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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第0章 冒険が始まるちょっと前の話
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第5話 〜始まりの遺跡〜

 試験当日、ティル達4人は協会の酒場に集まっていた。今日、新しい冒険者が生まれる。そんな状況だからか、いつもよりも酒場が賑わっていた。


「試験開始まで、あと何時間だっけ?」


「お昼過ぎのはずだから、後4時間くらいね」


「そっか。じゃあ1時間位したらここ出ようか」


「うぃーす。りょーかーい」


「.......」


「で、今回の試験どんな感じで進めてく?」


「まあ、基本大型メインで、ついでに他のでポイント稼ぎみたいな感じで良いんじゃない?」


「.................」


 3人で試験について話す中、ソフィアは1人浮かない顔をしていた。


「どったん?そんな顔して」


「どっ?いや、あの、ココ最近、皆さんと一緒に行動させて頂いて、感じていたんです。私では足でまといではないかと。それに、正当に参加されてる皆さんと違い、若干グレーな方法での参加となると、心苦しいというか、その.......」


「いやいや、だーいじょうぶでしょうよー。そもそもあの試験は、冒険者になって街を出ても直ぐに死なないか、見るための試験だし。ソフィアちゃんならその辺、大丈夫なはずよ!」


「そうだねー。後半のグレーってやつも大丈夫だと思うよ。ほれ、あそことあそことー、居た。あそこらへん見てみー」


 と、シースの指指す方を見る。するとそこには、5〜6人で何やら真剣そうに話し合いをしているグループが3つほどあった。


「ほら、周りと明らかに装備が弱そうなのに3人以上でテーブル囲ってるでしょ?よりによってこんな日に、そんな装備でなかよしこよしなんかするかな?普通。つまりはそういうことよ」


「あんたって、そういうとこに敏感よね。視野が広いんだか、言い訳作りが上手いんだか。本っ当そういう所ソンケイスルワ〜」


「でも、確かにシースって視野は広いよね。戦ってる時とか、いつの間にかサポート入ってくれてるし。たまにずる賢いけど」


「うんうん。君たちはいつも一言多くて助かるよ。まあ、それは置いといて、、、、僕が言いたいのはさ?複数のパーティーで難易度の高いクエストに挑戦するのは普通だよね?今回も同じなんだよ。何かを成し遂げるのに工夫するのは当たり前。提示された情報だけで何も考えず、【はいそうですか。】みたいな感じで動くやつなんて、この世界では生きてけるはずないよ」


 シースは、ソフィアに向け言う。するとソフィアもさっきまでの曇った表情は消え、いつもの明るい顔が戻ってきていた。


「なるほど、確かにそうですね。ありがとうございます。ちょっとだけ楽になりました」


 そうシースがソフィアを励まし終えた後、ティルは周りの雰囲気が変わったことに気づく。ふと周囲を見渡すと、先程シースの指摘していたグループは既に姿を消していた。その代わりに、今回試験を受けるであろう受験者たちがこちらを睨むように見ていた。


 ソフィアもその視線に気づいたのか、さっきまでの曇った表情が戻りつつある。するとシースは、今までよりも声のトーンを大きくし喋る。


「それでもね〜。やっぱりガミガミ言ってくる奴はいるんだよ。準備不足で合格ギリギリな奴。頭のお堅い奴。ルールに書いてあることしか実行できない、殻の破れない視野の狭いお方々は、特にね」


「ちょ、あんた!?何言ってるのよ?ソフィアちゃんもティルも、なに聞き入っちゃってんの?あんたら何なの!?馬鹿なの!?死ぬの!?私、どうなっても知らないわよ?」


 ハルナはシースの煽りを止めようとするが、それでもシースは止まらない。いや、止められなかった。


「そんなわざわざ、突っかかっくてるおバカさんたちにはこういってやんな」


(これからどんなパンチが来る?)と、ティル


(意外と、こういう雰囲気嫌いじゃないかも)と、ソフィア


(あんたら馬鹿じゃないの?まさかソフィアちゃんは.....あ、ダメだ、目がキラピカしてるわ。)と、ハルナ。


 3人がそれぞれの思いを馳せてる中、酒場の注目を集めているシースは中指を立て、相手をバカにしているような顔をし、言い放つ。


「うっせんだよヴァーーーーカ!ルールルールって!あんたら!自分のこと警察か裁判長かなんかと勘違いしちゃってる異常者さんですか!!なら、お家にでも帰って○○○と○○○でも、○○○!!!○○○、○○○、××××××××○○の○○○※※※※※!!!□□□□□□の○○○!□□□、××××!☆☆☆☆☆!!!・・・・」


 そんな、下品で狡猾な大声が、協会の酒場に鳴り響いた。


【なお、言葉の汚さは以下。

 ○<×<□<※<<<☆……□で人間否定レベル。】


 この一言で、酒場に一瞬静寂が訪れる。シースは場の雰囲気に酔っている為か、妙に言ってやったぜ感を出していた。ティルも、やったれ感を出していたため、やや興奮気味で、シースと共に右拳を天井へと掲げ直立している。そして、ソフィアはと言うと.....


「.....行きましょうハルナさん」


 と、いつもの落ち着きを取り戻し、その場をそっと後にする。


「お、正気戻った。じゃ、後始末よろしく♡」


 2人は真顔で席を立つと、ティルとシースを残し協会を出ていく。パタンッ……、と閉まる扉の音を合図に、協会内は一気に熱狂的な盛り上がりを見せる。


「いいー振られっぷりだなーー!おい!!」


「なんだなんだーーー?ほかのやつら言われっぱなしでいいのかー!!やんねーのかーーー!!おらーー!」


「ウォーーいいぞお前らー」


「やったれーー」


「活きのいいのは他にいねーのかーー?」


「やっちまえーー」


 と、冒険者の酔っ払いたちは酒場の中央の席を避け始め、小さめのリングが出来上がる。試験開始3時間半前だと言うのにも関わらず、今日1番の盛り上がりを見せている。


 この流れに便乗したのか、大男と小柄の女性2人組がこちらな向かって来る。


「お前たちバカかなんかカ?便乗するつもりなかたケド、私たち舐められるの嫌いね」


 と女性が、


「僕は正直気が乗らないんだけどね、こいつがどっ……!」


 男が何かを言おうとすると、思いっきし足を踏まれ遮られる。周りからは、汗臭い野郎共による


「やれっやれっやれっやれっ」

「ウォッウオッウオッウオッ」


 のコールで溢れかえっている。ティル達と謎の2人組はステージの上で構え合う。その周りには次は俺たちだ!と言わんばかりに興奮している冒険者も多数見られ、場の熱気は更に盛り上がり続ける。


 一方、その頃外では.........


「何か、結構盛り上がってますね.....なんでこう、落ち着いてられないんでしょうか?」


「そうよねー。本当にバカバカしいわ……。て、あなたもついさっきまでは、あっち側の人間だったのよ!?なんで無かったことにしてるのよ!?」


 ソフィアは何も聞かなかったことにして、そのまま続けた。


「とりあえず、2人が出てくるまで、その辺で軽くお買い物でもします?」


「えぇ……あなたね……。まあいいわ。ソフィアちゃんとは1回お出かけしたかったし!」


「ふふ、ありがとうございます♪じゃあ、行きましょう!」


 ソフィアとハルナはバカ2人組を置き、噴水周りにある出店や、魔道具屋などを巡っていた。



 一方、協会の中はと言うと.....


「私、名前レン言うネ。コイツ、シュナイド。死ぬ前に覚えとくイイヨ」


「ども、よろしく。まあ、試験前だし怪我しなァッ……」


 この場で唯一まともな男の発言は、またしてもレンの蹴りにより遮られる。


「冷めること言うなバカガ」


「おうおう、お熱いね〜。俺はシース。んで、こいつは、、、」


(うわぁーこいつ目ぇギラギラしてるよ。怖ぁっ。)


「俺はティル!もう準備オウケイ?じゃあみんな!カウントダウンよろしく!」


「アンタ、威勢イイネ。ソウイウの好きヨ」


「あんまこういうノリ好きじゃないんだけどなぁ...」


 互いの自己紹介を済ませ、4人は構えをとる。今か今かとファイトを待ち望むギャラリー熱気により、会場は徐々にヒートアップしていき、ティルの掛け声で更に盛り上がりに拍車がかかる。


「10...9...8...7...」


 すると、2階のドアがゆっくりと開く。


「6...5...4...」


 ドアの中から、眠たそうな顔をしている、20代後半位の女性が姿を現す。


「3...2...」


 女性は現在の状況を把握し、目をカッと開く。


「はあ?馬鹿じゃないの?」


「1.........」


 女性は手を前に掲げ集中する。


「「「ゼローーッ!」」」

「ゴルァーーーーー!」


 カウントダウン終了と同時に、ギャラリーの声よりも大きい叱責が響く。それ同時にティル達4人とギャラリーで騒ぐ全ての人間の頭上に水が降る。

 すると女性は、般若のような顔をしながらステージの上に飛び降りる。


「頭冷えたかい?」


 女性が4人に向かって言うと、


「アンタ、誰ネ?今いいトコ。邪魔す……」

「アァ?」


 女性は睨みを効かせ、レンの言葉を遮り威圧する。


「お前ら朝からうるさいんじゃ!!!人がせっかくの休日ゆっくり寝てるっちゅうんに!もういいわ!全員連帯責任な」


 女性はそう言うと、指でパチンと鳴らす。すると、ステージの上に立つ、馬鹿者4名に雷が降り注ぐ。


「ハ?」

「ありゃっ」


「へ?」

「うそーん」


 真っ黒焦げな4人の姿を見た女性は、手をパッパっと払うと、深くため息をつきその場にいる人間に命令をだす。


「はぁーーーーっ、連れ出しな」


 あたりはシーンとなり、ギャラリー同士、目を配らせている。そんな様子を見た女性は、少しイライラしながら、


「何?言ってることが分からない?あんた達も黒焦げになりたいかい?なりたくなかったら早く外に捨ててきて、ここも綺麗に戻しなさいッッ!!!」


「「「は、ハイッ!」」」


 酒場は一気に落ち着きを取り戻し、普段の落ち着きのある(無い)酒場の雰囲気に戻って行った。それを見たこの騒ぎを沈めた女性は、


「ったく、大人がガキの雰囲気に飲まされてんじゃないよ。どーしてこう、男共は馬鹿なんだか。だいたい、あと少しで試験開始っつうのに...余程、体力に自信があるみたいだね。帰ったら覚えとけよ?」


 と、愚痴をこぼしながら2回の部屋に戻って行った。



 ーーーーーーーーーーー

 1時間後........


「おーい。そろそろ起きなさーい」


「あの、そろそろまずいんじゃ.....」


「いいのいいのー。こんくらいしないと気が済まないし」


 ティルは徐々に目を覚まし、うっすらと目を開けると、


 パチーーーーン!!


 左の頬に衝撃が走る。


「ッタァーーーー!え?痛い!?なんで!?」


「お、起きた。おはよう!」


「……お、おはようございます……」


「お、おはよう?」


 状況が掴めず辺りを見回す。どうやら、ここは東門のすぐ目の前のようだ。謎の雷に打たれたところまでは覚えている。どうやらあの後自分は気絶し、ここまでソフィア達に運んでもらったようだ。


 ふと隣を見ると、自分と同じようにシースが超大振りビンタを食らっていた。


「起っきろーー☆」


 ハルナは先程の協会での仕返しとばかりに、何度も何度もビンタをしていた。まるで、日頃のストレスを発散させるかのように。今まで見たことの無い笑顔をしながら.....。

 ティルはふとシースの方を見ると、小刻みに震える右手が目に入る。手がピクピク動き、痙攣していた。いや、痙攣しているような気がした……。


(あー、もう調子乗るのは辞めようかな.....うん。大人になろう。)


 ティルはそう心の底から反省をする。


 しばらくするとシースも目を覚ます。シースは起き上がった途端、やや腫れ上がった右の頬を抑え、不思議そうに顔を傾げていた。若干腫れ上がっているが、これでもハルナが治療し大分引いた方である。


「お、おはよ〜。なんか、右のほっぺた痛いんだけど……頭ジンジンするんだけどなんかあった?」


「いや、何も無かったわよ ♪ ね、みんな!」


「ウン。ナニモナカッタヨ」


「私も、何も見てないです.....」


「あ、そーおー?」


 ハルナは妙にニコニコしていた。そんなやり取りをしていると、ハルナが話す。


「それより、あんたたち寝すぎよ。さっさと準備して行くわよ」


「もうそんな時間?」


 時計の方を見ると、どうやら思ったよりも時間が経っていたようだ。


(あらま、後1時間半だわな。)


「ほら、これ持ちなさいよ」


 目の前に物がたっぷり入ったカバンが置かれる。ハルナとソフィアの方を見ると、何も入ってないんじゃないか?と思うくらい軽そうな荷物があった。


「何よ。文句あるの?ここまで荷物もってきたの、あたし達なんだけど」


「あはは.....」


 ソフィアは、少し申し訳なさそうにしていた。さしずめハルナの案だろう。まあ、今回に関してはさすがにこっちが悪いと思い、遺跡までは我慢しよう。そう決意し、カバンを背負う。すると隣から、情けないシースの声が聞こえて来た。


「あ、あれれれ〜?なんか俺のだけ重くなーい?」


「当たり前でしょ?あんたが主犯格なんだから」


「そんな〜」


 とまあこんな感じで、ティルとシースは2人分?の荷物を負担しながら、遺跡へと向かった。遺跡への移動中、ティルは先程酒場に現れた謎の女性を思い出していた。


「そういえば、さっきの女の人って誰か知ってる?」


「女の人?」


「あ〜、あの水色の髪したブチ切れ落雷姉さん?」


「ぷッ、ブチ切れって。まあ、うん。あの人」


(ブチ切れ落雷?誰?鬼?あの後、何があったのでしょうか?)


「あの人は多分メイアさんだよ。ギルド【アイオライト】 の団長。後、マグニア軍の魔法研究室の副所長?だったかな?結構色々やってる人だよ」


「ほぇー、なんか凄い人なんだね」


「凄いってもんじゃないわよ。逆に知らないあんたの方がすごいわよ。知らない人の方が知らないっていう位には有名よ。ここ、マグニアの領土だけじゃなくて、全世界での話で」


「私も聞いたことはあります。なんか、モデルもやってるとか。.....私が以前住んでた街でも、皆に人気でしたね!」


「ティルってたまに流行りに疎いとこあるよな〜」


「まあ、僕のいたとこは結構田舎だったからね」


「 ふーんww」


「へ〜ww」


(くそっ、こいつらなんかヤダな。なんでこんなとこだけ妙に息ぴったりなんだろ。)


「にしても、あの魔法見たかよ?あれはさすがにビビるよね〜。あれがもし戦闘だって考えると冷や汗もんだよ」


「へぇ〜、どんな魔法だったんです?」


「もうね、会場で騒いでる人、全員に水が降ってきたんだよね。騒いでる人だけ同時にね。あれが、水じゃなくて氷だとか、雷だったら殲滅どころじゃ済まないよね」


(確かに、あれがもし即死級の魔法なら.....)


「やっぱり、ギルドの人ってすごいね」


「そうねー。やっぱり流石だわ」


「そうですね!流石、みんなの憧れって感じです!あ、皆さん!そろそろ見えてきましたよ!」


 そんな、やり取りをしているうちに、試験会場までたどり着いた。現在居るのはだいたい60人くらいだろうか。どうやら大体の冒険者は既に到着しており、試験に向け準備をしている。ティルたちも同じように準備を始めようとした時、後ろの方から声をかけられた。


「アンタたち、やっと着いたカ?」


「あんたらは.....レンと、...シュリンプ?」


「シュナイドね。俺はエビじゃないよ」


「はっは〜。すまんね〜。シュナイドね。オケオケ。もう大丈夫。覚えたよ〜♪」


「この方たちは?」


「まあ、カクカクシカジカって感じかな.......」


「何ダ?私タチ四角カ?鹿カ?アンタらバカネ。私、どちらでもないヨ」


「まあ、そういうことではないんだけどね.....」


「で?この人達はだ.....あ、思い出した.....」


「ん、?ハルナさん、この方たち知って.....あ.....」


 ソフィアとハルナは、協会前でとある2人のおバカと共に黒焦げになってる、もう2人のアホ達の姿を思い出した。


「.....で、何?今からまた騒ぐの?」


「私たちあそこで受付済ませてますので。ごゆっくりどうぞ」


「いや、私たち今ハ戦う気ないヨ。アンタ達、嫌いじゃない。だから私、忠告しに来たネ。マ、忠告と言うか、情報共有」


「忠告?」


「そう。最近よく聞く噂なんだけど、この辺で人攫いがあるらしいんだよね。しかも、帰ってきた人は全員、魔法が使えなくなってるとか。まあ、試験中は大丈夫だと思うけどさ。ギルドの人達も、入口を見張ってくれてるだろうし」


「一応気を付けるといいヨ。それじゃあネ」


 と、レン達は忠告をした後遺跡へと向かった。


「人攫いですか.....。最近物騒になってきましたよね...」


「確かにねー。ま、考えていても仕方が無いし。私達も受付済ませましょ」


「そだねー」


「はい!」


「りょーかーい」


 ティル達も受付を済ませ、遺跡へと向かっていった。



 第5話 「始まりの遺跡」〜完〜


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