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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第1章 魔都奔走編 〜英雄の始まりと歌姫の目覚め〜
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第12話 〜古の炎狼〜

久々の投稿になり申し訳ありません。


ではどうぞ、お楽しみをッ!!

 久しぶり。そう声をかけてきたのは運び屋。あの日の憎しみ、いやどちらかと言うと悔しさが蘇る。だがそれよりも……


「どうしてあんたがここに……?」


 なぜこのタイミングに、この場所にいるのか?まるで、最初から分かっていたみたいに。


「なんだ?あいつ、お前の知り合いか?」


「いいえ……とは言えないですけど……うん。なんだろう?まぁ、因縁っていうやつです。試験のときの」


(試験か。ってことは冒険者試験のことだな?なるほど……。なら恐らく、マグナさんが言っていた【運び屋】とかいうバケモンはこいつのことか)


「まぁまぁ、2人とも。そんな邪険にしないで。今、君たちと戦うつもりは無いんだ」


「まぁ、そらそうだろうなッ!!」


 そんな運び屋の言葉に対しハイドは、何もさせまいと瞬く間に攻撃の態勢を整える。


「そんなに甘くはいかせないよ」


 運び屋はそう言い、何かを口ずさむ。


「グッ……」


(なんだろう……すごく嫌な感じだ……)


 突如として運び屋から溢れ出る、恐怖に似た何かを放つ重たい空気感に、ハイドですら進むことを躊躇ってしまう。


「それじゃあ始めようか」


 すると運び屋は、卵を優しく撫でながら歌い始める……


 LaLaLaLaLa…………


 歌は、この広大で静かな草原に響き渡る。地面、空気、草花、この場にあるもの全てを包み込むように。優しく温かい声とは裏腹に、これから何かが始まるのではないかと予見させながら……。


「それじゃあ頑張って」


 運び屋はそう言い残すと、聖獣の卵を残し姿を消してしまう。そして……


 アオーーーーーーーーーン!!


 深紅色の球体は割れ始め、白い光があふれ出す。その光は力強く荒々しく輝く。しかし、どこか神秘的にも思える美しさを感じる。


 殻がすべて空気中へと消えると、聖獣の姿が現れ、ゆっくりとその体を大地へとおろす。


(聖獣……あれが……)


 聞いていた話、そして町で見た狼から、恐ろしい化け物のような姿を想像していたが、現れた聖獣は一言で表すと【美しい】。その一言に尽きる姿であった。


 ーーーーーーーー

 太古の炎狼・岾咲美火神(ヤマサカミホノカミ) 以下、炎狼

 かつて星のために戦った、炎を司る巨大な狼のような獣。全長約30mほどの巨体を有しており、毛先が赤く、透き通るように輝く白い毛並みが特徴。

 伝承では、その魔法は戦うものを焼き尽くし、地形すらも変えるとされている。

 ーーーーーーーー


 炎狼は地にゆっくりと足をつけると、目の前にいる1人の冒険者止めを合わせる。


(なんだ?……目があってる、気がする?けど……)


 その目からは何故だろうか、少し悲しそうな気持ちを感じた。


 炎狼は1度瞬きをすると、今までよりも強烈に吠え叫ぶと共に、ひとつの魔法を空へと打ち上げる。


 ――――――――

 炎獄(えんごく)(つぼみ)

 戦闘開始と同時に空へと打ち上げられた1粒の火球。

 今のところ何も影響はないが、何か嫌な予感がした。と、聖獣と対峙した冒険者は語る。

 ――――――――


 開幕、何かしらの魔法を打ち上げた炎狼は直後、体の周りに魔法を準備しながら、こちらへとゆっくり詰寄る。


 先程の戦闘の際何度も見たあの魔法から、どれほどの素早さかと身構えていたティル。だが思っていたよりも炎狼は知性があるようで、こちらをずっと見つめながら間合いを取りつつ、チクチクと魔法で牽制をしてくる。


(そうだよな。さっきのあの紅球だって異様に動きにくかったもんな…………)


 そんなティルのやきもきするような戦闘は、唐突に終わりを告げる。おそらく何かを掴んだのだろう。炎狼は、今までののらりくらりとした動きとは打って変わり、その巨体をティルへと向かわせる。


(へっ、そんなのッ!!)


 と、若干の余裕を見せるも、すぐにその姿勢は崩れることとなる。


 巨体の突進を躱したティルは、少しでもダメージを入れまいと武器を構える。だが目線をあげるとそこには炎狼の後ろ足。


「まずッ!!」


 思わぬ攻撃に一瞬怯むも、その攻撃は上半身へと向かっていると、冷静に判断。つかさず頭を地面スレスレまで下げ、低い姿勢をとる。


 突進の勢いと、遠心力の乗ったその後ろ足は、ティルの背中の上を通過し、空気を裂くような重たい重低音と共に過ぎ去っていく。だがまだこれで終わりでは無い。回転の余力を利用しある程度の距離を取った炎狼は、鋭利な爪をむき出しにしながら、こちらへと狙いを定める。


(ここで一発……)


 ティルの狙いは己を見つめるその眼球。いくら巨体と言えど、目に鋭利な物が突き刺されば一溜りもないだろう。そして今がそのチャンス。ティルはふぅッと息を吐き出し、体の余分な力を抜き武器を構える。


(よし……こい……)


 炎狼は再びティルの元へと走り出すと、その巨体で覆い被さるように前足をあげ、鋭利な爪が目立つ右前足をティルへと振り下ろす。


(ここ…………)


 ティルは完璧にタイミングを掴み、体をその爪が当たるスレスレで攻撃を回避する。このまま目を……と思ったその時、ティルはあるものを目にする。


「ちょ、ま!?」


 それは、炎狼の巨体により隠された、死角から放たれた炎の塊だ。


(くっそ、こいつ……最初からこれが狙いか……)


 そう、この炎狼。以外と頭が回るらしい。最初のあのチクチクとした嫌がらせ。あれはおそらくティルの動きの癖を読むためのものだったのだろう。そこで得た情報を元に、何をしたらどう動くのか。何が得意で何が不得意なのか。そう言う情報を集めていたのだ。


 そして最後の選択、あえての大ぶりの攻撃。最後に顔面を晒すことによって意識を完全にこちらへと向け、ギリギリまで魔法に気づかせなかった。その結果、最初の攻防は炎狼に軍配があがったのであった。


(やッばいこれ、避けるの無理だって!!)


 ティルは攻撃を諦め、すかさず防御の体制をとる。


 ドンッ――――――


「重たッ……」


 炎狼の放つ炎の球を受け止めるも、その力に耐えられず、ティルの体は遥か後方へと吹き飛ばされる。だが何よりも1番気になったのはその重さであった。


 冒険者になり約半年。いくつもの対人戦や、魔物との戦いの中で、様々な魔法を受けてきた。だが今この剣に触れている炎の玉には、今までの魔法には無かった、確かな質量がある。剣に触れる魔法の重みが体に直撃してはならないと、本能に訴えかける。


「クッソッッ!!!」


 そんなはしたない掛け声と共に、動きにくい空中で、何とか炎の玉を別の方向へといなす。すると――――


 ヒュンッ――――トサッ…………


 横から何かが高速で向かってきたと思うと、吹き飛ぶ体の速度はゆっくりと減少し、そのまま空中で止まる。


「ったく……お前な……。いいか?ちゃんと見ろ?周りを良くな。お前のその集中すると視野が狭くなるの。さっさと直さないと、後で今みたいに痛い目見るぞ?」


 どうやらハイドのようだ。ティルが魔法を弾くタイミングを見計らい、キャッチした上、受け身まで取ってくれたらしい。しかしふと見上げると、そこには見慣れない姿があった。


「えぇと、ハイドさん……でいいの?」


「ん?あぁ。俺で間違いない。そういや、この姿見んの初めてか。これはあれだ、精霊から力借りるとこんな感じになる。ま、覚えといてくれや」


 ハイドは普段、ボッサボサの黒髪ショートなのだが、今は白髪になっており、体の表面からは、冷たい冷気と若干の風圧を感じる。


(なんか……いつもと雰囲気違う。それに今のこの人に勝てるイメージ、全然わかないや)


「お前、あいつとタイマン張れっか?別に倒さなくてもいい。時間さえ稼いでくりゃぁそれでいい」


 ティルは少しの間考え、回答を出す。


「ずっとてのは無理だろうけど……少しの間戦って距離をとる。その繰り返しなら、暫くの間は戦えると思います」


「なるほどな……よし。なら、いけっか。じゃ、頼んだぜ!!」


「了解し……って、うわァァァァ!!!!」


 ハイドは方針を固めると、躊躇いなくティルを炎狼の元へとぶん投げる。それも猛スピードでだ。


(ちょい、これじゃ地面ぶつかるって……)


 やばい――――これじゃあ炎狼と戦う間でもなく死ぬ。そう思い、どうにか生きようと受身を取ろうとするが、そんな心配は要らなかったようだ。着地する寸前、下から風の魔法が発生し、地面へと向かうティルの体は、ゆっくりと静かに着地した。


(なら投げる時言えよって!!)


 そう思い、一瞬ハイドの方へと睨みをきかせるが、さすがはあの人。全く悪びれる様子もなく、ただただこちらの様子を眺めていた。


(はぁ……まぁいいや!!)


「やってやる!!来い、炎狼!!」


 そんな様子を見たハイドはと言うと……


「ま、さっきの見た感じだと大丈夫だろうな。油断しなりゃの話だが……。よし、じゃあこっちも準備初めっか。おい、2人とも」


「「あいさぁ!!」」


「お前ら、魔力できるだけ溜めとけ。俺があの犬の懐に入るから、俺の合図でありったけを寄越せ。いいな?」


「でも大丈夫?耐えられる?」


「まぁ……大丈夫だろ、心配すんな。多分何とかなる」


「ハイドがそういうなら信じるよ」


「すまねぇな。んじゃ、頼む」


「「あいよ!!」」


 こうして3人は魔力を同調させ、互いに魔力を高め合い、対炎狼戦へと向け準備を始めるのであった。



 ・・・


 トサッ……トサッ……トサッ……


 場面は変わり、ここは魔国のとある一角。冒険者御用達の東区に、とある2人の足音が静かに鳴り響く。


「よぉし、着いたな。じゃあ案内よろしく」


「は、はい」


 女性の案内により、古い見た目の店の奥まで進むと、これまでとは違った雰囲気の部屋にたどり着く。


「あら?ソフィアさん、こんな時間……って、え!?どど、どうしたんですか!?レオーネさん!!それに……魔国団の……」


「ども、副団長ですー。すまんね、こんな時間に」


「あ、そ、いや、そんなことよりも……」


「この娘なら大丈夫。命に別状はない。それに、ここなら色々と見れるでしょ?」


「そうですね。では、レオーネさんはこちらで預かります。ここまで送っていただき、ありがとうございます」


 受付嬢の席に座るアイラは、カウンターにある端末を操作すると、マグナイルからレオーネを受け取り、奥の部屋へと運ばせる。


 レオーネの安全が約束されたのを確認したソフィアは、己に溜まった疲労を思い出し、近くのソファに腰をかける。


(ティル達、大丈夫かなぁ……)


 そう、天井を眺めながら、聖獣と戦う2人の心配をする。


「おーい。疲れてるとこ悪いけど、そろそろ行くよ」


「は、はい!!すみません!!」


「じゃ、あの娘のこと頼んだよ」


「当然です♪この建物にいる限り、誰1人として死なせたりなんか、させませんから!!」


「おぉ、随分と心強いこった。そんじゃ、また」


 そんなこんなで店の外に出た2人。その後暫くの間、深い静寂に包まれた夜の魔国のパトロールを行う。すると、ソフィアの様子が気になったマグナイルから、声が掛かる。


「そんなにあの二人が心配かい?」


 突然の質問に少し驚いたソフィアは、少し間を置いて答えを述べる。


「まぁ……はい。少しは……」


「ふ〜ん、そっか。そうだよなぁ……」


 と、マグナイルは何かを思いつき、ソフィア眺めながら、ぐるりと1周ソフィアほ隅々を眺めながら回る。


「えと……何……でしょうか……」


 少し恥ずかしくなり、震える声でマグナイルに問いかける。


「いやぁね、ちょっと……」


 すると、マグナイルは後ろから、ソフィアの肩、腕を触り始める。


「キャッ!!」


「ごめんねぇ、あと少しだから」


 そんなセクハラ紛いのボディチェック?に対し、若干の嫌悪感を覚えるソフィアは、少しづつ体が震え始めていた。


「では最後に失礼して…………」


 そう言うとマグナイルは、ソフィアの右手を取り、握手の形で手を握る。さらに、何か真剣な眼差しでソフィアの目を見つめてきた。だがそれだけでは無い。何か、恐ろしい気配がマグナイルの方から流れて来たのだ。


 流石に耐えられなくなったソフィアは、大きな声を出しながら手を振りほどき、大きく1歩後退する。


「ご、ごめんなさい!!」


 その反応を見たマグナイルは、何かを考えながらブツブツと独り言を言い始める。


「………………ま、大丈夫か。いざとなったら自分の身くらい守れる程の実力もある…………」


 その後数秒間何かを考えると、ソフィアにひとつの質問を投げかける。


「おじ……お兄さんね、暫く散歩してたからさ?ある程度の魔力が戻ってるのね?で、今の状態だと、1人だけなら転移させられるんだけども……。君は今、どうしたい?」


「私……ですか?」


「そう。もし君が行ったとしても、何かができるとは限らない。もしかしたら君の仲間が死んでるってことも有り得る」


 ソフィアは、そんな最悪な可能性を認識させられ、少しの間俯き考える。


(ま、いくらイヴの奴に指導して貰ってるからと言って、まだ子供だし女の子だもんな……。やっぱり……)


「それでも……、私行きたいです。直接的じゃなくてもいいんです。少しでも、ほんの少しでも力になれるのなら、私は行きたい……」


「でももし……」


「もしも、ティルが死ぬ。私はそんなことないと思う……私は、彼を信じてるから。それに、例えどんな結末になろうと、私は見届けたい。見届けなければいけない……そんな気がするから……だから……」


 1呼吸置き、自分の覚悟をマグナイルにぶつける。


「だから!私を行かせてください!!彼の元へ!!」


 その反応を見たマグナイルは、思わず笑ってしまう。


「ハハハハハハ……分かった。いいね。いい覚悟だ。フゥ……、よし、じゃあそこ立って」


 ソフィアは、マグナイルの指示に従いゆっくりと歩く。


「じゃあ準備はいいかい?」


「はい!!」


 ソフィアの返事を聞いたマグナイルは、目を瞑り何かの魔法を唱え始める。すると、ソフィアの周りに不思議な光が集まる。


「いいかい?くれぐれも無理しちゃダメだよ?」


「は……いえ。それは、保証できません」


(なるほど……そう来ますか……。全く、本当に良い目だ……これなら今後も大丈夫でしょう)


「ハハハ。んじゃ、気ぃつけてな。頑張れ」


 そう言うと、ソフィアの姿は完全に消え、その場にあった光も消滅する。


(全く……本当に将来が楽しみだ……。あの子達がこらから何を成していくのか……本当ならずっと見てたいもんなんだがな……)


「さぁてと……じゃ、俺もぼちぼち見回りますか……と」


 こうして1人、寂しそうにする男は、魔国の危険を排除すべく、夜の散歩を始めるのであった……。



第12話 「太古の炎狼」 ~完~

本当は1話にまとめる予定でしたが、思ったよりも文字数多くなってしまったので、とりあえずこの戦いは3話構成にしようと思ってます。

現在入院中のため、ちゃんと執筆できるか分かりませんが、4月中には1章終わらせれるよう頑張ります。

では、あれですね。次の話でまたお会いしましょう!!

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