と、再び魔力の気配を消し、木から降りながら2人の元へと近づいていくのであった。
今週中にはこの2話終わらせられるよう、頑張ります。
では、次のお話でまたッ!!




