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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第1章 魔都奔走編 〜英雄の始まりと歌姫の目覚め〜
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第13話 〜花開ク刻〜

ども。海中です。

明日投稿予定でしたが、筆乗っちゃったんで今日投稿しちゃいます。

ではどぅぞ……おっ楽しみに!!

 バイトにぶん投げられてから約180秒、ティルは避けてはちょっかいを入れ距離をとる。そんなヒットアンドアウェイ戦法で炎狼との踊りを繰り広げていた。


(よし、だんだん慣れてきた!)


 最初こそ、炎狼のペースに持ってかれ、なかなか動きにくい戦闘や行動を取らされていた。しかし、そんな余裕の無さも時間が経つにつれ無くなっていき、今ではほぼ互角の戦いを繰り広げる。


(でもな……なんで僕だけ?明らかにあっちの方が警戒すべきだと思うんだけどな……)


 ティルが気になるのは、上空の離れたところで魔力を貯めるハイド達。ではなく、それに気づきながらも戦闘開始から自分しか狙ってこない炎狼である。


(流石に……気づいて無い訳ないとは思うんだけどな……)


「ま!目の前集中!!」


 多分ハイドのことなら心配いらないだろうと、余計な考え事はキッパリと捨て、目の前の相手に集中する。


 炎狼は、肉弾戦ならあまり苦戦することは無いのだが、不意に来る魔法だけは慣れずにいる。


(来るッ!!)


 ティルは背中に悪寒を感じ、これから何かが来ると直感で感じ取る。そんなティルの予感は的中し、炎狼は激しい雄叫びをあげる。


(なんか……地面揺れ始めたけど……)


 すると、ティルの足元や、周りにいくつもの地面に炎の波紋が現れる。


 ――――――――

 炎獄(えんごく)御柱(みはしら)

 一定の間、術者の周辺に対し円錐状の炎を生み出し続け、下から突き刺すように攻撃する魔法。

 貫通力もさることながら、厄介なのはその持続性。その柱はある程度の間残り続け、相手の行動範囲、視界を奪う。

 ――――――――


「なんッ!これ!!」


 避けるだけで精一杯なのだが、それよりも嫌なのはあの炎狼。こちらは柱に対し余計なリソースを割かなければならないのたまが、あちらさんときたら、まるでダメージの無い様でこちらへと攻撃してくる。


(キッツいしめんどくさッ!!)


 その後しばらくの間、多少のダメージを受けながらも、正面から無慈悲に来る攻撃を捌き続け、見えないところから飛んでくる魔法を対処する。


(やっばい……そろそろまじでキッツ……)


 足元からは柱、前方からは炎狼の猛攻。しばらく続く一方的な攻撃に流石のティルも、集中力がかけてしまう。そんな状態を炎狼は見逃すはずがない。炎狼は急に動きを変え、避けられることを見すえ、大袈裟な動きでティルへと攻撃した後、とある魔法を放つ。


「やっば!これ……ちょッ!!」


 炎狼の放った魔法は紅球の時に見せたあのレーザーである。先程の攻撃とこのレーザーにより退路を絞られたティルは、その通りの道筋をたどる。そして、更に放たれたもうひとつの魔法。それはただ放たれた小さい火の玉である。だがそれはティルの体勢を崩すのには十分な魔法であった。


(まずいッ!!)


 ティルの体は後ろへと倒れ始め、完全に体のコントロールは失われる。なくなく倒れるその先では、真下で炎が渦巻き、今にもあの柱が生み出されようとしている。


(あれは……)


 倒れながら見つけたのは、空を駆け抜けこちらへと向かう1人の男。すると、下から現れた柱の周りに強烈な風が吹き、柱の炎は弱まる。その後、氷の魔法により炎が囲まれると、柱は完全に消えティルは背中からコケるだけという、最小限のダメージに収められる。


「お前、そんなもんか?」


 来てそうそう煽るんかいと思いつつも、ハイドから伸ばされた手を取り立ち上がる。


「いえ、全然!!」


「ならよし。ここまでよく耐えた、とは言っておこうか……。後あれだ」


 ハイドはそう言うと、指パッチンをし何かの魔法を発動させる。


 ティルは背中に向けられた何かを感じると、パッと後ろを振り向く。


「それだ。今は魔力を感じやすいよう、わざと魔力大めにやったが、この下から出てくるのもだいたい一緒だ。視覚だけじゃない。言ったろ?もう少し広く見ろって。言いたいこと分かるな?」


(確かに……何となくで感じてはいたけど……)


 今までは炎狼の猛攻もあり、ほぼ全て視覚のみの情報で戦っていたが、周囲に対し集中すると、柱の一つ一つを、簡易的にではあるが察知出来ることに気付く。


「ま、普段からやってないと慣れないとは思うが……まぁ戦いながら慣れろ、だな。かと言って目の前の相手への警戒薄めちゃぁ意味ないからな?両方を同時にやれ」


「了解!!」


「じゃ、行くか」


 ハイドの言葉にティルは黙って頷くと、武器を構え剣に炎を纏わせ、今やるべきことを考える。


(僕は、あの狼に対して何の決定打を持たない。だけど、そんな僕に対しこの人は時間を稼げと言った。そして今ここにいる。ならやるべき事はひとつ。)


 ティルはそう言うと、その場からほんの少し下がり、戦況の状況が見られる位置に立つ。


(見ろ、あの人を、あの狼を。動き見ながら今やるべき事を探せ。狼の動きも、あの人の動きも……今まで沢山見てきた。考えてる時間は無い、動きを予測しろ!!)


 そして、1呼吸置いた後、これから始まるであろうハイドの攻撃の援護へと全神経を注ぐ。


 ・・・


 一方ハイドはと言うと……


 炎狼の攻撃に対し、フギン、ムニンから供給される魔力を利用しながら余裕を持って対処する。下から現れる柱も、先程ティルを助けた魔法で打ち消しながら、炎狼の攻撃を捌き続ける。


 ――――――――

 旋風(スパイラル)

 風属性の魔法により、その場に回転する強風を巻き起こす。攻撃よりも防御で使用されることが多く、他の属性の魔法の威力を弱めることに対し、大きな力を発揮する。

 持続時間こそ短いが、タイミング良く発動させることにより、最大限の効力を得ることができる。

 ――――――――


 ――――――――

 氷塊結晶(アイシクル)固定(フリーズロック)

 予め貯蓄された氷属性の魔力を一気に放出し、用途に合わせた形を作り攻撃する魔法。氷塊結晶にはいくつかの型があり、この固定は氷の塊を生み出し対象を包み込むことで、足止めや魔法自体を打ち消す防御、妨害用の型。またこの他にも、突槍(スパイク)斬撃(ブレイド)塊落(プレス)、等が存在する。

 ――――――――


(確かに、こいつの相手はあいつにはちと早かったか……)


 想定していたよりも一つ一つの動きにキレがあり、全ての動きが次の動きに繋がる。そんな戦い方をする炎狼に対し、ほんの少しだけ関心する。


「ま、何とかなりそうだな……ただな……」


 やはり1番気になるのは最初に打ち上げたあの炎の塊。こんな戦い方をする奴が意味の無い行動を取るか?ならば話は簡単だ。あの炎が降りてくる前にこいつを倒してしまえばいい。


「ちょっとだけ無理すっか……。フギン!!ムニン!!」


 ハイドはそう叫ぶと、2人の精霊から魔力が供給される。


「グッ……」


 人間の持つ魔力量に対し、魔力が生きる源である精霊の持つそれは、およそ数十倍にも及ぶ。そんな魔力の量が一気に人間の体に入ると、普通の人なら一溜りもない。簡単な話、人間は脳による自己防衛の為のリミッターにより、おおよそ3割の力しか出せない。しかしこの行為は、そんなリミッターすらも超える力を軽々しく出せてしまうようになる。そんな危なっかしい行為なのだ。


「久々だと、やっぱきっちぃな……」


 そんな、頭のてっぺんから手足の指先まで走る激痛に耐え、ハイドは炎狼の首を狙い懐へと飛び込む。


 風の魔法により速度が強化されたハイドは、炎狼の猛攻も簡単に凌ぎ、目標の位置に到達することなど造作もない。しかし、それだけでは無い。己へと向けられる魔法は、ほとんどティルが対処し、ハイドだけに攻撃が集中しないよう、上手く立ち回っていた。


(うん、いい動きだ。多分、戦場全体の動きを把握しつつ、行動の予測も精度が高い。それに魔力の察知も慣れてきたみたいだな)


 たった1回のアドバイスでここまでなるか?普通。そんなことを頭の片隅に起きながら、自分の教え子の上達ぶりに対し、ほんの少しだけご機嫌な顔がこぼれる。


「さてと……」


 そう言いこぼすハイドは、魔力を全身へと集中させる。すると、ハイドの周りには、視覚できるほどの強烈な魔力が吹き荒れる。


 流石にマズいと思ったのか、炎狼は炎の塊をハイドへと向けながら、全力で後退する。


「逃がすかっての」


 ハイドへと向けられた炎は、ハイドの放つ魔法によって別の方向へと避けられる。


 ――――――――

 荒レル暴風(レイジ・ストーム)

 一方向に対し、激しい風を巻き起こす魔法。威力の調整により様々な使用法が存在し、ある時は高速で移動、またある時は敵を吹き飛ばす、その他にも敵の攻撃を逸らすことも可能。

 魔力の消費が激しいと言う短所はあるものの、その利便さと汎用性から、ステータスの高い上級冒険者がよく使うとして有名な魔法である。

 ――――――――


 炎の塊の描く弾道を変えた暴風は、更にハイドの後方からも吹き荒れる。ハイドはそのまま風に乗り炎狼の懐へと潜り込むと、今度は右手に持つ剣へと氷の魔力を集め、すぐ近くにあった右足へと魔法を解き放つ。


 ――――――――

 氷塊結晶(アイシクル)斬撃(ブレード)

 氷の魔力を剣へと集中させ、氷の斬撃、及び衝撃波を生み出す魔法。魔力を込めれば込めるほど、威力は上がり、温度は氷点下へと近づく。皮膚や細胞を凍らせながらほぼ一点へと力が伝わるため、生物に対し非常に殺傷能力が高い。どちらかと言うと、切るというよりかは、瞬時に凍らせながら叩き砕くの方が近い。

 魔法使用後は、武器に対し氷の魔力が残留し、しばらくの間氷属性の追加効果を得られる。

 ――――――――


(よし、まずは機動力……ま、そんな甘くないわな)


 正確に狙われたハイドの魔法は、突如現れた炎の障壁により防がれる。


(なんだ……なるほど、そうか……)


 ハイドは今まで感じていたものがふと消えた気がし、下を見る。すると、今まで足元に展開されていた、あの柱を生み出す魔法は消えていた。恐らくこの炎狼、攻撃に割いていた魔力をこの一瞬で防御へと切り替え、今後の戦闘において不利な状況になることを防いだのだろう。それにそれだけでは無い。


(はぁ……そう来んのかよ……。ったく、これじゃちょっとばかし長くなるかもな……)


 炎狼はハイドの攻撃を危険視したのか、体全身に炎を纏い、先程の斬撃に対し警戒を高める。


(アイツらの魔力は……よし、まだ十分ある。そして今のこいつのこの状態……。果たして俺の攻撃は通るのか?見たところ、さっきの壁よりは薄そうだが……。いや、勝手に決めつけるのはまだ早い。もしも自由な炎の移動が可能だとしたら?もしそうなら、着くとしたらそこだな。そうじゃなくても、恐らくダメージは入るはず。なら……)


 攻めの一択しかない。その結論にたどり着くと、再び炎狼に対し飛び込むハイド。剣に残る魔力を頼りに炎狼の皮膚を切り刻む。


(剣の入りは硬いがそんなに悪くはない……恐らくこの炎と俺の氷は五分、いや、ややあっちの方が上ってとこだな)


 するとハイドは、右手に持つ剣に対し氷の魔法を注ぎ込む。すると、その剣身からは白い霧が現れ始める。その後の戦闘はと言うと、魔国でトップクラスの実力を誇る、ハイドの主戦場であった。


 冷気の注がれた氷の魔法をその身に宿らせた剣筋は、炎を纏う炎狼の皮膚を軽々しく切り裂き、時間が経つほどに炎狼は立つことすらままならなくなっていく。


(そろそろだな……。よし、あとは……)


 首を落とすか心臓を貫けば、魔国への脅威が消え去る。目の前の獣は既にボロボロの状態。ハイドはここぞとばかりに首に狙いを定め、氷の魔法を右手へと貯め、暴風を纏いながら一直線に向かう。


(終わりだ)


 そして、ハイドの放つ氷塊結晶・斬撃は、炎狼の首筋を捉える。が、しかし……


(だよな……そう来るよな)


 炎狼は再びハイドの勝負を決めるための魔法を防いで見せた。あれから体に纏う炎を一切操作しなかった炎狼。そう、体をボロボロにしながらも、1番警戒すべき攻撃が来るまで耐えしのぎ、ここぞとばかりに再び壁を生み出してきた。それも、目の前の冒険者が己を殺すために、体内の魔力を大量に消費するタイミングを狙って。己の反撃が一番ぶっ刺さるこの瞬間を待ち続けた。


「まぁじか……」


(くそっ……何が周りを見ろだよ。俺が出来てねぇじゃねぇかよって……。しっかし、まずったな。今の攻撃でほとんど魔力使い切ったか……。ダメージ覚悟で被害は最小限に、だな)


 攻撃を受け止められたハイドが見たのは、何か花のような形をしながら炎狼の背後に集まる、炎の塊であった。それは、先程の戦闘で見た、あのティルを吹き飛ばした魔法である。ティルの報告では、重たい、当たりたくない、恐怖心を感じた等と、とにかく直撃しては行けない。そう感じさせる報告であった。


(残りの魔力は……フギンの風がちょっとだけだな……)


 ただこの炎狼、そんな簡単には避けさせてくれないだろう。今までのたたかい方的に、確実にあの魔法を当てるための動きに、全神経を注ぎながらの攻撃が始まる。


(使い所を謝るな……使うのはここぞと言う時……それに時間さえ……いや、稼ぐ時間なんてないか……。余計なことは考えるな、目の前集中)


 喉の奥に詰まる体液をゴクリと飲み込み、これから始まるであろう、炎狼の猛攻へ備え、武器を硬く握りそっと武器を構える。


 アオーーーーーーーーーンッ!!


「さぁ来な!聖獣様とやらよ!!」


 このだだっ広い平原に響く遠吠えと共に、手負いの獣による悪あがきが始まる。


 炎狼の動きはこれまでよりも格段に素早く、更に今までのような知性は感じられず、ただただ本能のままに攻撃する。一言で表すならばまさに【獣】。それに尽きる。


 しかし、手負いの獣ほど怖いものは無いとはよく言ったものである。今までならば集中して避けられた攻撃すらも、体に掠るようになり、徐々に疲労とダメージが溜まっていく。それでも果敢に、冷静に対処するハイド。しかし、これでは終わらないのがこの炎狼なのである。


(ッチィ……、こいつ……)


 炎狼は、ハイドの疲労の様子が現れるようになると、ここぞとばかりに不意を着くような魔法を放つ。無論、その攻撃はハイドのバランスを崩すこととなる。宙に舞うは真紅に染まる鮮やかな色彩の液体。ハイドの左肩へと食い込んだ炎狼の爪により、真夜中の黒いキャンパスへと彩りが加えられる。


(そうだよな……普通ここだよな。俺ならそうする)


 顔を上げると、先程確認した炎狼の背後で集まる炎の塊が、今すぐにでも放たれんとばかりに疼き出していた。百聞は一見にしかずとはまさにこの事。ティルの報告では、あの魔法はやばいと認識していたが、実際に見ると、あの魔法に対し想定の数倍以上にヤバさを感じる。


 そんなハイドは、体に残るフギンの魔力を全身へと巡らせ、柔らかい風を纏いながらその時を待つ。


 ――――――――

 短距離移動用風魔法(ブリンク)

 相手の攻撃に対する回避、相手への間合いを詰める際などに用いられる風属性の魔法。消費する魔力をコントロールすることにより、距離や方向などを調整が可能な上、魔法を発動する際の見た目も変わりにくいことから、相手の選択肢を増やすという利点を持つ。

 消費する魔力も比較的少なく、風属性の魔法が得意な冒険者の間では、よく戦闘に用いられる。

 ――――――――


 ハイドの準備が整うと同時に、炎の塊は超高速でハイドへの元へと進み始める。


 ――――――――

 燼滅(じんめつ)一華(いちげ)

 その花弁のようなものから放たれる炎の塊は、全てを焼き尽くし、害なす者共を壊滅するとされる。

 ギルドの解析班によると、魔力の痕跡からこの魔法は、限りなく圧縮された、だならぬ密度の炎の魔法であり、人間では再現不可能と判断された。

 ――――――――


(今ッ!!)


 ハイドは魔法の軌道を読み切り、その射線から外れるよう、回避の魔法を放つ。だが……


(おいおいおい……いかれてんのか?この馬鹿犬……)


 そう、この炎狼。やはり人間の癖を読むことに長け過ぎているのである。ハイドの回避と共に炎の塊の進行方向へと修正され、ハイドのその命を捕らえる。


(くっそ……、ん?)


「「ハイド!!」」


 後ろからは双子の精霊からの声。そして……


「ぅぉぉぉおおおおおおおおりゃッッッ!!!」


 剣に炎を纏わせた少年が目の前の塊に向け、両手で持つその剣身で切込みを入れる。


(炎の魔法同士で相殺?んな馬鹿な……。理論上は可能なはずだが……。それに……)


 ハイドが気になったのはティルの剣が纏う炎の量だ。もし相殺しているのであれば、その炎の量は打ち消しあった分だけ無くなるはず。だが、ティルの纏わせる炎は無くなるどころか、徐々に強まってすらいる風に見える。


(これは……)


 思い出すのはタァモ村に住む天才【ジェニウス】の一言。『君の魔法は何かが違う』である。ハイドは、喉まで出そうな何かを考えながら少し考え込む。


「ちょっと!ハイド!!上上!!」


 そう叫ぶのは風の精霊フギンである。そう言われ上を見上げると、最初に炎狼が打ち上げた炎が降り始め、視認できる所まで近づいてきていた。


「くそっ、時間切れか……」


「とりあえず、ほら!!」


 フギンはそう言うと、ハイドへと己の魔力を供給する。


「すまん、助かる」


 ハイドは一旦退避を考え周りを見渡す。ティルは無事先程の魔法をぶった斬り、一番警戒していた脅威は無くなる。その後もムニンの援護もあり、やや離れた位置までは移動できたようだ。


 そして気になるのはやはり上空に見えるあの蕾。周りの情報を把握し終えたハイドは、まずティルの方に向け暴風を放つ。


「ドワッ!?」


 高速で移動するハイドにキャッチされたティルは、思いもよらぬ衝撃に変な声を出してしまう。


「悪いな、割と急ぎだったんでな、加減出来んかった」


 そして、4人は炎狼からかなりの距離を取り、その地へと舞い降りる1つの巨大な炎を眺める。


 ――――――――

 炎獄(えんごく)大花(たいか)

 打ち上げられた蕾は、大気中のありとあらゆる魔力をかき集めながら、その地へと再び姿を現す。

 その後大地へと舞い降り、その実を結ぶとそこに現れるのは、この世のものとは思えない巨大な花。

 花弁の如く展開される、その巨大な炎の海は、古の炎狼を癒しながら、その場に立つ者に苦しみを与え続ける。

 ――――――――


「なんだ……これ……」


 目の前に現れた大花を見たティルは、思わず言葉を零してしまう。大花には絶望すらも感じるが、思わずその美しい見た目には魅入ってしまう何かがあった。


「はぁ……はぁ……」


「大丈夫?ハイドさん?」


「あぁ、何とかな……逆にお前は平気なのか?」


「はい。自分は特に何も」


「そうか……」


(あの魔法、恐らくあの周辺の温度は相当高くなってるはず……。中心からこんなに離れているのにこの息苦しさ……。こいつの感じからすると、炎に耐性を持たないものは、戦場に立つことすら許されないのかもな……)


「ムニン、ちょっと力貸せ……」


「うん……」


 目の前の絶望にムニンも少し感じるものがあるのだろうか、いつもの元気が見られなくなる。


「これでいくらか……、フゥ。大分マシになったな」


 ハイドはムニンから氷の魔力を受け取ると、体をその魔力で覆い、周辺の熱い大気を相殺させる。


「おい、行けるか?」


「もちろん!!」


(返事だけは1人前だな……最悪は……)


 脳裏に浮かんだ1つの可能性。だが今はそんな事など考えてる暇は無い。ここで死んでしまえば、一体魔国にどれだけの被害があるのか……。やるべきことは死んでもあの聖獣を止める。ただそれだけである。


(やるしかねぇか……)


 ハイドは覚悟を決める。


「いいか?絶対死ぬなよ?」


「あたりまえです!!」


 ふぅ………………


「勝つぞ」


 目の前の師匠から放たれる、重い意味が込められて3文字。その3文字を受け止めたティルは、深く1度だけ、無言で頷く。


 こうして2人の冒険者の命を懸けた最終局面が始まるのであった。


 ・・・


 時は経ち数分後……


 夜の空が深い闇に包む中、無慈悲な炎に照らされた平原に、不思議な光が舞い降りる。そこに現れるのは、1人の可憐な17歳の少女である。だがしかし、その場所は先程いた町と同じ国とは思えない程の、重く熱い空気。ほんの少し息が苦しく、その場にたち続けることが困難な程、過酷な環境であった。


「嘘…………」


 そこでその少女が見たもの。それは、美しい炎に包まれる1匹の傷だらけの獣。そして、血まみれになり横たわる男を正面で守る、1人の少年の姿であった。


「ティル……ハイド……さん……」


「はぁ……はぁ……ソフィア……どうしてここに?」


「私は……」


第13話 「花開ク刻」~完~

はい。最終決戦2話目。どうでしたか?

次の話でこの戦闘、そして1章の終わりです!!

いやぁ……長かったですね……。

とりあえず、今のところは明日、4月5日に投稿を予定してます。

では、また次会う時まで、どうぞお待ちをッ!!


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