閑話 〜来たるべき日への一手〜
今回もちょっとした小話です。
相当後になると思いますが、ちょと大事なとこかも。
では、どうぞお楽しみを!
「どうやら、終わったみたいですね」
男はそう言うと、映像の映る魔石を胸元へとしまう。
「どんな冒険者が戦ったのか知らないけど、あたし達の陽動のために死ぬなんて、なぁんか可哀想だね」
男の報告に対し、隣にいた少女は新しく出来た2人の仲間と遊びながら、興味なさそうに答える。
「ふふ。ですが死んだのは、冒険者では無く聖獣の方。だったようですがね」
「えぇ、嘘だぁ……、怖ぁ。だって今この国。戦える冒険者、あんまいないはずでしょ?そのために色んなとこに分散させるように動いたんだから」
「ええ。見た所、3人の冒険者が戦ってたみたいですが……。まさに圧巻、その一言に尽きましたね。まぁ恐らく、私達の足止めをした、あの数人の冒険者の内の誰かでしょう」
その会話を聞いた、一人の男は頭の中に1人の少年を思い出す。
「なるほどねぇ。やっぱすげぇな、あいつは」
「なにか心当たりがおありで?」
「ま、そんなとこっす。ちょっとした知り合いみたいな。小さいくせして、いざとなったら頼りになる。そんな奴です」
「ほぅ、どうやらその方のこと、随分と気に入っているようで」
「あんな事がなけりゃ多分、今頃は一緒に走り回ってた。位にはね」
思い出すのはあの出来事。この星のことや、歌姫のこと。歌姫とは違う、もう1つの大きな力のこと。そしてあの日、俺はその力を受け継いだ。
「そうですか……。それは、悪いことをしてしまいましたね」
「ま、今となっては仕方な……ジェイル」
「えぇ、この気配。只者ではなさそうですね。ハルナさん、ナナミさん、ご注意を」
足音共に近づいてくる異様な雰囲気。そんなおぞましい雰囲気に4人は戦闘態勢を取る。
「あなた、どちらの方です?」
「安心しな、別に俺は敵じゃない。それこそ、月ノ神なんぞ信じちゃぁいない。俺の名はプロード。今ここであんたらと戦うつもりは無い。ただ、そこのあんた」
「俺?」
「そう。あんたには、今のうちにあっておこうと思ってな」
「はぁ?俺に会うって?意味わかんねぇ。おたくどちらさんよ」
すると現れた男は、シースに向け何かを投げる。
「これは……箱?」
受け取ったのは、手に乗るくらいの小さな箱。ただ、どこにも開けるところは見当たらず、本当の意味でただの箱みたいなものだった。
「何よそれ……ちょっと見せなさい」
後ろからは、こんな状況にも関わらず、興味を抑えきれない一人の女の声。シースからバッと箱を奪うと、深く被っていたローブを取り、その顔を晒し出す。
「まぁ、それは今は開か……バカなッ!!お前はッ!!!!」
先程は戦闘を行わない。そう誓っていたが、どうやら状況が変わったみたいだ。ハルナの顔を確認した男は、今まで感じたことの無い、おぞましいオーラを纏い、手に持つ銃をハルナへと向ける。
「お前、さっき戦うつもりは無いって言ってたよな?ありゃ嘘か?」
「そこを……どいてください」
プロードと名乗る男の殺気に気付いたシースは、ハルナの前に立ち、己が攻撃を受けんばかりに挑発する。
「やだね。俺はこいつを守るために色々捨てたんだ。お前には分かるのか?この星で起きている事が」
その言葉……いや、シースの声を聞いたプロードは銃プルプルと震える右手をゆっくりと降ろす。
「あぁ、知っているさ。全てな。無論、今のお前たちの体が、他の人間とは違う事もな」
「それは聞き捨てなりませんね」
すると、ジェイルは男の元へと向かい、その首を狩ろうと近づく。しかし、そんなジェイルの攻撃は当たることなかった。その代わりに鳩尾へと肘が一発、その後回転蹴で吹き飛ばされ、元いた場所へと戻される。
「言ったろ?俺は月ノ神教の人間じゃない。次来たら本当に殺すぞ?」
「グッ……」
「ただ、今後また邪魔されるかも分からない。それにこの会話を聞かれる訳にもいかんしな」
そう言うとプロードは指を鳴らす。
(なんだ?)
何かおかしい気がする。シースは周りを確認すると、己と目の前の男以外、何一つ動いてない事を確認する。
「これでいいか……。にしても、お前らのその関係、本当に笑えるよ。まさか、あんたら二人がこんな関係だったとはな……」
「何言ってんだ?お前……」
(あぁ、もうなんなんだよクソッ、言動といいこの状況と言い、訳が分からなすぎる……)
「まぁ、気にするな。嫌でも分かる時が来る。お前はそいつを殺すんだからな」
「は?俺がハルナを殺す?そんな馬鹿な事がある訳無いだろ」
「ふんっ、だといいな……。ちなみにさっき言いかけたが、その箱について教えといてやる」
「……あぁ」
「それはな?来るべき日、お前がその女を殺すときにしか開かないようになってる」
「だから……」
「いいから聞け。何が入ってるか、そして何のための物なのか……それは、その箱が開くときまで、教えることはできない。ただ、今進んでいるこの運命。最後の分かれ道を決めるのは誰でもない。あんただ」
(ま、じ、で、何なんだよ……)
「お前が変わらなければこの先、何一つ変わらない。待っているのは、一生終わることの無い、絶望へと向かう運命の連鎖だ」
(…………)
「今この運命は既に、そのレールに乗り始めている。一体、誰のおかげかは分からないが、本来あるべきではない、最高の形でだ」
(運命運命って、胡散臭いことばっか抜かしやがって)
「だからこそ、答えを見誤るなよ。そうだな、一つアドバイスをするなら、そうだな……仲間を信じてみるのもいいだろう」
「は?訳分からねぇ。おまえ、一体何なんだよ」
「俺はただの占い師さ。じゃあ言いたい事は伝えた。それじゃあな」
男はそう言い残すと消えてしまう。すると、急に目眩がし、目の前が真っ暗になる。
(くっそ……頭が……割れるように痛ぇ)
・・・
「……ース……。シース?」
(あれ……俺は何を……)
「大丈夫?起きてる?立ったまま寝るの辛くない?」
「あ?あ、あぁ……大丈夫だ。それよりも……あれ?あの男は?」
「それならさっき去ったでは無いですか……。私を蹴り飛ばした直後にね」
「それも、今の私は殺さない。まだその時じゃないとか何とか言っちゃってね。なんなのよあいつ……。そういえばその箱、なんなのよ?」
(箱の中身……、俺がハルナを殺す……)
「……気にすんな。ただの箱だろ。ま、デザイン的にもなんか好きだし、しばらくは持っておくかな……」
「えぇ、捨てときなさいよ、そんなの。ま、確かにあんたの言うことにも一理あるわね。売れば高くつきそうだし」
「ははは……」
「御二方。そろそろいいですか?出発の時間です。ご準備の方を」
「あいよ」
「はぁい」
こうして4人と、奥にいた数人の子供達。このちょこっとした集団は、国境を目指し歩き始めるのであった。
・・・
「まさかな……こんなことがあったとはな……」
思いもよらぬ出来事を見た男は、ほんの少し困惑の表情を浮かべていた。
「だからこそのあの……。まぁ、そんな事はどうだっていい……」
高い木の上に座る男は、手に持つ果物をひとかじり。
「俺とあんたはいつかまた出会うだろう……。そんときはよろしく頼むな」
そう言いながら歩くシースの背中を眺め、口の中の果実を喉の奥へと流し込み立ち上がる。男のいた場所に残るのは、木の幹へと突き刺さる、22枚のうち『10』、『17』、『18』を指し示すカードであった。
カードの意味はそれぞれ『運命の輪』、『星』、『月』。その3枚は一体何を意味するのか。そして、この星で一体何が起きているのか……。
男は颯爽と闇の中へと消えていく。どこか楽しげにも思える、不敵な笑みを浮かべながら。すべてはそう、来るべき日のために……。
閑話 「来たるべき日への一手」 ~完~
はい、今回もちょっとした緩和でした。
エピローグって言っても過言ではないんですがね。
それはさておき……。
次の話でエピローグとさせていただき、
完全に一章を閉めたいと思います。
ではまた、次のお話でお会いしましょう。




