第二章 ~プロローグ~
はい。
ついに第二章開幕です。
まあ、基本会話多めの回ですが、どうぞ。
お楽しみを?
「ばあさん、ちょっといいかな?」
「どちらさん……おや?随分と久しい顔だね」
男が立ち寄ったのは、魔国に店舗を構える魔道具の老舗【黒小屋】。そんな何の変哲もないただの魔道具店には、知る人ぞ知る1つの秘密がある。
「ちょっと団長さんに用事あるんだが、通してもらえるかい?」
「まあ、あんたならいいだろうさ。準備は出来てるかい?」
店主は、天井を見上げながら何かを問う。すると、老舗の中に、若々しい元気な女の声が響く。
「はい!こっちの準備出来ました!」
「だとさ。ほら、行きな」
男は開かれたドアの方まで歩きながら、背中越しに手を振り礼を返す。
ウィン――
目の前で開くドアをくぐると、目の前のカウンターへと歩く。
「では、こちらの部屋へとお入りください。ネロさんはしばらくかかるらしいので、その間は暇を潰していただけたらと……」
「あいよ」
その後、受付嬢の案内により小部屋へと入り、しばらく暇を潰しながら、とある男を待つ。
・・・
あれから約1時間。ようやく目の前のモニターに電源が入る。
「すみません。お待たせしました」
「ふんッ……。相変わらずだな。人を待たすのも、その態度も」
男はモニターに映し出された、白衣の男の偉そうな態度、全く悪びれる様子の無さ。その態度に対し、ちょっとした皮肉を混じえながら挨拶を交わす。
「ええ。で、今日は何のご相談で?このタイミングですから……まあ、そうですね。大体の予想は着きますが」
「そう、多分あんたの考えている通りだ」
「では、あの歌姫の?」
「もちろん」
「目的は?」
「あいつを止められればそれが一番だが……、多分。おれじゃ止められない。だから………………」
・・・
「なるほど……。大体のことはわかりました。それに丁度、彼女からこの国のギルドに対して護衛の依頼の任務が来ています。ま、それを見越してのこれ。何でしょうけど……」
「そうだ」
「少なくともこれに関しては、大なり小なりこちら側に被害が出ると思うのですが……」
「報酬の事か?」
「ええ、もちろん」
「お前が金目のものに興味がないのは知ってるさ。それに、俺の命もそんな長くないだろうしな」
「でしょうね」
「でしょうね、って。お前は人の心がないのか?もう少し……いや、何を言っても無駄か。まあいい、今回は覚悟の上だ」
「ほぅ……覚悟ですか……」
「ああ。今回の報酬、俺の……をおまえらにやる」
その言葉を聞いた瞬間、ネロの瞳孔が一瞬カッと開く。
「今の言葉、私の聞き間違いじゃありませんよね?」
もう一人の男は、その問いに対し、首を縦にゆっくりと振る。
「もちろん。お前の欲しがっていた、念願の物だろう?」
その後数秒間、ネロは顎を手で隠しながら、何かを考える。
「わかりました。ではその依頼、こちらで何とかしましょう」
「ああ……たすか」
「ただし、一つだけ条件があります」
「まだ足りないってのか?」
男はネロの言葉に、あからさまな不服を全身であらわにしながら、軽い怒りが込められた言葉を返す。
「別に、そんなに大したことではありません。ただあなたに合わせたい人がいる。ただそれだけの話です」
「本当にそれだけか?」
「ええ。あとはあなたの好きなように動いてもらってかまいません」
「まあ、それだけならいいや……」
「助かります。ではこちらから迎えに行かせますので、どうぞよろしくお願いします」
「よし、じゃあ交渉成立だな」
用が終わり、男はドアの前まで歩いたのち、ふとネロの方を見返す。
「お前が何考えてるかはわからないけど、あんたの思惑通りにはいってやらないからな」
「私は何も?」
「どうだか……それじゃあな」
扉が占められ男がいなくなると、ネロはモニターを消し、椅子に深く寄りかかる。
(私の思惑ですか……)
「そうなるといいですね……まぁ、あなたの事だから……」
ネロは、ほんの少し口角を挙げながら天井を眺めながら、何か、どこか違うものを見つめるのであった。
・・・
場面は切り替わり、魔国の東区の中央、冒険者協会の噴水前。そこには普段の姿とは違う格好、青と白を基調にした夏を感じさせる、涼しそうな軽装をしたソフィアの姿があった。ソフィアは噴水近くのベンチに座り、小さい魔道具を持ちながら、何かを耳に挿入し空を見つめていた。
「ふん……ふん……ふん……♪」
何やら楽しげなソフィアは、顔を小刻みに揺らしながら、小さな鼻歌で何かを刻む。その後しばらくすると、2人の冒険者が向かいの通りからやってくる。
「悪ぃ、ちと遅れた」
「ごめん、待った?」
ソフィアは耳から何かを取り出し、それと小さな魔道具を、肩にかけているカバンにしまう。
「ううん、全然。ついてからそんなに立ってないし、大丈夫」
「それならよかった……」
「なら、そろそろ行くか」
「うん」
こうして三人は東区の武器屋を巡る。
実は今日、ハイドもイヴもネロに呼ばれており、いつもの修行はお休み。ただ、数日前の修行中にレオーネが気になり発言した、とある一言により、こうして三人が集まったのである。ちなみにその一言は、ざっくりいうと【ティルの筋肉の発達により、今の武器では軽すぎるだろうし、新調してみたら?】というものだ。
三人は雑談しながら最初の武器屋を目指す。
「そういえば、ソフィアの持ってたやつ。あれって?」
「これ?」
そういうと、ソフィアはカバンから先ほどの魔道具を取り出す。
「そうそう。初めて見る魔道具だから……」
「はじめて、ねぇ」
後ろにいるレオーネから、何やら嫌なものを感じたが、それはいつもの事なので無視しておこう。
「これね?この魔道具の中に歌のデータをダウンロードして、いつでも自分の好きな歌を聴けるの」
「はえぇ……そんなものがあったんだ……」
「ま、専用お店に行かないと歌入れれないのが難点なんだけどね……店の数も少ないし、結構並ぶのも大変なんだ……」
「で?誰の歌聞いてたんだ?」
「ん?ああ。【ディヴィア】さんの歌だよ」
「ディヴィアって、あの世界の歌姫って言われてるやつか」
「あ、その人なら僕も知ってる。なんか最後のライブするってポスター見たよ」
その言葉を聞いたソフィアは、少し悲しげな表情を浮かべながら話す。
「そうなんだよね。この人の歌、ずっと好きで聞いてたんだけどね?その話を聞いた時すごくショックだった。この人の歌は、私の心を救ってくれたって言っても過言じゃないから……。最後のライブあぁあ、最後くらい、生で歌聞いてみたかったな……」
その後数秒間、ソフィアの見せる暗く悲しげな表情も絡まり、若干重たく苦しい空間が出来上がる。
「あ!ご、ごめん。思わずね。別にこんな雰囲気にしたかったわけじゃないからさ?ほら、行こ!」
そう言い残し、ちょっとした罪悪感からか、ソフィアは一人で先に行ってしまう。
「ティルよ……」
「ん?」
「ソフィアのあんな顔、アタシ初めて見たよ」
「確かに。僕もそうかも」
「何とかしてやりてぇな……」
「うん。同じこと思った……」
ティルとレオーネは目を合わせ、何かの意思疎通をした後、一度コクリと頷く。
「二人とも?どうしたの?」
「いや、なんでもねぇよ」
「何でもないよ」
「じゃあほら、急がないと。日が暮れちゃうよ?」
2人はそんなきれいなソフィアの背中を見つめながら歩く。
歩く街並みにちらほら見える、歌姫の最後のライブ、通称【LAST PALADE】のポスター。
だけど僕たちは知らなかったんだ。このライブが、僕たちの進む道を決定づけることになるなんて……。そして知ることになることを。歌とは、魔法とは何なのか。そして、この星で一体、何が起きているのかを……。
第二章 「プロローグ」 ~完~
第二章 「世界の歌姫と戦慄のラストパレード」 ~開幕~
どうも皆さん。海中です。
今回でようやく第二章が開幕です。
恐らく、本章からこの作品に色が付き始めるのではないかと。
作者はそう、思っているわけです。
何にせよ、今後ともより面白く、読んで楽しくなるような作品を目指していきますので、
応援の程、どうぞよろしくお願いします!!




