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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第1章 魔都奔走編 〜英雄の始まりと歌姫の目覚め〜
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第11話 〜深紅の卵〜 ①

 魔法大国マグニア――――他の国と国と比べ治安もそう悪くなく、比較的安全とされている国。しかしながら、そんな国マグニアに滅亡すらも予感させるような危機が訪れていた。


 上空に浮かぶは禍々しく輝く、深紅の色をした何か。妙に優しく国を照らす月と並ぶことで、余計異様な感触が伝わってくる。


「おい、お前の目測であと何分くらいだ?」


「どうだろ……分からないけどあそこまで育ってるからね。多分最短30分位だと思うよ」


「30分?えっと、さっきから何の話を?」


「ああ、そうだったな。あれはな、恐らく聖獣(せいじゅう)の卵だ」


「聖獣ねぇ、なるほど……は!?聖獣って、あの!?」


 聖獣とは一体……?そう思ったティルだったが、レオーネの表情、そして聞いたことのない素っ頓狂な声に、相当まずいものなのだと認識させられる。


「そういうことだ。まぁ、あの規模の大きさだ。さすがに国もすぐ動くだろうが、まず間に合わないだろうな」


「援護の期待はできないってわけだな」


「そういうこった」


 ハイドとレオーネがそう話していると、一人周囲の偵察をしていた氷の精霊ムニンが戻ってくる。


「おう、でどうだった?」


「やっぱり黒ローブの奴らがいっぱいいたよ。あの卵?まで行くための道ほぼすべてに配置されてるみたい。確認した限り、ざっと50人くらいは居たかな」


「そうか……ならそうだな。じゃ、ティルお前は俺と来い。それとフギンもだ。なにせ時間がない、できるだけ最短の距離で詰めながらあの卵の元まで向かい、少しでも邪魔を減らす」


「アタシらは?」


「俺たちが注目を集めている間に先回りしあそこに向かえ。ムニンは二人の護衛だ。んであそこに到着、合流し次第、二人にはあれの破壊に専念してもらう。もちろん俺達もあらかた片づけたらそっちのサポートに回る」


「了解。だが、互いの状況把握とか合図とかはどうするよ」


「「それに関しては、僕〔あたし〕達に任せて!」」


 どうやらこの双子たち、2人でのみテレパシーで会話ができるよう。今回はそれを利用してお互いの状況を把握するとのこと。そんな双子たちの説明と共に、手短に情報をまとめながら、最後の打ち合わせを行う。


「じゃあ、全員やるべきことは頭に入ったな」


「おうよッ!」

「もちろん!」

「はい」


「じゃあ、作戦開始だ。くれぐれも死ぬなよ!」


「「「了解!! 」」」


 こうしてハイド達は二手に分かれ、それぞれの役割を果たすために、各々深紅の卵の元へと向かっていく。


 ドゴン――バッキン――。普段静かなはずの魔国の夜に、そんな破壊音が響き渡る。派手な魔法を放ちながら黒ローブの集団、おそらく創星会と思わしき人たちを倒していく。その後数分間、ハイドの思惑通りわらわらと黒ローブの団体様がこちらへと押し寄せる。


 道を曲がっては黒ローブ。先に進んでは黒ローブ。まるで僕達を()()()()()()()と言わんばかりに次々と現れる。


「よし……これでやっとこさ半分くらいか……」


「はぁ、はぁ。そう……ですね……っと危なッ!」


「おい。油断すんなよ?ティル。でフギン、あっちの状況はどうなってる」


「ちょっと待って。今聞いてみる」


 するとフギンは目を瞑り、何か祈るようなポーズをとりながらピタッと動きを止める。


「あっちはもう準備OKだって。あいつらの動き的にも気づかれてないと思うよ」


「そうか、ならこっちも動くか」


 一方、ソフィア達。2人は、ティル達と別れた後、気配を消しながら移動し、無事接敵することなく卵の元へとたどり着いていた。


「ふぅ……あいつらのおかげで、すんなりここまでこれたな。」


「うん、そうだね。それにしてもなんだろう……近くで見ると、余計嫌な感じ……それに、体がだるい気が……」


「確かにそうだな。なんか、若干息苦しいような……。ま、それは多分()()の所為なんだろうな。それよりも、おいちび助。どうすればあれを壊せるんだ?」


「ちび……、まぁいいさ。今はそんなこと言ってる場合じゃないしね。ほら、あそこの中心よく見て。なんか石みたいなの見えるでしょ?」


 ムニンにそう言われた二人は、卵のほうをじっと見つめる。遠くで見ると確かに1つの卵みたいだったが、近くで見るとまた別の見え方になる。中心には石のようなものがあり、その周りの空気が赤黒く濁っている、そんな状態だ。


「確かに、なんか変な石みたいなのがあるな」


「うん」


「そう、あれが核。あれは空気中や生物の死骸。その他諸々のありとあらゆるものから、魔力を集めて聖獣を呼び出すの」


「なるほどなとなりゃ真っ直ぐ突っ込む……てのはやめた方良さそうだな」


「うん。アタイもそれはおすすめしない。あの核の周りの赤い空間。あれは()()()()()()()()している時に現れる現象なんだ。所謂あの【魔力枯渇区域(まりょくこかつくいき)】とほぼ同じ状態。離れてこそいるから魔力が吸われずにいるけど、近づいたら一瞬で体の魔力が無くなって死んじゃうだろうね」


「じゃあ、どうやって近づくの?」


「昔あれが現れた時は、魔法を連打しまくって何とか魔力のある状態に持って言ってたけど、今は2人しかいないからね。まあ、ぶっ濃い魔力での一撃なら何とかなるかも。だからそこで……」


「そこで?」


「あなたの出番よ。」


「私……ですか?」


 ソフィアは予想外の一言に、思わずムニンと目を合わせる。


「そう。あなたほどの適任いないと思うけど。アタイはね」


「へぇ、ソフィがね……」


「だってこの娘。普通の人とはありえない位濃いんだよ?1点集中の魔法を使えば、もしかしたら核まで届くかも」


「本当にそれだけか?」


「残念なことにね、何とあの核。魔法攻撃が効かないの」


「となると、物理的な攻撃しか受け付けないってことか」


「そゆこと。だからそこのソフィア?だっけ?あなたが全力の魔法で道を切り開く。んであんたがあの核に重た〜い一撃をぶっ込む。これでこの国も一安心って訳。お、あっちから連絡きた……」


(私の……魔法……私も使えるのかな。あの人が使ってた魔法……?なのかな。それとも……)


「どうした、ソフィ?いつになく小難しい顔して。大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。ちょっとだけ……ね?考え事してた」


「そう、ならいいんだが」


(気休めは……必要なさそうだな。なら……)


「ちょっと失礼」


 レオーネは何を思ったのか、右手親指の指先の肉をほんの少しだけ噛みちぎり、ソフィアの鼻頭の横に親指を当て頬骨を親指でなぞるように払う。


「え、何?これは?というか手……大丈夫?」


 ソフィアは目の下にできた一直線の赤い模様を指さし、レオーネにその真意を問う。


「まぁまぁ落ち着けって。これはな、アタシの生まれた国に伝わる(まじな)いらしい。命の危険がある仕事とか、大きな役割を果たすための戦いとか、そういう大事の前とかにやるんだとさ。お前はひとりじゃない、アタシがついてる。そうやって相手を鼓舞して心の片隅に余裕を作る為の儀式なんだとさ」


「そうなんだ……。うん。ありがと♪」


「あっちもそろそろこの辺来るって。だから……あんた、目の下大丈夫?いつ怪我したのさ……ていうか自分で治せるでしょ?なんで治さないの?もしかしてだけどドMなの?」


「いや、これは違くて……」


「それは後ででいいや。どうやら、あっちはあっちで何か起きたみたい。多分すぐこれそうって言ってたから、2人とも準備しておいてだって」


「おう!任せとけ!」

「わかった!」


 こうしてレオーネは野生化(ニア・ビースト)、ソフィアは両手を宙へと掲げ魔法を集中させる。


 そして、ソフィア達と連絡を無事取れたティルとハイド。2人は、創星会と思わしき人たちをほぼ壊滅させていた。しかしそんな中、その怪しげな名前の組織とは関係なさそうな風貌の男

 と対峙していた。


「やあ、ティル君……だっけか?確か、魔国祭(あのおまつり)の予選の時以来だね」


(この人は確か……そうだ!あの黒い大剣、間違いない。予選でレオーネと一緒に戦った人だ。それに……)


 ティルが気になったのは男、プロードの右手に構えられた拳銃だった。見た目はずっしりと重たく、その見た目に似合った重たく嫌な雰囲気を感じていた。


「お前、確か決勝でうちのレオーネにやられてた奴だよな?お前、創星会の人間でもなさそうだし、なんだ?腹いせに俺らの邪魔しようってか?なら時と場所を考えてくれよ。見えんだろ?あれ」


(レオーネに、へぇ……そうなんだ。確かに、優勝してたって言ってたもんね。あとで決勝の記録見せてもらお。)


 クスクスクス……


 ハイドの言葉にプロードは、鼻で軽くあしらうように笑う。


「あ?俺今変なこと言ったか?」


「別に、焦るほどの事でもないだろう」


「お前あれか?自分以外の命なんざ知らねぇってタイプのやつか?」


「間違ってはいないけど、今僕が言ったことはそう意味じゃない」


「んと、つまり……?」


「君は相変わらず面白いね。ティル君。あの人の言ってた通りだ」


「あの人って?」


「もう少しすれば会えるだろうから、僕の口からは黙っておくよ。まあそんなことよりも、僕はいわゆる占いってやつが得意でね、この後なにが起こるのかがなんとなく分かるのさ」


 すると男は銃を仕舞い、ポケットの中から何か無作為に取り出し、空中に放り投げそれを掌と手の甲でキャッチする。


「ほぉ、500の表か……」


「てめぇっ、何言っt」


 パァンッ……


 ハイドがそういうと、男はいつの間にか銃を取り出し、ハイドとティルの間を打ち抜いていた。


(嘘……動きが見えなかった……)


「ったく……本っ当なんなんだよ今日……そろいも揃ってバケモンだらけか?」


 後ろから、何かが倒れる音がし振り向くと、そこには斧を持った赤髪の男が頭から血を流し倒れていた。


「そして赤……となるとこの状況的に……ハハハそうか!()()来るか!はぁ、なるほどねぇ……へぇ……」


「なんだ、何がおかしい……」


「いやぁ、すまないね、こちらの話だ。それよりもほら、早く行きなよ。お姫様たちが待っているんでしょう?時間を取らせて申し訳ない。では……」


「ちょっとッ」

「バカ、動くなッ」


 ティルは男を追おうとしたがすぐさまハイドに止められる。


「どうし……」


 ティルは足元に目を向けると、いつのまに現れたのか、そこには魔法陣があった。おそらく一歩踏み出していたら、その魔方陣は起動していただろう。その後、ティルが確認してから数秒経つと、その魔方陣はそっと消え、空気中へと消えていく。


「ハハッ、()()()()ね。こんなことになるとは、今日は本当に……よし、ご褒美にいいこと教えてあげるよ」


「いいこと?」


「まぁ、人生におけるアドバイスだけどね。君、運命ってどう思う?」


「運命?」


「そう、運命さ。運命ってやつはどう頑張っても、変えることができなくてね……。それを変えるためにはどうやら莫大な力が必要ならしい。それこそ人智を超えるようなね。」


「オイオイ、こんな時に宗教勧誘か?そんなん後にしてくんねえか?」


「そうだね。なら一言だけ。君はいずれ選択することになるだろう、あの子か、大勢の命か。いいかい?決して間違えないことだ。君にとってなにが大切かを」


「それって……」


「僕の口からはこれ以上言わないよ。僕はあくまで無干渉がポリシーだからね。これでもだいぶサービスしたほうだよ。それじゃぁ、元気でね()()()()さん……」


 プロードはそう言うと、建物の蔭へと姿を消す。


「あの人、一体何なんですかね……」


「あ!二人とも、やっと見つけた!急に消えちゃうんだから!」


「は?何言ってんだ?俺達ずっとここいたぞ?」


「え?だって僕ずっと探してたんだ……あれ?本当だ。2人とはぐれたとこだ、ここ」


(えと、つまり?)


「あんま深く考えんな。どうせ、あいつの魔法かなんかだろうよ。で?連絡取れたのか?」


「そうだった!あっちももう到着して準備始めてるって!」


「おう、じゃ俺達もあの卵までまっすぐ向かうぞ!!」


「了解!」


 こうして二人は深紅の卵の元へと急ぐのであった。


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