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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第0章 冒険が始まるちょっと前の話
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第6話 〜試験スタート〜

 受付を済ませたティル達4人は、各々の荷物を整理しながら、試験開始までの時間を潰していた。


「あ〜、ホントウニオモカッタナ〜」


「うっさいわね。あんたらが悪いんでしょ?」


「え……?ら.......?オレモ?」


「そうよ。らよ。何よそんな深刻そうな顔して。聞いたわよ。随分とノリノリだったらしいじゃない」


「そだネー」


「そだネー、じゃないわよ。あんたが原因でしょうが。反省してんの?」


「まあ、ぼちぼちは」


「右に同じく〜」


「全く…あんた達って、ほんっともう」


 そんなティルたちの会話を聞きながら、ソフィアはクスクスと笑っていた。


「ねぇ、ソフィアちゃんからも何か言ってやってよ〜」


「私は大丈夫です。ここまで荷物を持ってきてもらった訳ですし。それにハルナさんが先程、言いたいことは言ってくれましたので、それで充分です!」


 と、軽く微笑みながら右頬をポリポリとかく。


「ソフィアちゃんがそう言うならいいけどさぁ。まあ、私たちがどうこう言ったってねぇ.....こいつらのおバカが治るわけじゃないしねぇ.....」


「おいお〜い。なかなか酷いこと言うじゃなーい?さすがの俺でも傷ついちゃうよ〜。な、ティル♩」


「ま、まぁね。でもあれだよね。熱くなりすぎて周りが見えなっちゃうのは、治そうかな、て思った」


「おー。反省の色見えてよし!あんたももう少し大人になりなさいよ」


「へいへ〜い」


 そんなこんなしているうちに、試験開始までの時刻が近づいてきた。来た時に比べ、受験者と思わしき人が集まっており、既に遺跡の中に入っていった人を含め、7、80人位はいるようだ。


「じゃ、そろそろ遺跡の中行きますか〜♩」


「ん?もうそんな時間?本当だ!そうね。私たちも行きましょ!」


「はい!」


「うぃ!」


 4人はそれぞれの荷物をまとめ、遺跡の入口へと向かっていった。


 炭鉱のような入口を抜けしばらく歩くと、辺り一面黒みがかった青い壁で囲われており、不思議な雰囲気を醸し出していた。


「なんかこれ、不思議な感じですね」


「そうよね。しかも周りに光源がないのになんでこんなに明るいのかしら?こんな鉱石、どの文献でも見たことないわよ?」


 確かにそうである。普通ならここまで外の光が入ってくるには入口が小さすぎる。しかも、ハルナの言う通り、光源が周りにないのにも関わらず、入口とほぼ同じような明るさなのだ。


 不思議に思い、ティルはそっと壁に触れてみる。すると、手の表面に若干、太陽のようなポカポカとした温かさを感じた。


「んー、多分この壁の性質なのかな。ほら、なんか触ると表面ぽかぽかしない?」


 ほかの3人も順に壁に手を触れてみる。


「んーにゃ、そんなことないぞ?普通にひんやりしてる」


「ほんとだ。ヒヤヒヤしてて心地いいわ〜」


「確かに、暖かくはないですね」


 ティルは首をかしげ、手を触れてみる。


「おっかしいなー。確かに暖かい気がするんだけどなー」


「大丈夫?ここに来るまでに怪我とかした?もしあれだったら、私見てあげるわよ?」


「いや、大丈夫。擦り傷のひとつもないよ」


「そ、ならよかった」


「ティルはあれかもね。スピリチュアル的な何かに敏感なのかもね〜」


「まあ、見たことも聞いたこともないような物体ですし、他の方も色んな感じ方をしてるかもですね」


「ま、そろそろインじゃない?ほら、ゴール見えてきたよ」


「あら、ホント」


 遺跡の中を歩いて約600m。ここが恐らく最深部だろう。入口を抜けるとそこには大広間が広がっていた。全員で広間に入ると、入口付近に立っていたギルドの職員らしき女性が近くに寄ってきた。青いスカーフが特徴の女性である。


「どうも、フリアエと申します。シース様、ティル様、ハルナ様、そしてソフィア様ですね。どうぞこちらへ」


 4人は女性について行く。


「ねね、あのエンブレム見た?」


「エンブレムですか?」


「そ。あの右肩のやつ」


「あれ、多分【魔国団】のやつだよね」


「まこくだん?て、魔法国騎士団?例のSランクギルドの?」


「お?流石にティルでも知ってるのね」


「珍しいですね!」


「明日は雪だね〜。雪。そりゃ猛吹雪よ」


「出たよ。あんたら、覚えてろよ(小声)」


「ん?なんか言った〜?」


「いや別に」


「おいおい、そんな怒んなよ〜」


「怒ってない」


「へいへ〜い」


 これは余談だが、この大陸は大きく四つの領に別れており、それぞれ【魔国領】【智国領】【武国領】【守国領】と呼ばれている。そのうちの魔国領というのがここ、【魔法大国マグニア】が統括している領域である。そして、このマグニアにおいて、全てのギルドはA、B、Cとランク付けされており、割合的に(1:3:6)で存在している。そしてここのランク付けとは別に、国に認められたギルドのみ、Sランクを与えられる。なお現在のSランクギルドは、


【魔法研究所】-所属人数22名(ギルド長-ネロ)


【アイオライト】-所属人数30名(ギルド長-メイア)


【魔法国騎士団】-所属人数105名(ギルド長-ガイウス)


 の3つである。



 暫く歩いていると、4人は2つの円の前にたどり着く。


「では、シース様のグループはこちらの円の中に。ソフィア様はこちらへ」


「はいはーい」

「は、はい」


 よく見ると、周りのグループの足元にも同じような円が書かれていた。


「お疲れ様でした。これで試験の準備は完了です。では、試験開始まであと少し時間がありますので、暫くそのままでお待ちください。何か御用がございましたら、外に出ても構いません。その際は必ず、時間内にこの円の中へとお戻りください」


 その他、諸々の説明を終えると入口への方へと戻って行った。特にやることも無く雑談していると、広間の中央付近に1人の男性が現れる。


(あれ?あの人、確かあの時ぶつかった……そっか、あの人副団長なんだけっけか。)


「これにて、試験の受付を終了する」


 男の声が、広間全体に響く。


「俺は.....いや、なんでもない。とりあえずルール説明も.....大丈夫か。知ってるよな。ま、説明しても意味無いし……」


(何か.....凄い適当だな.....。)


 男は頭をポリポリ書きながら説明?を続ける。


「とりあえず、お前らのこれからの流れをざっくり説明する。その足元の円あるよな。それは転送陣だ。話の流れで分かると思うが、試験開始と共にお前らはどこかに転送される。まあ安心しろ。転送先はこの遺跡のどこかだ。保証する.......。タブン。あ、後あれだ。最終的に、1番真ん中まで行けば外に出られるから、これは覚えといてくれ」


(大丈夫か……?この人……。)


「なんにせよ、行方不明程度なら、うちの職員が見つけるはずだ。まぁ……、死んだら無理だけどな。ハハハ」


(なんだよそれ。ハハハじゃないよ。)


 先程からの曖昧な情報に、周りもどよめき始める。


「おいおい、お前らなんだよ。ここにいるって言うことは、冒険者になるために来たんだよな?てことは、もちろん死ぬ覚悟も出来てるって事だろ?」


 男の【死ぬ覚悟】の一言で、周りのどよめきは更に激しくなる。


「えぇ……。まじかよ。うん。ま、いいや...。お前らにひとつ助言だ。この試験で死ぬことなんてないと思ってる奴。ここで失敗してもいい、また今度受かればいいって思ってる奴。今すぐこっから立ち去れ。お前ら冒険者向かないよ。だいたい冒険者ってのはな、常に死と隣合わせの職だ。そんな覚悟もなしに冒険者になろうたっておかしな話だよな?例えば……」


 その後も、男の生々しい【死】や【危険】を連想させる演説は続いた。最初こそ立ち去ったのは数人だけだったが、時間が経つにつれ、段々と外へと歩いていく人が目立つようになる。結局、約3分の1位の人数が立ち去り、残ったのは約60人位だった。


「あらら。ちょっと発破かけられただけで帰っちゃうのな」


「ま、あのおじちゃんの言ってることも間違いないしね」


「おい、そこの姉ちゃん。誰がおじちゃんだ。お兄さんといえ。それかせめておじ様だ」


「はーい♡てか聞こえてんのい(小声)。てかおじ様って....(超小声)」


「まあ、くだらん話はもういいだろ……ンンンッ」


 男は息を整えると、声色を変えて激励?を始める。

 

「ここに残った諸君。君たちは、この試験を受けるに相応しい人間だ。いつか、君たちと共に冒険が出来る日を待っている!ではこれより、試験を開始する!!」


 と、男が指を鳴らすと、円が光始め、体が暖かい光に包まれる。


「は!?え、ちょ!なにこれ?」


「勇気のある冒険者諸君!健闘を祈る!」


 男の激励と共に光は体全体を飲み込み、受験者達は、はじまりの遺跡内部へと足を踏み入れた。


 受験者達が居なくなると、2人の女性が男の方に近寄る。先程ティル達を案内したフリアエと、撮影機のようなものを構えた見覚えのある青髪の女性。そう、朝一番にティル達に雷を降らせた【メイア】である。


「お疲れ様です。マグナさん」


「いやいやー、いいもん撮れましたわ〜」


「まさか、激励しろと言われて、去年の団長の丸パクリとは……さすがです」


「っせーよ」


「最近、鏡の前で練習してましたもんね」


「げ、見てたの?フリちゃん」


「ええ。というか、ギルド内で噂になってました。多分皆知ってるはずです」


「うっわ。何それ寒っ。バカ寒っ」


「……クソっなんだよお前ら。俺泣いちゃうよ?拗ねて帰っちゃうよ?」


「おう。いいよ泣けよ。そして帰れよ」


「へ?」


 男はショックを受け、フリアエの方を悲しい顔しながら向く。


「どうしたのですか?自分から言ったでは無いですか?大丈夫です。マグナさんいなくても何とかなります。どうぞお帰りください!」


「へ?まじですか…。へいへい。わかりましたよ。帰りますよ……」


 男は魔法を唱える。悲しい顔をしながら。情けない後ろ姿を見せながら……。


「待ってください!マグナさん!」


 男は何かを期待し、フリアエの方を向く。


「ん?何?慰めてくれるの?でも、もうそんなことしても遅いよ?」


「いや、そんなことはしませんするわけないです。ギルド内の食料少なくなってきてたので、代わりに補充お願いします」


「………まじ?この流れで?このタイミングで?いや、やっぱりと言うべきなのか」


「お願いします」


「.......」


「オネガイシマス」


「….....…………へい」


(相も変わらず仲良しですこと。オホホ。)


 メイアは口元を隠しにやにやしている。男は再び指を鳴らすと、白い光につつまれ姿を消す。


「おー。さすが王国最強ギルドの副団。相変わらず便利な魔法使いますな〜♩」


「普段はあんな感じで怠惰ですけど、いざと言う時は頼りになりますからね」


「お?なんか嬉しそうに話してんじゃん。なになに?もっと聞かせてよ」


「馬鹿なこと言わないでください。殴りますよ?」


「ひゃー怖い!」


「はぁ……」


「まあまあ、そんな顔しなさんなって。みんな帰ってくるまで暫く時間あるだろうし、仲良く話そうよ〜」


(あー、私も帰ればよかったかな。あの時、ちゃんと慰めておくべきだったかな。 )


 と、フリアエは軽く後悔しながら試験終了までの時間、メイアと会話する覚悟を決めた。


(あ、そういえばこの間食料庫見た時、鍵戻したっけ?というかやっぱり……。ポッケに入れっぱなしだ。まあ、急ぎじゃないし、多分大丈夫ですよね?)


 一方、魔法国騎士団ロビーに転移したマグナは、食料庫前で一人困惑していた。


「おーい。食料庫のキーって誰持ってるか分かる?」


「おー、帰ってたんだマグナイルさん。食料庫の鍵ですか?確か、先日フリアエさんが持っていったきり、まだ帰って来てないですよ」


(えー。人に頼んでおいてこれかい。あー、なんだかねー。全くねー。もー。)


「ほーい。あんがとさん」


 マグナイルは礼をした後、ギルドを後にする。


(まあ、ゆっくり戻りますか...。)


 -----------------------------


 一方、遺跡内部にて。


「っ、てててー。なんだよいきなり。3人とも、大丈夫?」


(というかここって、遺跡の入口?何でだろう、戻されたのかな。いや、違う。見た目は同じだけど雰囲気が違うな。)


 ティル達が目覚めた場所は、受付をした遺跡の入口に似ている場所だった。しばらくすると、シースとハルナも起き上がる。


「いたたたた。あたしは大丈夫よ」


「うん。俺も大丈夫」


 どうやらハルナとシースは無事のようだ。


「ソフィアー、大丈夫?」


「ソフィアちゃん?」


「あれ?ソフィア〜?」


 周りを見渡すと、近くにソフィアの姿はなかった……


 第6話 「試験スタート」〜完〜



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